アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第四章

抜け出せない泥沼

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「きみが持ち込んだこの入国許可証だが……誠に驚くべきことに偽物であることが判明した。決して看過すべき事柄ではない。それゆえ、詳しい話をきみの口から聞かせてもらいたいのだ」

 詳しい話、といってもニックはアレクとロナルドの会話を聞いていない。途中から割って入ったあげく偽の許可証を手渡され、不法入国者がオクルール官邸に滞在中だと告げられただけだ。

 それに通行許可証のことだけを話しても、前後のあらましがわからなければ警備隊の動向に疑念が生じてしまうかもしれない。

 そのためニックは一から話すことにした。ゴドリュースに関するホーキンスの証言、それに基づくゲイリー・ヴァレットの捜査。そしてオクルール官邸に辿り着き、その場でこれを発見したのだと。

「ふむ。しかし、なぜ急にホーキンスは口を割ったのかね。きみは不思議に思わんか。それが偽証であると疑問に思わなかったのかね」
 
「それはわかりません。尋問官も急な態度の変化に疑いを持ったようですが、ひとつひとつ証言の確認を取ったところ全て事実であると判明したのです」
 
「ほおう……」

 ドルシェは興味深そうに目を細める。そのきっかけがなんであったか知りたそうな顔だ。

 しかしニックは答えを持ち合わせない。本当なら警備隊の手柄として意気揚々と報告したいのだが、実のところよくわからないのだ。

 アレクが副隊長の言伝を告げたらそうなった、としか。

「この通行許可証を見つけたのはロナルド副隊長かね」
 
「いえ。我々は止めたのですが、確認したいことがあると言いだしたのはアレクです。おそらく彼が見つけたのだと思われます」

 ロナルドへの批判を回避すべく、ニックはきっぱりと言い切った。勝手なことをしたのはアレクだ。副隊長は付き添っただけに過ぎない。
 
「アレクか……この偽装許可証を見破るとは、よほどモンテジュナルに精通している人間のようだな」

 そう、なのだろうか。

 アレクは地下街で見つかりマーリナス隊長が保護を申し出たと聞いた。本当なら身寄りのない子供は保護区に移送されるはずだが、隊長は優しい人間だ。思うところがあったのだろうと、たいして気に留めていなかった。

 アレクに関してはそれ以外ほとんど情報がないが、ロナルド副隊長が補佐として任命するほどなのだから有能な人材なのかもしれない。

 だけどアレクが来てから副隊長が少し変わったように思える。ひとつひとつの出来事は些細でも、じわじわと積み重なるその違和感はニックを苛立たせた。

「しかしアレクは元々地下街で発見された身寄りのない子供です。買いかぶりではないでしょうか」

 騎士団長までアレクを褒めたことが気に食わなかったニックはつい毒を吐く。

 あいつはそんな人間じゃない。ぽんと現れてロナルド副隊長の心に入り込み、警備隊の統率をかき乱した愚か者。

 あいつがオクルール官邸に侵入しなければ副隊長だってあんな目に遭わずに済んだのに。

 騎士団長は高貴な身分の家柄だ。地下街にいた子供と聞けば嫌悪すると思っていたが、予想に反してドルシェの反応は意外なものだった。

「ほう。この国の地下街にいたのかね?」
 
「そうです。バロン・メリオスという大罪人に飼われていたのです。そんな子供が他国に精通しているとは考えれませんが」
 
「確かにそうだな。実に興味深い」

 興味深い? ニックは首を傾げる。騎士団長ともあろう者が放浪者に興味を持つのか?

「それで、そのアレクとかいう少年はいまどこに?」

「アレクですか?」

 なぜアレクのことを訊ねるんだ? いまはそれどころではないのに。

 不審に思いながらもニックは表情を引き締める。正直に答えていいものだろうか。オクルール官邸に捕らわれてしまったなどと。
 
「実は……官邸からお招きを受けたので、いまは副隊長と一緒に中にいます」

 なんとも曖昧な返事だと思ったが、官邸から敵視されていると明確に伝えるのはまずい。大臣の意向に沿ってドルシェ騎士団長が肩を持つと困る。

「きみは招かれなかったのかね」
「これを総督に渡すのがわたしの役目でしたので」
「ふむ。ではきみの役目はここで終わりだな」
「え?」
 
「捕らえろ」

 一瞬、なにをいわれたのかニックには理解できなかった。壁際に並んでいた騎士たちが一斉に動き出し、ニックを拘束するそのときまでは。

「な……っ!?」
 
「これは本物だ。きみを含める第一警備隊はオクルール大臣官邸に不法侵入を働いたあげく滞在する客人を不法侵入者だと告げた。それは大臣に対する侮辱罪である。音沙汰があるまで牢に入り、反省するといい」
 
「そんなはずは……! 話を聞いて下さい、騎士団長っ!」

 ずるずると連行されながらニックは真っ青になって叫び続けた。だが堅く閉ざされた扉はニックの声を完全に遮断する。

 静けさを取り戻した部屋でドルシェは手にした通行許可証を机の上に放り投げた。

「まったく。警備隊なんぞに尻尾をつかませるとはオクルール大臣にも困ったものだ。この借りは右大臣になられた暁にきちんと返して貰いますからな」

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