アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第四章

確証

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「……なんだって?」

「王族の刻印を彫る技術士は限られています。そしてごく一部の者しか知らないことなのですが、王族お抱えの技術士は必ず隠れ細工をすることになっているのです。この馬車の花紋にはそれがない。つまりこれは摸造です」

 覚醒したロナルドはアレクの言葉を反芻はんすうする。王族を示す花紋の摸造だって? 

「それが本当なら大罪だぞ」

「もちろんです。反逆罪で死刑は免れないでしょう。ここスタローン王国はモンテジュナルとも交流があります。花紋の照合はたやすいはず。自国にモンテジュナルの花紋を真似た馬車が入国したとなれば、大ごとではないですか? きっと騎士団も即座に動くはずです。これは国際的な問題に発展する事態なのですから」

 青ざめたロナルドは愕然としてその場に立ち尽くした。問題はそれだけではない。王族の花紋を摸造したこの馬車は、この国の大臣官邸内に停車しているのだ。それがなにを意味するのか。

 さすがに総督とて見逃すことはできないだろう。

「いますぐに総督に連絡を……」

「待って下さい。もしかしたら……あるかもしれません」

 慌ててその場を離れようとしたロナルドの前でアレクはおかしそうに笑って御者台の中に乗り込むと、ごそごそとなにかを探し始めた。

「アレク、なにをしているんだい?」

「ああ、やっぱりありました」

 そして数枚の紙を手に取って降りてきた。

「これは王族から発行された入国許可証です。王族の名を冠して他国に入国する際には必ず必要なものですが、ここに捺印されているものも偽物ですね。これがあれば証拠になると思います。ゴドリュースとは違う名目にはなりますが、家宅捜査の許可さえ取れれば問題ないのではありませんか?」

 そこには確かにモンテジュナルの第一王子の名と捺印。だが日常的に関わりの薄い者からみれば一見して偽物だと判断しがたい。けれどアレクは偽物だと断言した。それこそ間違いであれば大ごとだろう。

 しかしモンテジュナルの風習に詳しいこと。現王族の影名や国政に通じていること。ケルトとの会話。そして高度な教育による知識。それらの事柄がアレクがモンテジュナルの王族と近しい人間であることをますます濃厚にしていく。

 この確信めいた眼差しといい、おそらく疑う余地はないのだろう。

 それなら、お手柄だと褒め称えるべきだ。しかしロナルドはそうすることができなかった。

 感嘆の念を抱くと同時に一抹の不安が胸をよぎったから。

 もしかしたら、ここにアレクを連れてきたのは間違いだったのではないか。アレクに関して深く知れば知れほどその想いは深まっていく。

 ロナルドだけが知り得た情報はただ口をつぐんでいればいい。

 だけど他者に知られたら最後、アレクは自分の手を離れてしまう気がして。

「副隊長! まだですか!? 早く行かないと見つかってしまいますよ!」

 不意に馬車の影から顔をのぞかせたニックが辺りを警戒しながら声をかけてきた。

「ニック。いま戻るところだよ。それよりも、これを総督のもとへ届けてくれるかい。モンテジュナルの王族の名を偽装した不法侵入者がオクルール官邸に滞在中だと話してくれ。そのため緊急的な措置を要する、とね」

 ニックの登場に驚いて振り返ったロナルドは小さく苦笑をもらし、偽装許可証を手渡した。

「王族の名を偽装した不法侵入者ですって? まさか!」

「声が大きいよ。それを見せればきっと事実であることが判明するだろう。総督も見過ごせないはずだ。もう時間がない。急いで捜査許可を取ってきてくれ。頼むよ」

「はっ、必ず!」

 にわかには信じがたい大罪だ。それも次期右大臣候補といわれているオクルール官邸でそんなことが起きているとは。間違いなら、それこそ侮辱罪で投獄されてしまう。

 確かにここ最近ロナルドの判断に慎重さが欠けていると感じることも多かったが、大事な場面で間違いを起こしたことはない。いままでのロナルドへの信頼と尊敬の念がニックを後押しする。きっとなにか確信があってのことなのだろう。

 力強くうなずき返すと、胸元に許可証を大切にしまい込んだ。

 その直後。

「何者だ」

 アレクとロナルドの背後から、背筋をなでるような低い声が落ちた。反射的にニックは馬車の影に身を隠す。

 ハッとして垣根の方に視線を向ければ、仲間たちが必死の形相で玄関を指さしていた。

(しまった! 気づくのが遅れた!)

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