アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第四章

集う闇商人

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「こんばんは。よい夜ですね。あまりに美しい庭園でしたので友と夜の散歩にでかけたついでに、少し拝見させて頂いていたのですよ。勝手なことをして申し訳ありませんでしたが、大目に見て頂きたい。我々はここで退散致しますから」

 馬車を挟んだ向こう側ではロナルドが陽気な声で語りかけている。

 ニックはドクドクと脈打つ鼓動をなんとか抑えながら、真っ青になってその会話を耳にしていた。

「さよう。こちらはオクルール大臣の官邸でございます。毎日何十人もの庭師が手入れしている庭園ですから見事なものでしょう。お目に留まる気持ちも当然のことかと存じます。しかし見たところそちらは警備隊の制服では? 大臣は今後の国防にも大変関心をお持ちです。ここに立ち寄られたのも何かの縁でしょう。ぜひ中にお入り下さい」

「いえいえ。わたしはしがない警備隊の一員ですから。国防に関する話など満足にお答えできませんよ。お邪魔して本当に申し訳ありません。ではここで……」

「そう仰らず……連れていけ」

 一見して丁寧で穏やかな会話は、そうして唐突に打ち切られた。

 数名の足音と小さくロナルドの名を呼んだアレクの声。そして次第に気配は遠のいていき、ニックは再びこっそりと様子をのぞきみた。

 両手を拘束されたロナルドとアレクが粗野な連中に連行されていく。

(あれはなんだ。官邸の人間じゃないな)

 不安と動揺で混乱しながら様子を窺うニックとちらりと後方に視線を流したロナルドの視線が交わる。

 小さくあごをうごかして「早く行け」と伝えるロナルドに、ニックは躊躇いながらも頷いてみせた。

 ここで自分が飛び出してもなんの解決にもならない。下手を打てばロナルドたちの命が危うい。救うためにはなんとしても捜査許可を総督から取らなければ。

 それが最善の策だと信じ、ニックは官邸に背を向けて夜道を駆けだした。

 ◇

「おや。さっきの美人さんじゃねーか」

 豪華なシャンデリアと赤を基調とした調度品で華やかに彩られたオクルール官邸、応接間。そのソファにもたれかかり、足を組んでくつろいでいたゲイリーはアレクを見るなり目を輝かせた。

 強制的に連行されたアレクとロナルドは猿ぐつわを噛まされ、男たちに肩を押さえつけられてその場にひざまづいた。

 そんなふたりを楽しそうに眺めるゲイリーとは対照的に、訝しげな視線を向けるのは向かいに腰を下ろす上頬にそばかすが目立つ赤髪の女。

 (あれは……エレノア?)

 ホーキンスからエレノアの特長を聞いていたアレクは目を丸くする。

 あの偽装証明書から、荷馬車の持ち主がエレノアである可能性が高いとは思っていたが。

 だけどそんなはずはないと思っていた。いや、正確には思いたかったのだ。

 ロナルドはあの偽装許可証を元に総督の許可が下りるまで待機する方針だったかもしれないけど、アレクはその可能性を含めて動く必要性があると思っていた。

 だから捕まってしまったのは不本意ではあるが、結果的に中に侵入できたことは幸運だともいえる。

 だけど――

 (嘘だ……)

 目の前でエレノアを目にしてもなお、アレクは信じられない。モンテジュナルが正常に機能しているのなら、エレノアにこんな真似ができるはずがない。

 ケルトと言い争った夜。モンテジュナルでなにが起きているのかという問いに彼は答えなかった。

 だけどエレノアならきっとその答えを知っている。訊ねたいことは山ほどあるが状況が悪い。

 ただその想いを乗せてエレノアをみることしかアレクにはできなかった。

「おいおい。俺よりこっちの女の方が好みなのかよ? 傷つくぜ、まったく」

 声をかけた自分には見向きもせずエレノアを凝視するアレクに、ヘソを曲げたゲイリーは呆れ顔を浮かべる。ふたりが捕らわれた理由などまったく興味はないようだった。
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