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外ももう暗くなってきた、流石に上がらなきゃ、先生に怒られたら後輩に迷惑がかかる。
溜息を吐いた瞬間、足音と扉を開く音が響いた。
「碧!」
「……皇輝」
制服のままずかずかとプールサイドまで来た皇輝にびっくりした。
まだ、車校の、筈……
学校に戻ってきて欲しい、そうする筈と思ってはいたけど、実際に目にすると、まさか、これだけの為に?という気持ちになる。
「スマホ!何で連絡しねーんだよ!」
「ろ、ロッカー入れっぱで……」
「いつもそこらに置いてんじゃねーか」
「ごめ……や、でも、丁度、上がろうと思って……」
「……待っててやるから早く着替えてこい」
呆れたように背中を向けた皇輝に、待ってると言うのに、それでも線を引かれたようで、思わず、ぽつりと呟いてしまった。
……お仕置、するんじゃなかったの、
本当に、思わず。そんなつもりはなかったのに。
ばっと振り返った皇輝は、僕と一瞬目が合って、すぐに逸らした。
あんなのは言葉の綾だ、と誤魔化されて、あ、やっぱりだめなんだなって気付く。
いつも通りの皇輝なら、実際に痕をつけようがつけまいが、からかっていた筈だ。
もうそんなやり取りもしたくない程、何かに怒っている。
「なんで……そんな怒ってんの」
「ちゃんと連絡取れるようにしろって言っただろ、お前、溺れ死んでんじゃないかって」
「今日じゃなくて、こないだからずっと……怒ってんじゃん」
「……」
「わかんないよ……言ってくんなきゃ、何で怒ってんのかとか……わかんない」
「いいから早く上がれって!」
少し苛ついたような声にびく、と肩が揺れた。こわい。やっぱりいつもと、違う。
「……ごめん」
「そうじゃ……そうじゃなくて……」
「じゃあなに、俺が納得出来る答えがある訳?」
「なにが……」
「……なんでふたりで会ってんの、あのひとと」
「あのひと……」
「落し物拾ってもらっただけの、連絡先も知らない男じゃなかった?」
──マオさんのことだ。
あの時の、少し拗ねたような声音ではなく、これは本当に怒っている声だと馬鹿でもわかる。
え、でもなんで、知ってんの。
会うとか会ってるとか、言ってないし、佐倉にだって。
佐倉だって馬鹿じゃない、アンタの彼氏に他の男の連絡先教えたからね、なんてことを話す筈もない。
どこかで見られた?三回しか会ってないし、そんなにうろうろしてない、だいたい駅で待ち合わせして、お店の前で解散か駅までしか送って貰ってない。
皇輝に駅で見られることなんて……
「何考えてんの?言い訳?」
「い、言い訳、なんて……」
「じゃああいつとふたりで会ってた理由、言えるよな?」
「……っ」
「落し物を拾ってくれた男にお礼でも言いに行ってた?」
「そ、そう……そう、です」
「俺が嫌そうにしてたの忘れた?そんなほいほい他の男と会うんだ?ふたりで?連絡先も知らないとか嘘を吐きながら?ふうん?楽しかった?」
追い詰めるような声が、視線が冷たい。
違う、そんな疚しいことなんかない。
でも言えない。連絡先は佐倉から聞いたとか、
……魔女だとか人魚姫だとか、そんなこと、言えない。
言えないから、ちゃんと説明が出来ない。出来ないから誤魔化すしかないのに誤魔化せない。
ついこの間までしあわせだったのに。
「碧馬鹿なの」
「……!」
「あそこ、車校の帰り道。なんであんなとこで楽しそうにくっついてんのかな」
「あ……」
多分、喫茶店に行った時だ。あそこなら外からも見える。席も近かった。手も握られた。
でもそんな、そんなピンポイントで見られることある?
まるでわかってたかのように。
「……そんなつまらない嘘吐くとか……吐かれるとか思わなかった」
「ちが、そんなんじゃ……」
「じゃあどんな訳?さっきから碧、ちゃんと答えてないよ」
「ちがう、ちが、マオさんはそんなんじゃ」
「あー、そんな名前だったね、マオさん、そっか、うん」
「こうき……」
唇が震える。
水温はそんなに低くないのに。躰が冷たくなってく気がする。
「同じ大学に行けるし良かったね、あと半年じゃん」
「やだ……ちがう、ちがうから、はなし、きいて……」
「聞いてるよ、ずっと。ちゃんと話せないの碧じゃん」
その通りだ。その通り。僕が何も説明出来てない。
それはちゃんとわかってる。
でもちゃんと説明したら、消えてしまうかもしれない。
矛盾しないように、なにか、何か納得してもらえそうなことを……
「もういいや」
「……こうき、」
「もう遅いし、帰るぞ」
「待って……」
「だから待ってるじゃん、早く着替えろって、鍵、掛けなきゃだし」
もうお前の話は聞かない、というようにまた背を向けられる。
出て行っちゃう。
違う違うちがう、そうじゃなくて……そうじゃなくて。
何も考えつかない。
待って、違う、本当に疚しいことなんか何にもない。
だってずっとずっとずっとずっと、ずうっと、皇輝と王子様のことしか考えてないのに。
待って。
置いてかないで。
話を聞いて、いつもちゃんと話聞いてくれたじゃん、呆れても馬鹿だなって言っても、仕方ないなっていつも、待ってくれたじゃん。
言えないだけなの、仕方ないなって、いつかちゃんと話せよって言ってほしい。
無理だってわかってる。そんなの、僕に都合がいいだけだって。
何も知らない皇輝に伝わる訳ないって。
言ってしまえばいいのかな。全部。
溜息を吐いた瞬間、足音と扉を開く音が響いた。
「碧!」
「……皇輝」
制服のままずかずかとプールサイドまで来た皇輝にびっくりした。
まだ、車校の、筈……
学校に戻ってきて欲しい、そうする筈と思ってはいたけど、実際に目にすると、まさか、これだけの為に?という気持ちになる。
「スマホ!何で連絡しねーんだよ!」
「ろ、ロッカー入れっぱで……」
「いつもそこらに置いてんじゃねーか」
「ごめ……や、でも、丁度、上がろうと思って……」
「……待っててやるから早く着替えてこい」
呆れたように背中を向けた皇輝に、待ってると言うのに、それでも線を引かれたようで、思わず、ぽつりと呟いてしまった。
……お仕置、するんじゃなかったの、
本当に、思わず。そんなつもりはなかったのに。
ばっと振り返った皇輝は、僕と一瞬目が合って、すぐに逸らした。
あんなのは言葉の綾だ、と誤魔化されて、あ、やっぱりだめなんだなって気付く。
いつも通りの皇輝なら、実際に痕をつけようがつけまいが、からかっていた筈だ。
もうそんなやり取りもしたくない程、何かに怒っている。
「なんで……そんな怒ってんの」
「ちゃんと連絡取れるようにしろって言っただろ、お前、溺れ死んでんじゃないかって」
「今日じゃなくて、こないだからずっと……怒ってんじゃん」
「……」
「わかんないよ……言ってくんなきゃ、何で怒ってんのかとか……わかんない」
「いいから早く上がれって!」
少し苛ついたような声にびく、と肩が揺れた。こわい。やっぱりいつもと、違う。
「……ごめん」
「そうじゃ……そうじゃなくて……」
「じゃあなに、俺が納得出来る答えがある訳?」
「なにが……」
「……なんでふたりで会ってんの、あのひとと」
「あのひと……」
「落し物拾ってもらっただけの、連絡先も知らない男じゃなかった?」
──マオさんのことだ。
あの時の、少し拗ねたような声音ではなく、これは本当に怒っている声だと馬鹿でもわかる。
え、でもなんで、知ってんの。
会うとか会ってるとか、言ってないし、佐倉にだって。
佐倉だって馬鹿じゃない、アンタの彼氏に他の男の連絡先教えたからね、なんてことを話す筈もない。
どこかで見られた?三回しか会ってないし、そんなにうろうろしてない、だいたい駅で待ち合わせして、お店の前で解散か駅までしか送って貰ってない。
皇輝に駅で見られることなんて……
「何考えてんの?言い訳?」
「い、言い訳、なんて……」
「じゃああいつとふたりで会ってた理由、言えるよな?」
「……っ」
「落し物を拾ってくれた男にお礼でも言いに行ってた?」
「そ、そう……そう、です」
「俺が嫌そうにしてたの忘れた?そんなほいほい他の男と会うんだ?ふたりで?連絡先も知らないとか嘘を吐きながら?ふうん?楽しかった?」
追い詰めるような声が、視線が冷たい。
違う、そんな疚しいことなんかない。
でも言えない。連絡先は佐倉から聞いたとか、
……魔女だとか人魚姫だとか、そんなこと、言えない。
言えないから、ちゃんと説明が出来ない。出来ないから誤魔化すしかないのに誤魔化せない。
ついこの間までしあわせだったのに。
「碧馬鹿なの」
「……!」
「あそこ、車校の帰り道。なんであんなとこで楽しそうにくっついてんのかな」
「あ……」
多分、喫茶店に行った時だ。あそこなら外からも見える。席も近かった。手も握られた。
でもそんな、そんなピンポイントで見られることある?
まるでわかってたかのように。
「……そんなつまらない嘘吐くとか……吐かれるとか思わなかった」
「ちが、そんなんじゃ……」
「じゃあどんな訳?さっきから碧、ちゃんと答えてないよ」
「ちがう、ちが、マオさんはそんなんじゃ」
「あー、そんな名前だったね、マオさん、そっか、うん」
「こうき……」
唇が震える。
水温はそんなに低くないのに。躰が冷たくなってく気がする。
「同じ大学に行けるし良かったね、あと半年じゃん」
「やだ……ちがう、ちがうから、はなし、きいて……」
「聞いてるよ、ずっと。ちゃんと話せないの碧じゃん」
その通りだ。その通り。僕が何も説明出来てない。
それはちゃんとわかってる。
でもちゃんと説明したら、消えてしまうかもしれない。
矛盾しないように、なにか、何か納得してもらえそうなことを……
「もういいや」
「……こうき、」
「もう遅いし、帰るぞ」
「待って……」
「だから待ってるじゃん、早く着替えろって、鍵、掛けなきゃだし」
もうお前の話は聞かない、というようにまた背を向けられる。
出て行っちゃう。
違う違うちがう、そうじゃなくて……そうじゃなくて。
何も考えつかない。
待って、違う、本当に疚しいことなんか何にもない。
だってずっとずっとずっとずっと、ずうっと、皇輝と王子様のことしか考えてないのに。
待って。
置いてかないで。
話を聞いて、いつもちゃんと話聞いてくれたじゃん、呆れても馬鹿だなって言っても、仕方ないなっていつも、待ってくれたじゃん。
言えないだけなの、仕方ないなって、いつかちゃんと話せよって言ってほしい。
無理だってわかってる。そんなの、僕に都合がいいだけだって。
何も知らない皇輝に伝わる訳ないって。
言ってしまえばいいのかな。全部。
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