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ライツァルト・ゼア・ヒガンテ・ジルヴィオ五歳

神の名を冠した狼

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誰も俺様を育てなかったから、両親は俺様を育てたのかもしれない。
今となっては分からない。
ずっと前に、この世から旅立った二人だ。

俺様は、両親の考えを理解していなかった。
今も昔も、正直何を考えてたんだかわかんねぇ。

俺がどれだけ暴れて、人を殺そうが、何も言ってこなかったくせに、突然幻星龍を連れて来やがった。

反省しろだのなんだのごちゃごちゃと抜かして、俺様が死にかけても助けようとしなかった。
なのに······。

ボロボロの俺様が、熱を出して動けなくなった時は、ずっとそばにいてくれた。
熱が引いて目覚めた時は残り香しかしなかったが、鼻っ柱の折れた俺様が素直に里に帰ったのはそのせいだ。

両親は帰った俺様に教育を詰め込んだ。
神狼······神の狼の名に、相応しくあれと。



◆◆◆



ふと気がつけば窓の外は暗く、夜だった。

『······おいひよこ、そろそろ帰っ······』

言葉が止まる。
見下ろした先の髪は、淡く紫がかったアッシュブロンド。

『······は?』

ひよこじゃ、ない?

「······?わんわん?」
『え、ぁ、お、おまっ─────────!』

悲鳴に似た声が漏れた。

淡く紫がかったアッシュブロンドに、前髪の数房が艶やかな黒に染まる。
蒼空の如きサファイアの瞳。
それが、左にだけ。
ひよこの右目は、深い青紫バイオレットに、金や銀の星屑が散らばる。

『······げん、せい、りゅー?』
「?」

なんてこった。

俺様は天を仰いだ。



◆◆◆



月がワタクシを照らし出す。
月の下では色味を深くする鱗が風を撫でた。

ゆらゆらと空を泳ぎながら、ワタクシは眼下を見下ろした。

『······ふむ、この際小僧がライツァルトに捕まれば完璧なのだが······』

独り言が静かに落ちる。

ワタクシはライツァルトを小僧に預けた後、元の姿で空中散歩に出かけることにした。

月と星が散りばめられた夜空を、ひたすらに泳いでいく。
ワタクシは幻星龍、夜を司る龍。
光天龍の片割れが朝を司る存在であるなら、ワタクシはまさに夜に力を増す魔獣の典型と言ったところか。

そこまで考えて、そういえば、と思い出す。

『ライツァルトは親和力が高すぎて、夜にワタクシの力が色濃く出ているのだった、そろそろ戻るか』

空中でくるりと大きく回転し、ワタクシは元きた道を戻った。
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