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やっぱり私はこいつが好き
しおりを挟む昔から。
熱を出して寝込んだ時に、心細くなって目覚めた時に。
そばに誰かがいることは無い。
お父様は関心がなくて。
お兄様は避けていて。
お母様は近づかないようにされていて。
使用人たちはお母様のそばにいて。
みんな、お母様のお願いだとしても、その時だけ頷き、後でひっそりとお母様を囲む輪に戻っていくのが常だった。
それがこの家で、この家に生まれてしまった私の使命。
私は幸福だ。
美しく、優しく、誰からも愛される愛しいお母様。
どんな子供も母と呼びたがる、夢のような人。
おとぎ話の、中の人。
幸せな物語のその後なんて気にする人は誰もいない。
美しいヒロインが、美しいヒーローや、美しい住人たちと美しく幸せな結末を迎えて。
それきり。
その先にページは続かないし、彼らの間に子供が生まれたことも、その子が何を思うかも記さないまま、物語は真実から伝説になり、やがて夢物語になっていく。
綺羅綺羅綺羅綺羅光り輝く聖女様。
美しく優しく誰もが手を伸ばすお母様。
私はお母様の娘になった。
そう、生まれた。
それで十分。
何も、これ以上の幸せなんて─────────
「っ・・・?」
暑く、うだるようなその感覚に、ふと冷たい何かが浸された。
気持ちいい感覚。
でもそれはすぐにぬるくなった。
「う、うぅ」
小さく唸りながら身をよじる。
ふとぬるいそれは消えて、頭が軽くなった。
ぴちゃんと涼やかな水音がしてから、小さな布擦れの音がした。
小さくて、聞いていて心地いい生活音。
いつもの寒々しいまでの冷たさは無い。
瞑ったままの視界は暗くて、多分今は夜だろう。
昼ならともかく、どうして夜に人がいるの?
微かに開いた視界に、見覚えのある従者服。
すぐに目は閉じたけど、代わりに額に冷たいものが乗った。
・・・これ、なんだろう。
もしかして、お母様が風邪をひいた時に乗せられるあれかしら。
でもあれは、お母様が起き上がれるくらいの病状の時だった気がする。
頭に乗せられては「大袈裟よ」と笑って取り払うお母様を覚えている。
私には必要ないはずだ。
でも、ふわふわする。
不思議な感覚に、眠くなった。
どうして私、こんなに安心してるのかしら。
無性にくすぐったい。
そう、私こうやって、そばにいてもらいたかった。
看病なんてしなくていいの。
ただ、そこにいてくれるだけで良かった。
手を握らなくてもいいわ。
歌を歌ってくれる必要も、物語を聞かせてくれる必要もないの。
それはお母様だけの特権だから。
私には許されていないから。
そんな大それたことは望まないの。
ほんの少しの間でいいの。
心細いこの瞬間に、そこにいてくれるだけで、良かったのに。
目が覚めたのは、窓から明るい陽の光が差し込む時。
どうやら寝ていなかったらしいこの従者は、起き上がった私を見て、へらりと笑った。
「おはよーございます、お嬢」
「・・・おはよう、ステフ」
・・・これだから、私はお前を嫌いになれない。
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