106 / 146
第四章
命がけの策士
しおりを挟む
「なにごとだ!」
オクルールが入り口に向かって叫ぶと、青ざめたメイドが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。
「警備隊です! 数は三百ほど。とても抑えきれません。大臣は裏手からお逃げ下さい!」
「なんだと!」
その場にいた全員が血相を変える。ゲイリーは真っ先にアレクの縄を解き、手を引いて立ち上がった。
「逃げるぜ、ハニー」
「えっ、ロナルドが!」
「置いていけ」
「やだ……待って!」
テーブルに並んだゴドリュースに向かってエレノアとオクルールが飛びつく。そのとき、慌てたオクルールの足が横たわるロナルドの腹に当たった。
コンッと靴先が硬いなにかに触れる。そしてころころと転がった透明な球を目にした。朱い絨毯の上でぼんやりと青白い光を点滅させるそれ。
「なんだ……これは」
「ははっ、やりやがったな!」
それがなにか瞬時に悟ったゲイリーは腹を抱えて笑いだした。ゴドリュースをトランクに押し込めながらエレノアは叫ぶ。
「魔道具です! きっといままでの会話が全部録音されてるわっ!」
ロナルドは横たわりながら力ない笑みを浮かべる。バレたか、と。
「下手したら通信機能までついてるかもな。これだけの数の警備隊が乗り込んできたんだ。確証がなければこないだろうぜ」
ゲイリーはニヤリと笑ってロナルドを見る。
その予想は大当たりだ。
アレクが馬車を確認したいと言いだしたとき、機に乗じて潜入の可能性を見いだしたロナルドは、ひっそりとそのときを待っていた。あのときニックが現れたのは幸いだったのである。
そして記録装置をずっと懐に隠し持ち、この部屋にきたときに作動させた。通信機能も付加してあるそれは、作動と同時に対となる魔道具に繋がる仕組みとなっている。
そしてその対となる魔道具を持つのは……
官邸内の騒音を聞きながらロナルドは口元を緩める。
オクルールは怒りのあまり眼を血走らせてにらみつけた。
警備隊ふぜいがこのオクルールに楯突くとは。おとなしく権力の下に埋もれておればいいものを。
総督の許可は取っていないはずだ。それなのに官邸に押し入るとは、この男といいよほど怖いもの知らずな指揮官がいるとみえる。
しかしこうも派手に動かれては官邸に警備隊が押し入ったことは周知の事実。加えてゴドリュースに関する会話の録音までもある。
国王とて楽観視はしないだろう。いくら言い訳を並べてみたところで、警戒されるのは明白。右大臣の座に登る道は……潰えた。
いままで歯牙にもかけていなかった警備隊に、出世の道を潰された怒りでオクルールは激昂した。
「ゲイリー。悪いが約束は反故する」
オクルールは傍にいた執事の腰元から勢いよく剣を引き抜いた。シャンデリアの輝きを反射し天に掲げられた刃。
アレクは目を丸くする。
「ロナルドっ!」
アレクはゲイリーの手を振り払い、地を蹴ってロナルドに覆いかぶさる。
オクルールは怒りの滲んだ大きな眼を見開いて、構わずに真っ直ぐ刃を振り下ろした。硬く目を閉ざし、身構えたアレクの頭上で。
キン……ッ!
硬質な音が短く響いた。
静寂が差しこみ、凛とした空気がその場に吹く。
ロナルドは薄目を開けて笑う。目は霞むし、あたまはくらくらする。それでも、そこにいるとわかるから。
「遅い、ですよ……隊長」
「無茶をする」
呆れたような声が頭上から降った。
オクルールが入り口に向かって叫ぶと、青ざめたメイドが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。
「警備隊です! 数は三百ほど。とても抑えきれません。大臣は裏手からお逃げ下さい!」
「なんだと!」
その場にいた全員が血相を変える。ゲイリーは真っ先にアレクの縄を解き、手を引いて立ち上がった。
「逃げるぜ、ハニー」
「えっ、ロナルドが!」
「置いていけ」
「やだ……待って!」
テーブルに並んだゴドリュースに向かってエレノアとオクルールが飛びつく。そのとき、慌てたオクルールの足が横たわるロナルドの腹に当たった。
コンッと靴先が硬いなにかに触れる。そしてころころと転がった透明な球を目にした。朱い絨毯の上でぼんやりと青白い光を点滅させるそれ。
「なんだ……これは」
「ははっ、やりやがったな!」
それがなにか瞬時に悟ったゲイリーは腹を抱えて笑いだした。ゴドリュースをトランクに押し込めながらエレノアは叫ぶ。
「魔道具です! きっといままでの会話が全部録音されてるわっ!」
ロナルドは横たわりながら力ない笑みを浮かべる。バレたか、と。
「下手したら通信機能までついてるかもな。これだけの数の警備隊が乗り込んできたんだ。確証がなければこないだろうぜ」
ゲイリーはニヤリと笑ってロナルドを見る。
その予想は大当たりだ。
アレクが馬車を確認したいと言いだしたとき、機に乗じて潜入の可能性を見いだしたロナルドは、ひっそりとそのときを待っていた。あのときニックが現れたのは幸いだったのである。
そして記録装置をずっと懐に隠し持ち、この部屋にきたときに作動させた。通信機能も付加してあるそれは、作動と同時に対となる魔道具に繋がる仕組みとなっている。
そしてその対となる魔道具を持つのは……
官邸内の騒音を聞きながらロナルドは口元を緩める。
オクルールは怒りのあまり眼を血走らせてにらみつけた。
警備隊ふぜいがこのオクルールに楯突くとは。おとなしく権力の下に埋もれておればいいものを。
総督の許可は取っていないはずだ。それなのに官邸に押し入るとは、この男といいよほど怖いもの知らずな指揮官がいるとみえる。
しかしこうも派手に動かれては官邸に警備隊が押し入ったことは周知の事実。加えてゴドリュースに関する会話の録音までもある。
国王とて楽観視はしないだろう。いくら言い訳を並べてみたところで、警戒されるのは明白。右大臣の座に登る道は……潰えた。
いままで歯牙にもかけていなかった警備隊に、出世の道を潰された怒りでオクルールは激昂した。
「ゲイリー。悪いが約束は反故する」
オクルールは傍にいた執事の腰元から勢いよく剣を引き抜いた。シャンデリアの輝きを反射し天に掲げられた刃。
アレクは目を丸くする。
「ロナルドっ!」
アレクはゲイリーの手を振り払い、地を蹴ってロナルドに覆いかぶさる。
オクルールは怒りの滲んだ大きな眼を見開いて、構わずに真っ直ぐ刃を振り下ろした。硬く目を閉ざし、身構えたアレクの頭上で。
キン……ッ!
硬質な音が短く響いた。
静寂が差しこみ、凛とした空気がその場に吹く。
ロナルドは薄目を開けて笑う。目は霞むし、あたまはくらくらする。それでも、そこにいるとわかるから。
「遅い、ですよ……隊長」
「無茶をする」
呆れたような声が頭上から降った。
1
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
※2025/11 プロローグを追加しました
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元軍人の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる