お母様が私の恋路の邪魔をする

ものくろぱんだ

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■それはいつか来る日

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いつか来るかもしれない、でも来ないかもしれない。

そんないつかのお話。



三千年前に消え去った文明の古文書が発見された。

三千年前の文明の皇族の直系の子孫であり、その文明に精通している私にまでその古文書を解読して欲しいとのお願いが来た。
正直かなり面倒だし、それほど重要なものかどうかも分からない。

そんなことより三千年前の文明の、廃れた魔道具や魔法なんかに興味のある私は、全くもってその古文書に期待していなかった。

ところが。

「・・・やばい、これ面白すぎるわ」

まさか三千年前の文明でこんなとんでもないことが起こっていたとは・・・中心人物である聖女夫妻はもちろんその周りの人達の何が面白いかと言えば恋愛模様だ。

正直新手の恋愛小説を読まされているようにしか思えないほどに記されているそれらは糖度が高かった。

異世界の記憶を持つ賢者が同性愛の先達だったとは・・・。
しかも彼が発展させた魔法学園は、その名こそ失ったものの大陸一の学園都市としてその姿を残している。

あと聖女夫妻が皇太子夫妻・・・後に賢帝と呼ばれる皇帝とその最愛の妻の嫁取り騒動にものすごく巻き込まれているところとか。

妖精姫の異名で知られたアンジュリア姫は周りにいた彼らの影響なのか年上のメイドと結ばれたって言うのも衝撃だったわ。
しかも相手が自分の母親の専属メイドって・・・よく許したわね両親。

正直色々気になるけど・・・でもこの夫妻の子供たちの話もかなり気になるわ。

特に性癖にぶち刺さ・・・ごほん、とっても気になってしまうのは英雄騎士ラナーシュと姫騎士ウェングリンの婚姻譚ね。
ケンカップルなのに他国の王子に手込めにされかけたウェングリンを救って「こいつは俺の女だ!」って宣言したって言うのよ?
やだどきどきしちゃう・・・。

しかも嬉しいのはどうやら資料を見る限り、この二人の直系の子孫が私らしいということだ。
まさか推しカプの子孫に生まれていたとは・・・世界よありがとうございます。

それと気になるのは他にも。

病弱でありながらとんでもない魔力を持っていた爆破姫アリシア。
後の三十四代目魔法学園学園長ね。
彼女は生涯独身を貫いたらしいけど、男性同士のカップルが非常に好きだったみたい。
すごいシンパシーを感じるわ!

そして異常に周りから溺愛されていた宝石姫エリス。
彼女は多くの金地位名誉を欲しいがままにする美男子に求婚されたものの、自分の従者である熊のように大柄で寡黙な無愛想な男に求婚し続け、それが受け入れられたあと表舞台から姿を消しひっそりと幸せに暮らしたらしい。

うん、下手に顔のいい男よりずっと好きだった男と結ばれた方がいいものね。

で、聖女夫妻の末の息子であるリュオン。
光り輝くようなその子は純白の髪に群青の瞳を持って生まれて一時期は不義の子なのではと言われたらしいわ。
けれども聖女の持っていた力をそのまま受け継ぎ、やがては神の愛し子とまで呼ばれ、愛した祖国の発展に尽くしたそうよ。
ただ一人の妻を生涯愛したそうだけど・・・資料によると、嫁じゃなくて婿なのよね、誤字かしら?

で、こっちもイチオシ!
物語上でしか見た事のない、双子のカップリングよ!
聖女夫妻の双子の兄妹。
マキアとアイト。
二人は手を繋いで生まれてきたそうよ。
そんな仲の良い双子は多くの苦難を乗り越えながら結ばれるのだけど、これがまた凄くて────────!



コンコン

「・・・あれ?」
「おい、聞いてんのか馬鹿」

扉の向こうから響いてきた聞き覚えのありすぎる声にそっと時計を見る。

「・・・時間、過ぎてる」
「・・・ああ、そうだな、俺との約束の時間を、二時間過ぎてるな?」

私はそっとまぶたを下ろして、土下座までの一番簡潔な行動をシミュレーション。

そして覚悟を決めて、扉を開いた。

「大変申し訳ございませんでした」
「立てアホ」

大変お顔の麗しいミルクティーブロンドの髪に翠の瞳のこの男は、私の昔からの腐れ縁の幼馴染で、現同僚。

そして、私の想い人でもある。

「たく・・・寝癖ついてんぞ」
「ああ・・・今朝来た古文書ずっと解読してて・・・」
「へえ、読めたのか?」
「うん!そうだ、聞いてくれない?話し相手が欲しくてさ・・・」
「はあ?出かけるんじゃねえのかよ」
「うん、ごめんだけどキャンセル、また付き合って?」
「・・・また、ねぇ?」
「ごめんって!ほら、入って入って」
「押すな押すな」

ぐいぐい部屋の中に押し込んで、彼が私の方を向いた。

その美しい翠の瞳に、灰銀色の髪を跳ねさせ、紫の瞳を爛々と輝かせる私の姿が映る。

「で、何を話してくれるんだ?」
「聞いて欲しいの、この古文書・・・かつて三千年前に生きた皇后陛下直筆のノンフィクション小説!『お母様が私の恋路の邪魔をする』、を!」
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