魔王大戦紀 あるいは竜姫杏珠の物語

みやび

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第一章 幼年期 

4 竜神の祠参り

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村を案内してほしいという万桜を連れて、ボクは竜の祠へと足を運んだ。
ここは村の信仰の中心となる場所である。
といっても、みんなでかわるがわる掃除をして、年に4回ぐらい祠の前で宴会をして飲んで楽しむといった使われ方をしている場所であり、それ以上の儀式が行われるのを見たことがないけど。

祠は小さな石造りの建物である。中には竜神様の像が収められているだけだ。

「へえ、竜神信仰ね」
「何か知ってるの?」
「うちの国にある竜神大社も同じ神様祭ってるからね。といっても瑞穂全体から見るとマイナーなほうだけど」
「へー、マイナーなんだ。ボクはこの神様しか知らないけど、そんなにいっぱい神様がいるんだね」

ひとまず二人で竜神様にお祈りをする。
両手を合わせてパン、と手を打ち、そのあと頭を下げて拝む。

「この竜神様の像、何でできてるんだろう。きれいだね」
「わかんないけど、きれいだよね」

竜神様の像は小さなもので、手のひら二つ分ぐらいの大きさしかないが、日光を反射して七色に光る不思議なものだ。とてもきれいなので、これをまず万桜ちゃんに見せたかったのだ。
案の定万桜ちゃんも気に入ってくれたようだ。

「何お祈りしたの?」
「村でお世話になりますって一応ね」
「万桜ちゃんは真面目だなぁ」
「そういう杏珠ちゃんは何をお祈りしたの?」
「今日の夕飯は猪鍋がいいなって」
「それ竜神様にお祈りしなくてもおばあちゃんたちにお願いすればいいじゃない」
「なんかいったら負けな気がする」

ボクがお願いすればまずかなうのだが、それをしたら負けな気がするのだ。
だから基本料理のリクエストは、聞かれない限り言わないようにしていた。
だから竜神様にお願いするのだ。

「でも、竜神様あんまりかなえてくれないんだよね。大体一割ぐらい」
「そりゃそうでしょ…… 竜神様にお願いすることじゃないよ」
「そんなものかな」
「そんなものだよ」

やれやれ、といった目でボクを見る万桜ちゃん。
万桜ちゃんから見るとボクはかなり変わった娘さんらしい。

「で、どうするの? ここでしばらくお話してもいいと思うけど。きれいだし」

祠はちょっと高いところにあるので、村も見えれば海も見える、風景のいいところだ。
ここで二人でお話してるのも楽しそうだけど、目的地は別にある。

「この奥に入ってみようよ」
「え、ここって入っていいの?」
「ダメとは言われてないよ」

祠の後ろに洞窟があるのだ。そこに今日は入ってみようと万桜ちゃんを誘うが、万桜ちゃんは若干腰が引けている。

「こういうところって竜神様のお家だから、入っちゃいけないんじゃないかな」
「前おじいちゃんに聞いたら気を付けるんじゃぞ、といわれただけだから多分大丈夫」

洞窟は薄暗くて、一人で入る勇気はなかったので入ったことはないが、万桜ちゃんと二人なら入れる気がする。
大人たちにお願いしたこともあるが、これだけは誰一人として同行してくれなかったのだ。
本当に入っちゃいけないのか、大人が入っちゃいけないのか、その辺はよくわからなかったが、入りたがるボクを止める人はいなかったので、多分大丈夫だろうと思っていた。

「でも真っ暗じゃない。危ないよ」
「そういうときのために、『光よ!』」

竜神語で呪文を唱えると、指先に光の玉が現れる。
そう強い光ではないが、これなら大丈夫だろう。
術は、村のマリばあちゃんから教えてもらったものだ。
そんなすごいことはできないが、細かいところに手が届く便利なもので、簡単なものならボクでも使える。

「え、杏珠ちゃん、術師だったの?」
「術師って威張れるほどじゃないよ。光を出すのと、水を出すのと、火種を出すぐらいしかできないもの」

物語で時々術師は出てくるが、とてもすごい術を使うのだ。地を割って敵を飲み込んだり、平原一面を焼け野原にしたり、そういったことができるのである。
ボクができることなんて、今言ったこと以外は、そよ風を起こすとか、土を盛り上げて躓かせるとか、それくらいしかできない。せいぜいひよっこ術師、といったところだろう。
最低でもマリばあちゃんみたいに、火の術で魚が焼けるぐらいじゃないと術師といっちゃいけない気がする。

「いや、簡単な術でも使えたら術師だよ。すごいね、杏珠ちゃん」
「もっと褒めていいよ!」
「えらいえらい」
「えへへへへ」

豆知識や、こういったプチすごいことをすると、すぐに万桜ちゃんは褒めて頭を撫でてくれる。
村の人も大げさに驚いたりしてくれるが、万桜ちゃんの褒めるのは自然なのでとても楽しいのだ。

「じゃあ、さっそく入ってみよう。はい、これ」
「この光の玉って受け渡しできるの?」
「できるよ、ほら」
「わっ、ほんとだすごいね」

指と指を合わせると、光の玉は万桜ちゃんの指先に移った。
自分の分は再度術を使って指先に出現させる。

「それじゃあ出発~」
「危なかったらすぐ戻るからね?」
「はーい」

そうしてボクたちは、洞窟の中へとすすんでいくのだった。
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