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15.南宋襲来
第106話(1189年8月) 禅譲
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摂津国・大輪田泊
梶原軍が降伏した1万の南宋軍を囲んでいた。
「梶原殿、この男が南宋軍の将か?」
大江広元が隣の梶原景時に聞いた。
関門海峡での戦いを見た広元は、山陰鉄道で備中国まで送ってもらい、そこから梶原軍とともに、南宋軍の残党を迎え撃った。
「うむ。韓侂冑という。関門海峡を抜けるのを無理だと悟って、この男の軍だけが大輪田泊に逃げ込んできたらしい」
広元が縛られた韓侂冑を見下ろす。
「頼む! 命だけは助けてくれ!」
「ならば能力を示せ。貴様は何ができる?」
「わしは黄金を掘るためにやってきた。倭国にはない技術を持っている! 黄金の山も見つけられる!」
「――よかろう。技術者を一つに集めろ」
半刻後、1000人の鉱山技術者が集められた。
広元は梶原景時に言った。
「後はすべて殺せ。対馬の仇だ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
南宋・臨安
「赤い煙が見えた。突撃の準備をせよ」
朱熹が軍を整列させて待っていると、臨安の城門が開かれた。
兵が臨安城内になだれ込み、宮廷に向かって駆けていく。
「信じられぬ。本当に数人で城門を開けるとは……。おい、将軍は?」
城内で呆然と立ち尽くしている兵に朱熹が聞いた。
「項羽とはスサノオ様のような武将だったのでしょうか……。赤い煙に包まれた後、お一人で千の敵を倒されました」
「おい! 将軍は!」
「……ハッ、申し訳ありません! すでに宮廷に向かわれました」
昨日、臨安に戻った南宋・出雲連合軍が見たものは固く閉ざされた城門だった。貴一は警戒を解くために、貴一と趙汝愚の棺だけの入城を願い出て許可された。
そして、朱熹に「城門を開けてくるから、待ってろ」と言って、城内に入っていったのが一刻前のことだった。
朱熹が死体の山を見て興奮する。
「将軍がこれほどの強さとは。まさに一騎当千。残るは近衛兵のみ。討てる! 時忠を討てるぞ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
宮廷内
スサノオ軍が宮廷を囲んだことがわかると、皇帝と文武百官は大混乱に陥った。
うろたえた皇帝が時忠の肩を掴む。
「時忠、なぜ裏切った出雲軍と我が軍がともに攻めてくる。朕はどうすればいい!」
「スサノオは喪服を着て趙汝愚の棺を掲げ、此度の遠征を非難しております。私は殺されるしかありません。陛下の退位を求めるでしょう。断れば――」
「どうなる」
「スサノオは先帝を殺した男。お察しください」
皇帝は膝を落した。外から聞こえる銃撃戦の音が激しくなっている。
時忠に力なく言った。
「皇子たちを廟議の間に集めろ。皇太子を決めねばならん」
一刻後、皇帝が廟議の間に入ると、文武百官と10歳になった皇帝の養子・趙言仁がいた。
「時忠、他の皇子はどうした」
「知りませぬ。さあ、言仁様を皇太子にお決めなされよ」
皇帝は文武百官を見ると、清流派しかいないのに気付いた。
「罠にかけたな時忠! 卿は朕を売ったのか!」
「愚帝よ、貴様にそんな値打ちがあると思っているのか? 売れたのはこの時忠だ。命が惜しければ、百官の前で皇太子を決め、禅譲を宣言するのだ」
時忠の声が冷たく響く。
「朕に向かって何という口の利き方。誰か! この無礼者を斬れ!」
だが、皇帝がいくら叫んでも文武百官は誰ひとり動かなかった。
すべてを悟った皇帝は肩を落として言った。
「……言仁の皇太子と禅譲の詔を出す」
時忠が声を上げる。
「万歳!」
文武百官が続く。
「「「万歳! 万歳! 万々歳!」」」
「玉璽を渡す。言仁よ、近こう……」
鳴りやまぬ万歳の声の中、言仁が皇帝に近づいていく。
しかし、皇帝が袖から出したのは、玉璽ではなく短剣だった。
梶原軍が降伏した1万の南宋軍を囲んでいた。
「梶原殿、この男が南宋軍の将か?」
大江広元が隣の梶原景時に聞いた。
関門海峡での戦いを見た広元は、山陰鉄道で備中国まで送ってもらい、そこから梶原軍とともに、南宋軍の残党を迎え撃った。
「うむ。韓侂冑という。関門海峡を抜けるのを無理だと悟って、この男の軍だけが大輪田泊に逃げ込んできたらしい」
広元が縛られた韓侂冑を見下ろす。
「頼む! 命だけは助けてくれ!」
「ならば能力を示せ。貴様は何ができる?」
「わしは黄金を掘るためにやってきた。倭国にはない技術を持っている! 黄金の山も見つけられる!」
「――よかろう。技術者を一つに集めろ」
半刻後、1000人の鉱山技術者が集められた。
広元は梶原景時に言った。
「後はすべて殺せ。対馬の仇だ」
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南宋・臨安
「赤い煙が見えた。突撃の準備をせよ」
朱熹が軍を整列させて待っていると、臨安の城門が開かれた。
兵が臨安城内になだれ込み、宮廷に向かって駆けていく。
「信じられぬ。本当に数人で城門を開けるとは……。おい、将軍は?」
城内で呆然と立ち尽くしている兵に朱熹が聞いた。
「項羽とはスサノオ様のような武将だったのでしょうか……。赤い煙に包まれた後、お一人で千の敵を倒されました」
「おい! 将軍は!」
「……ハッ、申し訳ありません! すでに宮廷に向かわれました」
昨日、臨安に戻った南宋・出雲連合軍が見たものは固く閉ざされた城門だった。貴一は警戒を解くために、貴一と趙汝愚の棺だけの入城を願い出て許可された。
そして、朱熹に「城門を開けてくるから、待ってろ」と言って、城内に入っていったのが一刻前のことだった。
朱熹が死体の山を見て興奮する。
「将軍がこれほどの強さとは。まさに一騎当千。残るは近衛兵のみ。討てる! 時忠を討てるぞ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
宮廷内
スサノオ軍が宮廷を囲んだことがわかると、皇帝と文武百官は大混乱に陥った。
うろたえた皇帝が時忠の肩を掴む。
「時忠、なぜ裏切った出雲軍と我が軍がともに攻めてくる。朕はどうすればいい!」
「スサノオは喪服を着て趙汝愚の棺を掲げ、此度の遠征を非難しております。私は殺されるしかありません。陛下の退位を求めるでしょう。断れば――」
「どうなる」
「スサノオは先帝を殺した男。お察しください」
皇帝は膝を落した。外から聞こえる銃撃戦の音が激しくなっている。
時忠に力なく言った。
「皇子たちを廟議の間に集めろ。皇太子を決めねばならん」
一刻後、皇帝が廟議の間に入ると、文武百官と10歳になった皇帝の養子・趙言仁がいた。
「時忠、他の皇子はどうした」
「知りませぬ。さあ、言仁様を皇太子にお決めなされよ」
皇帝は文武百官を見ると、清流派しかいないのに気付いた。
「罠にかけたな時忠! 卿は朕を売ったのか!」
「愚帝よ、貴様にそんな値打ちがあると思っているのか? 売れたのはこの時忠だ。命が惜しければ、百官の前で皇太子を決め、禅譲を宣言するのだ」
時忠の声が冷たく響く。
「朕に向かって何という口の利き方。誰か! この無礼者を斬れ!」
だが、皇帝がいくら叫んでも文武百官は誰ひとり動かなかった。
すべてを悟った皇帝は肩を落として言った。
「……言仁の皇太子と禅譲の詔を出す」
時忠が声を上げる。
「万歳!」
文武百官が続く。
「「「万歳! 万歳! 万々歳!」」」
「玉璽を渡す。言仁よ、近こう……」
鳴りやまぬ万歳の声の中、言仁が皇帝に近づいていく。
しかし、皇帝が袖から出したのは、玉璽ではなく短剣だった。
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