しあわせの村

都貴

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第一章

第一章⑤

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 困り笑いを浮かべる細面の男に光司が首を捻る。

 光司は困惑顔で他の軽音部のメンバーを振り返った。

 午後二時に音無村駅前にしあわせの村まで送ってくれる車が迎えに来ると、同窓会の掲示板に書いてあった。この細面の男はその迎えの人間じゃないのか。

 視線で問いかける光司に、悠翔と真澄以外はみんな首を傾げる。

 細面の青年が誰なのか、みんなまだわかっていないようだ。自分も彼について忘れかけていたから半分くらい同罪だが、同じ軽音部だった仲間を完全に忘れてしまって思い出せないなんて、薄情な奴らだ。

「みんな僕よりも薄情じゃないか。ねえ、悠翔」
「真澄の言う通りだぜ。こいつはしあわせの村の管理人じゃねぇよ。なあ、竜太」

 悠翔が親しげに笑い掛けると、細面の男、竜太は静かに笑った。

「はい、一色竜太です。みなさんお元気ですか?」
「お、おー。オレは元気だった。オマエも元気そうじゃん」

 光司がツンツンと立てた短い金髪を掻きながら、気まずそうに笑う。他のメンバーも困った顔で目を泳がせている。

 静流は竜太の名前に憶えがあったようで、不敵な笑みで彼に近付いた。

「久しぶりだな、透明人間」
「ああっ、そうだ。キミ、透明人間クンだ!」

 静流の言葉で記憶が呼び起こされたらしく、さっきまで眉をハの字に下げていた夏生が嬉しそうに笑う。
 透明人間という呼び名を聞いて、エリサと光司もようやく納得した顔になった。

「あら、インビジブルも来たのね。本当に久しぶりじゃない」
「おお、竜太か。ワリ、ついさっきまでオレ、オマエのことすっかり忘れてたわ。さっすが透明人間だな!」

 悪びれもせずに笑うエリサと光司に悠翔は小さく肩を竦めた。

「竜太、コンタクトにしたんだな。似合ってんぜ」

 悠翔の言葉に竜太が恥ずかしそうに小さく頷く。

「竜太って眼鏡かけてたっけ。オレ覚えてねーわ」

 光司はマジマジと竜太の顔を見て首を捻った。

「光司は記憶力がないな。黒い額縁眼鏡を掛けていただろう。顔の印象は薄いが、眼鏡だけはやたらと印象的だったぞ」
「静流くんったら、顔の印象が薄いなんて酷いよ」

 莉乃が叱ると、静流はつんと顔を逸らした。

「本当のことだろうが。お前達だって、一色のことを覚えてなかった癖に」
「そ、そんなことないもん。ねえ、夏生」

 同意を求める莉乃に、夏生はぽりぽりと頬を掻いた。

「う、うーん。ごめん、ボク、竜太のこと忘れてたかも」
「ふふ、夏生ちゃんはとっても正直だねえ」
「笑わないでよー、真澄。ボク、頭悪くて記憶力よくないもん。しょうがないじゃんか。それに、竜太って静かで目立たない子だったもん。そうでしょ、エリサ」
「そうね。なんたってインビジブルだもの。ある種の才能だわ」
「確かにスゲーよな、スパイとかできそうじゃね?」
「何を言っているんだ、光司。一色にできるのはせいぜい舞台の黒子かストーカーぐらいだろう」
「ははっ、静流キッツイなー。竜太カワイソー」

 賑やかな笑い声が響くのを、悠翔は辟易として眺めていた。真澄も飄々と笑っているものの、瞳が冷めきっている。時折思い出したかのように開催される竜太弄りには、悠翔も真澄も昔からうんざりしていた。

 もう一台車がロータリーに走ってきた。

 にこやかに笑う、気のよさそうな田舎のおじさんという風情の初老の恰幅のいい男性が、窓から身を乗り出して手を振る。
 彼を目にした時、悠翔はほんの少し心が騒めくのを感じた。どこかで見たことがある。そんな気がした。

「しあわせの村にご宿泊のみなさん、お待たせしてすみません。村の管理人の志村です。どうぞ乗って下さい」

 今度こそ本当にしあわせの村行きの車が来た。光司と静流がまっさきに車に乗り込む。その瞬間、志村が僅かに歪に唇の端を歪ませたように見えた。

「よかったらボクの車にも乗ってください」
「ありがとな、竜太」

 なんとなく志村の車には乗りたくなかった。悠翔は遠慮なく竜太のバンの後部座席のドアを開けた。
 すかさず、隣に真澄が乗り込んでくる。

「なんでこっちに来るんだよ。お前はでかいから向こうの車に乗れ」
「いいじゃない、悠翔。光司君と一緒だと五月蠅そうだし、僕と同乗だと静流君が嫌がるからさ。僕がいても構わないよね、一色君」
「はい、どうぞ」
「あの、一色君。私もこっちに乗せて。静かな方がいいの」
「いいですよ。乗ってください」
「どうもありがとう」

 有亜が助手席に荷物を置き、後部座席の端っこの方にじっと蹲るように座った。

「あの、こんにちは、獅子王君、白川君」

 黒髪の長い姫カットに物静かな美少女めいた顔立ち。まったく昔と変わっていない有亜が、無表情で小さく頭を下げる。

「久しぶりだな、有亜」
「有亜ちゃん、昔とかわらずお人形さんみたいで可愛いね」

 軟派めいた言葉を口にする真澄に、有亜が白い頬をぱっと朱に染めて俯いた。

 顔が良けりゃ誰でも片っ端から口説きやがって。
 悠翔は呆れた顔で真澄を見る。
 視線に気付いた真澄が意地悪な目を向けてきた。

「大丈夫だよ、悠翔。君も昔と変わらず可愛らしいよ」
「嫌味か、クソ野郎め」

 悠翔は鼻を鳴らした。

 前を行く志村の大きな車を追いかけて、竜太が運転するバンが走り出す。駅を出てすぐの道は道がきちんとアスファルト舗装されており、コンビニやビルはないものの、スーパーや学校、小さな診療所や民家がポツポツと点在している。

 車はまず、一際大きなスーパーで停車した。
 志村にここで宿泊中に必要な食材を買い揃えるよう言われ、悠翔達は車を降りた。

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