<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

詩海猫(9/10受賞作発売中!)

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役目を終えたはずの聖女は未来を憂う 1

 
「うわーっ!ほんとに満開です!凄いですねお姉様‼︎」
こちらも素晴らしく満開の笑顔でカンナちゃんが言う。桜の開花前線と共に、ひな祭りに続いて「おねーさま!お花見しましょう!」
と”妹”からのおねだり。既に確定行事感が半端ないが基本必要な買い物以外は出不精の私には丁度いいかもしれない。
「ほんと、凄いね」
 だが目の前の光景には素直に感動する。桜の花は昔からとても好きだ。
この季節にわんさか出る桜モチーフのグッズや限定モノもこまめにチェックしてしまうし、満開の桜が連なる下を見上げながら歩くのはとても好きだったが、いわゆるシートを引いてやるお花見とかはあまりやった事がない。
 人混みじゃないとこから眺めるのが好きだったからーーというかまあ、友達とやったのは楽しかったしカンナちゃんと一緒ならこんな有名なお花見どころも人混みもまあいいかな?と思う。

まさかまたお花見ができるとは思わなかったーーあの世界に、桜はなかったから。

「気持ちいいですねぇ」
「ほんと。天気もこんなに良いって嘘みたい」
桜は散るのが早い。しかも満開直後に強風大雨も珍しくない。満開の桜でこんな天気って、奇跡だと思う。

ほんとにちっちゃな奇跡でも。積み上げて幸福な記憶になればいい。

「あっ!おねーさま!これおススメです!有名店の限定品なんですよ~」
 言いながらカンナちゃんが茶巾寿司を勧めてくる。
「わっ綺麗……!」
 さすがお嬢様カンナ様、用意してきたお弁当があちこちの有名店からお取り寄せした品々ばかりである。しかも二人分とは思えない量……うん、気を使われてるなコレは。
今回はカンナちゃんがお弁当を、デザートと飲み物を私が持ち寄る事になっていた。
 お弁当も作ろうかと思っていたのだがカンナちゃんのお母様曰く、
「いつもお世話になってるので」
カンナに持たせるから残りは良かったらお持ち帰り下さい、との事だった。
 残りーーていうか、明らかに未開封のまま持ってって下さいね的な包みが普通に混ざってるし。
私が休みをほとんどカンナちゃんに費やしていると、気を使われているらしい。元々大した予定はないので構わないのだが。
好きでやってるんだしね?
 私はデザートとして今回桜のシフォンケーキなるものに挑戦してみた。
まあ、桜は元々味がするものでもないので、風味+見た目だけではあるが自分ではなかなかの出来だと思う。
「わっ!凄い綺麗で美味しそうですおねーさま!」
 見た目はまず合格らしい。そしてひと口食べて、
「口当たりふわっふわで美味しいです~余ったら持って帰って良いですか?」
苦労したさくらホイップは気に入ってもらえたらしい。
「勿論。ホールで焼いたから持って行ってくれたらむしろありがたい」
良かった。気に入ってもらえて何より。豪勢なお取り寄せ弁当には及ばないが、ささやかなお礼になればいい。
 私達がする会話は大体いつも一緒だ。趣味の話、互いの愚痴、そして次の予定。
 桜の下、次の予定だけでなく浮かれて、
「今年はハロウィン、一緒に行けますよね?何のコスプレにしましょう?」
「んーカンナちゃんはアナかジャスミンがやりたいんだっけ?」
「若しくはティンカーベルですね」
 見た目的にはティンカーベルが似合いそうだけど露出高いな……いや、やりようがなくはないけど。
去年は無理だったけど、今年はきっちり衣装準備して完コスしましょう、近くのホテルでお泊まりしちゃいましょう、いっそハロウィンイベント制覇しましょう!な勢いの私達である。

ーーそんな穏やかな昼下がり、お花見会場と化した場の一角に不似合いな悲鳴があがる。
 (ーーえ?)
 ぞくっ……!と身体に震えがはしり、思わず動きが止まる。
悲鳴が上がったのは比較的端の方で、私達がいる場からは離れているーーが、騒めきが徐々に広がりやがて、「血が……!」という声が僅かに聞こえた。
 (血……?)
 聞こえたワードに眉を顰めて耳を澄ますと、
「怪我人が出たの?」
「うぅん、ちょっと血?かどうかわかんないのが点々としてただけらしいよ。それ見たコが大袈裟に悲鳴あげちゃっただけみたい」
 そんな会話が聞こえるとなんだ、という雰囲気と人騒がせな、という非難めいた呟きが辺りを支配する。

 騒ぎにならないに越した事はないが、嫌な感じが消えない。
 (ーー恐怖は伝染するから)
「ーーカンナちゃん、ごめん、今日はもうここを離れない?」
 予定ではあと1時間くらいはゆっくりするつもりだったが、
「お姉さま?」
カンナちゃんが怪訝な顔になるが、騒ぎになってからでは遅い。
「もし、この後誰かが通報して騒ぎになったら、ここから離れるのに規制がかかっちゃうかもしれない。今のうちに離れちゃった方が、多分いいと思う」
 巻き込まれないうちに、離れた方がいい。
「そうですね、お姉さまがそうおっしゃるなら」
「うん、ごめんね」
「おねーさまのせいじゃないですし、桜は見れましたからっ!」
「ふふ、なら良かった」
 
“ここから離れた方がいい“ーー何故か、本能でそう思ったから。

*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

そうして、彼女達がその場を離れて1時間ほど後、警察が到着し、その場は騒然となった。
さらに警察がひと通りの調べを終えて立ち去った後、立ち入り禁止になった場所に背の高い2人組が現れる。

「ここが現場か?」
「あぁ、酷い喰い荒らされかただったらしいよーーヒトの仕業とは思えないくらいにね?」
 ーーまあ、だからこそこの2人が派遣されてきてる訳だが。
「やはりーー魔物か?」
 この世界には、魔物という概念がない。
 人とそれとの境界は酷く曖昧だ。だがそれがここまで明確に人の近くに現れる事はほとんどない。

 だからこそ、人は認識しない。今までは、それで良かったのだ。

 実害さえなければ、それで。だがーー、
「こんなに沢山の人の集まる場所のすぐにみつけられるような一歩入った暗がりで、こんな殺し方はーー」
クレイルは思わず呟く。
(まるで、戦線布告のような)

 

もしやこの国ーーこの世界は、限界が近いのではないか?

 

私は翌朝、”有数の花見名所でバラバラ死体発見”という見出しを見て青褪める。
「嘘……」
(あの場所で、ですって?それって、まさかーー)


 

聖女はもういない。
 ーー俺に、俺達に、どうにか出来る範囲で済めば良いが。


 ーー考えすぎだ。バラバラ殺人なんて、今までだってあったし、どんなに凄惨な事件だって必ずがいる筈だ。
魔物なんて、この世界にはいない。


ーーそんな私の思いを嘲笑うかのように事件は続き、被害者の遺体は増え、ニュースやワイドショーを賑わせ続けた。

そして、私は1通の辞令書を受け取った。
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