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26、会話ないけどそれなりに

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 「ちょっと疲れたね。アイスでも食べよっか」

  ショッピングエリアをぐるりと周り、二人がようやく腰を落ちつけたのは響季が誘ったアイスクリームショップだった。
  開店当初は賑わっていたが、今では並ばずに買える程度になっている。
  響季は砕いたカステラ生地を混ぜたココナッツクリームアイスをワッフルコーンで、零児は小さな焼きマシュマロとドライストロベリーが乗ったキャラメルリボンアイスをカップで頼んだ。
  響季がケータイを見て時間をチェックする。
  ふと視線を感じそちらを見ると、零児がケータイに付けていたストラップをじっと見ていた。
  零児の視線の先にあるのは、以前響季がラジオのノベルティグッズで貰ったキーチェーンフィギュアだった。

  古めかしい、ラジカセのキーチェーンフィギュア。
  グレーがかった四角いボディに、スピーカー、ラジオチューナー、アンテナ、取っ手、カセットカバー、各ボタンに至るまで、凝った作りをしたラジカセフィギア。よく見るとラジオのチューナーがきちんと放送局の周波数に合わせてある。
  ポップなのにソリッド。小さいのに重量感のある見た目。
  ラジカセなんて使ったことがないのに、これが手元に届いた時、響季は独特のノスタルジーさを感じた。
  他のノベルティグッズはステッカーやクリアファイルなど使えないものが多いが、これはなんとなく可愛いので付けていた。
  そのフィギアに、零児が興味を持っている。心奪われている。
  さっきも零児はカプセルフィギアの販売機の前にいた。
  フィギアが好きなのだろうか、特に小さいフィギアが、と考えた響季が、

  「あっ、これ?可愛いでしょ」

  ここだ、とばかりに話をもっていくが、

  「ふうん」

  さっきまでの熱い視線とは打って変わって、零児は素っ気ない態度になる。

  「ラジオでメール読まれて貰ったやつで」
  「へえ…」

  そして爪をいじりだした。まったく話に乗ってこない。
  そのまま二人は黙々とアイスを食べた。
  カップを頼んだ分、零児が先に食べ終わり、さっき貰ったフリーペーパーを出すとそのまま読みだした。
  少し遅れてコーンアイスを食べ終わった響季は、ぼうっとそれを見ていた。
  女子二人なら尽きることのないおしゃべりタイムとなるところだが、仕方なく響季もさっき買ったラジオ本をペラペラとめくる。
  残念ながら自分のネタは掲載されてなかったが、みっしりとした内容で読みごたえがあった。
  夏休みのショッピングモールの喧騒が、二人の耳に遠く聴こえた。
  店は客が少なく、少しぐらい居座っても嫌な顔はされないだろう。
  活字に目を落とした二人は、初めてのデートで会話が途切れた時に感じる間が持たない、気まずいなどという雰囲気はなく、それぞれが楽しんでいた。

  
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