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25、普通の本屋にはないから見つけたらすぐに買え
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「終わったよ」
長い長い、無駄に長いアニメ映画が終わり、響季が声をかけると、眠りからゆっくりと覚醒した零児が、んんー、と伸びをした。
薄い胸が前方に突き出される。
その様子を、響季は眼鏡を外した死んだ目で見ていた。
ぬるぬると動くCGバトルシーンと大迫力の音楽に酔ってしまい、途中から眼鏡を外していた。
「最近の劇場版アニメってすげえんだな…」
目頭を指で抑えながら、響季が言う。
きっちり最後までスタッフロールを見て、エンディング曲を聴いた後、ぞろぞろと大きなお友達が出口へ向かう。そのゆっくりとした大きな波に女子高生二人が後からついていくと、
「さむい。ねむい」
目を擦りながら零児が自然に、ごく自然に響季と手を繋ぐ。
場内の空調で冷やされた零児の手はひんやりしていて、響季は心臓を掴まれたようだった。
「どこ行くの?」
徐々にアーモンドアイを覚醒させながら、零児が訊くが、
「えっ、と…、どこいこっか」
「なんのプランもないの?」
自分から誘っておいて、響季は何の計画も立てていなかった。どうせ巨大ショッピングモールなら、女子高生二人が見て回るところなどいくらでもあるからだ。
「あっ、じゃあプリクラでも撮る?」
響季がそんな提案をする。
本当はどこかに座って、お茶でも飲んで話したかった。訊きたいことがたくさんあった。話したいこともたくさんあった。
なのにプリクラを撮り、ぎこちない字で初デート記念などと書き込んでいた。
その後二人は雑貨屋に行き、服屋を覗き、本屋に寄った。
店を見て回りながら、響季はジャージ素材などのスポーツMIXかパンツ系、零児は古着か、すとんとした女の子らしいラインの服を着ることをお互い知った。
帽子屋に入るが、被ってみるだけで暑苦しいから特にいらない。
靴屋でミュールやサンダルを見て、響季は零児の通学用靴がローファーでないということを、零児は響季が最近靴を買うのは専らネットだということを告げられた。
ルームの職員さんたちが言っていたように、本当に女の子同士で気ままにだらだらと遊ぶのと変わらない。
CDショップの前を通ると、天井近くに吊り下げられた薄型モニターにアイドル声優のPVが流れていた。
聴き覚えのあるメロディに響季がモニターを見ると、よく聴いているラジオのパーソナリティが歌っていた。確か少し前に出した新曲だ。
ハウススタジオで撮影した映像を適当に繋げたような、ただ口パクで歌っているだけのPV。
それが終わるとマイナーなビジュアル系バンドのPVが流れ、それも終わるとさっきとは違う、お金のかかった本格アーティスト志向な声優のPVが流れる。
その後はテレビの音楽番組でも見かけるJ―POPアーティストのPV、そして電波系アニソンが本編アニメーションを編集し、PV風に仕上げた映像が流れる。
「ごっちゃごちゃだな」
モニターを見上げながら響季が言う。
最新オリコンチャートかと思ったら、どうやらアニメソングに特化したチャートらしい。
J―POPアーティストやビジュアル系バンドがアニソンを歌うことは昨今珍しくもないので、ベタなアニソンやアイドル声優ソングがそれらと入り乱れ、傍から見たらどういうチョイスのなのかわからない。が、その全てがアニソン、アニメタイアップという糸で繋がっていた。
声優ラジオをよく聴く為、響季は自然とアニソンやアニメタイアップ曲を耳にする機会が多い。
アニソンは予想以上に一般人の生活に食い込んできていた。
それは目に見えないプロパガンダがこの国をゆっくりと、とても平和で大変愉快なやり方で制圧しているようで響季は決して嫌いではなかった。
ふと見ると零児が店内にあるフリーペーパーを何枚か貰っていた。
活字中毒、という言葉が響季の頭に一瞬だけ浮かんで消えた。
「あっ」
アニメショップの前を通ると、零児の目が壁一面に並ぶカプセルフィギアの販売機を捉えた。
巨大ショッピングモールだけあってより多くの客層をカバーするため、こういう店もきちんとある。さっき映画館内にいた大きいお友達も数人いた。
「ちょっと見たい」
「えっ?ああ…。うん。行っといで」
響季から承諾を得ると零児は店舗に走り寄り、真剣な眼差しで、壁に並んだ販売機を時にはしゃがみ、時には背伸びして一つ一つ吟味する。
そして販売機の前面に入れられたPOP台紙でフィギアの出来を確認して、どの販売機のハンドルを回すか決める。
響季はクールなデート相手の意外な一面を見た。その目が店の方に向けられる。
置いている商品はアニメグッズやアニソン新譜、コスプレ衣装、漫画やアニメDVD、同人誌、同人誌を描くための道具。
加えてあちこちにあるモニターから最新アニメの映像がひっきりなしに流れていた。
明るく、騒々しいのに特殊な雰囲気を放つ店内。客は自分達と歳は変わらなそうなのに、どこか纏う空気が違う。
彼らは本物の空気を放っていた。踏み込むのを躊躇うほどの。
その躊躇っているうちの一人である響季が店の入り口近く、平積みにされた本に目をやると、
「あっ!」
ドゥンナ!立ち業フルコンタクト 奮戦記 というタイトルの本が目に付いた。
響季がずっと探していたラジオ本だった。
少年声系若手女性声優と総合格闘家という、異色コンビパーソナリティ二人の対談や、このために撮り下ろしたコスプレグラビア、収録レポマンガ、いつもの収録後の飲み会の様子、普段は聞くことが出来ないスタッフインタビューなどが収録されている。
そして歴代コーナーの中で、リスナーから送られてきた特に面白いネタが収録されていた。
もしかしたら自分が送ったネタが掲載されているのでは、と響季はずっと探していた。普通の書店では見つけづらく、ネットで買うか、こういった特殊な店でしか扱っていない。
「買うしかないッ」
先ほどの躊躇などどこへやら、響季はすぐさま本を手に取り、本物達の間を泳ぐようにしてレジへと向かう。
ツインテールの女性店員に、ポイントカードを作るか聞かれるが断る。
レジ横にはイケメン声優のラジオ番組のDVDが、店員による気合と愛のこもった手書きポップで紹介されていた。
長い長い、無駄に長いアニメ映画が終わり、響季が声をかけると、眠りからゆっくりと覚醒した零児が、んんー、と伸びをした。
薄い胸が前方に突き出される。
その様子を、響季は眼鏡を外した死んだ目で見ていた。
ぬるぬると動くCGバトルシーンと大迫力の音楽に酔ってしまい、途中から眼鏡を外していた。
「最近の劇場版アニメってすげえんだな…」
目頭を指で抑えながら、響季が言う。
きっちり最後までスタッフロールを見て、エンディング曲を聴いた後、ぞろぞろと大きなお友達が出口へ向かう。そのゆっくりとした大きな波に女子高生二人が後からついていくと、
「さむい。ねむい」
目を擦りながら零児が自然に、ごく自然に響季と手を繋ぐ。
場内の空調で冷やされた零児の手はひんやりしていて、響季は心臓を掴まれたようだった。
「どこ行くの?」
徐々にアーモンドアイを覚醒させながら、零児が訊くが、
「えっ、と…、どこいこっか」
「なんのプランもないの?」
自分から誘っておいて、響季は何の計画も立てていなかった。どうせ巨大ショッピングモールなら、女子高生二人が見て回るところなどいくらでもあるからだ。
「あっ、じゃあプリクラでも撮る?」
響季がそんな提案をする。
本当はどこかに座って、お茶でも飲んで話したかった。訊きたいことがたくさんあった。話したいこともたくさんあった。
なのにプリクラを撮り、ぎこちない字で初デート記念などと書き込んでいた。
その後二人は雑貨屋に行き、服屋を覗き、本屋に寄った。
店を見て回りながら、響季はジャージ素材などのスポーツMIXかパンツ系、零児は古着か、すとんとした女の子らしいラインの服を着ることをお互い知った。
帽子屋に入るが、被ってみるだけで暑苦しいから特にいらない。
靴屋でミュールやサンダルを見て、響季は零児の通学用靴がローファーでないということを、零児は響季が最近靴を買うのは専らネットだということを告げられた。
ルームの職員さんたちが言っていたように、本当に女の子同士で気ままにだらだらと遊ぶのと変わらない。
CDショップの前を通ると、天井近くに吊り下げられた薄型モニターにアイドル声優のPVが流れていた。
聴き覚えのあるメロディに響季がモニターを見ると、よく聴いているラジオのパーソナリティが歌っていた。確か少し前に出した新曲だ。
ハウススタジオで撮影した映像を適当に繋げたような、ただ口パクで歌っているだけのPV。
それが終わるとマイナーなビジュアル系バンドのPVが流れ、それも終わるとさっきとは違う、お金のかかった本格アーティスト志向な声優のPVが流れる。
その後はテレビの音楽番組でも見かけるJ―POPアーティストのPV、そして電波系アニソンが本編アニメーションを編集し、PV風に仕上げた映像が流れる。
「ごっちゃごちゃだな」
モニターを見上げながら響季が言う。
最新オリコンチャートかと思ったら、どうやらアニメソングに特化したチャートらしい。
J―POPアーティストやビジュアル系バンドがアニソンを歌うことは昨今珍しくもないので、ベタなアニソンやアイドル声優ソングがそれらと入り乱れ、傍から見たらどういうチョイスのなのかわからない。が、その全てがアニソン、アニメタイアップという糸で繋がっていた。
声優ラジオをよく聴く為、響季は自然とアニソンやアニメタイアップ曲を耳にする機会が多い。
アニソンは予想以上に一般人の生活に食い込んできていた。
それは目に見えないプロパガンダがこの国をゆっくりと、とても平和で大変愉快なやり方で制圧しているようで響季は決して嫌いではなかった。
ふと見ると零児が店内にあるフリーペーパーを何枚か貰っていた。
活字中毒、という言葉が響季の頭に一瞬だけ浮かんで消えた。
「あっ」
アニメショップの前を通ると、零児の目が壁一面に並ぶカプセルフィギアの販売機を捉えた。
巨大ショッピングモールだけあってより多くの客層をカバーするため、こういう店もきちんとある。さっき映画館内にいた大きいお友達も数人いた。
「ちょっと見たい」
「えっ?ああ…。うん。行っといで」
響季から承諾を得ると零児は店舗に走り寄り、真剣な眼差しで、壁に並んだ販売機を時にはしゃがみ、時には背伸びして一つ一つ吟味する。
そして販売機の前面に入れられたPOP台紙でフィギアの出来を確認して、どの販売機のハンドルを回すか決める。
響季はクールなデート相手の意外な一面を見た。その目が店の方に向けられる。
置いている商品はアニメグッズやアニソン新譜、コスプレ衣装、漫画やアニメDVD、同人誌、同人誌を描くための道具。
加えてあちこちにあるモニターから最新アニメの映像がひっきりなしに流れていた。
明るく、騒々しいのに特殊な雰囲気を放つ店内。客は自分達と歳は変わらなそうなのに、どこか纏う空気が違う。
彼らは本物の空気を放っていた。踏み込むのを躊躇うほどの。
その躊躇っているうちの一人である響季が店の入り口近く、平積みにされた本に目をやると、
「あっ!」
ドゥンナ!立ち業フルコンタクト 奮戦記 というタイトルの本が目に付いた。
響季がずっと探していたラジオ本だった。
少年声系若手女性声優と総合格闘家という、異色コンビパーソナリティ二人の対談や、このために撮り下ろしたコスプレグラビア、収録レポマンガ、いつもの収録後の飲み会の様子、普段は聞くことが出来ないスタッフインタビューなどが収録されている。
そして歴代コーナーの中で、リスナーから送られてきた特に面白いネタが収録されていた。
もしかしたら自分が送ったネタが掲載されているのでは、と響季はずっと探していた。普通の書店では見つけづらく、ネットで買うか、こういった特殊な店でしか扱っていない。
「買うしかないッ」
先ほどの躊躇などどこへやら、響季はすぐさま本を手に取り、本物達の間を泳ぐようにしてレジへと向かう。
ツインテールの女性店員に、ポイントカードを作るか聞かれるが断る。
レジ横にはイケメン声優のラジオ番組のDVDが、店員による気合と愛のこもった手書きポップで紹介されていた。
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