異世界では、誰だって主役になれる

皐月 遊

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プロローグ 「引き立て役と、人気者」

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人間には、2種類いる。 人気者の主役と、それの引き立て役だ。
俺…夜川陽太《よがわ・ようた》は、間違いなく、引き立て役だ。

高校1年生になった今でも、それは変わらない。 クラスでは目立った行動、発言はせず、誰からも目をつけられないように生きてきた。
自分ではなく、他人を目立たせることによって、俺自身が目立つ事を避けてきた。

……だが。

「……つまんねぇ」

自室のベッドの上で、俺はボソッと呟いた。
俺、夜川陽太は、いたって普通の人間だ。 
黒髪黒目、背は高校一年生の平均、容姿は普通、イケメンでもブサイクでもない、痩せてもいないしデブでもない。
スポーツは好きだが、才能はない。

こんな俺だから、誰も相手にはしてくれない。

いつからだろうか。 俺は目立てる人間じゃないと気づいたのは。

「…ダメだ。 散歩しよう」

1人でいると、嫌でも考えてしまう。 そう思った俺は、適当に着替え、財布とスマホを持ち、茶色のロングコートを羽織り、手袋をして外に出た。

「寒っ! 雪降ってるのか…」

今は12月。 冬休み中だ。 そして、外は物凄い雪で、散歩している奴は俺ぐらいだろう。

「…公園にでも行くか」

幸い、家から公園まではかなり近い。 俺は公園に着くと、自販機で暖かいココアを買い、ココアを飲みながらスマホを見た。

スマホでニュースを見ていると、この吹雪による危険地域が書かれていた。 その危険地域には、俺の住んでいる場所も入っていた。

「行方不明、転倒、凍死の危険性あり。 外出は控えるように。 …ねぇ…」

外出、しちゃってますけどね。 ていうか、凍死って、そんなに凄いのか。

「…あれ? 夜川君…?」

「っ!?」

いきなり名前を呼ばれ、下を向いていた顔を上げる。 すると、目の前には俺と同じ高校の制服を着た女子が立っていた。
…というか、俺のクラスメイトだ。 話した事はないが。

「やっぱり、夜川くんだ。 何してるの?」

「えっ、あ…」

ついテンパってしまう。 いきなり女子に話しかけられるとは思ってなかった。
こういう時、なんて返したらいいんだ…?

「は…」

「ん?」

「はじ…初めまして…」

「えぇ!? 初めましてじゃないよ!?」

ああ! 何言ってるんだ俺は!! クラスメイトなんだから初めましてなわけないだろ!

…絶対おかしい奴って思われた…

「ふふ…いいよ。 ノってあげる。 初めまして、朝野日菜《あさの・ひな》です」

いや…知ってます…

朝野さんは、クラスの人気者だ。 クラス委員も務めていて、真面目で成績もよく、いつも誰かから話しかけてもらっている。
肩までの茶髪に、ゆるくパーマをかけていて、明るいイメージだ。 そして、可愛い。

さらに、1年生にして弓道部のエースでもある。
俺とは真逆の人間だ。

「ほら、夜川君の自己紹介は?」

微笑みながら言ってくる。 なんだ? なんで俺に話しかけてきたんだ?

…とはいえ、無視するわけにはいかない。

「…夜川陽太です」

「うん! よろしくね、夜川君!」

「は、はい」

…ダメだ。 緊張してしまう。 同い年なのに敬語になるのはそのせいだろう。

「ん~…なんで敬語なの? 」

うっ…ついにつっこまれてしまった。

「いやっ…緊張しちゃって…」

なんとか言葉を捻り出すと、朝野さんは苦笑いをする。

「ははは…緊張かぁ…じゃあ私と同じだ」

「え?」

「私も今、緊張してるんだよ? 夜川君とは話した事なかったから、嫌われないようにしてるんだ」

…嘘だ。 全然そうは見えない。 そもそも、朝野さんが俺に話しかけるメリットはないはずだ。
朝野さんはクラスでトップで、対して俺はクラスの底辺。

そんな真逆の2人が、仲良くなって何になる?

「…夜川君には言うけど、私ね、今のクラス嫌いなんだ」

「え…」

「口だけの人しか居ないの。 私が話してきたなかで、言動と行動が一致する人はいなかった。 例えば…図書委員の山田君居るでしょ?」

「うん」

「山田くんさ、私には、「本が好きで、いつも読んでるんだぜ? だから図書委員になったんだ」とか言ってたのに、他の人には「図書委員は楽そうだからなった」って言ってたの」

確か…山田は図書委員の仕事をサボる事が多かったはずだ。 おかげで本を返すのに手間取った事がある。

「あと、クラスの副委員長の矢田ちゃん。 矢田ちゃんは最初、「クラスの雰囲気をよくしたい」って言ってたのに、何もしないの。 仕事は私に任せっきりでさ…」

「…そう…なんだ」

「私さ、嘘つく人嫌いなんだ…今のクラスには、嘘つきが多いんだよ」

確かに、嘘はダメだ。 人を傷つける嘘なら、尚更な。

「でも、私が知るなかで1人だけ、言動と行動が一致する人が居たの」

「おぉ」

「君だよ。 夜川君」

「へ?」

つい、へんな声が出てしまった。 俺が、言動と行動が一致している…だと? 
目立つ事はした事がないし、そもそも、人身につく事はやってないはずだが……

「夜川君さ、自己紹介の時、「植物を育てるのが好き」って言ってたよね? それで緑化委員になったんでしょ?」

確かに、俺は植物を育てるのが好きだから緑化委員になった。 というか、よく覚えてたな。
俺の自己紹介なんて聞いてる奴いないと思ってた。

「そこまでは、他の人と同じなの。 でも、私見たんだよ。 サッカー部が蹴ったボールが花壇に入って、花壇をめちゃくちゃにした事があったでしょ?」

あぁ…確かにあったな。 次の日学校に来たら花壇がめちゃくちゃになっていて驚いた記憶がある。 まぁ、ちゃんと直したんだけどな。

「最初は私が直そうと思って、花壇に行こうとしたらね、夜川君が、スコップを持って私の横を走り抜けていったの。 
そして、丁寧に花壇を直し始めた。 私びっくりしちゃったよ。 嘘つきじゃない人、初めて見たから 」

「いや…緑化委員なんだから、花壇を直すのは当たり前だろ…?」

「うん。 でも、それが出来ない人が多いんだよ。 緑化委員の夜川君が頑張ってるんだから、私はクラス委員として、クラスメイトの手助けをしようって思ったの」

「…あ、まさかあの日、1時間目に遅れても怒られなかったのは…」

「うん。 私があらかじめ先生に言っておいたんだ。 いい事をして怒られるのは可哀想だからね」

…なるほど……なんというか、意外だった。 朝野さんがこんなに苦労してるとは思ってなかった。

「朝野さんは、優しいんだな。 クラス委員にピッタリだよ」

クラスメイトの事をちゃんと考え、行動出来る。 朝野さんも、言動と行動が一致している。

俺がそう言うと、珍しく朝野さんが慌てた。

「えっ!? 優しいなんてそんな…クラス委員として当たり前の事だし…」

「でも、その当たり前の事が、出来ない人が多いんだろ?」

さっき朝野さんが言った言葉をそのまま言うと、朝野さんは小さく笑った。

「ふふ…そうだね。 あー、楽しかった。 夜川君と話せてよかったよ。 思った通り、いい人でよかった」

朝野さんにそう言われ、顔が赤くなる。 朝野さんも、微妙に顔が赤い。

「ねぇ夜川君、冬休みが終わったらさ、学校でいっぱい話そうよ! 私、夜川君とお友達になりたい」

まっすぐ俺を見てそう言われ、また顔が赤くなる。
こんな事を言われたのは初めてだ。 ましてや、こんな可愛い子に言われるとは…

これまでずっと嫌な事しかなかったが、今日は、良い事がある日なのかもな。

「うん。 俺でよければ、沢山話そう」

「ありがとう! それじゃあ、次に会った時は、名前で呼んでね! 君が名前で呼んだら、私も君を名前で呼ぶから!」

最後にそう言い、朝野さんは公園を出た。

名前呼びか…緊張するなぁ…

「でも、楽しみだ。 ……えっ…?」

一瞬、目を疑った。 朝野さんの後ろから、大型トラックが猛スピードで走ってきている。 そして、よく見ると、トラックの運転手は……眠っていた。

「…マズイ…!!」

その瞬間、俺は走り出した。 公園の柵を飛び越え、朝野さんの元へ走る。

「朝野さん!!」

「ん? 何…えっ…」

朝野さんが振り向くと、トラックが見えたのか、その場で立ち止まってしまう。
きっと恐怖で足が動かないんだろう。
その間にも、トラックは朝野さんに向かっていっている。

くそっ…地面が凍ってて走りづらい…!!

「せめて…朝野さんだけでも…っ!!」

朝野さんを思い切り突き飛ばした瞬間、俺の身体に衝撃が走った。
一瞬意識が飛びかけたが、なんとか目を開ける。

すると……

「…あ…あぁ…」

朝野さんも、俺と同様に飛ばされていた。
気を失っているみたいだが、守れなかった。

地面が凍っていなければ、助けられたかもしれない。

ちょっと良い事があったら、すぐにこれだ。
…いい加減にしてくれよ…

俺と朝野さんは、同時に地面に激突する。 周りには血が飛び散っている。
肝心のトラックは、バランスを崩したのか、壁に激突している。

薄れゆく意識の中、俺は…

「…ごめん…朝野さん…」

朝野さんに、謝り続けた。
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