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第一章
第一章②
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古風な手法の割に文面は手書きではなく、味気ないゴシック体の印字で、なんだか拍子抜けだ。
獅子王悠翔様
いかがお過ごしでしょうか。今年の夏は涼やかで、大変過ごしやすい日々が続いていますね。
高校時代、軽音部で過ごした熱い夏の日々をとても懐かしく感じます。あの時わたしたちはみんな、音楽に熱狂し、バンドを組み、たかが部活動ながらも一生懸命に活動していましたね。
無事に大人になったみなさんがどうなっているのか、とても気になっています。
懐かしい思いをわかちあうため、この度は密やかな同窓会なるものを開催したく、お手紙を送りました。
しあわせの村はご存知ですか?
宿泊者に幸福を呼び込むとまことしやかに噂される場所です。
そこでみなさんの過去と現在を分かち合いたいと計画を練り上げました。
日時、九月十日土曜日から二泊三日。
集合場所、長野県音無村(おとなしむら)駅前 九月十日の午後二時集合。
軽音部同窓会に向けて掲示板を立ち上げました。下記URLにアクセスして下さい。連絡はそちらにて行います。開催までのカウントダウンや意見交換など、自由に書き込みしてください。
参加するかどうかのご連絡は下記メールアドレスに送って下さっても結構です。
みなさまのご参加を愉しみにしています。それではまた会いましょう。
常葉高校軽音部より。
なんだ、同窓会の誘いかよ。
悠翔はがっくりと肩を落とす。
成人式の時に中学校の同窓会が開催されたきり、同窓会は一度も行われていない。
しかし、何故二十四歳という微妙な年齢に同窓会を開くのか。
「悠翔さん、軽音部だったんすか? どうりでカラオケ上手いと思ったんすよ」
早瀬の賛辞に悠翔は苦笑する。
「世辞でも嬉しいぜ、ありがとな」
「いやいや、オレ、悠翔さんが歌手だったら間違いなくファンになってました」
早瀬が拳を握って力説する。歯が浮きそうだと思うのと同時に、苦々しい味が喉の奥に込み上げる。
真剣な顔で手を差し出してきた大嫌いな男の端正過ぎる顔と、悲壮に眉根を寄せた美しい女の顔が脳裏に同時に甦った。
今日は何かと二人を思い出す。どちらも忘れようとしていた顔なのに。
「なあ、しあわせの村ってなんだ?」
「知らないんすか? 宿泊すると幸せが訪れるって噂の村ですよ。長野のどっかにある廃村全体を宿泊施設にしてて、村ごと貸し切れるんすよ。辺鄙な場所だけど、密かに人気らしいっす」
悠翔は片眉を吊り上げた。
「幸せが訪れるねえ……」
「座敷童の宿みたいなものじゃないっすかね。行ってみたかったんすけど、半年先まで予約が埋まってました」
「そんなに人気なのか?」
頷きながら早瀬が卵焼きを口の中に放り込む。
「うまっ。悠翔さん料理上手いですよね。仕事も家事もできるって最高にかっこいいっす。一人暮らしは就職で上京してからって言ってたのに、なんでそんなに家事カンペキなんすか?」
「昔からやっていたからな」
「学生時代から家事を手伝うなんて、立派っすね」
きらきらした目で褒める早瀬に曖昧に笑い返す。
心の奥底に沈めた箱がキシリと軋むのを感じた。思い出せば囚われる、開けてはならないパンドラの箱。
「いいなあ、しあわせの村。感想聞かせて下さいよ」
「いや、まだ行くと決めたわけじゃねぇよ」
「え、せっかくだから行ったらいいのに。予約困難な話題スポットっすよ」
「だが、九月十七日は大規模音楽イベントの取り仕切りをしなくちゃいけねぇしな」
「九月十二日の月曜に休んでも、悠翔さんなら四日もあれば余裕ですよ。むしろ十七は土日返上なんすから、先に休みとっといたらいいじゃないすか」
「ありがてぇが、別にそこまで行きたいわけじゃねぇよ」
「ええっ、パワースポットで同窓会なんて滅多にない体験だし、仕事の足しになるかもだし。行くべきですよ。その、悠翔さんが泊まったらどんな場所か感想聞きたいし……」
尻つぼみになった言葉に悠翔は密かに苦笑する。
「じゃあ、休めそうなら行ってくるよ」
「オレ、悠翔さんが休めるよう全力で援護します!」
「ありがとな、早瀬」
早瀬の肩を優しく叩くと、悠翔は手紙と弁当袋を手に立ち上がった。
ふっと風が悠翔の薄茶色の柔らかな癖毛を揺らして首筋を撫でた。冷凍庫が吐き出したようなぞっとする風に身震いをする。
なんとなく、手の中の白い手紙に視線を落とす。
一瞬だけ真っ白な骨に見えて背筋がぞくりとした。
獅子王悠翔様
いかがお過ごしでしょうか。今年の夏は涼やかで、大変過ごしやすい日々が続いていますね。
高校時代、軽音部で過ごした熱い夏の日々をとても懐かしく感じます。あの時わたしたちはみんな、音楽に熱狂し、バンドを組み、たかが部活動ながらも一生懸命に活動していましたね。
無事に大人になったみなさんがどうなっているのか、とても気になっています。
懐かしい思いをわかちあうため、この度は密やかな同窓会なるものを開催したく、お手紙を送りました。
しあわせの村はご存知ですか?
宿泊者に幸福を呼び込むとまことしやかに噂される場所です。
そこでみなさんの過去と現在を分かち合いたいと計画を練り上げました。
日時、九月十日土曜日から二泊三日。
集合場所、長野県音無村(おとなしむら)駅前 九月十日の午後二時集合。
軽音部同窓会に向けて掲示板を立ち上げました。下記URLにアクセスして下さい。連絡はそちらにて行います。開催までのカウントダウンや意見交換など、自由に書き込みしてください。
参加するかどうかのご連絡は下記メールアドレスに送って下さっても結構です。
みなさまのご参加を愉しみにしています。それではまた会いましょう。
常葉高校軽音部より。
なんだ、同窓会の誘いかよ。
悠翔はがっくりと肩を落とす。
成人式の時に中学校の同窓会が開催されたきり、同窓会は一度も行われていない。
しかし、何故二十四歳という微妙な年齢に同窓会を開くのか。
「悠翔さん、軽音部だったんすか? どうりでカラオケ上手いと思ったんすよ」
早瀬の賛辞に悠翔は苦笑する。
「世辞でも嬉しいぜ、ありがとな」
「いやいや、オレ、悠翔さんが歌手だったら間違いなくファンになってました」
早瀬が拳を握って力説する。歯が浮きそうだと思うのと同時に、苦々しい味が喉の奥に込み上げる。
真剣な顔で手を差し出してきた大嫌いな男の端正過ぎる顔と、悲壮に眉根を寄せた美しい女の顔が脳裏に同時に甦った。
今日は何かと二人を思い出す。どちらも忘れようとしていた顔なのに。
「なあ、しあわせの村ってなんだ?」
「知らないんすか? 宿泊すると幸せが訪れるって噂の村ですよ。長野のどっかにある廃村全体を宿泊施設にしてて、村ごと貸し切れるんすよ。辺鄙な場所だけど、密かに人気らしいっす」
悠翔は片眉を吊り上げた。
「幸せが訪れるねえ……」
「座敷童の宿みたいなものじゃないっすかね。行ってみたかったんすけど、半年先まで予約が埋まってました」
「そんなに人気なのか?」
頷きながら早瀬が卵焼きを口の中に放り込む。
「うまっ。悠翔さん料理上手いですよね。仕事も家事もできるって最高にかっこいいっす。一人暮らしは就職で上京してからって言ってたのに、なんでそんなに家事カンペキなんすか?」
「昔からやっていたからな」
「学生時代から家事を手伝うなんて、立派っすね」
きらきらした目で褒める早瀬に曖昧に笑い返す。
心の奥底に沈めた箱がキシリと軋むのを感じた。思い出せば囚われる、開けてはならないパンドラの箱。
「いいなあ、しあわせの村。感想聞かせて下さいよ」
「いや、まだ行くと決めたわけじゃねぇよ」
「え、せっかくだから行ったらいいのに。予約困難な話題スポットっすよ」
「だが、九月十七日は大規模音楽イベントの取り仕切りをしなくちゃいけねぇしな」
「九月十二日の月曜に休んでも、悠翔さんなら四日もあれば余裕ですよ。むしろ十七は土日返上なんすから、先に休みとっといたらいいじゃないすか」
「ありがてぇが、別にそこまで行きたいわけじゃねぇよ」
「ええっ、パワースポットで同窓会なんて滅多にない体験だし、仕事の足しになるかもだし。行くべきですよ。その、悠翔さんが泊まったらどんな場所か感想聞きたいし……」
尻つぼみになった言葉に悠翔は密かに苦笑する。
「じゃあ、休めそうなら行ってくるよ」
「オレ、悠翔さんが休めるよう全力で援護します!」
「ありがとな、早瀬」
早瀬の肩を優しく叩くと、悠翔は手紙と弁当袋を手に立ち上がった。
ふっと風が悠翔の薄茶色の柔らかな癖毛を揺らして首筋を撫でた。冷凍庫が吐き出したようなぞっとする風に身震いをする。
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一瞬だけ真っ白な骨に見えて背筋がぞくりとした。
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