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第一章【少年よ冒険者になれ】

50・共に

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 テレスとボードはネイサンとレオの手を借りながら街へと戻る。依頼してきた二人の家族たちは、息子たちが無傷で捜索してくれた二人がボロボロになっていることに驚いたが、ともかく少年らの無事を喜んだ。何度も何度も頭を下げてお礼を言われたことで、かえって恐縮してしまった。

「師匠! 本当にありがとうございました!」
「ボード兄貴も、これまでの行いを二人で反省して、もう一度しっかりとやり直します」

 すっかり素直になった少年らから敬称をつけて呼ばれるのはどうにもくすぐったかったが、二人からどうしてもそう呼ばせてくれと頼み込まれたため、断り切れなかった。
 その後、アリスとリプリィに見つからないように、宿で素早く着替える。まるで悪さをしてきた男児のような気分であったが、ともかく大きなダメージを負った痕跡こんせきを隠すこと成功した。

「テレス。僕は絶対に今日のことは忘れないよ」
「ああ、僕もだよ、ボード。あ、これは僕らだけの秘密だからね」
「もちろん」

 そうしてようやくベッドに潜り込むと、疲れが一気に噴き出たのだろう、二人は泥のように眠った。その眠りにつく直前、テレスは今日のことを思い返した。

「断る!!」

 そういってボードが倒れたあと、ブルクハルトは頭を掻きながらため息をついた。

「あーらら。フられちゃったよ」
「ブルクハルト様、やりすぎなんですよ」
「そうかぁ?」
「あと、言い過ぎ」
「……」

 二人の関係は謎だが、こういった話し合いではタビタの方が上を行くようで、ブルクハルトは所在なさげに、また頭を掻いた。

「ま、ともかくそこのガキ二人。お前らは冒険者を引退して、商売でも農業でもやるんだな。この程度の冒険もできねえようじゃ、くその役にもたたねえからよ。じゃあな」

 ブルクハルトはまだ気絶しているボードを一瞥いちべつして、背を向けて街へと戻っていった。
 タビタはテレスの回復後、ボードにも回復魔法をかけてくれたが、ボードはすでに自動でかなりの部分が回復しており、短時間で目を覚ました。

「ごめんね。一応怪我や火傷は治ったけれど、防具はちょっと無理だから。賠償請求はブルクハルト様にお願いね。あと、まだ体力は戻り切ってないから、帰るまでは気を付けて。それじゃ」

 彼女は特に悪いことはしていないわけだが、申し訳なさそうに帰っていった。

「あー! くそっ!」

 タビタの姿が見えなくなると、仰向けになったボードが叫ぶ。

「ブルクハルト……。僕は絶対にやつに勝つ。テレス、あんなやつの言うことは聞いちゃ駄目だからね」
「いや、ボード。彼の言う通りだ。この世界は力が評価のすべて。僕はそのどれもないのだから、そう言われて当然だ」
「テレス!」
「だから、さ。もっと強くなろう、ボード」
「……うん!! いつかあいつは僕がボッコボッコにしてやるよ!」
「はは、その意気だ」

 二人の敗者の会話に、ネイサンとレオは入っていくことができなかった。あのブルクハルトの猛攻へ立ち向かい、業火に焼かれ、なおも立ち上がろうとする姿に感動してしまったのだ。ネイサンは特にテレスに対して尊敬の念すら抱いていた。ついさっきまでは自分を貶めた張本人として恨んでいたのが嘘のようだ。そして、レオは仲間を守る姿勢と、ブルクハルトを一度は押し返した力を持つボードに憧れたようだ。
 出会った時の印象が悪いと、評価が反転したときのふり幅が大きくなるのはよくあることだが、今回の場合はそれだけではないだろう。ネイサンとレオは本当の意味でこれまでの自身らの行いを反省し、尊敬する二人を目標に頑張ることを心の中で誓った。
 それから、二人から師匠とボード兄貴と呼ぶことへの許可を懇願され、押し切られる。ボードは頼りがいのある兄貴。テレスは心の師匠ということらしい。最終的にはなんのわだかまりもなく、笑いあいながら正式な和解をした。因みに二人の年齢はテレスと同じで、ボードの一つ下だった。
 その後、体力がまだ回復していないテレスとボードは、二人の肩を借りながらの帰還となった。

 翌日。思いのほか疲れが取れていることにテレスは気が付く。今でもブルクハルトのことを思い出すと、苛立ちと同時に背筋に冷たいものが走るが、これも経験だと割り切ることにした。今後しばらく、ちょっとした強敵と対峙したとしても、ブルクハルトとの時間と比べれば大したことはない。そう思える気すらしていた。本来、強大な相手から命からがら生き延びた経験がある人間は、恐怖で縛られてしまうことが多い。そうして冒険者を引退した者も数えきれないほどいるだろう。体の傷は魔法で治せても、心の傷はどうにもならないのだ。
 まだ休み期間中ではあるが宿での朝食は四人揃っていた。そこには、いつもと変わらない空気が流れ、まるで昨日何事もなかったかのようである。ただ少し違うのは、テレスとボードの心の中。これまでよりもにこだわりを持とうという気持ちが強くなっていた。
 そして、食事を終え、アリスとリプリィを見送った少年たちは、早速トレーニングの準備をして、外へと駆け出して行った。どこまでも前向きに、共に強くなるために。
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