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8.源氏の将星編
第60話(1184年12月) 備前の戦い③・退却戦
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(源氏軍・和田義盛視点)
「掛かれ、掛かれ! 休まず攻め立てて、敵に考える暇を与えるな! 集団の中心にいる巫女を慌てれば兵の統率が乱れる。遠矢を射る者は巫女を狙え!」
和田義盛は野生の勘で神楽隊の弱点をすぐに見抜いていた。神楽隊の各小隊は各メンバーを中心に強い結束力を誇るが、メンバーが動揺する小隊の力が普通以下になる危険性を持っている。
「敵右翼を全滅させれば、中央に向かっていいと実平は言った! さっさと片付けて、皆で中央にいる大将首を取りに行くぞ!」
兵を鼓舞している和田の元に伝令が来た。
「何? 後ろの歩兵が攻撃を受けているだと。ほっとけ、ほっとけ。もう少しで敵全体が崩れる。わしが動かなくても、後ろの実平が何とかしてくれる」
和田は実平のいる後ろを振り返って言った。
そのとき、目の隅にキラリと光るものを捕らえた。
「あの銀ピカ……。敵の総大将ではないか! ふはははは! 向こうから来たのならしょうがない。ここは中央ではない、左翼の縄張りだ、実平。遠慮なく狙わせてもらう!」
すぐさま和田は馬を返して、貴一の騎馬隊に向かっていった。貴一の姿気付いた他の武者たちも和田に遅れてなるものかと反転する。このため、和田軍の中で今まで通り前に向かう兵と後方に向かう兵がぶつかり合い、混乱が起こった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
(源氏軍・土肥実平視点)
「ほとんど崩れかかっていた敵右翼が持ち直しつつあります! 和田殿は何をしている!」
実平の側近が歯噛みして叫ぶ。
――それはそうだろう。軍の半数が攻めている途中で逆走したのだ。あの銀鎧が替え玉だとしたら、とんだお笑い草だな。敵は我が軍の習性を良く知っている。
混乱していた和田軍は敵右翼を攻撃する4000と、敵騎馬隊を追いかける4000の2つに分かれた。
「敵が退却を命ずる鐘を鳴らし始めました! 敵の中央軍は佐々木軍のほうへ兵を出しています。退却の援護をさせるようです」
「だろうな。佐々木軍の相手の敵左翼も崩れていないとはいえ、後詰の梶原軍を合わせれば、5000対1万2000。支えきれまい。これで、敵の中央が薄くなった。土肥軍を前進させて突き崩せ! ただし、追撃はあの煙の手前までと軍全体に徹底させよ。良いな!」
源氏軍中央の土肥軍1万が援軍を送って半数になった弁慶隊5000に向かって駆け出していく。
実平は両翼の軍の動きに目をやる。
佐々木軍は敵中央からの援軍が横から攻撃を仕掛けたので、少し勢いが落ちていた。
――逃げ切られるかもしれんが、その分、敵中央を多数で叩ける。問題は和田だ。まだ、銀鎧と追っかけっこしているのか?
実平は和田のほうへ目をやり、愕然とした。
「全軍停止!!!」
銀鎧と敵騎馬隊1000が和田軍4000に追われながら、土肥軍を目がけて突っ込んできたのだ。土肥軍の兵にとっては、どこまでが敵でどこからが味方かわからず、5000の兵が攻めてくるように見えた。
――間に合わなかったか……。
土肥軍の前衛を横から敵騎馬隊と和田軍が突き崩す。混乱による同士討ちも起こっていた。
――あのまま軍を進めていたら、軍の横腹に風穴を開けられていた……。
混乱する和田軍を置いて遠ざかっていく敵騎馬隊を見て実平はぞっとした。
「ふははは、やるではないか。銀ピカ。戦神スサノオと呼ばれるだけのことはある。これで和田も正気になっただろう。伝令! 和田に遠足は終わりだ。持ち場に戻れと伝えよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
(出雲大社軍右翼・神楽隊・小夜視点)
「両端から順に煙の中に退却! 方陣は崩してもいいよ! 敵が混乱しているうちに走って逃げて!」
退却の鐘を聞いた小夜が後退の指示を出していく。貴一が囮になって敵の半数を引っ張って行ってくれたが、まだ敵の兵は4000残っており、兵数でいえば、すでに1000の死傷者を出している小夜軍と変わらない。敵が落ち着けば、猛攻が再開されるだろう。
予想通り、小夜軍の退却が進み残り、600になったころ。敵の攻撃は再開された。
「十二単も下がっていいわ! しんがりは私の隊だけでやる!」
小夜小隊100に敵の攻撃が集中し、次々と兵が倒れていく。
――防ぎきれないかも……。でも他のメンバーのファンに命を捨ててとは言えない!
そのとき、煙の中から民兵が続々と戻ってきて戦い始めた。
「みんな! どうして! 戻ってきちゃダメ!」
兵たちは口々に叫ぶ!
「神楽隊2番人気の小夜りんのファンが100人なワケないだろ! 小夜隊に入れなくて2番目推しの隊に入っているやつがどれだけいると思っているんだ」
「そうだ、そうだ! 俺たちの小夜りん愛を証明してやる!」
「小夜りんが死んだら、おれら生きていけないよ! 絶望だよ!!」
逃げたと思っていた500人が命を捨てた攻撃を仕掛けたため敵が怯む。
「ありがとう! みんな! ラストライブ盛り上がっていくよー!!」
「「「おおおーーっ!」」」
――ありがとう、本当に。この勢いならきっと助かる。あの人の子も……。
小夜はお腹を優しく撫でた。
後日、小夜ファンは真の絶望を味わうことになる――。
「掛かれ、掛かれ! 休まず攻め立てて、敵に考える暇を与えるな! 集団の中心にいる巫女を慌てれば兵の統率が乱れる。遠矢を射る者は巫女を狙え!」
和田義盛は野生の勘で神楽隊の弱点をすぐに見抜いていた。神楽隊の各小隊は各メンバーを中心に強い結束力を誇るが、メンバーが動揺する小隊の力が普通以下になる危険性を持っている。
「敵右翼を全滅させれば、中央に向かっていいと実平は言った! さっさと片付けて、皆で中央にいる大将首を取りに行くぞ!」
兵を鼓舞している和田の元に伝令が来た。
「何? 後ろの歩兵が攻撃を受けているだと。ほっとけ、ほっとけ。もう少しで敵全体が崩れる。わしが動かなくても、後ろの実平が何とかしてくれる」
和田は実平のいる後ろを振り返って言った。
そのとき、目の隅にキラリと光るものを捕らえた。
「あの銀ピカ……。敵の総大将ではないか! ふはははは! 向こうから来たのならしょうがない。ここは中央ではない、左翼の縄張りだ、実平。遠慮なく狙わせてもらう!」
すぐさま和田は馬を返して、貴一の騎馬隊に向かっていった。貴一の姿気付いた他の武者たちも和田に遅れてなるものかと反転する。このため、和田軍の中で今まで通り前に向かう兵と後方に向かう兵がぶつかり合い、混乱が起こった。
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(源氏軍・土肥実平視点)
「ほとんど崩れかかっていた敵右翼が持ち直しつつあります! 和田殿は何をしている!」
実平の側近が歯噛みして叫ぶ。
――それはそうだろう。軍の半数が攻めている途中で逆走したのだ。あの銀鎧が替え玉だとしたら、とんだお笑い草だな。敵は我が軍の習性を良く知っている。
混乱していた和田軍は敵右翼を攻撃する4000と、敵騎馬隊を追いかける4000の2つに分かれた。
「敵が退却を命ずる鐘を鳴らし始めました! 敵の中央軍は佐々木軍のほうへ兵を出しています。退却の援護をさせるようです」
「だろうな。佐々木軍の相手の敵左翼も崩れていないとはいえ、後詰の梶原軍を合わせれば、5000対1万2000。支えきれまい。これで、敵の中央が薄くなった。土肥軍を前進させて突き崩せ! ただし、追撃はあの煙の手前までと軍全体に徹底させよ。良いな!」
源氏軍中央の土肥軍1万が援軍を送って半数になった弁慶隊5000に向かって駆け出していく。
実平は両翼の軍の動きに目をやる。
佐々木軍は敵中央からの援軍が横から攻撃を仕掛けたので、少し勢いが落ちていた。
――逃げ切られるかもしれんが、その分、敵中央を多数で叩ける。問題は和田だ。まだ、銀鎧と追っかけっこしているのか?
実平は和田のほうへ目をやり、愕然とした。
「全軍停止!!!」
銀鎧と敵騎馬隊1000が和田軍4000に追われながら、土肥軍を目がけて突っ込んできたのだ。土肥軍の兵にとっては、どこまでが敵でどこからが味方かわからず、5000の兵が攻めてくるように見えた。
――間に合わなかったか……。
土肥軍の前衛を横から敵騎馬隊と和田軍が突き崩す。混乱による同士討ちも起こっていた。
――あのまま軍を進めていたら、軍の横腹に風穴を開けられていた……。
混乱する和田軍を置いて遠ざかっていく敵騎馬隊を見て実平はぞっとした。
「ふははは、やるではないか。銀ピカ。戦神スサノオと呼ばれるだけのことはある。これで和田も正気になっただろう。伝令! 和田に遠足は終わりだ。持ち場に戻れと伝えよ」
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(出雲大社軍右翼・神楽隊・小夜視点)
「両端から順に煙の中に退却! 方陣は崩してもいいよ! 敵が混乱しているうちに走って逃げて!」
退却の鐘を聞いた小夜が後退の指示を出していく。貴一が囮になって敵の半数を引っ張って行ってくれたが、まだ敵の兵は4000残っており、兵数でいえば、すでに1000の死傷者を出している小夜軍と変わらない。敵が落ち着けば、猛攻が再開されるだろう。
予想通り、小夜軍の退却が進み残り、600になったころ。敵の攻撃は再開された。
「十二単も下がっていいわ! しんがりは私の隊だけでやる!」
小夜小隊100に敵の攻撃が集中し、次々と兵が倒れていく。
――防ぎきれないかも……。でも他のメンバーのファンに命を捨ててとは言えない!
そのとき、煙の中から民兵が続々と戻ってきて戦い始めた。
「みんな! どうして! 戻ってきちゃダメ!」
兵たちは口々に叫ぶ!
「神楽隊2番人気の小夜りんのファンが100人なワケないだろ! 小夜隊に入れなくて2番目推しの隊に入っているやつがどれだけいると思っているんだ」
「そうだ、そうだ! 俺たちの小夜りん愛を証明してやる!」
「小夜りんが死んだら、おれら生きていけないよ! 絶望だよ!!」
逃げたと思っていた500人が命を捨てた攻撃を仕掛けたため敵が怯む。
「ありがとう! みんな! ラストライブ盛り上がっていくよー!!」
「「「おおおーーっ!」」」
――ありがとう、本当に。この勢いならきっと助かる。あの人の子も……。
小夜はお腹を優しく撫でた。
後日、小夜ファンは真の絶望を味わうことになる――。
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