アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第一章

胸の痛み

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「それとそのベローズ王国警備隊からの要請なのだが、取り引き相手が現れるようなら共に確保したいそうだ。今回はバロンの可能性が高い。うまくいけば、バロンもろとも捕まえることができるかもしれない」

「それはよい案ですね! 僕も協力します。僕はそのために何をすればよいですか?」

「取り引き相手が現れるまでモーリッシュと共にいてくれ。だが無理はするな。猶予ゆうよは二日と定めてある。二日経過しても取り引き相手が現れないようなら、モーリッシュのみ確保することで話はついているからな」

「二日……バロンは現れるでしょうか。モーリッシュはそれほど長くこの国にいるつもりはないでしょうし、さっさと取り引きを終わらせたいと思っているはずです。バロンが現れるまでモーリッシュと一緒にいた方が……」

 眉をひそめながら真剣な顔でそう提案したアレクが隣に座るマーリナスを振り向くと、群青色の瞳が悲しそうに揺れ動いた。

「……マーリナス?」

「おまえのことが心配なのだ。呪いの件もあるだろう」

「あ……」

 アレクは困ったように視線を伏せると小さく笑った。

「大丈夫ですよ。僕はいままでずっとそうして生きてきたんです。いざとなればこの目を使って……」

「相手をとりこにするのか」

 非難がましく口をついて出てしまった言葉に、マーリナスはハッとして口元を押さえこむとアレクから顔をそむけた。

 ほかの人間にその目を使うということは、つまりアレクが「あの行為を他人に求める」ということ。そう悟った瞬間に胸がざわつき、いいようのない痛みがマーリナスの胸を貫いたのだ。

 その衝撃に思わず口をついて出てしまった言葉だったが、アレクはバロンを捕まえるためによかれと思って提案したのだ。それとて、したくてするわけではないとわかっているはずなのに。

 アレクを責めるなど間違っているのに、なぜこんなことをいってしまったのか。

 激しい後悔の念にかられたマーリナスはアレクの顔を振り返った。そこには少し悲しそうに眉を下げてうつむいたアレクが映りこむ。

 いまにも泣き出しそうなアレクに、マーリナスは心が締めつけられる思いがした。

「すまない……」

「いいんです。僕こそすみません。この力を利用するようなことをいって」

「そんなつもりでは……」

 悲しげにうつむくアレクの表情は変わらない。マーリナスの心に焦りがつもる。

 一番呪いのせいで傷ついているのはアレクだというのに、追い打ちをかけてしまった自分を呪い殺してしまいたい。

「アレク。わたしの顔をみるんだ」

 アレクはゆっくりと顔をあげた。紫色の瞳には薄らと涙が浮かんでいる。

 それを見た途端に心が引き裂かれそうな胸の痛みに襲われ、マーリナスは顔を歪めるとアレクを強く抱きしめた。

「泣くな。おまえを責めたかったわけじゃない。ただおまえがわたし以外の人間にあの目を使うのだと思った途端に……胸が苦しくなった。おまえにそんなことはさせたくない。バロンを捕まえたい気持ちはわかる。だがずっと目を離しているのは不安だ。だから……頼むから、モーリッシュのもとにいるのは二日だけにしてくれないか」

 マーリナスはアレクの涙を止めるためそう懸命に言葉を紡いだのだが、自分が発した言葉の意味を理解してはいなかった。

 しかしその言葉の本当の意味を理解した人間がいる。

 ――アレクだ。

 アレクは目を丸くしてマーリナスを見つめた。それこそ驚きのあまり涙が止まってしまうほど。

「マーリナス……」

「おまえが生きるために代償を必要としているのは理解している。確かにそうすれば二日といわず、何日だってモーリッシュのそばにいられるだろう。だがおまえはバレリアの呪いを使うことを恐れているのだろう。ならば、わたしだけに使えばいい。それではだめか」

 真剣な表情でマーリナスはアレクに真摯な気持ちを伝えた。

 マーリナスからしてみれば、おまえを責めたわけではないのだという懸命な弁解であったが、アレクは気を持ち直すどころか、ふつふつとこみ上げるものを押さえることができず、小さく肩を揺らしてうつむいてしまった。

「アレク……」

「ふふっ……わかりました。モーリッシュのそばにいるのは二日だけ。お約束します」

 顔をあげたアレクの表情は花が咲いたように、ほころんでいた。

 その表情にマーリナスは驚いたが、同時に安堵する。

「よかった」

「明日は絶対に成功させましょう」

「ああ」

 アレクがそっと瞳を閉じれば、マーリナスは頬を引き寄せその唇にキスを落とした。

 アレクは唇を重ね合わせながら、心の中に広がってゆく幸福感に身を委ねる。いつの頃からか、ふたりの間で交わされるこの行為は義務などではなくなっていたのだ。

 ベッドから立ち上がり、おやすみといって部屋を後にしたマーリナスの後ろ姿を見送って、アレクはついにこらえきれず笑い声をたてた。

 だってマーリナスがいったのは、「嫉妬」に他ならなかったからだ。そして生まれた独占欲。それは「好き」ってことじゃないのか。

 そう思った途端、嬉しすぎて笑いがこみあげた。いまなら、なんだってできそうな気がする。

 満たされた気持ちのまま、マーリナスから与えられた幸福感を抱きしめてアレクはベッドに横になった。

 明日はきっと上手くいく。

 そんな不確かな自信を胸に秘めて――

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