記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承

詩海猫(8/29書籍発売)

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「レオン様っ!」
その声の主にいち早く反応したレオンは、
「馬っ……、来るな!セイラ‼︎」
そんなレオンをまるっと無視してセイラは氷雪竜に対峙する。
慌てる周囲をよそに心中はここに走ってくる間から妙に冷静だった。

___大丈夫。
だって、先生は仰っていたじゃない。

落ちついて、目を合わせて。
敵が攻撃してくるタイミングにぴったりと呼吸を合わせて。
発動させれば、“どんな敵の攻撃だって__貴女なら、きっと“。

わたしはドラゴンと向き合って構える。
ドラゴンがブレスを吐くタイミングがストップモーションのように映る。
大丈夫。
呪文の詠唱は必要ない。
心の中で発動を促すだけでいい。
ドラゴンが息を吸うタイミングで私も呼吸する。

__”ミラー”発動__!

私が両手を前に突き出すのと同時に目の前のドラゴンからブリザードが吐き出される。
”ミラー”はその名の通り反射魔法。
相手の攻撃をそのままはね返す。
結果、そのブリザードは私に届く事なく、代わりに目の前のドラゴンがカチッと音を立てて凍った。
(よし!あとは__)
私は指先に力を込め、僅かに魔力を送り込んだ。
氷にびしり、とひびが入る。
それをきっかけにぱきぱきとひびが全体に行き渡り、氷が粉々に砕け散る。
勿論中身も一緒に。
目の前のドラゴンが粉々に散ったのを確認して、私はレオン様に向き直る。
「レオン様っ怪我を!」
みせて下さい、と言う前に、
「い、今、何をした……?」
呆けたように言うレオン様に、
「あぁ、反射魔法ではね返しただけですわ。私が”ミラー”の使い手なのはレオン様もご存知でしょう?」
レオン様は私が子供の頃から私がミラーこれを使っているのを見てるはずだ。これも子供にしては強い方であったけど、魔法学園に入学してからさらに強くなっていた。
先生が特別に個人教授してくれる程に。
マナーの授業免除で空いた時間はこれに充てた。
いや今そんな事どうでもいいけど。

”ミラー”ってあんな強い魔法だったっけ?

と周りが固まってるのには気付かず、私はレオン様の怪我を治そうと手を伸ばした。
だが、傷にかざそうとした手は振り払われる。
「よせ!俺の事はいい!」
「は?」
血塗れで何言ってるんだ、この殿下ひとは。
「魔力の連続使用は控えろ」
あぁ、そういえばマリエル伯母様の治癒もしてきたところだったっけ。
けど、
「”ミラー”ははね返すだけですから魔力は大してくってません。必要だったのは、氷を壊す魔力で__」
ドラゴンは、凍らせたくらいでは死なない。
余程長く氷漬けにしておけるのならばわからないが、今は夏だ。
氷はすぐに溶ける。
だから、倒したいなら、そう教わった。
「バカを言うな!”ミラー”だって同等出力ではね返さなければもろにくらって終わりの所だ!一体何を考えてる!」
「それはこっちのセリフです!そんな血塗れで宣ってる場合ですか?さっさと手当を受けて下さい!」
「今回復魔法師が来る」
言外に、
「だからお前は手を出すな」
と言っている。
私はレオン様の胸ぐらを両手で掴んだ。

「だったらっ!私の見ている前でっ!こんな怪我をしないで下さいませっ!約束したでしょうっ?!”レオン様あなたの怪我は私が一番に治します”とっ!!」

レオン様はぽかんと口を開けた後、
「覚えていたのか……?」
と失礼な事を宣った。

五年と経っていないのに忘れる訳がない。
むっとした表情から察したらしく、
「そうか……。そうだな、約束だったな__すまない」
観念したように大人しくなったレオン様の様子をみてとって、
「どなたかレオン様の傷の辺りの部分の布を切っていただけるかしら?」
見事にざっくりと切られた衣装はこのまま塞ぐと肌を巻き込んでしまいそうだ。
私の声に急にばたばたと周りが騒がしく動き出した。
そういえば、さっきまでいやに静かだったような__あ、火竜の咆哮が止まったからか。
あちらはあちらで無事討伐出来たらしい。
レオン様の怪我に気をとられて気付く余裕がなかったわ、うん。

「私がやりましょう」と小型のナイフを手にユリウスが進み出て、
そういえば、私の護衛なのにさっき置いて走ってきちゃったような……まあ、ついてきてるんだしいいか。
「動かないで下さいね殿下?」
神妙な言い方の割に顔が笑い出したそうにみえるのはなんでだろう……?
ユリウスが器用に傷の辺りの布を切り取ると、私は現れたレオン様の肌に手をかざす。
かざした手から発した光がレオン様の肌に吸い込まれ、みるみる傷が塞がっていく。
周りからほぅ、と声があがる。

治し終わって気付く。
今私、完全に令嬢モード忘れてた。
どころか、
令嬢でなくてもやらないわ、レオン様の胸倉掴んで怒鳴るとか。
「………」
「………」
沈黙が流れる。
……まあ非常時だし仕方ない。
という事にしておこう、うん。
すぅっと息をついて激昂の気配を消す(取り繕うともいう)と、
「傷は塞ぎましたので後は周りの血を拭き取って早く着替えて下さいね?あとはお願いします従者様」
「は、はいっ!畏まりました!」
なんで最敬礼?
「騎士団長」
「はっ!」
何故にこちらも最敬礼?
「他に命の危険がある重篤な怪我人はいますか?」
「はっ、……は?」
「いるなら私が治します」
「し、しかし、」
「セイラ!!」
戸惑ったような団長の声とレオン様の咎める様な声が重なる。
「レオン様は早く着替えて侍医の診察を受けて下さいませ。怪我は今治した一箇所だけではございませんわよね?」
「気付いてたのか?」
「当たり前です。怪我人は引っ込んでて下さいませ」
「手厳しいな」
苦笑するレオン様に今更被る猫がいない。
自己修復で楽に治る怪我ならいちいち治さない、例えそれがレオン様であっても。
一番重篤な人が最優先、それがこの魔法を使う際の私の基準だ。
「だが、回復魔法は君の身体に負荷がかかるだろう?」
人の心配してる場合ですか?
「大丈夫です。自分の身体の限界まで無茶はしません」
「だが……ワイエス、重篤な怪我人はいるのか?」
「はっ!火竜が塔を崩した際落下した城壁に足を潰された者が一名、ファイアブレスにより過度な火傷を負った者が一名、他の者は比較的軽傷です」
「ドラゴン二体に急襲された割には少ないな」
「殿下がすぐ駆け付けて下さったお陰です」
「正確にはセイラが、だがな」
自嘲気味に言いながらちらりとレオン様が私の方に目で尋ねる。
本当に大丈夫なのか?と。
大丈夫です。
という風に私が頷きを返すと諦めたように、
「わかった。後は団長に任せる。ユリウス、彼女の側を離れるな」
「御意」
「怪我人はどこです?」
「こちらに」
騎士団長の案内で進むと皆が急いで道を空ける。
だけでなくなんだか頭を下げられているような。
あ、前を歩いてるのがトップの団長だからか、黒太子の時のモーゼ現象の再現みたいで落ち着かない。
居心地悪そうに歩く私をみて背後のユリウスが笑いを堪えてるのが気配でわかった。

いくら非常時とはいえレオン様を怒鳴りつけたのは不味かった。

その上、ここまで派手に人前で魔法使うのもマズかった__かも?



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