〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)

文字の大きさ
37 / 73

36

しおりを挟む
天使に失礼ではなかろうか__いや、そういえば天使というのは文字通り“天からのお使い“、つまり天上に住まう神々の召し使いであるからあながち間違ってもいないのか?
驚くあまりアルスリーアの思考は途方もなく残念な方向に振り切れていく。

__案外、似たもの同士なのかもしれない。

「見たくなかったわけじゃないんだ……信じて?」
超絶美形のどアップでそれはズルい。
ダンスは密着するものとはいえ、顔が近すぎやしないだろうか。
そう思っている間に曲は終わったが、エドワードは手を離さなかった。
「このまま踊ろう。疲れたら言ってくれ」
「他の方と交流しなくてよろしいのですか?」
「挨拶はしたし、今日は元々君のお披露目デビューだ。俺は添え物でいい」
そんなキラキラしい添え物はあり得ません と言いたいが、次の曲が始まってしまいそのまま二曲目、三曲目と二人で踊り続ける。
もちろん二曲目からは他の招待客も踊っているが、二人の周囲は何故だか人が疎らだった。



結局エドワード以外と踊らなかった(踊らせてもらえなかったとも言う。疲れて休む間もその後もエドワードがぴったりくっついて離れなかったからだ)初めての夜会の翌日、
「リーア、今日その、もし良かったら、町に__その、俺とデートしないか?」
デート?
って、
なんだっけ……?
アルスリーアの思考が暫くコールドスリープした。

アルスリーアが停止したまま動かないので、
「あ!えぇと、昨日の疲れが残っていなかったら、でいいんだ。リーアとならただ町を歩くだけでも楽しいだろうと思って。一緒にカフェに行ったり、買い物をしたりするんだろう?婚約者同士なら。俺はリーアとそういう時間を作ることもせず、勝手に籍だけ入れて__本当にごめん」
あゝやっぱりそのデートで合ってるのか。
この人のことだから単に何か日付確認の手伝い請われてんのかと思った。

アルスリーアの思考もやはり残念な方向に振りきれたままだった。

とくにすることもなかったのでエドワードの申し出を受け、二人は今馬車に揺られている。
「その、一応リサーチはしておいたんだけどリーアはどこに行きたい?行きたい場所とか、欲しいものがあったら言ってくれ」
今度はリサーチときた。
だが、エドワードがデートスポットについて調べる姿が想像できず、
「リサーチ……どなたに?」
と、思ったより冷たい声が出てしまった。

「騎士団の部下に集めてもらったものだ。正確には騎士団員の婚約者や奥方たちだな」
なるほど。
確かに元々王都にお住まいの夫人や令嬢なら、そういったスポットを熟知しているだろう。
自分は王都に来てからもほとんど外出らしい外出をしていない。
人付き合いもないから情報も仕入れようがない。
ジェイミーは元気だろうか。
そんなことを思いながら窓の外を流れる街並みに目をやる。
アルスリーアが住んでいたガゼル領とはまるで違う。
「リーア」
外に想いを馳せていたアルスリーアをエドワードの声が引き戻す。

「リーアはガゼル子爵領に帰りたい?」
「え?」
「離れていたくないから強引に邸に連れて来てしまったけど、リーアは王都は嫌?あの邸は住み心地が悪いかい?もしそうなら言って?」
「言って……どうなるのですか?」
「決まってる。君をガゼル子爵領に帰すよ」
「帰って良いのですか?」
「もちろん。君の嫌がることはしたくない。もし戻るつもりなら早めに言ってくれ、俺も準備するから」
「………」
じゅんび??

何の。

「決まってるだろう、その場合俺も子爵領に引っ越すからだ。リーアの子爵邸の部屋はそのままにしてもらってあるが手狭だろう?近くに二人で住む邸を探そう、そうすればガゼル家には俺が送り迎えできるし__」
「あ あの?フェンティ様、」
「エディだ」
「エドワード様、」
「“エディ“」
「……エディ」
「うん、何?リーア」
























しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。 セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。 婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...