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その声がいつも魂の叫びでありますように
17、エルドラド!エルドラドじゃないか!
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「トカイ?のルーム」
都会。要は響季の地元のようなショッピングモールで全てが賄え、逆にショッピングモールぐらいしか無い地方都市ではなく、もっと経済の中心的な街。
突然出てきた単語を響季がそのまま復唱すると、零児は少し考え立ち上がる。そして、
♪ぴっぴ、
はいはい。
♪ぴっぴ、
はいはい。
国民的アニメのエンディングのように、零児が見えないエアーホイッスルを吹きながら膝を伸ばしたまま進む響季を誘導し、ルーム内にある無料パソコンまで連れてくると、
「座って」
「あ、はい。おぅ」
零児がまず響季をパソコンチェアに座らせ、自分はその膝に座る。
柔らかさとあったかさに面食らいつつも、響季は零児のお腹に手を回し、落ちないようにする。
その間零児はキーボードを操り、
「ここのルームだと、せいぜいアイスとジュースぐらいだけど」
「まあ、そうだね」
膝の上の少女に言われて、響季がルームに置かれた無料のアイス自販機やジュース自販機を見る。
寒くなったので自販機アイスからはシャーベットが消え、代わりにモナカ系アイスが、ジュース自販機にはコーンスープとミネストローネが追加された。
あとはせいぜい無料インターネットとマンガ読み放題、雑誌読み放題、テレビ見放題くらいだが、
「都会のルームだと、ほら」
言って零児が検索して出した都会にある献結ルームのサイトを見せる。
「こういう、もっとちょこちょこしたお菓子とか、ドーナツとかハンバーガーとかホットドックとか置いてある。それらが全部食べ放題」
「……うそ。うそうそっ!!」
「ほんとほんと」
信じられないので三回言った響季のうそを、零児が二回のほんとで返す。
確かにトップページやルーム内の様子のページにはそのような事が書いてある。
お菓子食べ放題、ドーナツ食べ放題、ハンバーガー食べ放題と。
アップされている写真にはカゴに入れられた山盛りの個包装菓子と、コンビニのレジ横フードのような保温器の中に、オレンジ色の光に照らされ、包装紙に包まれたハンバーガーやホットドッグが温められている。
他にもショーケースの中に有名ドーナツ店の商品がお店のように並べられている写真や、無料アイスもここの自販機にあるようなやつではなく、大変お高い、女子高生がおいそれとは買えない高級アイスが冷凍庫の中に入れられていた。
社会人が自分用のご褒美として買うようなあのアイスが。
それらが全部食べ放題だという。
「そっ、村長さん村長さんっ!オラ、こんな夢みでえな国行っでみてえだ!」
驚きのあまり、響季は都の夢の様な話を聞かされたド田舎村のハナタレ小僧を演じる。こんなエルドラドに、黄金郷に行ってみたいと。
「待ぁで待で、慌てるんでねえっづの。こっからが大事でえじなとこだ。都会のルウムってのは謝礼品が出ねえんだ」
そして即座にコントスイッチを押した零児が、訛りもなめらかに村の村長さんを演じるが、
「え…。ええーっ!?なにそれっ!!ふざけんおぅふ」
聞き捨てならない言葉に響季が非難の声を挙げる。
それを村長さんが後頭部で頭突きを食らわせ、黙らせると、
「話は最後まで聴く」
「はひ。すいまへん」
鼻だか口だかを押さえながら響季が謝る。
「思うに、都会って結局は地元じゃない人が多いからかと」
「どゆこと?」
都会というのは実際は地方出身者の集まりで、昔からそこに住んでいる人は実際には少ない。
買い物など用事で都会まで来て、用事を済ませるついでに献結という人が多いのではないか。
地元であれば重たく嵩張る品は持ち帰れるが、乗り物での移動が必須な都会でそういったものは敬遠されるのでは、というのが零児の考えらしいが。
「かさばらないでその場で消費できるアイテムが望まれてると思うんだけど。特にこれからどっか行ったり遊び行ったりする人にとっては」
「結果、消え物」
響季が覚えたての言葉を言ってみる。
響季自身、謝礼品を家に持ち帰って家族に喜ばれることは多々ある。
だが都会砂漠に住む若者はそんなことせず、献結を済ませたら菓子でも摘んで、あるいは食事代わりになるものを食べて帰るだけらしい。粋で効率的かもしれないが、響季からすればなんとも勿体無いと思えた。
日本人としては御土産が欲しかった。
「宵越しの謝礼は持たないのかね」
「っていってもまったく無いわけではなくて」
さらにマウスを操り、零児がキャンペーンと書かれたページを開く。
「時期によってはなんかくれるキャンペーンやってる」
「ほお」
そこには今まで行っていたキャンペーン一覧があった。
いついつからいついつまではお高い生麺系カップラーメンをプレゼント!だの、夏は女性にはデオドラントシートを、男性には洗顔シートをプレゼント!だの、午前中にはバニララスク、午後には生チョコメロンパンをプレゼント!だの、色々やっているらしい。
「あとポイント制だね。何回来ると何か貰えたりっていう。出来るだけ定期的にやってもらいたいみたい」
「へえ」
毎回貰うとなるとドライな都会の若者には鬱陶しいかもしれないが、ポイント制やキャンペーン中で貰えるとなるとまた違うかもしれない。
「いらないって人が大半かもしれないけど、それは表向きでなんかくれるなら貰うって人もいるかもだし」
献結のほとんどは中高生だ。ということはかっこつけていても貰えるものならやはり欲しいかもしれないし、キャンペーン謝礼も若者に合わせたチョイスになってはいる。
十代の少年少女の血液からのみ生成されるTB成分。
献結は例えTB成分が生成される時期が終わっても、そのまま献血をする大人になる子も少なくはない。
習慣づけるためには若いうちからがいいのだろう。
「どうする?行く?」
膝に座ったまま零児が振り向き、訊いてくる。
多少の移動費がかかるが響季は行ってみたかった。
ちょっと遠出のデートとにも思える。
おまけに零児からせっかく誘ってくれたのだから、これは断れない。
「うん。行こっか」
そう響季が笑顔でお誘いに乗ると、
「おっ。仲いいねぇ、お二人さん。相変わらずー。ひゅーひゅー」
休憩に入ったのか、響季が膝に零児を乗せてるのを見て一人の看護師さんが冷やかしに来た。
都会。要は響季の地元のようなショッピングモールで全てが賄え、逆にショッピングモールぐらいしか無い地方都市ではなく、もっと経済の中心的な街。
突然出てきた単語を響季がそのまま復唱すると、零児は少し考え立ち上がる。そして、
♪ぴっぴ、
はいはい。
♪ぴっぴ、
はいはい。
国民的アニメのエンディングのように、零児が見えないエアーホイッスルを吹きながら膝を伸ばしたまま進む響季を誘導し、ルーム内にある無料パソコンまで連れてくると、
「座って」
「あ、はい。おぅ」
零児がまず響季をパソコンチェアに座らせ、自分はその膝に座る。
柔らかさとあったかさに面食らいつつも、響季は零児のお腹に手を回し、落ちないようにする。
その間零児はキーボードを操り、
「ここのルームだと、せいぜいアイスとジュースぐらいだけど」
「まあ、そうだね」
膝の上の少女に言われて、響季がルームに置かれた無料のアイス自販機やジュース自販機を見る。
寒くなったので自販機アイスからはシャーベットが消え、代わりにモナカ系アイスが、ジュース自販機にはコーンスープとミネストローネが追加された。
あとはせいぜい無料インターネットとマンガ読み放題、雑誌読み放題、テレビ見放題くらいだが、
「都会のルームだと、ほら」
言って零児が検索して出した都会にある献結ルームのサイトを見せる。
「こういう、もっとちょこちょこしたお菓子とか、ドーナツとかハンバーガーとかホットドックとか置いてある。それらが全部食べ放題」
「……うそ。うそうそっ!!」
「ほんとほんと」
信じられないので三回言った響季のうそを、零児が二回のほんとで返す。
確かにトップページやルーム内の様子のページにはそのような事が書いてある。
お菓子食べ放題、ドーナツ食べ放題、ハンバーガー食べ放題と。
アップされている写真にはカゴに入れられた山盛りの個包装菓子と、コンビニのレジ横フードのような保温器の中に、オレンジ色の光に照らされ、包装紙に包まれたハンバーガーやホットドッグが温められている。
他にもショーケースの中に有名ドーナツ店の商品がお店のように並べられている写真や、無料アイスもここの自販機にあるようなやつではなく、大変お高い、女子高生がおいそれとは買えない高級アイスが冷凍庫の中に入れられていた。
社会人が自分用のご褒美として買うようなあのアイスが。
それらが全部食べ放題だという。
「そっ、村長さん村長さんっ!オラ、こんな夢みでえな国行っでみてえだ!」
驚きのあまり、響季は都の夢の様な話を聞かされたド田舎村のハナタレ小僧を演じる。こんなエルドラドに、黄金郷に行ってみたいと。
「待ぁで待で、慌てるんでねえっづの。こっからが大事でえじなとこだ。都会のルウムってのは謝礼品が出ねえんだ」
そして即座にコントスイッチを押した零児が、訛りもなめらかに村の村長さんを演じるが、
「え…。ええーっ!?なにそれっ!!ふざけんおぅふ」
聞き捨てならない言葉に響季が非難の声を挙げる。
それを村長さんが後頭部で頭突きを食らわせ、黙らせると、
「話は最後まで聴く」
「はひ。すいまへん」
鼻だか口だかを押さえながら響季が謝る。
「思うに、都会って結局は地元じゃない人が多いからかと」
「どゆこと?」
都会というのは実際は地方出身者の集まりで、昔からそこに住んでいる人は実際には少ない。
買い物など用事で都会まで来て、用事を済ませるついでに献結という人が多いのではないか。
地元であれば重たく嵩張る品は持ち帰れるが、乗り物での移動が必須な都会でそういったものは敬遠されるのでは、というのが零児の考えらしいが。
「かさばらないでその場で消費できるアイテムが望まれてると思うんだけど。特にこれからどっか行ったり遊び行ったりする人にとっては」
「結果、消え物」
響季が覚えたての言葉を言ってみる。
響季自身、謝礼品を家に持ち帰って家族に喜ばれることは多々ある。
だが都会砂漠に住む若者はそんなことせず、献結を済ませたら菓子でも摘んで、あるいは食事代わりになるものを食べて帰るだけらしい。粋で効率的かもしれないが、響季からすればなんとも勿体無いと思えた。
日本人としては御土産が欲しかった。
「宵越しの謝礼は持たないのかね」
「っていってもまったく無いわけではなくて」
さらにマウスを操り、零児がキャンペーンと書かれたページを開く。
「時期によってはなんかくれるキャンペーンやってる」
「ほお」
そこには今まで行っていたキャンペーン一覧があった。
いついつからいついつまではお高い生麺系カップラーメンをプレゼント!だの、夏は女性にはデオドラントシートを、男性には洗顔シートをプレゼント!だの、午前中にはバニララスク、午後には生チョコメロンパンをプレゼント!だの、色々やっているらしい。
「あとポイント制だね。何回来ると何か貰えたりっていう。出来るだけ定期的にやってもらいたいみたい」
「へえ」
毎回貰うとなるとドライな都会の若者には鬱陶しいかもしれないが、ポイント制やキャンペーン中で貰えるとなるとまた違うかもしれない。
「いらないって人が大半かもしれないけど、それは表向きでなんかくれるなら貰うって人もいるかもだし」
献結のほとんどは中高生だ。ということはかっこつけていても貰えるものならやはり欲しいかもしれないし、キャンペーン謝礼も若者に合わせたチョイスになってはいる。
十代の少年少女の血液からのみ生成されるTB成分。
献結は例えTB成分が生成される時期が終わっても、そのまま献血をする大人になる子も少なくはない。
習慣づけるためには若いうちからがいいのだろう。
「どうする?行く?」
膝に座ったまま零児が振り向き、訊いてくる。
多少の移動費がかかるが響季は行ってみたかった。
ちょっと遠出のデートとにも思える。
おまけに零児からせっかく誘ってくれたのだから、これは断れない。
「うん。行こっか」
そう響季が笑顔でお誘いに乗ると、
「おっ。仲いいねぇ、お二人さん。相変わらずー。ひゅーひゅー」
休憩に入ったのか、響季が膝に零児を乗せてるのを見て一人の看護師さんが冷やかしに来た。
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