41 / 146
第二章
こだま
しおりを挟む
「参ったな。これが全部バロンの隠し金庫なのか?」
「さあ、どうでしょうか。遺跡内に隠し金庫を造るとは考えましたが、中身が空の物もいくつかあったようですし、バロンひとりの物としてはいささか数が多い気がします」
引き続き遺跡内の探索を進めていたマーリナスたちは、すでにいくつかの行き止まり地点にバロンの屋敷入り口で見つけた金庫扉を発見していた。
頑丈な造りのため開けることはかなわなかったが、うちいくつかは鍵がかかっておらず中身も空っぽであった。
まだ遺跡内の探索が終わっていないにも関わらず、みつけた隠し金庫は総数六つ。個人の隠し金庫としてはあまりにも数が多い。
「バロン以外の金庫という可能性か。ならばモーリッシュあたりだろうな。世界各国を飛び回っているモーリッシュが大金を隠しておくとなると、当然安全性の高い場所を選ぶはずだ。ここはまさにうってつけの場所だからな」
「回収作業は後々行わせましょう。いまはまず、アレクを見つけださなければ」
「ああ」
遺跡の探索は困難を極め、すでにスタローン王国警備隊だけの手にはおえず、ベローズ王国警備隊との共同探索となっていた。
地下街を大人数で動き回ることはできないが、ひとめにつかないこの遺跡内に警備隊が何十人いようか何百いようが関係ない。
おかげで進行速度はだいぶ速くなったが、それでもバロンどころか目当てのアレクに続く道が見つけだせない。
とうに約束した二日は過ぎてしまった。マーリナスの焦りは刻々と刻まれる時間と共に大きくなるが、それはロナルドとて同じこと。
なんせおとり役に買ってでるように仕向けたのはロナルドなのだ。
そしてアレクのことは必ず護るとマーリナスに約束した。
ロナルドは「呪いの代償」のことは知らなかったが、バロンの行方がわからない以上、すでにアレクと接触を果たしている可能性に気づいていた。
おそらくマーリナスも気づいているだろうが、互いにそのことを話題にだすことはない。バロンがアレクを見つけたら「なにをするか」なんて想像するまでもないからだ。
胸をよぎる不安に押し潰されそうになりながら、ふたりは懸命に捜索を続ける。そんなとき、一歩間違えば自分たちがこの遺跡の屍になりえるその場所で、突然どこからか声がこだましてロナルドの耳に届いた。
――……イーーーーーン!
「……なんだ?」
「さあ……」
――……べーーイーーンッ!
「ベイン?」
ふたりそろってきょろきょろと辺りを見渡して声の主を探してみるものの、この遺跡内に反響して届くその叫び声の音源を特定することはできない。
だがそこでロナルドはハッとしてマーリナスを振り返った。
「……! ベインというと、共有された情報の中にモーリッシュの片腕として名の上がっていた者ではありませんか?」
「そうだ! 確かに名前があったな。この近くにベインがいるのか? 行くぞ、ロナルド!」
「はっ」
ふたりは数名の警備兵を伴い元の道を戻って駆けだした。四方八方からこだまする叫び声はまだ聞こえている。ベインの名を知ってるとなるとモーリッシュの関係者の可能性が高い。声が聞こえなくなる前にそいつを捕まえなければ。
幾重にもわかれた道筋を声が近づくほうへと向けてたどり、時には遠のいて道を戻り。そんなことを繰り返して、徐々にではあるが声は大きくはっきりとしてきた。
だがそんなおり、三つ叉に分かれた道でマーリナスたちは歩みを止める。
警備隊が捜索している道には縄と布きれによって印が残されている。一方には奥へと縄が伸びており、どこかの班が捜索しているのがわかるのだが、残されたふたつには縄も布きれもない。つまりまだ未探索の道がふたつ、現れたのだ。
「そっちの道にはベローズ王国警備隊が探索しているはずです」
「手分けするしかないな」
「そうですね。ではわたしはこちらの道を」
「ああ。モーリッシュが現れる可能性もある。気をつけていけ」
「はい。おまえはわたしと一緒にこい! 行くぞ!」
ロナルドは後方にいた兵を一名伴って左の道へと駆けだした。マーリナスは暗闇へと消えていくロナルドの背中を見送り、右の道へと視線を向ける。
距離感のつかめない亡霊のような叫び声に耳を研ぎ澄まし、再び叫び声が聞こえたのをとらえるとマーリナスは鋭い視線をトンネルの奥へ向けて足を踏み出した――
「さあ、どうでしょうか。遺跡内に隠し金庫を造るとは考えましたが、中身が空の物もいくつかあったようですし、バロンひとりの物としてはいささか数が多い気がします」
引き続き遺跡内の探索を進めていたマーリナスたちは、すでにいくつかの行き止まり地点にバロンの屋敷入り口で見つけた金庫扉を発見していた。
頑丈な造りのため開けることはかなわなかったが、うちいくつかは鍵がかかっておらず中身も空っぽであった。
まだ遺跡内の探索が終わっていないにも関わらず、みつけた隠し金庫は総数六つ。個人の隠し金庫としてはあまりにも数が多い。
「バロン以外の金庫という可能性か。ならばモーリッシュあたりだろうな。世界各国を飛び回っているモーリッシュが大金を隠しておくとなると、当然安全性の高い場所を選ぶはずだ。ここはまさにうってつけの場所だからな」
「回収作業は後々行わせましょう。いまはまず、アレクを見つけださなければ」
「ああ」
遺跡の探索は困難を極め、すでにスタローン王国警備隊だけの手にはおえず、ベローズ王国警備隊との共同探索となっていた。
地下街を大人数で動き回ることはできないが、ひとめにつかないこの遺跡内に警備隊が何十人いようか何百いようが関係ない。
おかげで進行速度はだいぶ速くなったが、それでもバロンどころか目当てのアレクに続く道が見つけだせない。
とうに約束した二日は過ぎてしまった。マーリナスの焦りは刻々と刻まれる時間と共に大きくなるが、それはロナルドとて同じこと。
なんせおとり役に買ってでるように仕向けたのはロナルドなのだ。
そしてアレクのことは必ず護るとマーリナスに約束した。
ロナルドは「呪いの代償」のことは知らなかったが、バロンの行方がわからない以上、すでにアレクと接触を果たしている可能性に気づいていた。
おそらくマーリナスも気づいているだろうが、互いにそのことを話題にだすことはない。バロンがアレクを見つけたら「なにをするか」なんて想像するまでもないからだ。
胸をよぎる不安に押し潰されそうになりながら、ふたりは懸命に捜索を続ける。そんなとき、一歩間違えば自分たちがこの遺跡の屍になりえるその場所で、突然どこからか声がこだましてロナルドの耳に届いた。
――……イーーーーーン!
「……なんだ?」
「さあ……」
――……べーーイーーンッ!
「ベイン?」
ふたりそろってきょろきょろと辺りを見渡して声の主を探してみるものの、この遺跡内に反響して届くその叫び声の音源を特定することはできない。
だがそこでロナルドはハッとしてマーリナスを振り返った。
「……! ベインというと、共有された情報の中にモーリッシュの片腕として名の上がっていた者ではありませんか?」
「そうだ! 確かに名前があったな。この近くにベインがいるのか? 行くぞ、ロナルド!」
「はっ」
ふたりは数名の警備兵を伴い元の道を戻って駆けだした。四方八方からこだまする叫び声はまだ聞こえている。ベインの名を知ってるとなるとモーリッシュの関係者の可能性が高い。声が聞こえなくなる前にそいつを捕まえなければ。
幾重にもわかれた道筋を声が近づくほうへと向けてたどり、時には遠のいて道を戻り。そんなことを繰り返して、徐々にではあるが声は大きくはっきりとしてきた。
だがそんなおり、三つ叉に分かれた道でマーリナスたちは歩みを止める。
警備隊が捜索している道には縄と布きれによって印が残されている。一方には奥へと縄が伸びており、どこかの班が捜索しているのがわかるのだが、残されたふたつには縄も布きれもない。つまりまだ未探索の道がふたつ、現れたのだ。
「そっちの道にはベローズ王国警備隊が探索しているはずです」
「手分けするしかないな」
「そうですね。ではわたしはこちらの道を」
「ああ。モーリッシュが現れる可能性もある。気をつけていけ」
「はい。おまえはわたしと一緒にこい! 行くぞ!」
ロナルドは後方にいた兵を一名伴って左の道へと駆けだした。マーリナスは暗闇へと消えていくロナルドの背中を見送り、右の道へと視線を向ける。
距離感のつかめない亡霊のような叫び声に耳を研ぎ澄まし、再び叫び声が聞こえたのをとらえるとマーリナスは鋭い視線をトンネルの奥へ向けて足を踏み出した――
1
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~
蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。
転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。
戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。
マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。
皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた!
しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった!
ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。
皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる