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上場企業の社長が俺だと知らず同窓会で旦那を自慢する元カノ
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俺の名前は上杉将太。35歳。
物心ついた頃から身近にある機械に興味を示し、その仕組みを理解するのが好きな性格だった。
進学の際はもちろん理系の道を志望し、大学で機械と電気関連の専門知識をつけ、卒業後は大手の工業機械メーカーに就職した。
これからは、どんどん便利な機械を考案し、商品として開発して世に出すという、子供のころからの夢を実現するという希望に燃えていた。
とはいえ、大手企業で新入社員がいきなり重要な商品開発業務をやらせてもらえるはずがない。
最初は自社商品の理解のためという名目で、複数の部署で研修と並行して雑務をせねばならなかった。
やがて社の雰囲気と、全社的な仕事の流れが理解できた頃、開発部署への配属を希望した。
しかし、実際に配属されたのは営業部だった。
俺は声が大きく、受け答えもはっきりしていたので、これなら顧客対応させたほうが社に貢献できると判断された結果だった。
この時は少し落胆もしたが、営業を通じて顧客のニーズを理解できるようになっておけば、いつか開発業務をやれるようになった時、きっと役立つだろうと思いなおし、仕事に邁進した。
それによって俺は営業の仕事でまずまずの成果を上げることができた。
しかし皮肉なことに、営業に適性があると判断された俺は、本格的な営業畑へ進むことを期待されるようになった。
上司との定期的な面談のたびに、商品開発業務への熱意をアピールし続けたが、上司の答えは決まって「開発と営業は会社の両輪で、どっちも重要だ」という教科書的なものだった。
入社して数年が経過した頃、自分より後から入社した社員が開発部に配属されるのを見て、もう自分には転属の可能性があまり無いことを感じた。
今の会社は大きく、自分の営業における能力は評価されている。
このまま留まれば、給料も順調に上がって安定した生活ができることは保証されている。
しかし、それでは、子供のころからの夢だった新しい機械を作ることを、完全に諦めなくてはならない。
安定と夢の間でしばらく悩み続けた末、俺は思い切って安定を捨て、数年前に開業したばかりの小さな機械メーカーに転職することを決意した。
中途採用対象の面接の席で、これまで営業の仕事をしてきたが、この会社に入れたら、商品開発業務がやりたいと、そのためなら今の大手企業を辞める覚悟があることを強く訴えた。
新会社の社長は結構な高齢で、俺を面接したのは、営業経験を期待してのことだった。
しかし、熱く夢を語る俺の言葉を黙って聞いてくれた。
そして後日、開発部への採用を伝える通知が届いた。
同僚には大手から新しい会社へ移ることのリスクを説かれ、慰留もされたが、俺の意思は変わらなかった。
転職初日、新会社の社長は俺のことをよく覚えていてくれて、入社式の後で直接言葉をかけてくれた。
社長「前の会社に比べれば待遇は落ちると思う。だが、それでもウチで開発がしたいと言ってくれた君の熱意に期待しているよ」
小なりといえど、こうして会社を起こした経験を持つトップから真摯な言葉をかけられて、俺は数年来忘れかけていた熱い思いが胸にこみあげてくるのを感じた。
そして念願の開発業務に取り組む日々が始まった。
その道のりは平坦とは程遠いものだった。
まるで俺の入社とタイミングを合わせたかのように、社の主力製品の売り上げが落ちはじめ、新天地となるはずの会社が、このままでは数年のうちに倒産すらありうるという状況に陥ったのだ。
これといった良い材料が見えない状態がしばらく続いた。
しかし、それでも前の社における安定を捨てたことへの後悔は、俺の中に一切生じなかった。
むしろ内心は逆にやる気で燃え上がっていた。
この状況は、開発経験のない俺を拾ってくれた社長に恩を返すまたとないチャンスだと信じ、寝食を忘れて仕事に没頭した。
俺は複数のアイデアを並行して検討し、やがて、農作業用の小型機械の開発に成功した。
家庭菜園のような狭い場所で、力仕事の負荷を軽減できる製品だった。
前の会社のような大手どころが目をつけない、隙間商品のような位置づけのものだったが、俺は畑いじりを始める高齢者層には需要があるはずという確信があった。
この狙いは見事に当たった。
購入者が自主的に、ネット動画で使い勝手が良いと褒めてくれたことで人気に火が付き、折からの家庭菜園ブームも手伝って、予想をはるかに超える売り上げをたたき出した。
力仕事の省力化を実現した機械の特許の取得も完了し、他製品にも応用すると、その商品もたちまちヒット商品となった。
やがて機械の汎用性の高さは他分野のメーカーの関心を引き、特許利用許可を求めるオファーも殺到した。
ほどなく特許ライセンス料収入が優に本業収入を上回るようになると、俺は社長から特別表彰を受け、開発部を統括する地位に急昇格した。
この時期、俺は自主的に休日も返上する勢いで働いていたが、同時に意中の人と結婚する幸運にも恵まれていた。
名を上杉絵美といい、俺より4歳年下で、抜群の美貌とスタイルを生かしてモデルをやっていた。
製品の宣伝のため、思い切って金をかけたCMを打つことになり、その出演モデルとして採用された絵美が会社に挨拶に来たのが、俺たちが出会ったきっかけだった。
転職して以降、遊ぶことなど思いもよらず働きづめに働いていたところで、ふと対面したとびきりの美人に俺は目を奪われた。
あくまで商談は商談として、私情を押さえながら冷静に打ち合わせをする中で、絵美の頭の良さを感じ取れるようになると、その内面にも俺は惹かれていった。
一方の絵美も、まだ若く見える俺が先頭に立って仕事に没頭する姿を見るうちに、仕事の枠を超えた個人的な関心を持つようになっていたらしい。
CM撮影後の打ち上げの席で、思い切って連絡先交換を申し出たところ、絵美が快く応じてくれたことで交際が始まった。
話はとんとん拍子に進み、その翌年には早くも結婚式を挙げるに至った。
絵美はそれを機にモデルをやめて俺が仕事に集中できるよう家庭環境を整えることに専念してくれるようになり、そのお陰もあって俺は更に仕事に集中できるようになっていた。
それ以降、夫婦仲は極めて良好だ。
そのころになると、大手企業との商談の機会も増え、俺は技術部門の責任者として出席するようになったが、ここで前の社で培っていた営業経験が非常に役立つこととなる。
経営に関わる数字にも強い俺が、あらゆる場面で交渉を主導するのを何度も見るうちに、社長は大きな決断を下していた。
やがて俺は社長に呼び出された。
社長「私はもう年で、そろそろ次の世代にこの会社を譲りたいと考えているが、それは君しか考えられない。どうか次期社長就任を受けてもらえないだろうか」
その瞬間、俺はようやくこの人に恩を返すことができたのだと、いう深い満足感に包まれていた。
俺の年齢はこの時まだ33歳。
まだ創業間もない会社とはいえ、この年齢でしかも中途採用社員の身分からスタートしたことを思えば異例の大抜擢といえる。
しかし、会社の窮地を救う商品開発と、その後の営業展開まで最前線で成果を上げ続けた俺の昇進に不平を唱えるものはいない。
かくして、これ以上ないほど順調に、俺は新社長としての船出を果たすことができた。
その後も俺は精力的に仕事を続けた。
もちろん一番の楽しみである新商品の考案も続け、新たにヒット商品も誕生させていた。
会社はずっと右肩上がりの業績を出し続け、俺が35歳となった年に、ついに一部上場を果たすに至る。
飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさにこのことかと思った。
そんな折、仕事を終えて帰宅した俺に妻の絵美が一通のハガキを差し出して来た。
大学の同窓会の開催を知らせる通知だった。
ちょうど仕事が落ち着いてきた時でもあり、絵美が「いい息抜きになるんじゃない?」と勧めてくれたこともあり、俺は久しぶりに社長という肩書を忘れて楽しもうと、出席することにした。
同窓会の当日、ホテルの宴会場を借り切って設営された会場につくと、すぐに俺に気づいた懐かしい顔がいくつも近寄ってきた。
俺が転職して、上場企業の社長になったことや、結婚しているということは、かなり親しい友人にだけしか伝えていなかった。
この時、俺の周囲には、その親しいメンツがおらず、この場に俺の立場が激変したことを知るものは誰もいなかった。
だが、聞かれもしないのに自分から「俺はこんなに出世したんだぞ」とか「俺の嫁はこんな美人だ」なんて自己顕示欲丸出しな自慢をするほど、俺は神経が太くない。
それに、同窓生の中には仕事で苦労している人もいるはずだ。
その中で自慢話めいたことをするのははばかれるという思いもあった。
誰かから水を向けられでもしない限り、特に自分の今の状況について話すことはすまい、と思い、ひたすら聞き役に回っていた俺に、横合いから「あら将太じゃない!」という声がかかった。
声の方を見ると、そこには懐かしい、だけどあまり再会を喜ぶ気になれない、美咲の顔がそこにあった。
美咲とはかつて恋人として付き合っていたことがある。
いわゆる元カノだ。
俺達は学生のころ恋人同士となり、俺の元の職場である大手機械メーカーに就職していた。
そう意図したわけでもないのに就職先が一致したことから、二人の仲は強い絆で結ばれているに違いない、などと美咲がノロけていた時期もあるにはあった。
しかし、美咲は、俺が転職の意思を固めたと知るや否や「あなたがやりたいことがあるように、私にも生きる目標があるの。だから、これからは別々な道を歩きましょう」と言い残して俺の元を去っていった。
気取った言い方ではあったが、小さな会社に移る俺に将来性が無くなったと見て、早々に関係を清算したいというのが美咲の本音だったのは間違いない。
美咲は、男の価値は経済力にこそあると考えるドライな性格で、俺を切り捨てる時の判断は極めて迅速だった。
俺がどんな気持ちで転職したか、またどんな会社に転職したのかについて、美咲は俺に尋ねすらしなかった。
俺が新天地で業績を上げられるかどうか、見極めるくらいの間は待ってくれると思っていただけに、美咲の素早い決断は当時の俺にとってショックだった。
それでも仕事を通じて夢を追ううちに、美しい絵美と出会って結婚できたことを思うと、あの時美咲が自分を捨ててくれて良かったと、今では素直にそう思っている。
美咲「将太、あなた転職してからどうしてるの?まだあの、名前なんていったか忘れちゃったけど、小さな会社で頑張ってるの?」
随分と失礼な物言いだ。
少しだけ腹が立ったが、美咲にとっては俺のことは遠い過去のことでしかないのだから仕方ないと思い、平静さを保った。
将太「ああ。今もあそこで働いてるよ。俺が入社してからずっと業績が伸びてて、規模も結構なものになってるんだ」
美咲「規模拡大した?ふーん、まあ売上が一円でも増えてれば拡大には違いないかもね」
無礼な物言いを重ねてくるのを、よく聞こえなかった、という態度で聞き流す。
実際のところ、社の規模は俺が入社する前と比較すると、文字通り桁違いに拡大していたが、まさかここで数字を出しながら業績解説を展開するわけにもいかない。
美咲「でもさあ、会社が多少大きくなっても肝心の立場がね。中途で入ったあなたなんて、まだ平社員でしょう」
将太「それなんだけど、俺さ、社長に就任したんだよ」
美咲「はあ?」
一瞬美咲が真顔になり、数秒して大声で笑い始めた。
美咲「あははは。ちょっとベタすぎるけど、結構意表つかれたかも。そんな自分の立ち位置を盛る感じの冗談言うタイプじゃなかったけど、変わったわね」
将太「いや、だからこれは真面目な話だよ。俺は本当に社長をやってるんだ」
美咲「さすがに面白くないわよ?小さな会社だからって、中途で入った人間がたった数年で社長になるわけないじゃん。じゃあ何?その会社が成長してるのは俺の力だって言いたいの?」
全く信じてくれる気配がない。
しかし、常識で考えれば美咲の言い分はもっともなことなのだ。
身近で俺のことを見ていなかった美咲に、わずか数年で社長になれたという俺の話が、下手な冗談としか感じ取れなかったとしても仕方がない。
美咲「将太がそんな子供じみた地位アピールごっこしたいなら、私も少し付き合ってあげる。私ね、もうとっくに結婚してるんだけど、私の旦那の地位ってどのくらいだと思う?」
自信満々の笑みを浮かべてそう聞かれても、何年も音沙汰のなかった美咲の夫の肩書なんてわかるはずがない。
将太「美咲の同年代なら、もしかしていいとこの課長さんとか?」
俺が常識的な線を予想して言うと、美咲は派手に吹き出した。
美咲「そんなもんじゃないわ。今、業界地図を塗り替えてる上場企業の部長よ、部長!将太の想像力じゃ、イメージできないのも無理はないわよね」
将太「俺と変わらない年で部長なら結構なものだな。ちなみにどこの会社だい?」
この時点で俺はもう美咲との話を続けたいとは思わなくなっていた。
だけど、美咲がこれほど悦に入って自慢してくる旦那の勤務先がどこなのか、ちょっとだけ興味がわいたため、それを質問することで、ついでに美咲の自尊心を満足させてやることにした。
かつて、一時は俺が好意を寄せていた元カノへの、最後の儀礼を果たしているような気分だった。
案の定美咲は満面の笑みを浮かべて、ゆっくりと区切るように夫の勤務先の社名を口にしていた。
それを聞いて唖然とした俺の顔がよほど間抜けに見えたのか、美咲は辺りをはばからぬ笑い声を上げていた。
俺が美咲から見て間抜けに見える表情をした理由は、その会社が世界を股にかけるほどの超大企業だったとかいう理由ではない。
それはまさに、今現在、俺が社長を務める会社の名前だったのだ。
だとすると、美咲の言う部長というのは、俺が知る部下のうちの誰かということになる。
美咲の現在の姓を聞き出せば特定もできそうに思えたが、突然そんな質問をしては変に思われてしまう。
美咲「そういう訳だから、もし将太が無職になるようなことがあったら、いつでも相談してくれていいわよ。会社の雑用とか警備係で良ければ、夫に口を利いてもらえば押し込んであげられると思うから」
将太「お気遣いはありがたいけど、今のところはまだ世話にならなくて大丈夫だよ」
この状況で、その会社の社長が俺だと言っても、美咲は信じないどころか、自分の夫の上司面するなんて、冗談でも許せないとばかりに激怒するかもしれない。
そんな騒ぎになれば、周囲で談笑している同窓生を驚かせて場の空気を壊してしまう。
そんな迷惑をかけてまで、意地になって俺の身分を明かすメリットはないと感じ、曖昧な笑いで誤魔化すことにした。
俺が羨望のあまり無言になったとでも思ったのか、自尊心を満たした美咲はどんどん上機嫌になっていく。
美咲「ところで将太は今は結婚は?あ、ゴメンゴメン、私と離れた後、稼ぎが悪くなった将太と付き合ってくれるようなモノ好きな子がいるわけないものね。答えにくい事聞いちゃってごめんなさいね」
もはや、俺が結婚してると言っても、まともに受け取ってもらえないことが確実だったので、この挑発に対しても軽く苦笑して返すのみにとどめた。
その後、俺はようやく美咲の自慢話を聞かされるだけの役目から逃げ出し、気楽に話せる友達の輪に合流し、談笑して楽しい時間を過ごすことができた。
やがて閉会の時間が訪れ、参加者はそれぞれ気の合うもの同士で連れだって二次会に繰り出していった。
俺も、友達から誘われていたが、明日も朝一から重要な会議が入っており、夜はしっかり休息しておきたかったため、少し残念に思いつつも、参加を辞退して出口に向かった。
外に出てマンションに向かって歩き出したところで、背中から声がかかった。
美咲「将太!まさかこのまま帰る気じゃないでしょうね?」
振り返ると美咲が早足で近づいてくるところだった。
てっきり女友達と二次会に向かったものと思っていた美咲が一人でいるのを見て、嫌な予感がした。
美咲「なんか、みんな揃って明日が忙しいとか言って帰っちゃったのよ。まあ貧乏暇なしで仕事に追われてんでしょうけど、今日くらい遅くまで遊んだっていいのにね」
将太「みんなそれぞれに責任を負う立場になってるだろうし、仕方ないよ」
そう言いながら、ひょっとすると美咲に誘われたメンバーは、この後まで美咲の自慢を聞かされることに辟易して一旦帰ったことにして、美咲から逃げ出したのではないかという気がした。
後で彼らは別な場所に再集合し、美咲抜きの二次会を密かにやるつもりなのでは、という気がしたが、もちろん美咲にこの思い付きを伝えたりはしなかった。
美咲「あんた、今帰るところだったでしょ。どうせ明日の仕事に備えて帰ろうとか思ってたんでしょうけど、平社員の仕事なんて半分寝てても務まるんだから、もう少し私に付き合いなさいよ」
ずっと言ってることが滅茶苦茶だ。
だけど、美咲は昔から一度へそを曲げるとものすごく根に持って長期間ひきずる性格だった。
もしここで振り切ろうとしたら、しつこくどこまでもつきまとって来かねない。
ここは、少しの時間だけ大人しくつきあってやるのが、結果的に一番早く解放される道だと思い、やむなくあと少しだけ我慢することにした。
将太「少しの時間だけでいいなら、付き合うよ」
美咲「そうこなくちゃね!時間を取らせるだけの価値のある場所に連れてってあげるわ」
将太「いい場所って・・・紹介がないと入れないような良い店を知ってるのかい?」
美咲「そんなんじゃないわよ。私の家を見せてあげるって言ってるの。タワマンよ、タワマンの30階からの眺めなんて見たことないでしょ!うちにくればそれを只で見せてあげるって言ってるの!」
タワマンの30階ねぇ・・・と漏らしそうになるのを寸前でこらえた。
実は俺も現在タワマンに住んでおり、最上階になる45階を所有している。
その意味では45階からの眺めは馴染みがあっても、30階からの眺めとやらは、確かに見たことが無いとはいえる。
おそらく美咲はこんな感じで知人をそのタワマンに連れ込んでは、自慢することを繰り返しているのだろう。
今日は同窓会だし、大勢を自宅に引き連れて見せびらかすつもりでいたのに、皆に逃げられてしまったので、こうなったら俺だけはどうあってもタワマン自慢に付き合わせる気になっているのだろう。
話に付き合うだけでなく、タワマンまで同行させられるのは勘弁してほしいと思い悩んでいると、よく見知った顔が美咲の背後から近づいてくるのが見えた。
絵美「あなた。同窓会は終わったの?」
妻の絵美だった。
将太「絵美。どうしたんだ。まさか迎えに来たんじゃないだろうな?」
絵美「まさかあ。今日はあなたが同窓会だし、帰りはきっと遅いんじゃないかと思って、私は私でお友達と食事して帰ってきたとこ。今ここで会ったのは偶然よ」
想定外な場所で出会った妻と俺の間で生じた会話を、美咲が不思議なものを見る目で眺めている。
絵美「それでこちらの方は、同窓の方?」
将太「ああ。なんでもこの後、自宅に招待したいけどどうかって言われてたところなんだ」
絵美「今からご自宅に招待されたの?」
将太「おいおい、誤解しないでくれよ。この方は美咲さんといって、俺の同窓生だが、もう結婚してるし、今はご自宅には旦那さんがおられるんだ」
そこでようやく美咲が口をはさんできた。
美咲「ねえ将太。こちらの方は、もしかして、その・・・」
将太「ああ、悪い。紹介が遅れたけど、これは俺の妻の絵美だ」
美咲「えっ!この人が、しょ、将太の奥さん!?あなた、結婚してたの!」
将太「ああ。さっきまではそういう話をする流れじゃなかったから、つい黙ってたけど・・・」
美咲「へ、へえ・・・奥手だと思ってたけど、将太もなかなかやるじゃないの。こんな、綺麗な奥さんがいたなんて」
平静を装ってはいるが、美咲は明らかに動揺していた。
絵美は薄化粧とさりげないファッションに身を包んでいる。
しかし、かつて社のCMに採用されたほどの美貌とスタイルは今も健在で、同性の目から見ても圧倒される感覚を味わっているのだろう。
美咲も、十分に可愛い方に入る顔立ちなのだが、年齢的に絵美より4歳年上で、派手目の化粧なこともあり、自然体の絵美の横では明らかに風格負けしていた。
美咲は、突然劣等感に直面させられて苛立っていた。
美咲「ね、ねえ、奥さんは今、お仕事してらっしゃらないの?」
絵美「ええ。今は将太さんの稼ぎに甘えさせてもらっています」
自然にそう絵美が返したことで、美咲の目の色が変わった。
旦那の稼ぎの話題にもちこめれば自分は絵美に圧勝できる。
たった今味わわされた劣等感を倍にして突っ返すことができる、そう美咲は確信したらしい。
美咲「ああらそうなの。だけど、失礼ですけど将太さんの稼ぎだけでは色々と入用な時にご苦労が多いのではなくて?」
だが、絵美は至って涼しい顔のままだ。
絵美「そうですね。私もまだ仕事をしたい気持ちはあるんですが、それだと将太さんが全力で仕事をする環境を維持する妻の役割が果たせなくなりそうで・・・」
美咲「ふ、ふん。そこまでサポートするだけの稼ぎのある夫なら、そこまでする価値もあるってものでしょうけど・・・ねぇ?」
絵美「ええ。将太さんはそれほどの価値のある人ですから、私、そのお手伝いができてとても嬉しいんです」
美咲の顔から表情が消えた。
俺には、絵美が本心からの言葉を言ってくれていることがわかるが、こういう考え方をしたことがない美咲は、絵美の言葉を自分への挑発と受け止めたらしい。
美咲「そうだわ!ねえ。絵美さん。将太・・・いえ、旦那さんと一緒に、今から私の家にいらっしゃらない?うんとおもてなしいたしますわ」
絵美「でもこんな時間からご迷惑では・・・」
美咲「いいえ、だって、たった今もあなたの旦那様を招待してたところなんですもの。ウチって、こう言ってはなんですけど、タワマンの30階にありまして、今の時間からだと素敵な夜景が見れますの。ぜひ、絵美さんに堪能いただきたいわ」
そう言われ、キョトンとした顔で俺の顔を見てくる絵美。
タワマンなら私も住んでます、と答えていいのかと尋ねてくるような視線を俺に送っている。
俺は軽く目配せし、無言で小さく首を振った。
それで俺の意図を察したらしく絵美が言った。
絵美「それじゃ、せっかくのお誘いですから、有難くお受けいたします」
美咲「そうこなくちゃ!それじゃさっそく行きましょう。歩いて10分ほどですから」
それから10分後、鼻息荒く先頭を歩く美咲に連れられ、俺たちは周囲で最も目立つタワーマンションに到着した。
美咲「ここよ。さあどうぞ、遠慮なさらずに」
そう言いながら入り口の認証装置に美咲が手を当てると、すぐにポン、という電子音がして自動ドアが開いた。
美咲「最新の生体認証ですから、鍵なんて要らないのよ」
誇らしげに言いながら、美咲がドアをくぐる。
続いてドアをくぐりながら、絵美が「私たちも似たような住環境にいること、まだ隠したままでいいの?」と問いかけるような目をしてきた。
俺が無言でうなずくと、絵美は俺に何か考えがあるのだと納得し、それ以上は何も言わず黙って美咲の後に従った。
エレベーターに乗り、美咲が住むという30階で降りて右に向かう。
ドアノブを美咲がつかむと自動開錠される音が聞こえ、中に招き入れられた。
美咲「さあどうぞ。お上がりになって」
絵美と二人、言われるままに靴を脱いで上がらせてもらう。
すぐに奥から美咲の夫のものと思われる男の声がした。
健一「美咲か?なんだおい、また誰か連れて来たのか?」
美咲「ええ。久しぶりに会ったお友達と、その奥様をお連れしたわ。うちからの夜景をぜひ見ていただきたくて」
美咲がそう答えると、あからさまに美咲の夫が大きく溜息をつくのが聞こえて来た。
俺が推測した通り、美咲は頻繁に誰かを連れてきては、このタワマンと眺望を自慢しているらしい。
美咲の夫はそのたびに自分までもが接客を余儀なくされることにうんざりしているのだろう。
もちろん美咲はそんなことを一切気にしていない様子で、悠然と歩を進めていく。
絵美「あの、お休みのところ押しかけて申し訳ありません」
将太「景色を見せていただいたら、すぐにもおいとましますので」
美咲「私がお誘いしたんですから、遠慮なさらずに。景色だけだなんて言わず、お部屋の設備なんかもご覧になられるといいわ。滅多に見れないでしょうから」
きっちりと自分の豊かな生活ぶりを見せつけるまでは帰らせない、と宣言されたかのようだった。
絵美がほんの少し肩を竦めるのが見えた。
多少の変わり者相手でも淡々と対応できる性格の絵美も、美咲の言動の露骨さにいくらか呆れ気味になっている。
玄関から短い廊下を進み、突き当りのドアの向こうがリビングだった。
遮るもののないスペースの中に、ソファやテーブルが置かれ、突き当りは一面ガラス張りとなっていて、夜景が一望できた。
ソファに座ってタブレットを触っていた美咲の夫の健一が下を向いたまま億劫そうに立ち上がり、どうも、とかなりおざなりな挨拶をしてきた。
ようやくその顔が少し上がり、健一が俺たちに視線を向けて来た。
健一「えっ」
俺の顔を見た瞬間、健一が驚きの声を漏らす。
健一「しゃ、社長!どうしてここに!?」
将太「何だ、誰かと思ったら富永君じゃないか。君が美咲さんの夫だったのかい」
健一「は、はい、では、美咲の学生時代の同窓生というのは・・・」
将太「俺のことだよ。今日は美咲さんから是非にと誘ってくれたものだから、お言葉に甘えて、妻まで一緒にお邪魔させてもらうことにしたんだ」
健一「そ、そうでしたか。これはとんだことを・・・」
健一の態度と、俺との会話を不思議そうに聞いていた美咲が言葉を挟んできた。
美咲「ねえ、どうしてあなたがそんな遠慮してるの?もしかして将太と知り合いなの?」
健一「おい!失礼だぞ!社長のことを呼び捨てにするんじゃない!」
美咲「えっ!?社長、社長って、あなたの会社の社長・・・将太がそうだっていうの!?」
健一「だから社長を呼び捨てにするなと言ってるんだ!そうだよ、こちらが上杉社長だよ!」
美咲「ええっ!?嘘でしょう!」
健一「嘘なものか!お前、社長のご夫妻に非礼なことを言ったんじゃあるまいな!」
美咲は呆然としている。
絵美「ねえ将太さん。こちらの旦那様は、あなたの会社の方なの?」
将太「ああ。彼は富永といってうちで部長をやってもらってるよ。今日も会社で顔を合わせたばかりだ」
健一「社長、もしかして美咲の奴、とんだ非礼を働いたのではないですか?まさか奥様のほうにもご迷惑をおかけしてしまったのでは?」
将太「いや、だからいいんだよ。美咲さんと俺は同窓生なんだから、お互い敬語を使うような間柄じゃない。俺たちが対等に話すのは当然なんだから、非礼も何も無いよ」
健一「いえ、たとえ元は同窓生でも今は部下である私の妻なのですから、礼儀はきちんとさせなくては・・・」
美咲「ねえ、それじゃあ最初に将太が社長になったって言ってたあの話・・・」
将太「だから、全部本当のことだよ。だけどまあ、いきなり聞かされた美咲が冗談だろうと思ったのも無理はないよな」
健一「おいお前、どういうことだ?まさか、社長のお話を冗談と決めつけて信じなかったのか?!とんだことをしてくれたな!さあ今すぐ社長に謝るんだ!」
蒼白になった健一が美咲の肩を荒々しくつかんで押し下げ、頭を下げさせようとする。
健一「社長!誠に申し訳ございません!知らなかったこととはいえ・・・」
将太「だからいいんだよ。気の置けない同窓生から無理に丁寧な態度を取られるほうが俺だって嫌だし、落ち着かないよ」
あくまで穏やかに返す俺の顔を、なおも信じられないという顔で見つめていた美咲が、健一から更に強く肩を押され、渋々といった感じで頭を下げた。
きっと今、悪い夢でも見ている気分だろう。
健一「あの、奥様もどうかこちらへ。散らかっていますが、すぐお茶をお出ししますので、おかけになってお待ちください」
健一がひたすら恐縮しながらソファを開け、俺たちに座るよう促しながら、美咲にお茶を入れろと命じた。
それを受けて美咲がおろおろとキッチンに向かおうとしかけたときだった。
絵美「あの、あなた、もしかしてあの時の?」
そう言って健一の顔を真正面から絵美が見据える。
絵美はいわゆる目力があるタイプの顔をしているので、こうして真剣な顔をされると結構な迫力がある。
その視線を受けて、一瞬呆けたような表情で絵美の顔をじっと見つめた健一が「あっ」と高い声を上げた。
どうやら、この場で旧知の関係だったのは、俺と美咲だけではなかったようだ。
だが、俺と美咲が同窓生という平凡な関係だったのに対し、絵美と健一の間には、再会を喜びあえるような、そういう要素は皆無らしい。
絵美「やっぱりそうでしょう。結婚式で、あなた新郎側の知人として参列してたでしょう!」
将太「なるほど。絵美は富永と友達の結婚式で顔を合わせてたのか。だけど絵美、式の参列者なんて結構な数いそうなものだけど、よく富永の顔を覚えてたなあ」
絵美「忘れるもんですか!この人、私にしつこく話しかけてきて、連絡先を教えてくれってもうずーっと付きまとって離れなかったんだもの!」
将太「何だと!」
美咲「あなた、そんな恥知らずな事!それも社長の奥様に向かって!」
健一「い、いえ、社長!誤解です。私はあの時は、その・・・奥様が近くにおられたもので、あくまで世間話を」
絵美「嘘よ!席は離れてたのに押しかけてきたし、式が終わった後も会場の外までついてきて、私を食事に誘おうとしてきたじゃない!」
将太「おい、どういうことだ。説明しろ、富永」
さっきまでは、同窓で元カノの美咲のちょっと困った性格にやむなく付き合っているという意識だった。
しかし、今の絵美の話が本当なら、健一は絵美に向かって明らかに一線を越えた目的を持って強引に近づいていたことになる。
美咲「あなた、よくもそんな破廉恥なこと!」
ついさっきまで健一に責め立てられていた美咲のほうが激怒して、健一に詰め寄った。
健一「だから違うんだ!誤解だ!ほら、社長の奥様は、こう、おきれいな方だから、その、少しだけお話出来ればと思って・・・だけどそれ以上のことを考えたりするものか!」
将太「絵美。今の富永の話、信じられるか?」
絵美「信じられない!だって、私をホテルの中にあるレストランに連れ込もうと必死だったもの!」
将太「ホテルの中にあるレストランに誘おうと?・・・なるほど、そのあとで部屋に連れ込もうって算段だったってことなんだな!?」
絵美「私、ちゃんと結婚指輪もしてたのに、今日だけはお互い指輪を外して自由を楽しもうとかまで言ってきて・・・!私、あんまり頭にきたから会場に戻って警備員の方に助けを求めた途端、逃げていなくなったんだもの!」
将太「お互い結婚してることを承知の上でか!よくもそんな浅ましい真似を!」
健一が絵美にいかがわしい行為を働こうとしていたと知り、俺のほうが余裕を失っていた。
将太「富永!どういうことだ!お前の話と絵美の話は全く食い違う!本当はどうだったんだ!」
絵美「私、その時の警備してた方のお名前は覚えてますから、確認してもらえます。それに、式場で私の近くにいた人達にも証言してもらえるはずよ」
将太「よし。それなら警備会社には俺が確認を取らせる。絵美は証言してくれそうな友人に連絡を取ってくれ」
健一「待って下さい!わ、わかりました!そうです!奥様の仰る通りです!奥様があまりにお綺麗だったもので、つい魔が差したんです!」
逃れられぬと悟った健一が顔を覆ってしゃがみこんだ。
将太「この野郎。よくも絵美にふざけた真似を」
怒りに我を忘れ、健一に近づこうとした俺を絵美がしがみついて止める。
もし制止されなかったら、健一に平手打ちくらいはしていたかもしれない。
健一はひたすら恐縮して、俺の顔を見ることができずにいる。
美咲「この恥知らず!私というものがありながら!!一歩間違えば警察沙汰だったんじゃないの!」
美咲は健一の髪の毛をつかんで引っ張りながら叫んでいる。
自分というものがありながら、健一が絵美の魅力に負けていたことが許せないという本音がストレートに言葉に出ていた。
どこまでも自己中心的な健一と美咲の姿を見ているうちに、さっきまでのたぎるような怒りが少しずつ冷めていくのを感じた。
怒りそのものが消えることはなかったが、この場で健一に激しくぶつけて発散しても何の解決にもならないと思い直した。
冷静になると同時に、健一の部下である課長以下の管理職から、健一の行状に問題ありと訴えられていたことを思い出した。
問題が起こると、責任は部下に押し付けようとするが、ロクに指揮をとらない。
逆に業績が上がった時は、全て自分が指揮したのだという態度で功績を独り占めしようとする。
そのため、部署の士気が上がらず、不満のあまり退社を考える若手が出ているという話だった。
こういう話は、一方からだけの意見を取り上げると遺恨を残しかねないので、俺はいずれ健一からも事情を聞いて、慎重に調査して対処するつもりでいた。
しかし、もうその必要はほとんどないようだと感じはじめていた。
絵美にここまで卑劣なことをするほどの男だ。
仕事においても倫理観を発揮することは期待できない。
十中八九、部下側の証言は事実なのだろう。
俺は明日にでも健一を呼び出し、部署内に不審を招いていることについて、徹底的に問いただす決意を固めた。
すっかり冷え切った空気の中、ひたすらすいませんと繰り返す健一と、それをなじる美咲。
もうこの場にいたくないと感じ、「帰らせてもらう」と言い放って夫妻に背を向けた。
俺たちの去り際、何を思ったのか健一と美咲は玄関まで追いすがって来た。
社長ご夫妻に来ていただけて光栄でしたとか、本当に素敵なご夫妻で羨ましい、今後もぜひお付き合いを、などと、歯の浮くようなお世辞を二人で述べ立てるのに返事もせずドアを閉じ、帰宅した。
この期に及んで、こんなことで俺たちの機嫌が取り繕えると思っていることが信じられなかった。
そして翌日、俺は朝一の会議が終わるとすぐに健一を呼び出した。
健一はてっきり絵美にしたことを責められるものと思って恐縮しきっていたが、仕事の話だと言うと極端に安堵した顔を見せた。
しかしその直後、俺が部署中から上がっている健一の行状への苦情を読み上げはじめると、
再び蒼白になり、あれこれと言い訳を始めた。
そのすべてを健一が言い終えるより前に、「この件は俺自らが部署全員に聞き取り調査を行う」と告げた。
そのうえで健一が少しでも嘘をついていたことが判明したときは容赦しない、と告げ、退室を命じると、健一はほとんど魂が抜けたような足取りでふらふらと去っていった。
その後、結局俺はその聞き取り調査を実行する必要は生じなかった。
わずか数日後、健一自らが辞表を提出したのだ。
調査後、自分の行状が明らかになってからだと、非常に厳しい処分が下されることは明らかだったので、少しでも自分の状態が良いうちに退職金だけでも確保しようとしたのかもしれない。
健一が居なくなったことで、部署内で健一の横暴に対抗して部下の信望の高かった課長が昇進して新たに部長となり、部内の士気は一気に向上した。
人事を断行した俺の評判までついでに上がっているらしいと聞いたときは、苦笑する思いだった。
聞き及んだところでは、会社を辞めた健一は、急成長している会社から逃亡同然に退社せざるを得なくなった事情が噂として業界に拡散し、どこも再就職に応じてもらえず、困り果てていたらしい。
そして、好待遇だった部長職から無職となった後も生活レベルを落とさずにいたものだから、せっかくの退職金もたちまち使い果たしてしまったらしい。
そして生活費の確保にも困窮すると、あのタワマンも早々に売り払わざるを得なくなり、その後はひどく質素な郊外の安アパートに引っ越したらしい。
美咲は、上場企業の部長である夫と、豪華なタワマンという、優越感の源泉を一気に失い、すっかり老け込んで、ほとんど人前に出なくなったと聞く。
その後、こうなった原因はお前にあると、互いを罵り合う日々が続き、ついに離婚が成立して美咲は安アパートから出て行ったそうだが、その後の消息はわからないままだ。
その後、俺の会社は更に順調に発展し、最近では海外に販路を拡大すべく、複数の海外支社を出す計画が進んでいる。
絵美との関係も良好で、まもなく生まれる第一子誕生を前に、俺はますます仕事への意欲を燃やし、今なお新製品開発現場に顔を出し、次々に浮かんだアイデアを現実にし続けている。
物心ついた頃から身近にある機械に興味を示し、その仕組みを理解するのが好きな性格だった。
進学の際はもちろん理系の道を志望し、大学で機械と電気関連の専門知識をつけ、卒業後は大手の工業機械メーカーに就職した。
これからは、どんどん便利な機械を考案し、商品として開発して世に出すという、子供のころからの夢を実現するという希望に燃えていた。
とはいえ、大手企業で新入社員がいきなり重要な商品開発業務をやらせてもらえるはずがない。
最初は自社商品の理解のためという名目で、複数の部署で研修と並行して雑務をせねばならなかった。
やがて社の雰囲気と、全社的な仕事の流れが理解できた頃、開発部署への配属を希望した。
しかし、実際に配属されたのは営業部だった。
俺は声が大きく、受け答えもはっきりしていたので、これなら顧客対応させたほうが社に貢献できると判断された結果だった。
この時は少し落胆もしたが、営業を通じて顧客のニーズを理解できるようになっておけば、いつか開発業務をやれるようになった時、きっと役立つだろうと思いなおし、仕事に邁進した。
それによって俺は営業の仕事でまずまずの成果を上げることができた。
しかし皮肉なことに、営業に適性があると判断された俺は、本格的な営業畑へ進むことを期待されるようになった。
上司との定期的な面談のたびに、商品開発業務への熱意をアピールし続けたが、上司の答えは決まって「開発と営業は会社の両輪で、どっちも重要だ」という教科書的なものだった。
入社して数年が経過した頃、自分より後から入社した社員が開発部に配属されるのを見て、もう自分には転属の可能性があまり無いことを感じた。
今の会社は大きく、自分の営業における能力は評価されている。
このまま留まれば、給料も順調に上がって安定した生活ができることは保証されている。
しかし、それでは、子供のころからの夢だった新しい機械を作ることを、完全に諦めなくてはならない。
安定と夢の間でしばらく悩み続けた末、俺は思い切って安定を捨て、数年前に開業したばかりの小さな機械メーカーに転職することを決意した。
中途採用対象の面接の席で、これまで営業の仕事をしてきたが、この会社に入れたら、商品開発業務がやりたいと、そのためなら今の大手企業を辞める覚悟があることを強く訴えた。
新会社の社長は結構な高齢で、俺を面接したのは、営業経験を期待してのことだった。
しかし、熱く夢を語る俺の言葉を黙って聞いてくれた。
そして後日、開発部への採用を伝える通知が届いた。
同僚には大手から新しい会社へ移ることのリスクを説かれ、慰留もされたが、俺の意思は変わらなかった。
転職初日、新会社の社長は俺のことをよく覚えていてくれて、入社式の後で直接言葉をかけてくれた。
社長「前の会社に比べれば待遇は落ちると思う。だが、それでもウチで開発がしたいと言ってくれた君の熱意に期待しているよ」
小なりといえど、こうして会社を起こした経験を持つトップから真摯な言葉をかけられて、俺は数年来忘れかけていた熱い思いが胸にこみあげてくるのを感じた。
そして念願の開発業務に取り組む日々が始まった。
その道のりは平坦とは程遠いものだった。
まるで俺の入社とタイミングを合わせたかのように、社の主力製品の売り上げが落ちはじめ、新天地となるはずの会社が、このままでは数年のうちに倒産すらありうるという状況に陥ったのだ。
これといった良い材料が見えない状態がしばらく続いた。
しかし、それでも前の社における安定を捨てたことへの後悔は、俺の中に一切生じなかった。
むしろ内心は逆にやる気で燃え上がっていた。
この状況は、開発経験のない俺を拾ってくれた社長に恩を返すまたとないチャンスだと信じ、寝食を忘れて仕事に没頭した。
俺は複数のアイデアを並行して検討し、やがて、農作業用の小型機械の開発に成功した。
家庭菜園のような狭い場所で、力仕事の負荷を軽減できる製品だった。
前の会社のような大手どころが目をつけない、隙間商品のような位置づけのものだったが、俺は畑いじりを始める高齢者層には需要があるはずという確信があった。
この狙いは見事に当たった。
購入者が自主的に、ネット動画で使い勝手が良いと褒めてくれたことで人気に火が付き、折からの家庭菜園ブームも手伝って、予想をはるかに超える売り上げをたたき出した。
力仕事の省力化を実現した機械の特許の取得も完了し、他製品にも応用すると、その商品もたちまちヒット商品となった。
やがて機械の汎用性の高さは他分野のメーカーの関心を引き、特許利用許可を求めるオファーも殺到した。
ほどなく特許ライセンス料収入が優に本業収入を上回るようになると、俺は社長から特別表彰を受け、開発部を統括する地位に急昇格した。
この時期、俺は自主的に休日も返上する勢いで働いていたが、同時に意中の人と結婚する幸運にも恵まれていた。
名を上杉絵美といい、俺より4歳年下で、抜群の美貌とスタイルを生かしてモデルをやっていた。
製品の宣伝のため、思い切って金をかけたCMを打つことになり、その出演モデルとして採用された絵美が会社に挨拶に来たのが、俺たちが出会ったきっかけだった。
転職して以降、遊ぶことなど思いもよらず働きづめに働いていたところで、ふと対面したとびきりの美人に俺は目を奪われた。
あくまで商談は商談として、私情を押さえながら冷静に打ち合わせをする中で、絵美の頭の良さを感じ取れるようになると、その内面にも俺は惹かれていった。
一方の絵美も、まだ若く見える俺が先頭に立って仕事に没頭する姿を見るうちに、仕事の枠を超えた個人的な関心を持つようになっていたらしい。
CM撮影後の打ち上げの席で、思い切って連絡先交換を申し出たところ、絵美が快く応じてくれたことで交際が始まった。
話はとんとん拍子に進み、その翌年には早くも結婚式を挙げるに至った。
絵美はそれを機にモデルをやめて俺が仕事に集中できるよう家庭環境を整えることに専念してくれるようになり、そのお陰もあって俺は更に仕事に集中できるようになっていた。
それ以降、夫婦仲は極めて良好だ。
そのころになると、大手企業との商談の機会も増え、俺は技術部門の責任者として出席するようになったが、ここで前の社で培っていた営業経験が非常に役立つこととなる。
経営に関わる数字にも強い俺が、あらゆる場面で交渉を主導するのを何度も見るうちに、社長は大きな決断を下していた。
やがて俺は社長に呼び出された。
社長「私はもう年で、そろそろ次の世代にこの会社を譲りたいと考えているが、それは君しか考えられない。どうか次期社長就任を受けてもらえないだろうか」
その瞬間、俺はようやくこの人に恩を返すことができたのだと、いう深い満足感に包まれていた。
俺の年齢はこの時まだ33歳。
まだ創業間もない会社とはいえ、この年齢でしかも中途採用社員の身分からスタートしたことを思えば異例の大抜擢といえる。
しかし、会社の窮地を救う商品開発と、その後の営業展開まで最前線で成果を上げ続けた俺の昇進に不平を唱えるものはいない。
かくして、これ以上ないほど順調に、俺は新社長としての船出を果たすことができた。
その後も俺は精力的に仕事を続けた。
もちろん一番の楽しみである新商品の考案も続け、新たにヒット商品も誕生させていた。
会社はずっと右肩上がりの業績を出し続け、俺が35歳となった年に、ついに一部上場を果たすに至る。
飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさにこのことかと思った。
そんな折、仕事を終えて帰宅した俺に妻の絵美が一通のハガキを差し出して来た。
大学の同窓会の開催を知らせる通知だった。
ちょうど仕事が落ち着いてきた時でもあり、絵美が「いい息抜きになるんじゃない?」と勧めてくれたこともあり、俺は久しぶりに社長という肩書を忘れて楽しもうと、出席することにした。
同窓会の当日、ホテルの宴会場を借り切って設営された会場につくと、すぐに俺に気づいた懐かしい顔がいくつも近寄ってきた。
俺が転職して、上場企業の社長になったことや、結婚しているということは、かなり親しい友人にだけしか伝えていなかった。
この時、俺の周囲には、その親しいメンツがおらず、この場に俺の立場が激変したことを知るものは誰もいなかった。
だが、聞かれもしないのに自分から「俺はこんなに出世したんだぞ」とか「俺の嫁はこんな美人だ」なんて自己顕示欲丸出しな自慢をするほど、俺は神経が太くない。
それに、同窓生の中には仕事で苦労している人もいるはずだ。
その中で自慢話めいたことをするのははばかれるという思いもあった。
誰かから水を向けられでもしない限り、特に自分の今の状況について話すことはすまい、と思い、ひたすら聞き役に回っていた俺に、横合いから「あら将太じゃない!」という声がかかった。
声の方を見ると、そこには懐かしい、だけどあまり再会を喜ぶ気になれない、美咲の顔がそこにあった。
美咲とはかつて恋人として付き合っていたことがある。
いわゆる元カノだ。
俺達は学生のころ恋人同士となり、俺の元の職場である大手機械メーカーに就職していた。
そう意図したわけでもないのに就職先が一致したことから、二人の仲は強い絆で結ばれているに違いない、などと美咲がノロけていた時期もあるにはあった。
しかし、美咲は、俺が転職の意思を固めたと知るや否や「あなたがやりたいことがあるように、私にも生きる目標があるの。だから、これからは別々な道を歩きましょう」と言い残して俺の元を去っていった。
気取った言い方ではあったが、小さな会社に移る俺に将来性が無くなったと見て、早々に関係を清算したいというのが美咲の本音だったのは間違いない。
美咲は、男の価値は経済力にこそあると考えるドライな性格で、俺を切り捨てる時の判断は極めて迅速だった。
俺がどんな気持ちで転職したか、またどんな会社に転職したのかについて、美咲は俺に尋ねすらしなかった。
俺が新天地で業績を上げられるかどうか、見極めるくらいの間は待ってくれると思っていただけに、美咲の素早い決断は当時の俺にとってショックだった。
それでも仕事を通じて夢を追ううちに、美しい絵美と出会って結婚できたことを思うと、あの時美咲が自分を捨ててくれて良かったと、今では素直にそう思っている。
美咲「将太、あなた転職してからどうしてるの?まだあの、名前なんていったか忘れちゃったけど、小さな会社で頑張ってるの?」
随分と失礼な物言いだ。
少しだけ腹が立ったが、美咲にとっては俺のことは遠い過去のことでしかないのだから仕方ないと思い、平静さを保った。
将太「ああ。今もあそこで働いてるよ。俺が入社してからずっと業績が伸びてて、規模も結構なものになってるんだ」
美咲「規模拡大した?ふーん、まあ売上が一円でも増えてれば拡大には違いないかもね」
無礼な物言いを重ねてくるのを、よく聞こえなかった、という態度で聞き流す。
実際のところ、社の規模は俺が入社する前と比較すると、文字通り桁違いに拡大していたが、まさかここで数字を出しながら業績解説を展開するわけにもいかない。
美咲「でもさあ、会社が多少大きくなっても肝心の立場がね。中途で入ったあなたなんて、まだ平社員でしょう」
将太「それなんだけど、俺さ、社長に就任したんだよ」
美咲「はあ?」
一瞬美咲が真顔になり、数秒して大声で笑い始めた。
美咲「あははは。ちょっとベタすぎるけど、結構意表つかれたかも。そんな自分の立ち位置を盛る感じの冗談言うタイプじゃなかったけど、変わったわね」
将太「いや、だからこれは真面目な話だよ。俺は本当に社長をやってるんだ」
美咲「さすがに面白くないわよ?小さな会社だからって、中途で入った人間がたった数年で社長になるわけないじゃん。じゃあ何?その会社が成長してるのは俺の力だって言いたいの?」
全く信じてくれる気配がない。
しかし、常識で考えれば美咲の言い分はもっともなことなのだ。
身近で俺のことを見ていなかった美咲に、わずか数年で社長になれたという俺の話が、下手な冗談としか感じ取れなかったとしても仕方がない。
美咲「将太がそんな子供じみた地位アピールごっこしたいなら、私も少し付き合ってあげる。私ね、もうとっくに結婚してるんだけど、私の旦那の地位ってどのくらいだと思う?」
自信満々の笑みを浮かべてそう聞かれても、何年も音沙汰のなかった美咲の夫の肩書なんてわかるはずがない。
将太「美咲の同年代なら、もしかしていいとこの課長さんとか?」
俺が常識的な線を予想して言うと、美咲は派手に吹き出した。
美咲「そんなもんじゃないわ。今、業界地図を塗り替えてる上場企業の部長よ、部長!将太の想像力じゃ、イメージできないのも無理はないわよね」
将太「俺と変わらない年で部長なら結構なものだな。ちなみにどこの会社だい?」
この時点で俺はもう美咲との話を続けたいとは思わなくなっていた。
だけど、美咲がこれほど悦に入って自慢してくる旦那の勤務先がどこなのか、ちょっとだけ興味がわいたため、それを質問することで、ついでに美咲の自尊心を満足させてやることにした。
かつて、一時は俺が好意を寄せていた元カノへの、最後の儀礼を果たしているような気分だった。
案の定美咲は満面の笑みを浮かべて、ゆっくりと区切るように夫の勤務先の社名を口にしていた。
それを聞いて唖然とした俺の顔がよほど間抜けに見えたのか、美咲は辺りをはばからぬ笑い声を上げていた。
俺が美咲から見て間抜けに見える表情をした理由は、その会社が世界を股にかけるほどの超大企業だったとかいう理由ではない。
それはまさに、今現在、俺が社長を務める会社の名前だったのだ。
だとすると、美咲の言う部長というのは、俺が知る部下のうちの誰かということになる。
美咲の現在の姓を聞き出せば特定もできそうに思えたが、突然そんな質問をしては変に思われてしまう。
美咲「そういう訳だから、もし将太が無職になるようなことがあったら、いつでも相談してくれていいわよ。会社の雑用とか警備係で良ければ、夫に口を利いてもらえば押し込んであげられると思うから」
将太「お気遣いはありがたいけど、今のところはまだ世話にならなくて大丈夫だよ」
この状況で、その会社の社長が俺だと言っても、美咲は信じないどころか、自分の夫の上司面するなんて、冗談でも許せないとばかりに激怒するかもしれない。
そんな騒ぎになれば、周囲で談笑している同窓生を驚かせて場の空気を壊してしまう。
そんな迷惑をかけてまで、意地になって俺の身分を明かすメリットはないと感じ、曖昧な笑いで誤魔化すことにした。
俺が羨望のあまり無言になったとでも思ったのか、自尊心を満たした美咲はどんどん上機嫌になっていく。
美咲「ところで将太は今は結婚は?あ、ゴメンゴメン、私と離れた後、稼ぎが悪くなった将太と付き合ってくれるようなモノ好きな子がいるわけないものね。答えにくい事聞いちゃってごめんなさいね」
もはや、俺が結婚してると言っても、まともに受け取ってもらえないことが確実だったので、この挑発に対しても軽く苦笑して返すのみにとどめた。
その後、俺はようやく美咲の自慢話を聞かされるだけの役目から逃げ出し、気楽に話せる友達の輪に合流し、談笑して楽しい時間を過ごすことができた。
やがて閉会の時間が訪れ、参加者はそれぞれ気の合うもの同士で連れだって二次会に繰り出していった。
俺も、友達から誘われていたが、明日も朝一から重要な会議が入っており、夜はしっかり休息しておきたかったため、少し残念に思いつつも、参加を辞退して出口に向かった。
外に出てマンションに向かって歩き出したところで、背中から声がかかった。
美咲「将太!まさかこのまま帰る気じゃないでしょうね?」
振り返ると美咲が早足で近づいてくるところだった。
てっきり女友達と二次会に向かったものと思っていた美咲が一人でいるのを見て、嫌な予感がした。
美咲「なんか、みんな揃って明日が忙しいとか言って帰っちゃったのよ。まあ貧乏暇なしで仕事に追われてんでしょうけど、今日くらい遅くまで遊んだっていいのにね」
将太「みんなそれぞれに責任を負う立場になってるだろうし、仕方ないよ」
そう言いながら、ひょっとすると美咲に誘われたメンバーは、この後まで美咲の自慢を聞かされることに辟易して一旦帰ったことにして、美咲から逃げ出したのではないかという気がした。
後で彼らは別な場所に再集合し、美咲抜きの二次会を密かにやるつもりなのでは、という気がしたが、もちろん美咲にこの思い付きを伝えたりはしなかった。
美咲「あんた、今帰るところだったでしょ。どうせ明日の仕事に備えて帰ろうとか思ってたんでしょうけど、平社員の仕事なんて半分寝てても務まるんだから、もう少し私に付き合いなさいよ」
ずっと言ってることが滅茶苦茶だ。
だけど、美咲は昔から一度へそを曲げるとものすごく根に持って長期間ひきずる性格だった。
もしここで振り切ろうとしたら、しつこくどこまでもつきまとって来かねない。
ここは、少しの時間だけ大人しくつきあってやるのが、結果的に一番早く解放される道だと思い、やむなくあと少しだけ我慢することにした。
将太「少しの時間だけでいいなら、付き合うよ」
美咲「そうこなくちゃね!時間を取らせるだけの価値のある場所に連れてってあげるわ」
将太「いい場所って・・・紹介がないと入れないような良い店を知ってるのかい?」
美咲「そんなんじゃないわよ。私の家を見せてあげるって言ってるの。タワマンよ、タワマンの30階からの眺めなんて見たことないでしょ!うちにくればそれを只で見せてあげるって言ってるの!」
タワマンの30階ねぇ・・・と漏らしそうになるのを寸前でこらえた。
実は俺も現在タワマンに住んでおり、最上階になる45階を所有している。
その意味では45階からの眺めは馴染みがあっても、30階からの眺めとやらは、確かに見たことが無いとはいえる。
おそらく美咲はこんな感じで知人をそのタワマンに連れ込んでは、自慢することを繰り返しているのだろう。
今日は同窓会だし、大勢を自宅に引き連れて見せびらかすつもりでいたのに、皆に逃げられてしまったので、こうなったら俺だけはどうあってもタワマン自慢に付き合わせる気になっているのだろう。
話に付き合うだけでなく、タワマンまで同行させられるのは勘弁してほしいと思い悩んでいると、よく見知った顔が美咲の背後から近づいてくるのが見えた。
絵美「あなた。同窓会は終わったの?」
妻の絵美だった。
将太「絵美。どうしたんだ。まさか迎えに来たんじゃないだろうな?」
絵美「まさかあ。今日はあなたが同窓会だし、帰りはきっと遅いんじゃないかと思って、私は私でお友達と食事して帰ってきたとこ。今ここで会ったのは偶然よ」
想定外な場所で出会った妻と俺の間で生じた会話を、美咲が不思議なものを見る目で眺めている。
絵美「それでこちらの方は、同窓の方?」
将太「ああ。なんでもこの後、自宅に招待したいけどどうかって言われてたところなんだ」
絵美「今からご自宅に招待されたの?」
将太「おいおい、誤解しないでくれよ。この方は美咲さんといって、俺の同窓生だが、もう結婚してるし、今はご自宅には旦那さんがおられるんだ」
そこでようやく美咲が口をはさんできた。
美咲「ねえ将太。こちらの方は、もしかして、その・・・」
将太「ああ、悪い。紹介が遅れたけど、これは俺の妻の絵美だ」
美咲「えっ!この人が、しょ、将太の奥さん!?あなた、結婚してたの!」
将太「ああ。さっきまではそういう話をする流れじゃなかったから、つい黙ってたけど・・・」
美咲「へ、へえ・・・奥手だと思ってたけど、将太もなかなかやるじゃないの。こんな、綺麗な奥さんがいたなんて」
平静を装ってはいるが、美咲は明らかに動揺していた。
絵美は薄化粧とさりげないファッションに身を包んでいる。
しかし、かつて社のCMに採用されたほどの美貌とスタイルは今も健在で、同性の目から見ても圧倒される感覚を味わっているのだろう。
美咲も、十分に可愛い方に入る顔立ちなのだが、年齢的に絵美より4歳年上で、派手目の化粧なこともあり、自然体の絵美の横では明らかに風格負けしていた。
美咲は、突然劣等感に直面させられて苛立っていた。
美咲「ね、ねえ、奥さんは今、お仕事してらっしゃらないの?」
絵美「ええ。今は将太さんの稼ぎに甘えさせてもらっています」
自然にそう絵美が返したことで、美咲の目の色が変わった。
旦那の稼ぎの話題にもちこめれば自分は絵美に圧勝できる。
たった今味わわされた劣等感を倍にして突っ返すことができる、そう美咲は確信したらしい。
美咲「ああらそうなの。だけど、失礼ですけど将太さんの稼ぎだけでは色々と入用な時にご苦労が多いのではなくて?」
だが、絵美は至って涼しい顔のままだ。
絵美「そうですね。私もまだ仕事をしたい気持ちはあるんですが、それだと将太さんが全力で仕事をする環境を維持する妻の役割が果たせなくなりそうで・・・」
美咲「ふ、ふん。そこまでサポートするだけの稼ぎのある夫なら、そこまでする価値もあるってものでしょうけど・・・ねぇ?」
絵美「ええ。将太さんはそれほどの価値のある人ですから、私、そのお手伝いができてとても嬉しいんです」
美咲の顔から表情が消えた。
俺には、絵美が本心からの言葉を言ってくれていることがわかるが、こういう考え方をしたことがない美咲は、絵美の言葉を自分への挑発と受け止めたらしい。
美咲「そうだわ!ねえ。絵美さん。将太・・・いえ、旦那さんと一緒に、今から私の家にいらっしゃらない?うんとおもてなしいたしますわ」
絵美「でもこんな時間からご迷惑では・・・」
美咲「いいえ、だって、たった今もあなたの旦那様を招待してたところなんですもの。ウチって、こう言ってはなんですけど、タワマンの30階にありまして、今の時間からだと素敵な夜景が見れますの。ぜひ、絵美さんに堪能いただきたいわ」
そう言われ、キョトンとした顔で俺の顔を見てくる絵美。
タワマンなら私も住んでます、と答えていいのかと尋ねてくるような視線を俺に送っている。
俺は軽く目配せし、無言で小さく首を振った。
それで俺の意図を察したらしく絵美が言った。
絵美「それじゃ、せっかくのお誘いですから、有難くお受けいたします」
美咲「そうこなくちゃ!それじゃさっそく行きましょう。歩いて10分ほどですから」
それから10分後、鼻息荒く先頭を歩く美咲に連れられ、俺たちは周囲で最も目立つタワーマンションに到着した。
美咲「ここよ。さあどうぞ、遠慮なさらずに」
そう言いながら入り口の認証装置に美咲が手を当てると、すぐにポン、という電子音がして自動ドアが開いた。
美咲「最新の生体認証ですから、鍵なんて要らないのよ」
誇らしげに言いながら、美咲がドアをくぐる。
続いてドアをくぐりながら、絵美が「私たちも似たような住環境にいること、まだ隠したままでいいの?」と問いかけるような目をしてきた。
俺が無言でうなずくと、絵美は俺に何か考えがあるのだと納得し、それ以上は何も言わず黙って美咲の後に従った。
エレベーターに乗り、美咲が住むという30階で降りて右に向かう。
ドアノブを美咲がつかむと自動開錠される音が聞こえ、中に招き入れられた。
美咲「さあどうぞ。お上がりになって」
絵美と二人、言われるままに靴を脱いで上がらせてもらう。
すぐに奥から美咲の夫のものと思われる男の声がした。
健一「美咲か?なんだおい、また誰か連れて来たのか?」
美咲「ええ。久しぶりに会ったお友達と、その奥様をお連れしたわ。うちからの夜景をぜひ見ていただきたくて」
美咲がそう答えると、あからさまに美咲の夫が大きく溜息をつくのが聞こえて来た。
俺が推測した通り、美咲は頻繁に誰かを連れてきては、このタワマンと眺望を自慢しているらしい。
美咲の夫はそのたびに自分までもが接客を余儀なくされることにうんざりしているのだろう。
もちろん美咲はそんなことを一切気にしていない様子で、悠然と歩を進めていく。
絵美「あの、お休みのところ押しかけて申し訳ありません」
将太「景色を見せていただいたら、すぐにもおいとましますので」
美咲「私がお誘いしたんですから、遠慮なさらずに。景色だけだなんて言わず、お部屋の設備なんかもご覧になられるといいわ。滅多に見れないでしょうから」
きっちりと自分の豊かな生活ぶりを見せつけるまでは帰らせない、と宣言されたかのようだった。
絵美がほんの少し肩を竦めるのが見えた。
多少の変わり者相手でも淡々と対応できる性格の絵美も、美咲の言動の露骨さにいくらか呆れ気味になっている。
玄関から短い廊下を進み、突き当りのドアの向こうがリビングだった。
遮るもののないスペースの中に、ソファやテーブルが置かれ、突き当りは一面ガラス張りとなっていて、夜景が一望できた。
ソファに座ってタブレットを触っていた美咲の夫の健一が下を向いたまま億劫そうに立ち上がり、どうも、とかなりおざなりな挨拶をしてきた。
ようやくその顔が少し上がり、健一が俺たちに視線を向けて来た。
健一「えっ」
俺の顔を見た瞬間、健一が驚きの声を漏らす。
健一「しゃ、社長!どうしてここに!?」
将太「何だ、誰かと思ったら富永君じゃないか。君が美咲さんの夫だったのかい」
健一「は、はい、では、美咲の学生時代の同窓生というのは・・・」
将太「俺のことだよ。今日は美咲さんから是非にと誘ってくれたものだから、お言葉に甘えて、妻まで一緒にお邪魔させてもらうことにしたんだ」
健一「そ、そうでしたか。これはとんだことを・・・」
健一の態度と、俺との会話を不思議そうに聞いていた美咲が言葉を挟んできた。
美咲「ねえ、どうしてあなたがそんな遠慮してるの?もしかして将太と知り合いなの?」
健一「おい!失礼だぞ!社長のことを呼び捨てにするんじゃない!」
美咲「えっ!?社長、社長って、あなたの会社の社長・・・将太がそうだっていうの!?」
健一「だから社長を呼び捨てにするなと言ってるんだ!そうだよ、こちらが上杉社長だよ!」
美咲「ええっ!?嘘でしょう!」
健一「嘘なものか!お前、社長のご夫妻に非礼なことを言ったんじゃあるまいな!」
美咲は呆然としている。
絵美「ねえ将太さん。こちらの旦那様は、あなたの会社の方なの?」
将太「ああ。彼は富永といってうちで部長をやってもらってるよ。今日も会社で顔を合わせたばかりだ」
健一「社長、もしかして美咲の奴、とんだ非礼を働いたのではないですか?まさか奥様のほうにもご迷惑をおかけしてしまったのでは?」
将太「いや、だからいいんだよ。美咲さんと俺は同窓生なんだから、お互い敬語を使うような間柄じゃない。俺たちが対等に話すのは当然なんだから、非礼も何も無いよ」
健一「いえ、たとえ元は同窓生でも今は部下である私の妻なのですから、礼儀はきちんとさせなくては・・・」
美咲「ねえ、それじゃあ最初に将太が社長になったって言ってたあの話・・・」
将太「だから、全部本当のことだよ。だけどまあ、いきなり聞かされた美咲が冗談だろうと思ったのも無理はないよな」
健一「おいお前、どういうことだ?まさか、社長のお話を冗談と決めつけて信じなかったのか?!とんだことをしてくれたな!さあ今すぐ社長に謝るんだ!」
蒼白になった健一が美咲の肩を荒々しくつかんで押し下げ、頭を下げさせようとする。
健一「社長!誠に申し訳ございません!知らなかったこととはいえ・・・」
将太「だからいいんだよ。気の置けない同窓生から無理に丁寧な態度を取られるほうが俺だって嫌だし、落ち着かないよ」
あくまで穏やかに返す俺の顔を、なおも信じられないという顔で見つめていた美咲が、健一から更に強く肩を押され、渋々といった感じで頭を下げた。
きっと今、悪い夢でも見ている気分だろう。
健一「あの、奥様もどうかこちらへ。散らかっていますが、すぐお茶をお出ししますので、おかけになってお待ちください」
健一がひたすら恐縮しながらソファを開け、俺たちに座るよう促しながら、美咲にお茶を入れろと命じた。
それを受けて美咲がおろおろとキッチンに向かおうとしかけたときだった。
絵美「あの、あなた、もしかしてあの時の?」
そう言って健一の顔を真正面から絵美が見据える。
絵美はいわゆる目力があるタイプの顔をしているので、こうして真剣な顔をされると結構な迫力がある。
その視線を受けて、一瞬呆けたような表情で絵美の顔をじっと見つめた健一が「あっ」と高い声を上げた。
どうやら、この場で旧知の関係だったのは、俺と美咲だけではなかったようだ。
だが、俺と美咲が同窓生という平凡な関係だったのに対し、絵美と健一の間には、再会を喜びあえるような、そういう要素は皆無らしい。
絵美「やっぱりそうでしょう。結婚式で、あなた新郎側の知人として参列してたでしょう!」
将太「なるほど。絵美は富永と友達の結婚式で顔を合わせてたのか。だけど絵美、式の参列者なんて結構な数いそうなものだけど、よく富永の顔を覚えてたなあ」
絵美「忘れるもんですか!この人、私にしつこく話しかけてきて、連絡先を教えてくれってもうずーっと付きまとって離れなかったんだもの!」
将太「何だと!」
美咲「あなた、そんな恥知らずな事!それも社長の奥様に向かって!」
健一「い、いえ、社長!誤解です。私はあの時は、その・・・奥様が近くにおられたもので、あくまで世間話を」
絵美「嘘よ!席は離れてたのに押しかけてきたし、式が終わった後も会場の外までついてきて、私を食事に誘おうとしてきたじゃない!」
将太「おい、どういうことだ。説明しろ、富永」
さっきまでは、同窓で元カノの美咲のちょっと困った性格にやむなく付き合っているという意識だった。
しかし、今の絵美の話が本当なら、健一は絵美に向かって明らかに一線を越えた目的を持って強引に近づいていたことになる。
美咲「あなた、よくもそんな破廉恥なこと!」
ついさっきまで健一に責め立てられていた美咲のほうが激怒して、健一に詰め寄った。
健一「だから違うんだ!誤解だ!ほら、社長の奥様は、こう、おきれいな方だから、その、少しだけお話出来ればと思って・・・だけどそれ以上のことを考えたりするものか!」
将太「絵美。今の富永の話、信じられるか?」
絵美「信じられない!だって、私をホテルの中にあるレストランに連れ込もうと必死だったもの!」
将太「ホテルの中にあるレストランに誘おうと?・・・なるほど、そのあとで部屋に連れ込もうって算段だったってことなんだな!?」
絵美「私、ちゃんと結婚指輪もしてたのに、今日だけはお互い指輪を外して自由を楽しもうとかまで言ってきて・・・!私、あんまり頭にきたから会場に戻って警備員の方に助けを求めた途端、逃げていなくなったんだもの!」
将太「お互い結婚してることを承知の上でか!よくもそんな浅ましい真似を!」
健一が絵美にいかがわしい行為を働こうとしていたと知り、俺のほうが余裕を失っていた。
将太「富永!どういうことだ!お前の話と絵美の話は全く食い違う!本当はどうだったんだ!」
絵美「私、その時の警備してた方のお名前は覚えてますから、確認してもらえます。それに、式場で私の近くにいた人達にも証言してもらえるはずよ」
将太「よし。それなら警備会社には俺が確認を取らせる。絵美は証言してくれそうな友人に連絡を取ってくれ」
健一「待って下さい!わ、わかりました!そうです!奥様の仰る通りです!奥様があまりにお綺麗だったもので、つい魔が差したんです!」
逃れられぬと悟った健一が顔を覆ってしゃがみこんだ。
将太「この野郎。よくも絵美にふざけた真似を」
怒りに我を忘れ、健一に近づこうとした俺を絵美がしがみついて止める。
もし制止されなかったら、健一に平手打ちくらいはしていたかもしれない。
健一はひたすら恐縮して、俺の顔を見ることができずにいる。
美咲「この恥知らず!私というものがありながら!!一歩間違えば警察沙汰だったんじゃないの!」
美咲は健一の髪の毛をつかんで引っ張りながら叫んでいる。
自分というものがありながら、健一が絵美の魅力に負けていたことが許せないという本音がストレートに言葉に出ていた。
どこまでも自己中心的な健一と美咲の姿を見ているうちに、さっきまでのたぎるような怒りが少しずつ冷めていくのを感じた。
怒りそのものが消えることはなかったが、この場で健一に激しくぶつけて発散しても何の解決にもならないと思い直した。
冷静になると同時に、健一の部下である課長以下の管理職から、健一の行状に問題ありと訴えられていたことを思い出した。
問題が起こると、責任は部下に押し付けようとするが、ロクに指揮をとらない。
逆に業績が上がった時は、全て自分が指揮したのだという態度で功績を独り占めしようとする。
そのため、部署の士気が上がらず、不満のあまり退社を考える若手が出ているという話だった。
こういう話は、一方からだけの意見を取り上げると遺恨を残しかねないので、俺はいずれ健一からも事情を聞いて、慎重に調査して対処するつもりでいた。
しかし、もうその必要はほとんどないようだと感じはじめていた。
絵美にここまで卑劣なことをするほどの男だ。
仕事においても倫理観を発揮することは期待できない。
十中八九、部下側の証言は事実なのだろう。
俺は明日にでも健一を呼び出し、部署内に不審を招いていることについて、徹底的に問いただす決意を固めた。
すっかり冷え切った空気の中、ひたすらすいませんと繰り返す健一と、それをなじる美咲。
もうこの場にいたくないと感じ、「帰らせてもらう」と言い放って夫妻に背を向けた。
俺たちの去り際、何を思ったのか健一と美咲は玄関まで追いすがって来た。
社長ご夫妻に来ていただけて光栄でしたとか、本当に素敵なご夫妻で羨ましい、今後もぜひお付き合いを、などと、歯の浮くようなお世辞を二人で述べ立てるのに返事もせずドアを閉じ、帰宅した。
この期に及んで、こんなことで俺たちの機嫌が取り繕えると思っていることが信じられなかった。
そして翌日、俺は朝一の会議が終わるとすぐに健一を呼び出した。
健一はてっきり絵美にしたことを責められるものと思って恐縮しきっていたが、仕事の話だと言うと極端に安堵した顔を見せた。
しかしその直後、俺が部署中から上がっている健一の行状への苦情を読み上げはじめると、
再び蒼白になり、あれこれと言い訳を始めた。
そのすべてを健一が言い終えるより前に、「この件は俺自らが部署全員に聞き取り調査を行う」と告げた。
そのうえで健一が少しでも嘘をついていたことが判明したときは容赦しない、と告げ、退室を命じると、健一はほとんど魂が抜けたような足取りでふらふらと去っていった。
その後、結局俺はその聞き取り調査を実行する必要は生じなかった。
わずか数日後、健一自らが辞表を提出したのだ。
調査後、自分の行状が明らかになってからだと、非常に厳しい処分が下されることは明らかだったので、少しでも自分の状態が良いうちに退職金だけでも確保しようとしたのかもしれない。
健一が居なくなったことで、部署内で健一の横暴に対抗して部下の信望の高かった課長が昇進して新たに部長となり、部内の士気は一気に向上した。
人事を断行した俺の評判までついでに上がっているらしいと聞いたときは、苦笑する思いだった。
聞き及んだところでは、会社を辞めた健一は、急成長している会社から逃亡同然に退社せざるを得なくなった事情が噂として業界に拡散し、どこも再就職に応じてもらえず、困り果てていたらしい。
そして、好待遇だった部長職から無職となった後も生活レベルを落とさずにいたものだから、せっかくの退職金もたちまち使い果たしてしまったらしい。
そして生活費の確保にも困窮すると、あのタワマンも早々に売り払わざるを得なくなり、その後はひどく質素な郊外の安アパートに引っ越したらしい。
美咲は、上場企業の部長である夫と、豪華なタワマンという、優越感の源泉を一気に失い、すっかり老け込んで、ほとんど人前に出なくなったと聞く。
その後、こうなった原因はお前にあると、互いを罵り合う日々が続き、ついに離婚が成立して美咲は安アパートから出て行ったそうだが、その後の消息はわからないままだ。
その後、俺の会社は更に順調に発展し、最近では海外に販路を拡大すべく、複数の海外支社を出す計画が進んでいる。
絵美との関係も良好で、まもなく生まれる第一子誕生を前に、俺はますます仕事への意欲を燃やし、今なお新製品開発現場に顔を出し、次々に浮かんだアイデアを現実にし続けている。
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