アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第二章

こだま

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「参ったな。これが全部バロンの隠し金庫なのか?」

「さあ、どうでしょうか。遺跡内に隠し金庫を造るとは考えましたが、中身が空の物もいくつかあったようですし、バロンひとりの物としてはいささか数が多い気がします」

 引き続き遺跡内の探索を進めていたマーリナスたちは、すでにいくつかの行き止まり地点にバロンの屋敷入り口で見つけた金庫扉を発見していた。

 頑丈な造りのため開けることはかなわなかったが、うちいくつかは鍵がかかっておらず中身も空っぽであった。

 まだ遺跡内の探索が終わっていないにも関わらず、みつけた隠し金庫は総数六つ。個人の隠し金庫としてはあまりにも数が多い。

「バロン以外の金庫という可能性か。ならばモーリッシュあたりだろうな。世界各国を飛び回っているモーリッシュが大金を隠しておくとなると、当然安全性の高い場所を選ぶはずだ。ここはまさにうってつけの場所だからな」

「回収作業は後々行わせましょう。いまはまず、アレクを見つけださなければ」

「ああ」

 遺跡の探索は困難を極め、すでにスタローン王国警備隊だけの手にはおえず、ベローズ王国警備隊との共同探索となっていた。

 地下街を大人数で動き回ることはできないが、ひとめにつかないこの遺跡内に警備隊が何十人いようか何百いようが関係ない。

 おかげで進行速度はだいぶ速くなったが、それでもバロンどころか目当てのアレクに続く道が見つけだせない。

 とうに約束した二日は過ぎてしまった。マーリナスの焦りは刻々と刻まれる時間と共に大きくなるが、それはロナルドとて同じこと。

 なんせおとり役に買ってでるように仕向けたのはロナルドなのだ。

 そしてアレクのことは必ず護るとマーリナスに約束した。

 ロナルドは「呪いの代償」のことは知らなかったが、バロンの行方がわからない以上、すでにアレクと接触を果たしている可能性に気づいていた。

 おそらくマーリナスも気づいているだろうが、互いにそのことを話題にだすことはない。バロンがアレクを見つけたら「なにをするか」なんて想像するまでもないからだ。

 胸をよぎる不安に押し潰されそうになりながら、ふたりは懸命に捜索を続ける。そんなとき、一歩間違えば自分たちがこの遺跡の屍になりえるその場所で、突然どこからか声がこだましてロナルドの耳に届いた。


 ――……イーーーーーン!


「……なんだ?」

「さあ……」

 ――……べーーイーーンッ!

「ベイン?」

 ふたりそろってきょろきょろと辺りを見渡して声の主を探してみるものの、この遺跡内に反響して届くその叫び声の音源を特定することはできない。

 だがそこでロナルドはハッとしてマーリナスを振り返った。

「……! ベインというと、共有された情報の中にモーリッシュの片腕として名の上がっていた者ではありませんか?」

「そうだ! 確かに名前があったな。この近くにベインがいるのか? 行くぞ、ロナルド!」

「はっ」

 ふたりは数名の警備兵を伴い元の道を戻って駆けだした。四方八方からこだまする叫び声はまだ聞こえている。ベインの名を知ってるとなるとモーリッシュの関係者の可能性が高い。声が聞こえなくなる前にそいつを捕まえなければ。

 幾重にもわかれた道筋を声が近づくほうへと向けてたどり、時には遠のいて道を戻り。そんなことを繰り返して、徐々にではあるが声は大きくはっきりとしてきた。

 だがそんなおり、三つ叉に分かれた道でマーリナスたちは歩みを止める。
 
 警備隊が捜索している道には縄と布きれによって印が残されている。一方には奥へと縄が伸びており、どこかの班が捜索しているのがわかるのだが、残されたふたつには縄も布きれもない。つまりまだ未探索の道がふたつ、現れたのだ。

「そっちの道にはベローズ王国警備隊が探索しているはずです」

「手分けするしかないな」

「そうですね。ではわたしはこちらの道を」

「ああ。モーリッシュが現れる可能性もある。気をつけていけ」

「はい。おまえはわたしと一緒にこい! 行くぞ!」

 ロナルドは後方にいた兵を一名伴って左の道へと駆けだした。マーリナスは暗闇へと消えていくロナルドの背中を見送り、右の道へと視線を向ける。

 距離感のつかめない亡霊のような叫び声に耳を研ぎ澄まし、再び叫び声が聞こえたのをとらえるとマーリナスは鋭い視線をトンネルの奥へ向けて足を踏み出した――

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