瑞原大学物語 ~ボクと狐ちゃんのほのぼのキャンパス生活~

みやび

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ボクと狐ちゃんのキャンパス巡り 4

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手続きが無事終わって安心したらしく、クーちゃんはお茶に手をかけた。

「これ美味しいねぇ。ペットボトルのロイヤルミルクティーと似た味がする」
「あれもチャイティの一種だからね」
「チャイティ?」
「インド式のミルクティだよ。煮出してつくる紅茶だよ」
「へー」
「低級の茶葉を美味しく飲む方法らしいけど、おいしいよねぇ」
「確かにおいしいね、甘くて」

のんびりと少しずつミルクティをすするクーちゃん。その速度は非常にゆっくりだった。クーちゃんは全体的にゆっくりでそれがまたお嬢様っぽい。昨日の稲荷寿司の時だけは別人のように無駄に速かったけど。

「そういえばショウちゃんって、紅茶派?」
「紅茶派、コーヒー苦手なんだよね。クーちゃんは?」
「私も紅茶派。家だと緑茶ばっかりだけど外だと紅茶が飲みたくなる」
「おうち神社だもんね」
「そういえば、ショウちゃんが飲んでいるの、私のとちょっと違う? シナモンっぽい香りがするけど」
「こっちはスパイスが入っているからね。マサラチャイっていうの。ちょっと大人の味」
「へー、一口ちょうだい」
「はい」

実際のマサラチャイに入れるスパイスが何かとかよく知らないので、入れているスパイス自体は適当だ。ボクのカップの方からするスパイスの香りに気付くクーちゃんは、狐だからなのか、クーちゃん個人の能力なのかは知らないが、かなり鼻がよいようだ。

「こっちもおいしいね。ふふふ、間接チューしちゃった」
「気にするほどじゃないでしょう。小学生じゃないんだし」
「えー、ちょっと照れてくれてもいいんじゃない」
「この程度で照れていたらやっていけないでしょ」

ボクにカップを返しながら、そんなことをのたまうクーちゃん。高校時代に回しのみなんて、同性だけでなく異性とだってやっていた。今更したぐらいで照れるものじゃないと思うしそもそもズボンをめくってパンツを確認してきた奴の言うセリフではないと思う。

「でも本当においしいねぇ。もしかして葉っぱもいいやつだったりするの?」
「ウバのFOPだね。値段は安いよ」
「ウバ? えふおーぴー?」
「FOPはフラワリーオレンジペコ、先の新芽だけを使っているよっていう意味だね。葉っぱの等級で、一番上っていう意味だね」
「じゃあウバっていうのは?」
「産地の名前。セイロン島、インドの近くにある島のウバ地方で作っている紅茶だよ。世界三大茶葉らしいね」
「高そう!!!」
「でも200gで600円ぐらい」
「安かった!!」
「なじみのお茶屋さんが直輸入とかで買っているやつだからね」
「へー」

性別が変わる前から通っているお茶屋さんで買った紅茶の葉だがリプトンの紅茶より安かったりする。あそこのお茶屋さんのおばちゃんとおじさんは、見た目どころか性別すら変わってしまったボクのことをショウと認識してくれている。電車で一駅の場所だが、月に一度は必ず行って何かを買っている、そんななじみのお茶屋さんだった。
同じ等級の紅茶を紅茶専門店で買ったらおそらく4,5倍の値段がするだろう。

「紅茶の値段って、基本的にブレンド料だから、ブレンドしてないのは安いんだよ。まあその分味は年ごとにばらつくんだけど」
「ショウちゃん詳しいねぇ。何でも知ってるショウちゃんだ」
「何でもは知らないよ、知っていることを知っているだけ。あと岩波新書のおかげ」
「謎の岩波新書押しであった」
「好きなんだもの、岩波新書」

本だったら大体好きだが、岩波新書は最近のマイブームなのである。今も呼んでないのが10冊溜まっていて、机の端に積んである。授業まであと5日はあるし、全部読み切って追い10冊も読み切る予定である。

「ごちそうさま、おいしかったよ」
「ん、コップはあとで片づけるから机の上に置いておいて。これからどうする?」
「キャンパス巡り再開、と行きたいけどその前におひるごはんかな」

時計は10時半を回ったぐらいである。まだ早いが、今日の10時から入学式であるのを考えると、この近辺の食事屋さんはどこも混雑してそうである。早めに入っておこうというのは正しいかもしれない。

「お昼ご飯かー、どこか目星付けている場所、ある?」
「なんにもー」
「じゃあ、一つ行きたい場所があるんだけど。ちょっとお高いかもだけど」
「高くてもいいよー、入学祝なのだ」
「嫌いなものとかない? 大丈夫?」
「トマトは嫌い」

嫌そうに顔をしかめて、耳をぺったり伏せさせながら。そんなことを言うクーちゃん。どれだけトマト嫌いなんだか……

「で、何のお店に行くつもりなの?」
「うなぎ屋さん。行ってみたかったんだ」
「おお、昼間から豪勢だ。それじゃあいってみよー!」

元気よく立ち上がるクーちゃん。尻尾と裾がふわっと揺れる。
甘いはちみつと紅茶の香りに交じって、クーちゃんの香りが鼻をくすぐった。
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