アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第五章

ロンテ・ミリナス

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「だが安心せよ。我も鬼ではない。その力を証明したのち、そちが余の従者として尽くすと誓うなら、二人に処罰は与えぬ。それは約束しよう」

「本当……ですか」

「国王たる余の言葉を信じぬか、アレク」

 大理石の床に視線を落としたまま震える声で問いかけるアレクに、ジュリアスはほくそ笑む。

 アレクの耳に届いたその言葉はとても甘い誘惑に満ちている。両者の命はいま、天秤にかけられた。ホーキンスとエレノアか、マーリナスとロナルドか。

 悩むまでもなく答えは出る。
 だけど――

「やめろ、アレク」

「ここで俺たちの命を救っても、より多くの死者が出る。そのことにきみは耐えられないだろう。命令に従う必要はないよ」

 マーリナス、次いでロナルドが声を上げて立ち上がる。ケルトもまた国王を睨みつけ立ち上がった。

「国王だと思って下手したてに出ていれば。あんた一体どういうつもりなんだよ。呪いを使ってひとを殺せっていうのか? それが一国の王がすることかよ!」

「無礼な! わきまえよ!」

「大体さっきから気になってたんだけど、そこにいるローブの奴。魔女の芳香がだだ漏れなんだよ。ここにいるだけで気分が悪くなる。そのことは知ってんのか?」

「魔女の芳香だと?」

 エレノアの脇に黙って佇むローブ姿の人間を指さしてケルトが唸りをあげる。

 魔女の芳香という聞き慣れない言葉に首を傾げたマーリナスの傍らでは、アレクが目を丸くしてローブ姿の人間を振り返る。

 じっと目を凝らしてみたところでおかしな所は見当たらない。

 だけどアレクは知っている。ケルトには視る目があること。

 ケルトが持つその能力は、血筋による影響が大きいと言われている。

 かつて魔術を行使できた者、占術に長けていた者。それらを総じて、ロンテ・ミリナスの末裔と呼ぶ。彼らだけが視る目を備えているのだ。

 ロンテ・ミリナスはこの世に初めて魔術を生み出した者。

 彼は自身の血肉を媒体とした魔術を生み出したが、その過程でひとつ大きな発見をした。媒体とする血肉にはあらかじめ魔力が備わっていなければならないということ。

 魔術は自身の血に宿る魔力を源とする。

 一方で魔法は魔術と違い、研磨を重ねれば誰しもが行使できるもの。

 目に映ることはないが、いまも自分達の周囲に満ちているだろう魔法の源は、その土地に満ちる精霊の恩恵とされる。精霊に呼びかける呪文を介して力を借り受け、行使する。

 そのため個々に相性の良し悪しがあり、簡単に行使できる者とそうでない者に分かれる。

 水の豊かな地に生を受ければ水魔法が得意となったり、火山近くの小さな街では年端もいかない子供が中級の火魔法を操ることもあるらしい。

 ケルトは前者。ロンテ・ミリナスの末裔の一人である。

 そのためケルトの一族は長年モンテジュナルの王室に仕えていた。アレクの両親、または兄に至るまで従者として一族が付き従う。それは当然、術者の死を以てしか解除することが適わない魔術から王族を守るため。

 だからケルトの言葉を疑う理由などない。それでもアレクは問わずにいられなかった。

「嘘でしょ、ケルト。本当なの?」

「間違いありません。きっと俺が地下街で見た奴と同じです。禍々しいオーラが体中から漏れていますから。おい、そいつは何者なんだよ」

 じっとローブ姿の人間を睨みつけ、無作法な言葉を投げかけるケルトにジュリアス王は大して気を悪くした様子もなく、むしろ待っていましたとばかりに鼻で笑ってみせた。

「おまえが誰か知りたいそうだ。顔を見せよ」

 鼻先まで深く被ったフードに手をかけ、すっと後ろに下ろしたその男は鬱陶しげに首元の留め金を外し、ローブを脱ぎ捨てた。

 鳶色の短髪に頬に刻まれた大きな傷痕。筋骨隆々とした腕に奔る二頭の蛇。俯いた顔をゆっくりと上げたその男の名は――

「ベイン……」
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