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第五章
真実を明かすもの
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アレクは驚愕に言葉を失う。
ゲイリー捜索時、地下街でロナルドを襲ったベイン。彼に関しては不明なところが多い。
あの後、再度ロナルドにも確認したのだが、ベインは間違いなくモーリッシュ共々ベローズ王国警備隊に捕まった。いまはベローズ王国に向かって帰還している最中だと。
世界的にみても国を股にかけるベローズ王国警備隊の水準は高く、連行中に取り逃がすような失態を犯すとは考えにくい。
あの包囲網をどのように抜け、この国に舞い戻ったのか。そしてなぜロナルドを見つけ、襲ったのか。様々な疑念が頭をよぎるが、この現状が一番理解に苦しむ。
「なぜ……ここにいるの?」
「魔女の言葉を伝えに」
「魔女の…言葉……?」
魔女。それは魔術を行使する女性に用いられた言葉。魔術が廃止されたいま禁句となっているその言葉に、国王ジュリアス・ロッド・スタローンはなんの反応も示さない。
きっと信じていないのだろう。
バレリアの呪いは悪用すれば利用価値の高いものだ。あり得ないと不信を抱いても、本当にあるのなら手に入れたい。そう思ったのかもしれないが、現在も魔女が存在するという話まで信じるかどうかと問われたなら、答えは否。
矛盾しているが、都合の良いことだけを信じるというこの姿勢はジュリアス・ロッド・スタローンの性格に適っていた。
「余に申したことを、いま一度申してみよ」
薄ら笑いを浮かべる国王の言葉にベインが応える。だけどロナルドに見せた狂気的な覇気は微塵もなく、ぼんやりとした虚ろな表情を映して。
『モンテジュナルの第二王子、アレクシス・フォン・モンテジュナルは病死したとされている。だがそれは偽り。彼はバレリアの呪いを宿し国から追放され、いまもなお人知れず永らえている。この者――ベインもその呪いに侵された一人。わたくしの言葉を信じよ。そしてアレクシス王子を手に入れよ。さすればスタローン王国の繁栄は、未来永劫約束されることになるであろう』
ゆったりと謳うようにベインの口から紡がれたその言葉にアレクは眉を寄せて聞き入る。
ベインの声じゃない。
声は二重になって聞こえていた。酒で焼けたようなしゃがれた声と滑らかな女の声だ。
さらにいうなら、ベインの心が乗った言葉じゃない。どこか機械的な台詞に乗せたその声はベインの口調とはまるで別物。違う人間がベインの口を通して語りかけているのだ。
それは言葉を発しているベインを他者のように指摘していることからも明らか。そしてベインを操っているのが誰なのかもアレクには理解できた。
痛々しいほど顔を歪め、嗚咽を漏らすごとくその名を吐き出す。
「バレリア……」
マーリナス、そしてロナルドは驚愕の表情でアレクを振り返り、ケルトはギリギリと歯を噛みしめてベインを睨みつけた。
敵意を剥き出しにしたケルトの視線など意に介さず、ベインは笑う。
顔立ちはベインそのものなのに、その表情に女の笑みが重なったように見えたのは思い違いではないだろう。この顔を見るのは二度目だったのだから。
ベインは語る。艶めかしく、地の底から呻く亡霊の嘆きを言霊に乗せて嘲笑う。
『アレクシス王子。もう誰もおまえを助けたりしない。そこにいる人間を守りたいのなら、この国に仕えよ。そして自身の呪いで他の人間を呪い殺すといい。それがおまえに与えられた宿命なのだ』
「ふざけるなっ!」
憤慨したケルトがベインに向かって走る。ベインを殴ったところで何も解決しないのは分かりきったことだ。それでも黙って聞いているなんて出来ない。
頭より先に体が動いたケルトを騎士が遮る。取り押さえられたケルトは必死に暴れ回るが、騎士はびくともしなかった。
「その反応を見るからに、この男の言うことはでまかせではないようだ。そうなのだろう? 王室から見放されたアレクシス王子よ。余の従者となれ。さすればこの国の繁栄と共に英華を極めることができよう。余の手を取るのだ」
「断る」
きっぱりとそう告げたのはアレクではなく。
「マーリナス……」
ゲイリー捜索時、地下街でロナルドを襲ったベイン。彼に関しては不明なところが多い。
あの後、再度ロナルドにも確認したのだが、ベインは間違いなくモーリッシュ共々ベローズ王国警備隊に捕まった。いまはベローズ王国に向かって帰還している最中だと。
世界的にみても国を股にかけるベローズ王国警備隊の水準は高く、連行中に取り逃がすような失態を犯すとは考えにくい。
あの包囲網をどのように抜け、この国に舞い戻ったのか。そしてなぜロナルドを見つけ、襲ったのか。様々な疑念が頭をよぎるが、この現状が一番理解に苦しむ。
「なぜ……ここにいるの?」
「魔女の言葉を伝えに」
「魔女の…言葉……?」
魔女。それは魔術を行使する女性に用いられた言葉。魔術が廃止されたいま禁句となっているその言葉に、国王ジュリアス・ロッド・スタローンはなんの反応も示さない。
きっと信じていないのだろう。
バレリアの呪いは悪用すれば利用価値の高いものだ。あり得ないと不信を抱いても、本当にあるのなら手に入れたい。そう思ったのかもしれないが、現在も魔女が存在するという話まで信じるかどうかと問われたなら、答えは否。
矛盾しているが、都合の良いことだけを信じるというこの姿勢はジュリアス・ロッド・スタローンの性格に適っていた。
「余に申したことを、いま一度申してみよ」
薄ら笑いを浮かべる国王の言葉にベインが応える。だけどロナルドに見せた狂気的な覇気は微塵もなく、ぼんやりとした虚ろな表情を映して。
『モンテジュナルの第二王子、アレクシス・フォン・モンテジュナルは病死したとされている。だがそれは偽り。彼はバレリアの呪いを宿し国から追放され、いまもなお人知れず永らえている。この者――ベインもその呪いに侵された一人。わたくしの言葉を信じよ。そしてアレクシス王子を手に入れよ。さすればスタローン王国の繁栄は、未来永劫約束されることになるであろう』
ゆったりと謳うようにベインの口から紡がれたその言葉にアレクは眉を寄せて聞き入る。
ベインの声じゃない。
声は二重になって聞こえていた。酒で焼けたようなしゃがれた声と滑らかな女の声だ。
さらにいうなら、ベインの心が乗った言葉じゃない。どこか機械的な台詞に乗せたその声はベインの口調とはまるで別物。違う人間がベインの口を通して語りかけているのだ。
それは言葉を発しているベインを他者のように指摘していることからも明らか。そしてベインを操っているのが誰なのかもアレクには理解できた。
痛々しいほど顔を歪め、嗚咽を漏らすごとくその名を吐き出す。
「バレリア……」
マーリナス、そしてロナルドは驚愕の表情でアレクを振り返り、ケルトはギリギリと歯を噛みしめてベインを睨みつけた。
敵意を剥き出しにしたケルトの視線など意に介さず、ベインは笑う。
顔立ちはベインそのものなのに、その表情に女の笑みが重なったように見えたのは思い違いではないだろう。この顔を見るのは二度目だったのだから。
ベインは語る。艶めかしく、地の底から呻く亡霊の嘆きを言霊に乗せて嘲笑う。
『アレクシス王子。もう誰もおまえを助けたりしない。そこにいる人間を守りたいのなら、この国に仕えよ。そして自身の呪いで他の人間を呪い殺すといい。それがおまえに与えられた宿命なのだ』
「ふざけるなっ!」
憤慨したケルトがベインに向かって走る。ベインを殴ったところで何も解決しないのは分かりきったことだ。それでも黙って聞いているなんて出来ない。
頭より先に体が動いたケルトを騎士が遮る。取り押さえられたケルトは必死に暴れ回るが、騎士はびくともしなかった。
「その反応を見るからに、この男の言うことはでまかせではないようだ。そうなのだろう? 王室から見放されたアレクシス王子よ。余の従者となれ。さすればこの国の繁栄と共に英華を極めることができよう。余の手を取るのだ」
「断る」
きっぱりとそう告げたのはアレクではなく。
「マーリナス……」
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