【完結】カミサマの言う通り

みなづきよつば

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5.見た目が違っても

5-2

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「で? おまえは授業中のはずだろう? 
どうしてここにいるんだ?」

 キキョウは刀をとぎながら尋ねた。
 サカキの様子がおかしいのは、気配から察している。

「授業、つまんねーから、抜けてきた。
師匠、剣の稽古つけてよ」
「無理だね。
そんなに心が乱れた状態じゃあ、ケガをするのがオチだ」

 シャッ、シャッという小気味よい音が響く。
 キキョウはいったんとぐのをやめ、刀を光にすかしてみた。

「……師匠は、髪、紫色なんだよな」

「なんだい、いきなり」

 長いこと黙っていたと思ったら、これだ。
 キキョウは刀を丁寧に布でふくと鞘に納め、サカキに向きなおった。

「そりゃあ、あたしはジュキ族とフロウ族の混血だからね。
フロウ族だった、母さんの髪の色が出たんだろう」

 言っているうちに、ピンときた。
 きっと、学校の授業で、この国の一族について話があったのだろう。
 サカキはぐっと口を固く結んでいる。今にも泣き出しそうだ。
 さて、どうしたものかとキキョウは考える。
 キキョウは、捨てられていたサカキを見つけた張本人だ。
 サカキを拾って村に連れて帰ってから、様々なことがあった。
 村人の中には、サカキの黒髪黒目を、
「不吉な闇の色」
 だとして嫌う人もいた。
 何かよくないことの起きる前触れではないかと思ったのだ。
 それでも、カミサマがそれを否定し、
 この村の一員として大切に育てるように助言してからは、
 そんなうわさはなくなった。

 しかし、サカキ自身が物心つけば、
 いやでも周りとの違いに気づいてしまう。
 どうして自分の髪や瞳はみんなと違うのか。
 村人たちははぐらかしていたが、
 ある日――サカキが五、六歳くらいの時だ――、 
 とある村人が、酒に酔った勢いで言ってしまったのだ。

 おまえは捨て子だったからな。
 どこか別の国の人間の血が入っているんだろう、と。

 それを聞いたサカキは、
 カエデの父母を問いつめ、それが真実だと知ってしまった。
 それからだ。サカキがカエデの父母を、
「父さん」、「母さん」ではなく、
「おじさん」、「おばさん」と呼ぶようになったのは。
 明るく、元気いっぱいだったサカキは、
 明らかに暗く、村人にもよそよそしくなった。
 それに喝を入れたのが、当時から剣を教えていたキキョウだ。

「アンタは確かに、あたしたちと違う外見だよ。
でも、それが何だっていうんだい。
アンタが今まで、村長たちや他の村人に大切に育てられてきたことには変わりないだろう。
この村のみんなが、アンタの親やきょうだいなんだ。
外見なんて細かいことは気にせずに、この村の一員であることに胸を張りな!」

 幼いサカキは、泣きながらうなずいた。
 こうしてサカキは、もとのほがらかな性格にもどった。
 ように見えたのだが……。

 民族の特徴の違いを突きつけられた時。
 新たな命が生まれ、幸せそうにしている村人の親子を見た時。
 親子代々にまつわるエピソードを、楽しそうに話している村人がいた時。
 こんな時、サカキはどうしようもなく心が荒れ、さびしくなるのだ。
 自分はみんなとは違う民族で、本当の両親もいないのだと。
 そして、荒れた心のまま、キキョウのもとを訪れ、黙ってじっとしている。
 キキョウも、一回喝を入れて以来は、そのまま放っておくことにしている。
 サカキにはサカキにしか分からない悲しみやさびしさがあるだろう。
 あまり言葉をかけすぎても、
 荒れた心の海の波をさらに大きなものにしてしまうかもしれない。
 いや、それは言い訳にすぎないな、とキキョウは思う。
 結局、キキョウはおそれているのだ。
 自分の励ましの言葉が、より深くサカキを傷つけはしないのかと。

「……ここにいましたのね」

 いつもなら、こんな状態のサカキがいる時には来客は遠慮してもらう。
 しかし、キキョウは近づいてくる気配と足音の間隔で、
 だれが来るかは予想していた。カエデだ。

「サカキ、みんな心配してますわ。
さ、学校へもどりましょう」

「……」

 カエデは床に座って、
 折り曲げたひざに顔をうずめているサカキに向かって、
 優しく話しかけた。だが、反応はない。
 カエデもまた、しゃがみこみ、サカキの顔をのぞきこもうとしたものの、
 サカキはますますひざに顔をうずめてしまった。

「そうそう、先生に、アナタは何族か聞いてましたわね。
わたくし、その答え、前々から分かってますのよ」

 カエデの言葉に、サカキは勢いよく顔を上げた。涙の後が残っている。

「アナタは、わたくしの『家族』ですわ」

「……は?」

 サカキの顔が、ゆがむ。
 悪意のある笑みを無理矢理ねじり出したような、ひどい顔だ。

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