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7.一ノ谷の戦い編
第49話(1184年1月) 坂東武者の脅威
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因幡国(島根県東部)に巴御前と木曽兵100騎を連れて戻った貴一は、鴨長明、弁慶、絲原鉄心、蓮華、チュンチュンたちを集め、因幡国府庁舎で最高幹部会を開いた。
貴一が京の状況を説明する。
「鎌倉軍の数は5万。今後、義仲軍から離反・降伏したものも加わってくるとなると6万は軽く超えるだろう。そして、鎌倉軍の中核となっている坂東武者は恐ろしく強い」
会議の場がざわついた。
貴一は昨年の決算書を見る。
(出雲国・石見国・長門国・伯耆国・因幡国を合算 1181年→1183年)
石高 53万石 → 73万石
人口 36万人 → 40万人
牛馬 1000匹 → 1500匹
鉄 1200トン → 1400トン
弁慶隊 5000人 → 7000人
熊若騎馬隊 500人 → 700人
鉄投げ隊 500人 → 700人
民兵 7000人 → 7000人
大型蒸気船 24艘
大型船 26艘 小型船 100艘
長明が難しい顔をする。
「年末に山陰鉄道が完成しましたので、止めていた民兵の徴兵も再開できます。無理をすれば、年間5000程度は増やせるでしょう。しかし……」
1万5000対6万が、2万対6万に変わったところで、圧倒的に不利なのは変わらない。戦が始まれば新兵の調練もできなくなる。兵の質の低下もまぬがれないだろう。
「鬼一、まず源氏が狙うのは平家だろう。ここは平家に踏ん張ってもらうしかあるまい。人頼みで情けない話だが……」
弁慶が頭をかきながら言った。
平家は木曽義仲が源頼朝と対決する隙をついて、四国から平清盛がかつて都を作ろうとした福原(兵庫県・神戸市)まで軍を進出していた。兵力はおよそ4万。隙あれば京を狙う構えである。
「期待はできないね。俺の知っている歴史では、平家は来月、一ノ谷で大敗する。その後、平家は山陽道から退いて四国と九州で再興を図る。そして船を持っていない源氏は、陸続きの山陽道、山陰道を占領していく――」
「待て待て! それが本当なら源氏がこっちに攻めてくるまで、残り2カ月も無いではないか。兵を増やすどころの話ではない!」
弁慶が頭を抱える。
貴一はチュンチュンを見る。
『硝石の取引にはまだ時間がかかりますわ。誰かが邪魔をしているみたいですの――急ぐのなら、火縄銃の技術を取引に使ってみる? でも、この時代に銃が大陸に伝われば、中国史、いや世界史まで変わるかもしれなくてよ』
火薬の入手を見据えて、火縄銃のテスト品はいくつか作らせていた。
「……やってくれ。ただし――」
『わかってる。心配いりませんわ』
チュンチュンが四つ足で立ち上がると、お尻をフリフリしながら出て行った。かわいい。
「弁慶、俺も坂東武者の強さを見て考えが変わった。今は平家に力を貸そう。ともに戦えば、源氏の攻勢をしのげるかもしれない。その間に軍備の増強をする」
貴一の意見に長明が異を唱えた。
「しかし、我らは3年前に平時忠様の話を蹴っております。相手が信用するでしょうか。それより、年貢を納めて、形だけでも朝廷に臣従すれば、源氏は我が国を攻める理由を失います」
「確かに時間はかせげる。だが、平家が滅び、源氏一強となったとき、俺たちはさらに厳しい戦いをしなきゃいけなくなる。それに同盟を結ばなくても、源氏と戦うことはできる。出雲大社軍が源氏と戦っていることがわかれば、時忠様は必ず接触してくる。俺たちを利用するためにね」
貴一は弁慶と蓮華を見て言った。
「出雲大社軍は一ノ谷の戦いに参戦する! 主だったものを集めてくれ」
軍の小中隊長が集まると、貴一は地図を広げて説明をはじめた。
「主力の源範頼が正面から5万の大軍で攻め、別動隊の源義経軍1万が山の中を進軍。後方に回り込んで挟み撃ちにする。平家軍4万はこの戦いで大敗し、優秀な侍大将も兵も激減した。これが俺が知っている一ノ谷の戦いだ――出雲大社軍は平家の損害を減らすための戦いをする」
「平家が勝つところまでは持っていけないのか?」
弁慶が残念そうに言う。
「難しいね。まだ平家の将には貴族の甘さがある。正々堂々と戦う美学を捨てられない。奇襲や夜襲でいくら負けても、平家が奇襲をしていないのがその証拠だよ。一方、源氏には何をしてでも勝つという意志がある。この意識の差は致命的だよ」
「熊若くんがいませんけど、騎馬隊はどうします?」
神楽隊隊長の蓮華が言った。
「熊若は優秀だ。きっと戦いまでに義仲を連れて戻ってくるよ」
――だが数日後、出雲大社に戻ってきたのは木曽義仲だけだった。
貴一が京の状況を説明する。
「鎌倉軍の数は5万。今後、義仲軍から離反・降伏したものも加わってくるとなると6万は軽く超えるだろう。そして、鎌倉軍の中核となっている坂東武者は恐ろしく強い」
会議の場がざわついた。
貴一は昨年の決算書を見る。
(出雲国・石見国・長門国・伯耆国・因幡国を合算 1181年→1183年)
石高 53万石 → 73万石
人口 36万人 → 40万人
牛馬 1000匹 → 1500匹
鉄 1200トン → 1400トン
弁慶隊 5000人 → 7000人
熊若騎馬隊 500人 → 700人
鉄投げ隊 500人 → 700人
民兵 7000人 → 7000人
大型蒸気船 24艘
大型船 26艘 小型船 100艘
長明が難しい顔をする。
「年末に山陰鉄道が完成しましたので、止めていた民兵の徴兵も再開できます。無理をすれば、年間5000程度は増やせるでしょう。しかし……」
1万5000対6万が、2万対6万に変わったところで、圧倒的に不利なのは変わらない。戦が始まれば新兵の調練もできなくなる。兵の質の低下もまぬがれないだろう。
「鬼一、まず源氏が狙うのは平家だろう。ここは平家に踏ん張ってもらうしかあるまい。人頼みで情けない話だが……」
弁慶が頭をかきながら言った。
平家は木曽義仲が源頼朝と対決する隙をついて、四国から平清盛がかつて都を作ろうとした福原(兵庫県・神戸市)まで軍を進出していた。兵力はおよそ4万。隙あれば京を狙う構えである。
「期待はできないね。俺の知っている歴史では、平家は来月、一ノ谷で大敗する。その後、平家は山陽道から退いて四国と九州で再興を図る。そして船を持っていない源氏は、陸続きの山陽道、山陰道を占領していく――」
「待て待て! それが本当なら源氏がこっちに攻めてくるまで、残り2カ月も無いではないか。兵を増やすどころの話ではない!」
弁慶が頭を抱える。
貴一はチュンチュンを見る。
『硝石の取引にはまだ時間がかかりますわ。誰かが邪魔をしているみたいですの――急ぐのなら、火縄銃の技術を取引に使ってみる? でも、この時代に銃が大陸に伝われば、中国史、いや世界史まで変わるかもしれなくてよ』
火薬の入手を見据えて、火縄銃のテスト品はいくつか作らせていた。
「……やってくれ。ただし――」
『わかってる。心配いりませんわ』
チュンチュンが四つ足で立ち上がると、お尻をフリフリしながら出て行った。かわいい。
「弁慶、俺も坂東武者の強さを見て考えが変わった。今は平家に力を貸そう。ともに戦えば、源氏の攻勢をしのげるかもしれない。その間に軍備の増強をする」
貴一の意見に長明が異を唱えた。
「しかし、我らは3年前に平時忠様の話を蹴っております。相手が信用するでしょうか。それより、年貢を納めて、形だけでも朝廷に臣従すれば、源氏は我が国を攻める理由を失います」
「確かに時間はかせげる。だが、平家が滅び、源氏一強となったとき、俺たちはさらに厳しい戦いをしなきゃいけなくなる。それに同盟を結ばなくても、源氏と戦うことはできる。出雲大社軍が源氏と戦っていることがわかれば、時忠様は必ず接触してくる。俺たちを利用するためにね」
貴一は弁慶と蓮華を見て言った。
「出雲大社軍は一ノ谷の戦いに参戦する! 主だったものを集めてくれ」
軍の小中隊長が集まると、貴一は地図を広げて説明をはじめた。
「主力の源範頼が正面から5万の大軍で攻め、別動隊の源義経軍1万が山の中を進軍。後方に回り込んで挟み撃ちにする。平家軍4万はこの戦いで大敗し、優秀な侍大将も兵も激減した。これが俺が知っている一ノ谷の戦いだ――出雲大社軍は平家の損害を減らすための戦いをする」
「平家が勝つところまでは持っていけないのか?」
弁慶が残念そうに言う。
「難しいね。まだ平家の将には貴族の甘さがある。正々堂々と戦う美学を捨てられない。奇襲や夜襲でいくら負けても、平家が奇襲をしていないのがその証拠だよ。一方、源氏には何をしてでも勝つという意志がある。この意識の差は致命的だよ」
「熊若くんがいませんけど、騎馬隊はどうします?」
神楽隊隊長の蓮華が言った。
「熊若は優秀だ。きっと戦いまでに義仲を連れて戻ってくるよ」
――だが数日後、出雲大社に戻ってきたのは木曽義仲だけだった。
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