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第四章
ドルシェ・アモンド
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一方。偽の通過許可証を手にしたニックは王宮へ到着。門番に許可証を手渡し総督に取り次ぎを願い出ていた。
「まだか……!」
数分足らずで総督から呼び出しがかかるはずもない。わかっていても落ち着くことなどできず、そわそわと王宮を見上げる。
門番から騎士団へそれから騎士団長へ、そして総督へ。その度にいちいち確認が入るのだ。内容が内容だけに念入りな確認が行われるだろう。
必要な手順だと理解はできるが、一刻も早い総督の許可が必要ないま、真っ先に総督に手渡してもらいたいというのがニックの本音である。
総督に直談判できるならそれが一番手っ取り早いのだが、そう簡単にもいかない。
なにごとも手順、手順、手順である。
アレクの手前、手順に則るのが規則だといったものの、あんなものは建前にしか過ぎない。一分一秒を争う場で手順などクソ食らえだ。
そもそも警備隊の申請など歯牙にもかけない上の連中は、こういった面倒な手順を省く緊急対策を持ち合わせない。
逆の見方をすれば、簡単に下からの申請が上がってこないように仕組んでいるのだ。その腐った体制のせいで、何度警備隊が悔し涙を飲んだかわからない。
しかし国王の命に関わるような事件がこうして起きているのに、このままでいいのだろうか。
考えたところでなにも変わらないし、変えられない。
そうしてみんな泥沼に足を踏みこんで溺れていく。思うように動けなくて息苦しくても、綺麗な水など忘れてそこに浸るのが当たり前なのだと受け入れる。
それがこの国の政体なのだ。
だがそれでも、今回ばかりは目を覚まさなくては。総督とてきっと同じに違いない。信じて待つのだ。
ニックは不安で折れそうになる心をなんとか支え直す。それから間もなくして宮殿の扉が開き、奥から数名の騎士が鎧に身を包んで現れた。
それを目にしたニックは目を輝かせる。
よかった。門前払いだけは免れた。時間も想定したより早い。これなら間に合うかもしれない!
それはそうだろう、国王の命がかかっている一大事に目を背けては反逆罪に値する。
冷静に考えれば当然のことだったとニックは己の不安を嘲笑った。
「おまえが此度の通報をした第一警備隊のニックか」
「はっ! 緊急を要する事態のため、このような時間に大変恐縮ではありますが総督に取り次ぎを願い出ました。どうかご検討頂きたい」
「入れ。騎士団長がお会いになる」
「はっ! 感謝致します」
ニックは敬礼をした後、左右を騎士たちに挟まれる形で生まれて初めて王宮の中へと足を踏み入れた。
豪華絢爛とはまさにこのこと。泥砂で汚れた靴で歩むことさえためらわれる、磨き上げられた大理石の廊下。
白亜と金細工で見事に調和された柱や壁。見上げるほど高い半円状の天井には見事な壁画が見渡す限り一面に描かれていた。
壁に飾られた絵画はどれも名のある画家の作品だろう。芸術に造詣の薄いニックではその価値を理解することは叶わなかったが、どれも美しく目に留まる。
黄金の台座の上には動物などの彫刻品が本物以上の迫力と躍動感で静止しており、いまにも動き出してきそうだった。
どれもこれも目にしたことがない物ばかりで、緊急事態だというのに目移りばかりしてしまう。
「この部屋だ。入れ」
騎士の背中を追いながらキョロキョロと見渡していると、浮かれた気分をピシッと叩くように、騎士がそう告げた。
大きな金細工の施された白亜の扉。ここが国王様の部屋だといわれてもニックは疑わなかっただろう。
「し……失礼致します!」
やっと観光気分から脱し、ニックは緊張した面持ちでノックをした。
「入れ」
中から聞こえた声にさらに緊張は高まる。まさか今生で騎士団長と会えるとは夢にも思っていなかった。思うところは山ほどあっても、やはり騎士団というのは憧れだ。
開かれた部屋に足を踏みこみ、ニックは一礼する。続いて案内してくれた騎士たちが後列に並んだ。
「初めましてニック。わたしが騎士団長、ドルシェ・アモンドである。よく来てくれたと前置きをしたいところだが、状況は急を要するようだ。早速本題に入らせてもらおう」
ドルシェ・アモンド騎士団長は鎧を身につけておらず、普段の制服姿で黒い牛革の椅子にゆるりと腰掛けていた。
室内が王宮内と同じく白を基調としているため、自然と目が行く。
後ろに撫でつけた黒髪はやや艶にかけ白髪が交じっていた。浅黒い肌に刻まれた皺や、年齢を補って余る体格。机の上で許可証を持つその手は指先一本に至るまで鍛え抜かれているのが容易に見てとれる。
ただそこに腰掛けているだけなのに、全身から溢れる威風堂々としたその風格。ニックはごくりと喉を鳴らした。
「まだか……!」
数分足らずで総督から呼び出しがかかるはずもない。わかっていても落ち着くことなどできず、そわそわと王宮を見上げる。
門番から騎士団へそれから騎士団長へ、そして総督へ。その度にいちいち確認が入るのだ。内容が内容だけに念入りな確認が行われるだろう。
必要な手順だと理解はできるが、一刻も早い総督の許可が必要ないま、真っ先に総督に手渡してもらいたいというのがニックの本音である。
総督に直談判できるならそれが一番手っ取り早いのだが、そう簡単にもいかない。
なにごとも手順、手順、手順である。
アレクの手前、手順に則るのが規則だといったものの、あんなものは建前にしか過ぎない。一分一秒を争う場で手順などクソ食らえだ。
そもそも警備隊の申請など歯牙にもかけない上の連中は、こういった面倒な手順を省く緊急対策を持ち合わせない。
逆の見方をすれば、簡単に下からの申請が上がってこないように仕組んでいるのだ。その腐った体制のせいで、何度警備隊が悔し涙を飲んだかわからない。
しかし国王の命に関わるような事件がこうして起きているのに、このままでいいのだろうか。
考えたところでなにも変わらないし、変えられない。
そうしてみんな泥沼に足を踏みこんで溺れていく。思うように動けなくて息苦しくても、綺麗な水など忘れてそこに浸るのが当たり前なのだと受け入れる。
それがこの国の政体なのだ。
だがそれでも、今回ばかりは目を覚まさなくては。総督とてきっと同じに違いない。信じて待つのだ。
ニックは不安で折れそうになる心をなんとか支え直す。それから間もなくして宮殿の扉が開き、奥から数名の騎士が鎧に身を包んで現れた。
それを目にしたニックは目を輝かせる。
よかった。門前払いだけは免れた。時間も想定したより早い。これなら間に合うかもしれない!
それはそうだろう、国王の命がかかっている一大事に目を背けては反逆罪に値する。
冷静に考えれば当然のことだったとニックは己の不安を嘲笑った。
「おまえが此度の通報をした第一警備隊のニックか」
「はっ! 緊急を要する事態のため、このような時間に大変恐縮ではありますが総督に取り次ぎを願い出ました。どうかご検討頂きたい」
「入れ。騎士団長がお会いになる」
「はっ! 感謝致します」
ニックは敬礼をした後、左右を騎士たちに挟まれる形で生まれて初めて王宮の中へと足を踏み入れた。
豪華絢爛とはまさにこのこと。泥砂で汚れた靴で歩むことさえためらわれる、磨き上げられた大理石の廊下。
白亜と金細工で見事に調和された柱や壁。見上げるほど高い半円状の天井には見事な壁画が見渡す限り一面に描かれていた。
壁に飾られた絵画はどれも名のある画家の作品だろう。芸術に造詣の薄いニックではその価値を理解することは叶わなかったが、どれも美しく目に留まる。
黄金の台座の上には動物などの彫刻品が本物以上の迫力と躍動感で静止しており、いまにも動き出してきそうだった。
どれもこれも目にしたことがない物ばかりで、緊急事態だというのに目移りばかりしてしまう。
「この部屋だ。入れ」
騎士の背中を追いながらキョロキョロと見渡していると、浮かれた気分をピシッと叩くように、騎士がそう告げた。
大きな金細工の施された白亜の扉。ここが国王様の部屋だといわれてもニックは疑わなかっただろう。
「し……失礼致します!」
やっと観光気分から脱し、ニックは緊張した面持ちでノックをした。
「入れ」
中から聞こえた声にさらに緊張は高まる。まさか今生で騎士団長と会えるとは夢にも思っていなかった。思うところは山ほどあっても、やはり騎士団というのは憧れだ。
開かれた部屋に足を踏みこみ、ニックは一礼する。続いて案内してくれた騎士たちが後列に並んだ。
「初めましてニック。わたしが騎士団長、ドルシェ・アモンドである。よく来てくれたと前置きをしたいところだが、状況は急を要するようだ。早速本題に入らせてもらおう」
ドルシェ・アモンド騎士団長は鎧を身につけておらず、普段の制服姿で黒い牛革の椅子にゆるりと腰掛けていた。
室内が王宮内と同じく白を基調としているため、自然と目が行く。
後ろに撫でつけた黒髪はやや艶にかけ白髪が交じっていた。浅黒い肌に刻まれた皺や、年齢を補って余る体格。机の上で許可証を持つその手は指先一本に至るまで鍛え抜かれているのが容易に見てとれる。
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