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愛を伝えるにはどうしたら?

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「開けていい?」
「あっはい、どうぞ……あの、ぼく降りた方が」
「だめ、ここいて」
「え」

 左腕でぼくの腰を抱えながら、右手で紙袋から箱を取り出し、器用に中身を出す。
 香水?と口にした玲司さんにまた頷いた。

「……玲司さんのすきそうなにおいかなって」
「ん、うん、すきかも、毎日使えそう」

 すんと香って、ありがとう、と笑う。
 不安だった気持ちが、少し和らいだ。

「買いに行ったの?この店結構距離ない?」
「仁奈さんにお願いしました」
「姉貴?いつの間に」
「あっ、結芽さんも一緒でしたよ!」
「……当たり前でしょ、姉貴でもアルファとふたりきりはだめだよ」

 結芽だって不安になるだろうし、と呟きながら、ぎゅっと腰を掴む手に力を込めて、玲司さんはもう一箱の方を開ける。
 こっちのは少し小さいねとボトルを見て、同じように香りを嗅いで、それから目を丸くしてぼくのかおを見た。

「……凜と似たにおいがする」

 ……それで正解なのだけれど、一気に恥ずかしさと、やっぱり外してしまったんじゃないか、いや、そうだよぼくのにおいなんておかしいでしょ、という気持ちが襲ってきた。

「甘いにおい……ヒートの時程ではないけど」
「……玲司さんのにおい、が、すきで……」
「うん?」
「玲司さんの服とか、う、嬉しくて」
「うん、だから次のヒートの時には用意しとくけど」
「……あの、その、誰かのにおいがするのはいやで」
「……?うん、わかるけど」
「……」
「凜?」
「……でも、ほんのちょっと、ぼくのにおいがしたらいいなって……玲司さんも、外で、ぼくのこと思い出したり、とか……」
「マーキングみたいなやつだ」
「……~!」

 そう言われるとやっぱり恥ずかしい。
 そうだよ外した、滑った、ぼくのにおいをさせるってなに、発想がこわいし、お揃いの香水とかじゃなくて、玲司さんにあまり合わなさそうな香水を纏わせるなんて、おかしいに決まってる。

「あの、やっぱりそれ、」
「使うよ」
「はえっ」
「他のオメガへの牽制にもなりそう」
「えっ、え、その、えっ、い、いいんですか……?」
「凜が用意したのになんでそんな腰引けてんの」
「……冷静になったらおかしいかなって」
「なんで、俺嬉しいよ、凜からちゃんと凜のものにしたいって言われたみたいで」
「……!」

 そうなのかな、ぼくのものだって主張したかったのかな。
 咲人さんに、凜ちゃんが玲司のにおいがすきなら玲司にも凜ちゃんのにおいをつけよう、と言われた時、戸惑いはしたけれど、想像をした時に、すごく興奮してしまった。
 玲司さんのにおいにぼくのにおいが混じる。ずっと傍にいて、ぎゅってして、溶けてしまったかのような。
 オリジナルの調合をしてくれるお店を調べて、仁奈さんに連れてってもらった時にお願いをして、当日は玲司さんのすきそうなものだけを買って帰った。
 後日届いた香水は、プレゼントを先に開封する訳にはいかなかったから大丈夫かなと心配していたけれど……玲司さんがいちばんぼくのにおいはわかる筈だ、その玲司さんが似てるというからには似ているんだろう。

「あー……かわいい」
「へっ」
「最近そわそわしてたのってこれ用意してたから?」
「……そわそわ、してましたか?」
「してたよ、俺何かしたっけって考えてたもん、おかしくはなさそうだから言わないでおいたけど」

 もう一度、かわいい、と呟いて、ぎゅうとぼくを抱き締める。
 ぼくが昔願っていたかわいいとは多分、違う意味合いだと思うけれど、それでもそれはそれで嬉しいかわいい、だ。今となってはこっちの方が嬉しいまである。
 唇に軽く一回、キスをして、髪をさらりと撫でて、ぼくを抱えたかと思うとソファに下ろした。
 あれ、なんで……あ、もしかしてこのまんまえっちなことする?どうしよう、さっきの香水のにおいが残っていて、なんだかそんな気分にはなっちゃうけど、でも、リビングはちょっと……

 そんなことを考えていると、玲司さんはちょっと待っててとだけ残してリビングを出てしまった。
 さっきのぼくと同じ。何か取りに行った?えっちなことするなら、そのまま寝室まで一緒に行った方が……あ、置いてかれたってことは違うってことか。でもプレゼントはさっき貰ったし……

 そんなことを考えてる内に少し頭が冷静になって、ソファの上できちんと座り直す。
 ちょっとひとりで盛り上がり過ぎた。落ち着こう。
 ……いや無理だよ、玲司さんの言葉やかおを思い出すとにやけてしまう。
 良かった、恥ずかしいけど、でも香水は成功だったみたい。良かった。次は誕生日プレゼントで悩まないといけないけど。
 でもそうやって悩めるのは贅沢だから。しあわせなことだ。

「お待たせ」
「あっはい」

 これ、と渡された大きな封筒に、頭の中が「?」で埋まる。
 おしゃれなものでもなんでもなく、普通の茶色の封筒だ。
 ぼくが開けるんですかと訊くと、うん、開けて、と促された。
 なんだろう、その笑顔からして、悪いものではないと思うんだけど。
 糊付けもされてない封筒から幾つかの書類が出て来た。

「……けんりしょ?」

 予想もしてなかったものに、こどものような声が出てしまった。
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