アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第三章

浸透する想い

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「すでに偵察部隊が見張りについているはずだ。我々も合流しよう」

「はい」

 今回は前回と違ってゲイリーが営む酒場の場所がわかっているため、地下部隊は四つの小隊に分かれてそれぞれ東西南北に設置された地下への階段を通り、地下街へと侵入を果たすこととなった。

 アレクたちが降りているのは西口の階段だ。もっともゲイリーの酒場から近い階段である。

 小部隊といっても各部隊は五人編成であり、一緒に動いていては目立つ。そのため事前に地下街の土地勘があるアレクによって各自に大まかな地図が配布されており、地下街に潜伏し単独行動となった後は携帯した地図を確認しながら目的地へと向かう手はずになっていた。

「アレク。きみは近くまで行く必要はない。同行は認めたが、現場での判断はわたしに一任してくれるかい?」

「はい。もちろんです。無理をいってお願いしたのは僕ですから」

 その後、ロナルド率いる小隊は階段を降り切るとバラバラに分かれ、アレクはロナルドと共に脇道へと逸れた。上層とは違った地下街の空気。昼も夜も関係なく闇が覆い、そこに棲みつく者たちの殺伐とした心の色を具現化したように周囲に冷たい空気を這わせる。

 うようよと蠢く獣たちが闇に潜む地下街に一歩足を踏み入れれば、身も心も引き締まる。アレクは周囲に目を配りながら小声で後方を追うロナルドに声をかけた。

「この辺りは僕の方が詳しいです。近くまで案内します」

「ああ。よろしく頼むよ」

 闇に紛れて移動し、しばらくした後にふたりは目的のゲイリー・ヴァレットの酒場付近へと到達。

 薔薇を口に咥えた禍々しい大蛇の看板が掲げてあるその店を視認すると、いったんふたりはひと区画ほど戻り、身を縮めて物陰に隠れた。

「ゲイリーが動きをみせるまで警備隊が入れ替わりで入店して動きを見張るが、きみを同行させることはできない。付近には他の警備隊もいるから、なにかあれば頼ってくれ」

 声を殺してそう語ったロナルドがちらりと視線を流す。アレクが追うようにして顔をそちらに向ければ、同じようにローブを身に纏い、物陰に隠れて店を窺っているニックの姿があった。

「わかっているとは思うけど、ニックは魔道具を身につけていない。視線には気をつけるんだよ」

「はい」

「少しでも異変を感じたらニックの場所に行くんだ。いいね? 絶対に単独で行動しないように」

「わかりました」

 念を押すロナルドにアレクは力強く返事を返す。ここで自分にできることはなにもない。警備隊の邪魔にならないように、ゲイリー・ヴァレットが動くまでじっとしていることが、自分に成すべきことだとアレクはしっかりと理解していた。

「じゃあ、行ってくるよ」

 柔らかな眼差しでロナルドはアレクをみつめると、そっと額に口づけた。その口づけは、ほんの一瞬のもので優しく触れる程度のものだったが、アレクは驚きに目を丸くする。

 その様子をみてくすりと笑みを浮かべロナルドはアレクのあたまに軽く手を置くと直ぐさま立ち上がり、通りへと姿を消した。

 茫然としながらロナルドの背中を見送り、アレクはそっと額に手を当てる。

 あの優しい眼差しもあたまに手を置く癖も。いまでは当たり前にあるそれは、ほんのりと心を温め、今夜はいたずらにアレクの心をくすぐる。気のせいかもしれないが、愛おしいと、そんな声が聞こえてきそうで。


 触れた額が、やけに熱い。


「……お気をつけて」



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