アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第二章

別れの足音

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 そうと知らないアレクは、一歩一歩薄暗い石畳の階段をマーリナスと共に降りていた。

 この階段を初めて降りたあの日。あのときは、たったひとりでこの階段を歩んでいた。

 その先にどんな未来が待ち構えているのかも知らず、ただ陽の当たる地上にいるよりは自分にふさわしいと思って選んだ道だった。

 この先の地下街に待ち構えていた闇は深く恐ろしいものだったが、それでもアレクはそこで友を見つけることができた。

 そしていまはマーリナスと共にこの階段を降りている。

 これから自分の身に起こることは恐ろしいことなのだろう。

 だけど、ただそばにマーリナスの姿があるというだけでその恐怖は払拭され、心はとても穏やかなものとなる。

 階段を一段降りるたび、そのマーリナスとの別れの時間が近づく。それを思えば歩みは重いものとなった。

 だけど、無情にもそのときはやってくる。

 アレクは足を止めるとマーリナスを振り返った。

「マーリナス。この先はもう地下街の目があります。ここで……少しだけお別れです。ここまでついてきてくれて、本当にありがとうございます」

 ローブを取り払い、マーリナスに手渡したアレクは笑顔を浮かべる。無理をいって途中までついてきてくれと頼んだのはアレクだった。

 覚悟は決めていたはずだが、いざとなると心細いものがあったからだ。マーリナスは二つ返事で引き受けてくれたが、ここにくるまで終始無言だった。

 後方から何人かの足音が聞こえてくる。きっとアレクを尾行するための、追尾班だろう。

「アレク」

 短く、マーリナスが名を呼んだ。近づいてくる足音に意識がそれていたアレクは、その呼びかけに無意識で振り返った。が、その直後ばさりと音を立ててマーリナスに手渡したはずのローブが頭にかぶせられ一瞬で視界が暗転する。

「え……」

 暗転した視界の中、驚きに目を開くアレクの唇をふさぐものがあった。

 ほんのりと熱を帯びるやわらかなもの。いつもより少しだけ深くアレクの唇をふさぎ、互いの腔内の熱を交わし合う。何度も何度も重ね合わせたその唇が誰のものかなんて、いまさら問う必要などない。

 アレクは覆われたローブの下でそっと瞳を閉じた。

 長いようで短い、そんな時間がふたりの間に流れる。

 足音がいざ、すぐそこまで近づくとマーリナスはアレクから離れ、ローブを取り払って口を開いた。

「いけ」

 アレクは笑顔を浮かべて小さくうなずき、階段をかけ降りる。

 もう心細さなんて微塵もなくなった。昨夜と同じように心は満たされ、勇気だけがわいてくるようだ。

 そんなアレクの背中を見送るマーリナスの表情は切なげに歪む。

「頼むから無事でいてくれ」

 そう、小さくつぶやいて。
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