34 / 58
その時代が終わる時
しおりを挟む
私たちが屋敷から姿を消したのは、それからちょうど三日後のことだった。
遠目で屋敷を眺めながら、もう一度フードを目深にかぶる。
ミルクティーブロンドの髪は焦げ茶色に染まり、多分見てわかる人はそうそういない。
私とステフはお兄様から受け取った魔道具を身に付けて屋敷から脱出した。
腕輪型の魔道具であるそれは、端的に言うと「お母様が無自覚に使っているであろう私という娘を察知する能力」を誤魔化して、感じられなくするための能力だった。
お母様はおそらく前世・・・シュツァーニアの時代からずっとその力を常時発動して、それを頼りに生まれ変わっている。
ならばその力を誤魔化すものがあったっていいはずだ。
それこそそれを一番に気付いていそうなお兄様なら・・・そんな希望的観測で、ほとんど期待していなかったその魔道具をぽんと出された時の私の気持ち、お分かりだろうか。
そんなこんなで色んな魔道具を渡され、今私の髪を染めているのもそれだ。
ちなみにステフは眩い金髪で、他の人には灰色に見えてる瞳も私には最上級の紫水晶である。
姿を見えにくくする魔道具もペアセットの片割れを付けているもの同士では効かないため、正直王子にしか見えない。
いや、血筋的には王子だけども。
完璧な王子様ですが。
私の知る王子って生き物は主に二人だ。
母国の変態王子と、帝国の優秀な皇太子殿下。
落差が激しい。
「あ、エルメ様、連絡着きました・・・あっちで待ってるそうです。行きましょう」
「ええ・・・もう、ここには戻ってこないわ」
もう一度だけ振り返り、遠くに見える屋敷の明かりと、下町から零れる活気ある光を眺める。
あの光を愛おしく思った時もあった。
夜でも明るく笑い声の響く談話室に入りたかった時もあった。
いつかこの領を守るのだと、そう思った時もあった。
でもおそらく私がここに帰ってくることは、ここを家だと思うことはない。
「行きましょう」
手を取り合って、今度こそ二人で駆け出した。
ああ、幸福な夢を見る。
有り得ないはずの夢を見る。
あまりに幸せで、非現実的で。
己が殺した男と手を取り合って、ともに逃げ出す夢。
ああ、ねえ、あなたが好きよ。
こんなにも愛していたのに。
どうして何も言ってくれなかったのかしら。
ああ、でもやっぱり。
それでも私はあなたが好きよ。
この夢が、真実ならば。
それはなんとも幸せなことね。
遠い遠い空の向こうで、純白の羽が羽ばたいた。
夜が明け、朝日が昇る。
魔女の狂乱が、白き朝焼けの向こうから響いた。
遠目で屋敷を眺めながら、もう一度フードを目深にかぶる。
ミルクティーブロンドの髪は焦げ茶色に染まり、多分見てわかる人はそうそういない。
私とステフはお兄様から受け取った魔道具を身に付けて屋敷から脱出した。
腕輪型の魔道具であるそれは、端的に言うと「お母様が無自覚に使っているであろう私という娘を察知する能力」を誤魔化して、感じられなくするための能力だった。
お母様はおそらく前世・・・シュツァーニアの時代からずっとその力を常時発動して、それを頼りに生まれ変わっている。
ならばその力を誤魔化すものがあったっていいはずだ。
それこそそれを一番に気付いていそうなお兄様なら・・・そんな希望的観測で、ほとんど期待していなかったその魔道具をぽんと出された時の私の気持ち、お分かりだろうか。
そんなこんなで色んな魔道具を渡され、今私の髪を染めているのもそれだ。
ちなみにステフは眩い金髪で、他の人には灰色に見えてる瞳も私には最上級の紫水晶である。
姿を見えにくくする魔道具もペアセットの片割れを付けているもの同士では効かないため、正直王子にしか見えない。
いや、血筋的には王子だけども。
完璧な王子様ですが。
私の知る王子って生き物は主に二人だ。
母国の変態王子と、帝国の優秀な皇太子殿下。
落差が激しい。
「あ、エルメ様、連絡着きました・・・あっちで待ってるそうです。行きましょう」
「ええ・・・もう、ここには戻ってこないわ」
もう一度だけ振り返り、遠くに見える屋敷の明かりと、下町から零れる活気ある光を眺める。
あの光を愛おしく思った時もあった。
夜でも明るく笑い声の響く談話室に入りたかった時もあった。
いつかこの領を守るのだと、そう思った時もあった。
でもおそらく私がここに帰ってくることは、ここを家だと思うことはない。
「行きましょう」
手を取り合って、今度こそ二人で駆け出した。
ああ、幸福な夢を見る。
有り得ないはずの夢を見る。
あまりに幸せで、非現実的で。
己が殺した男と手を取り合って、ともに逃げ出す夢。
ああ、ねえ、あなたが好きよ。
こんなにも愛していたのに。
どうして何も言ってくれなかったのかしら。
ああ、でもやっぱり。
それでも私はあなたが好きよ。
この夢が、真実ならば。
それはなんとも幸せなことね。
遠い遠い空の向こうで、純白の羽が羽ばたいた。
夜が明け、朝日が昇る。
魔女の狂乱が、白き朝焼けの向こうから響いた。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる