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第一章【少年よ冒険者になれ】
53・共鳴と月下の誓
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食事を終えた一行は、六人で王都の外へと繰り出した。六人はパーティを組める限界の人数である。そこで、魔物相手にどれだけ精度が上がっているかなどを調査しようという計画だ。
まずは弱い魔物相手に、リプリィが魔法を放ってみる。ただ放つだけではなく、テレスが色々な要求をし、それに応える形だ。そしてその結果は……初対面の頃のリプリィとは比べ物にならないほどコントロールできている。放つ魔法の形、質、量。テレスほどではないが、かなり繊細なこともできるようになった。相変わらず回復魔法などは上手くいかないが、攻撃魔法であれば相当優秀な部類である。しかも、彼女には尋常ではない魔力量が内在している。これは、もはや新発見の域であった。
「すごいじゃないか、リプリィ!」
「うぅ……。嬉しいです」
ついには泣き出すリプリィ。周りの皆は急な涙に少々うろたえるが、その理由はすぐにわかった。
「これなら、本当にフェリア様のお役に立てるかもしれないです。それに、私のように角が生えた人でも、魔法を自由に使える可能性が出てきたんですよね」
リプリィなりに思うところがあったのだろう。確かに、角が生えていることはマイナスでしかなく、角のおかげで怖がられたり、役立たずの烙印を押されたりしている人物はそれなりにいるのだ。だが、それは今日までのこと。あのリプリィがここまでできるようになった事実は、根本的な解決法や改善法が確立されたことを意味している。当事者のリプリィが感極まるのも無理はないだろう。
そして、そんなリプリィに対しテレスはある感覚を持った。彼女の魔力やそのコントロールを推し量っているうちに、少年はそのリズムや波長をとらえ始めていたのだ。これまでのリプリィであれば、出鱈目な魔力量を無秩序に放出していたので、そんなことを考える余地すらなかった。だが、確かに今はテレスがリプリィの魔力をとらえている。
あの世界の扉まで行き、リプリィの魔力で扉を開けるには、この魔力の共鳴が必要不可欠であった。テレスとしては、リプリィの巨大な魔力をいかに制御して正しく、効率良く使えるかが問題だったのだが、これだけ共鳴できているなら問題ないだろう。
その後、日が暮れるまで練習は続いた。リプリィはすさまじい集中力を維持し続け、完全にこの杖をモノにしてみせた。それを飽きずに見守っていたトーニャとレンダもかなり満足そうである。
「あなたはきっと、すごい魔導士になるわ」
「ありがとうございます! レンダお姉さん!」
「ぶひっ……」
なぜそんな声になるのかわからないが、しっかりレンダがオチを付けることでこの日の訓練と調査は終わりを迎えた。
宿に戻った一行は、早めに寝支度を済ませた。明日はいよいよ目的を果たす日である。もちろん、一日で何とかなるとは思っていないが、何か攻略のヒントくらいは得られると考えている。
今日一番働いたリプリィはすでに就寝し、ボードも腹が膨れたのち寝てしまった。ボードはリプリィを背にして魔物の動きを止めるなど、彼女の訓練に付き添っていた。彼も膨大な体力を持っているとはいえ、さすがに疲れたのだろう。
明日のために早く就寝したいところだが、まだ頭の中が整理できていないテレスは、宿の外のベンチで月を眺めていた。都合よく、明日は満月。魔法には一番相性のいい日である。思えばアリスと出会ってから、生まれてからの十四年間よりもずっと凝縮された数か月を過ごしてきた。鬼との戦いで死にかけたことや、格上のブルクハルトに叩きのめされるなど、恐ろしい目にもあったが、それ以上に得るものが多かった。頭の中を駆け巡る様々なことを整理しつつ、明日の大一番についての好奇心と不安がだんだんと心を占めていくがわかった。
「あれ、テレス。眠れないの?」
「ああ、なんか、前にもこんなことがあったね」
そう、それはボードの盾を作っているときだ。いや、初めてアリスに背中を押してもらったときにも似ている。
「いよいよ、明日だね」
「うん。ま、明日中になんとかなるとは思ってないけどさ」
「そうだね。明日はあたしは何にもできないからな~」
「いやいや、ここまで来れたのはアリスがいたからだよ。カゼキリさんの後ろ盾を得られたのも、強敵に勝てたのも。そもそも、僕、君に会ってなかったらまだアイテム屋だからね」
「そっか。じゃあ、明日は二人に託すね」
「うん」
月明かりがアリスの笑顔を照らす。そこには、少し寂しさが混じっているようにみえた。
「そっか」
「え?」
その理由は、テレスにはよくわかっていた
「でも、リプリィはもともと北の教会で働いてるからね」
「……なんで考えていることがわかっちゃうかな~」
そう、今回の依頼が終われば、短い時間とはいえ苦楽を共にしたリプリィとの別れが待っている。テレス自身もなぜこうにもアリスの考えがわかってしまうのか不思議であった。だが、テレスも目標が近づくにつれ、リプリィとの別れは頭をよぎっていた。そしてそのときに湧き出す感情に動揺もしていたのだ。単純な戦力ダウンだけではない。もっと純粋に、寂しいのだ。それはアリスも同じであった。魔力ではなく、心の共鳴が二人の間にはあるようだ。
「あたしさ、家に兄弟はいないしお父さんは目に呪いをかけられているしで、子供のころすごく寂しかったんだ。私は声を出せないし尚更ね。お母さんは元気だけれど、手がかかるのが二人もいるわけでしょ? すっごく疲れてるはずなのに、いつもあたしの前では笑顔でいてくれた」
今まで聞こうとしても聞けなかったアリスの話。テレスは黙って、でも真剣なまなざしでアリスの話を聞き続けた。
「だからさ、リプリィは妹みたいで嬉しい。あ、あっちのほうが年上だけどね。でも、もうすぐ離れ離れになっちゃうんだなって。うん。それでもさ、あのフェリアって人の病気を治すことが出来たら、一歩前進だと思うんだよね」
「呪いの、解除」
「そう! ……やっぱりテレスはすごいな。なんでもお見通しなんだから」
返事をするかわりに笑って見せる。アリスもそれに笑顔で返す。
「もし今回のが呪いの解除に繋がらなくても、恩恵を狙うっていう選択肢もある。だからさ、これからも、よろしくね、テレス」
「当たり前さ。僕らはパーティなんだから」
「ありがとう。まずはフェリアの病気を治して、リプリィとお別れ会しなきゃね!」
強がって見せるアリスの目から、一筋の涙が流れる。それは月明かりのせいか、テレスの例の力のせいかはわからないが、青く光って見えた。
「僕は、絶対にアリスの呪いを解いてみせる」
「え?」
「今まではっきりは言ってなかったけどさ。僕が君の呪いを断ち切ってみせるよ。これからもガンガン成長して絶対やり遂げるから」
「うん……うん……ありがとう」
月明かりの下で、彼らの目標や思いは共鳴した。まだぼんやりと流されるまま冒険者をしていたテレスにとって、明確な大目標ができた瞬間であった。
まずは弱い魔物相手に、リプリィが魔法を放ってみる。ただ放つだけではなく、テレスが色々な要求をし、それに応える形だ。そしてその結果は……初対面の頃のリプリィとは比べ物にならないほどコントロールできている。放つ魔法の形、質、量。テレスほどではないが、かなり繊細なこともできるようになった。相変わらず回復魔法などは上手くいかないが、攻撃魔法であれば相当優秀な部類である。しかも、彼女には尋常ではない魔力量が内在している。これは、もはや新発見の域であった。
「すごいじゃないか、リプリィ!」
「うぅ……。嬉しいです」
ついには泣き出すリプリィ。周りの皆は急な涙に少々うろたえるが、その理由はすぐにわかった。
「これなら、本当にフェリア様のお役に立てるかもしれないです。それに、私のように角が生えた人でも、魔法を自由に使える可能性が出てきたんですよね」
リプリィなりに思うところがあったのだろう。確かに、角が生えていることはマイナスでしかなく、角のおかげで怖がられたり、役立たずの烙印を押されたりしている人物はそれなりにいるのだ。だが、それは今日までのこと。あのリプリィがここまでできるようになった事実は、根本的な解決法や改善法が確立されたことを意味している。当事者のリプリィが感極まるのも無理はないだろう。
そして、そんなリプリィに対しテレスはある感覚を持った。彼女の魔力やそのコントロールを推し量っているうちに、少年はそのリズムや波長をとらえ始めていたのだ。これまでのリプリィであれば、出鱈目な魔力量を無秩序に放出していたので、そんなことを考える余地すらなかった。だが、確かに今はテレスがリプリィの魔力をとらえている。
あの世界の扉まで行き、リプリィの魔力で扉を開けるには、この魔力の共鳴が必要不可欠であった。テレスとしては、リプリィの巨大な魔力をいかに制御して正しく、効率良く使えるかが問題だったのだが、これだけ共鳴できているなら問題ないだろう。
その後、日が暮れるまで練習は続いた。リプリィはすさまじい集中力を維持し続け、完全にこの杖をモノにしてみせた。それを飽きずに見守っていたトーニャとレンダもかなり満足そうである。
「あなたはきっと、すごい魔導士になるわ」
「ありがとうございます! レンダお姉さん!」
「ぶひっ……」
なぜそんな声になるのかわからないが、しっかりレンダがオチを付けることでこの日の訓練と調査は終わりを迎えた。
宿に戻った一行は、早めに寝支度を済ませた。明日はいよいよ目的を果たす日である。もちろん、一日で何とかなるとは思っていないが、何か攻略のヒントくらいは得られると考えている。
今日一番働いたリプリィはすでに就寝し、ボードも腹が膨れたのち寝てしまった。ボードはリプリィを背にして魔物の動きを止めるなど、彼女の訓練に付き添っていた。彼も膨大な体力を持っているとはいえ、さすがに疲れたのだろう。
明日のために早く就寝したいところだが、まだ頭の中が整理できていないテレスは、宿の外のベンチで月を眺めていた。都合よく、明日は満月。魔法には一番相性のいい日である。思えばアリスと出会ってから、生まれてからの十四年間よりもずっと凝縮された数か月を過ごしてきた。鬼との戦いで死にかけたことや、格上のブルクハルトに叩きのめされるなど、恐ろしい目にもあったが、それ以上に得るものが多かった。頭の中を駆け巡る様々なことを整理しつつ、明日の大一番についての好奇心と不安がだんだんと心を占めていくがわかった。
「あれ、テレス。眠れないの?」
「ああ、なんか、前にもこんなことがあったね」
そう、それはボードの盾を作っているときだ。いや、初めてアリスに背中を押してもらったときにも似ている。
「いよいよ、明日だね」
「うん。ま、明日中になんとかなるとは思ってないけどさ」
「そうだね。明日はあたしは何にもできないからな~」
「いやいや、ここまで来れたのはアリスがいたからだよ。カゼキリさんの後ろ盾を得られたのも、強敵に勝てたのも。そもそも、僕、君に会ってなかったらまだアイテム屋だからね」
「そっか。じゃあ、明日は二人に託すね」
「うん」
月明かりがアリスの笑顔を照らす。そこには、少し寂しさが混じっているようにみえた。
「そっか」
「え?」
その理由は、テレスにはよくわかっていた
「でも、リプリィはもともと北の教会で働いてるからね」
「……なんで考えていることがわかっちゃうかな~」
そう、今回の依頼が終われば、短い時間とはいえ苦楽を共にしたリプリィとの別れが待っている。テレス自身もなぜこうにもアリスの考えがわかってしまうのか不思議であった。だが、テレスも目標が近づくにつれ、リプリィとの別れは頭をよぎっていた。そしてそのときに湧き出す感情に動揺もしていたのだ。単純な戦力ダウンだけではない。もっと純粋に、寂しいのだ。それはアリスも同じであった。魔力ではなく、心の共鳴が二人の間にはあるようだ。
「あたしさ、家に兄弟はいないしお父さんは目に呪いをかけられているしで、子供のころすごく寂しかったんだ。私は声を出せないし尚更ね。お母さんは元気だけれど、手がかかるのが二人もいるわけでしょ? すっごく疲れてるはずなのに、いつもあたしの前では笑顔でいてくれた」
今まで聞こうとしても聞けなかったアリスの話。テレスは黙って、でも真剣なまなざしでアリスの話を聞き続けた。
「だからさ、リプリィは妹みたいで嬉しい。あ、あっちのほうが年上だけどね。でも、もうすぐ離れ離れになっちゃうんだなって。うん。それでもさ、あのフェリアって人の病気を治すことが出来たら、一歩前進だと思うんだよね」
「呪いの、解除」
「そう! ……やっぱりテレスはすごいな。なんでもお見通しなんだから」
返事をするかわりに笑って見せる。アリスもそれに笑顔で返す。
「もし今回のが呪いの解除に繋がらなくても、恩恵を狙うっていう選択肢もある。だからさ、これからも、よろしくね、テレス」
「当たり前さ。僕らはパーティなんだから」
「ありがとう。まずはフェリアの病気を治して、リプリィとお別れ会しなきゃね!」
強がって見せるアリスの目から、一筋の涙が流れる。それは月明かりのせいか、テレスの例の力のせいかはわからないが、青く光って見えた。
「僕は、絶対にアリスの呪いを解いてみせる」
「え?」
「今まではっきりは言ってなかったけどさ。僕が君の呪いを断ち切ってみせるよ。これからもガンガン成長して絶対やり遂げるから」
「うん……うん……ありがとう」
月明かりの下で、彼らの目標や思いは共鳴した。まだぼんやりと流されるまま冒険者をしていたテレスにとって、明確な大目標ができた瞬間であった。
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