129 / 146
第五章
運命への歩み
しおりを挟む「時間だ」
地下牢では時間の経過がわからない。
静かで陰鬱とした空間では考えないようにしていても、次々と悪い考えがあたまを巡る。
何度も振り払い、大丈夫だと強く念じても答えは待ってくれない。あるべき未来へと時間は動き出してしまうのだ。
鉄格子の鍵を開ける騎士の手つきをじっと見つめ、アレクはゆっくりと腰を上げる。
牢から出てみればケルトやマーリナス、そしてロナルドの姿があった。
みな表情が硬い。でもきっと緊張とは違うものだ。凜とした表情には不安や恐怖の色などない。窺えるのは、ついにこの時がきたのかという覚悟。
この国の国王がアレクの素性を知り、どういった行動に出るのか。その答えを出す術はもう向き合う他にないのだから。
普段からあまり表情を崩すことのないマーリナスはもとより、ロナルドはいまから戦闘にでも出向くように顔を引き締め、ケルトは瞳の奥に静かな炎を宿らせる。
それはアレクも同じこと。
この先、何が待ち受けているのかなんてアレクにも分からない。でも一晩中考えて出した答えはただひとつ。何があってもマーリナスだけは守ること。
そのために何が出来るのか、どうすべきなのかも分からない。
けれどそれだけは自分の命を引き換えにしてでも必ず守る。そう決めた。
「アレク様のお命はわたしがお守りします」
「行こう、ケルト」
「はい」
覚悟を決めた二人は肩を並べて歩き出す。その後ろにはマーリナスとロナルドがついた。
石階段を上り切れば、いつもと変わらない朝日。商店街で賑わう市民地区とは違って、ここの空気は澄んでいる。食べ物や花の匂い。そういったものから隔離されたこの城はよくいえば荘厳さに満ち、悪くいえば活気がない。
しかし清涼とした空気が運んでくるものは、ひとの腹に潜む黒い大蛇の匂い。隙あれば取って食おうとする闇の気配だ。
私利私欲の思惑がとぐろを巻く城では、容易に息を吐き出すこともままならない。
まわりを隙なく取り囲む騎士は無言のまま道を誘導している。
妙な威圧が彼らから発せられ、それがまた余計に息苦しかった。
アレク達は特に言葉を交わすこともなく付き従う。この先に待つスタローン国王のもとへ。この先に待つ、運命へと。
以前スタローン王国に赴いたのはいつだっただろう。
高くそびえる白亜の外壁、正面扉に向けて真っ直ぐに伸びた白い石畳。
王宮内に入り込んでもまだ、記憶にかすりもしない。昔、父の外交に同行して何度か訪れたことがあるはずなのに。
まるで厳戒態勢でも敷いているようだ。大広間へ続く廊下にはびしりと槍を携えた騎士が両脇をしめていた。その真ん中をアレク達は歩む。
しばらく進んだのちに、一際豪奢な扉の前で先導していた騎士が足を止めた。両脇に立つ守衛の甲冑は廊下に並んでいた騎士のものとまた一風違った装い。
ここが特別な部屋であることは想像するまでもなかった。
「アレクと従者のケルト。そして第一警備隊のマーリナス・シュベルツァ。副隊長のロナルド・ハーモンドだ。国王と謁見の予定があるゆえ、お連れした。通せ」
「はっ」
軋む音すら立てずに大きな扉が開け放たれる。正面には真っ直ぐに伸びたレッドカーペット。そして壇上には二つの玉座。そのひとつにビロードのマントと威容な王冠を掲げた男が腰掛けている。
少し遠くにその姿を捉えたアレクは肩に落としていたローブのフードを深く被った。
フードを被ったまま謁見するなど非礼であることは十分承知の上。それでも自衛反応がでてしまう。
一秒、数コンマでも正体が露見する時間を引き延ばしておきたかった。
騎士が足を止めた場所でアレク達は横一列に並び、その場に跪いた。国王の御前である。
「スタローン王国三十八代目国王、ジュリアス・ロッド・スタローンである。我の呼びかけによくぞ応じてくれた。礼を言うぞ」
みながそろって口を結び、恭しく首を下げる。
ジュリアス・ロッド・スタローン。
モンテジュナルとはアレクが亡命する時までそれなりに友好関係のあった王だ。
王という立場に生まれついたものの、臆病な気質で取り引きには慎重を欠くことがない。地下街の魔窟を放置しているのも報復を恐れているからだと、まことしとやかに噂されているほど。
けれどその反面、狡猾な性格でもある。
地下街の連中は上層にいる貴族達に甘い蜜を吸わせる働き蜂なのだ。表からも裏からも蜜を吸って肥え太ったのがこの王国。
そしてこのジュリアス・ロッド・スタローンである。
0
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
※2025/11 プロローグを追加しました
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元軍人の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる