ナイショのともだち

mion

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  ピピピ!

「んー……」

  まだ眠っていたいと訴える頭を無理矢理に覚まさせ、鉛のように重い身体を起こす。
  ぴったりと閉じている瞼を擦り少しずつ目を開ければ、カーテンの間から差し込む朝日が自分を照らしているのだと分かった。体勢を変え、ベッドの淵に座ると私は習慣化しているこの言葉を言うのだった。

――おはよう、悠。

「おはよう、美咲」

  悠、と呼ばれた青年は微笑みながら挨拶を返してくれた。そして、私の前で立っている悠はゆっくりと手を伸ばすと私の頭を優しく撫でた。頭を撫でられているこの時間は私のお気に入りの一つである。心地良さに目を細めていると彼は手を止めて言った。

「着替えなくていいの?」

――い、今着替えようって思ってたの!

  私はやや勢いをつけて立ち上がった。

「ほんとか?」

  意地悪そうに顔を僅かににやけさせながら言った悠を睨みつける。しかし悠はそんな事をしても怖くないという顔をして、つい先程まで私が座っていたベッドの淵に腰を下ろした。私は水色のパジャマを脱いで畳み、クローゼットから取り出した所々に皺が寄っている学校の制服に身を包んだ。
  部屋のカーテンを開け、必要なものをバッグに詰め込んだ私はリビングに行くために廊下から下に続く階段を降りた。悠も私の後について階段を降りた。

  朝食を作っていた母は私の姿を見るとおはよう、と声を掛けてきた。

「うん」

  普通ならここで元気におはようとを返すのだろう。しかし、家庭内での挨拶が何故か苦手な私はそれだけ言って頷くことしか出来なかった。しっかりと返事ができないことを申し訳ないと思っている。
  そして、暫くしてから次にリビングに現れたのは二人の弟だった。末っ子の颯太は寝癖をゆらゆらと揺らしながら、眠たそうに目を擦っている。母は弟達に気が付くと私にしたようにおはよう、と声を掛けた。そうすると、まず長男の叶が欠伸をしながらおはよ、次に颯太がゆったりとした口調でおはよう…と返した。きちんと挨拶を返す二人のその様子を見ながら毎日私はすごいな、と思う。

  やがて朝ご飯が食卓に並び終わる頃には父もリビングにやって来て、自身の席に座っていた。緩い部屋着を着ている姿からして今日の仕事は休みなのだろう。そんなことを考えていると弟達は席につき、既に朝ご飯を頬張り始めていた。私も自分の席に座り、パンを食べ始めた。
  今日のパンはいつもより甘いなと思いつつ、ぼんやりと朝のニュース番組を眺めていると、私はふと今日の授業のことを思い出した。

――げ、今日の体育って外周走じゃん。めんどくさい……

「でも、今日走れば次からの体育は美咲の好きなサッカーだろ?」

――うん、だから頑張る。

「頑張れよ」

  憂鬱な気分になったが、応援されて少し元気が出た。普段、悠は意地の悪いことをよく言うがこういう時には素直に応援してくれるのである。
  それに機嫌を良くした私は食べ終わった食器を鼻歌交じりに下げるのであった。



「……いってきまーす」

  靴を履いた私は、小さい声ながらも頑張ってそう言いながら玄関のドアを開ける。すると玄関近くの洗面所で化粧をしている途中の母と、リビングで横になってテレビを観ていた父が見送りをしに来た。

「いってらっしゃい、美咲」

  私は一瞬だけ振り返り、二人と目を合わせるとそのまま家を出た。今日は頑張った方だろう。誰かに褒めて欲しくなった。
  すると、その心情を読み取ったのか悠は頑張ったな、と微笑んだ。ありがとう、と私は心の中で呟いた。

**

  歩きながら悠と手を繋ぐ。私よりひとまわり大きな手は温かく感じられた。

――でね、その子がね……

「うん」

  景色を見ながら悠と他愛もない会話をするこの時間は一日のなかでも特に好きな時間である。
  大きく息を吸えば、土や草独特の香りが鼻を擽る。
  駅から二十分程歩かなくてはならないが、豊かな自然に囲まれている学校はとても穏やかな校風で、私は嫌いではない。

  そして暫く歩くと、目的地である学校の正門が見えてきた。門の側には学校の職員と赤い腕章を着けた生徒数名が立っており、登校してきた生徒達に挨拶している。

  私は生徒会の面々に挨拶をする心構えをして門に向かったのだった。


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