昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

21、押し押しのフッワ!フッワ!で引っ掛かってます

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「まだ、か」

 場内が明るくなると、またケータイでイベント公式SNSを見ながら嵐士が呟く。
 当然決まりは守って、ケータイはバッグの中から取り出さずにだ。
 SNSでは運営スタッフがステージの進行状況を逐一教えてくれていた。
 出演者順で照らし合わせるとまだまだ出るのは先のようだが、

「…っていうか握手会とかで押してるっぽい」
「マジで?」

 嵐士の言葉にハルくんがヤバイじゃんと眉をひそめる。
 タイムスケジュールからすると向こうはかなり押していた。
 ということは時間が読めない。
 出演者達はステージと合わせてCDを買った人対象の撮影会、握手会などもやっているらしい。それで余計に時間を押しているのだ。
 金を巻き上げたり押し押しな流れはこちらと似たり寄ったりだった。
 ライブが始まる時間と移動時間、更にこちらの演目も考慮し嵐士が舞台の方を見る。
 今回は当たりの踊り子さんが結構多い。
 対して向こうはライブそのものは各30分で終わる。
 その開始時間と上手くハズレ踊り子さんのハズレ演目が当たればよいのだが。

「次でトリかぁ」

 その横で、ハルくんが暇つぶしがてら香盤表を見ながら呟く。
 呟きながら先程の踊り子さんの内容を頭の中でおさらいする。
 トリ前にも関わらずあの内容。
 前半はよかった。ベタではあるが基礎や見せ方を心得ているように見えた。
 だが後半は。

 ショーとしては面白い。しかし漠然と危険な匂いも感じた。
 敢えてのヌケ感演出が手抜きと紙一重だったからだ。
 若さだけで推されてるとも思えない、ということは実力はあんなものではなく敢えて隠しているのか。
 原石や秘蔵っ子として重宝されているのか。
 それとも単に人気が高いのか、と思ったが、希望客は少なく撮影ショーはすぐに終わりそうだ。
もしやあの支配人と?
 なかなか読めない。
 おもしろいなあ、性風俗のくせにとハルくんが思っていると、そのすぐ近くで、

「えっ!?じゃあ陣劇初日行ったんすか?どうでした?」
「さすがに営業停止明けて一日目だからねえ。みんなピリピリというか、少しふわふわしてたかな。再開初日に踏み込まれるこたぁないだろうけどさ。でも初日でちょうど新人投入なのは幸先いいというか。捕まってやめちゃった子もいるみたいだしなんとも言えないけどね」
「トントンすか」
「トントンではないよぉー。結構痛いでしょー。穴でかいよ。あの子写真売上よかったし」
「新人どうでした?劇場の子?」
「みたいだね。間に合わせ感は、あったかなあ。撮影も当然だけど慣れてない感じで。見た目はいいんだけど」
「初々しいとはまた違う?」
「うーん、どうだろうねえー。どっから連れてきたんだかって子だったよ。騙されてんじゃないかって心配になるくらい」

 常連らしい客同士がそんな会話をしていた。
 少し前に営業停止処分を受けた地方の劇場について情報交換しているらしい。
 逮捕など物騒な単語も入っている。
 期待の新人も大人の思惑通りにはいかないようだ。
 勝手に地方の実情も耳に入ってくる。
 実に面白いなあとハルくんは思っていた。


 そうこうしているうちに撮影ショーが終わり、続いてオープンショーとなるが、

「あっ、と。やべっ」

 嵐士がしまったという顔をする。
 予想以上に撮影ショーが早く終わってしまった。
 一旦場内が暗くなり、ライトがぐるぐる回り出してしまう。
 空のペットボトルを場内隅にあるゴミ箱に捨てようと思っていたのに、オープンショーが始まってしまった。
 ショーの最中に立ち歩くのは気が引けた。かといって足元がおぼつかない暗さで遠くにあるゴミ箱まで移動するのは危険だ。

「これ捨ててくる」
「うん」

 ハルくんに言い、オープンショーの間に捨てに行くことにするが、

「……やっぱちゃんと出来るんじゃん」

 始まったオープンショーを見て嵐士が悔しさの混じった声で言う。
 踊り子さんは先程のショーで使ったベールと全裸に三連アンクルを付けただけの格好で登場した。
 そして適当に選曲したようなノリの曲で、生殖器を晒しながらふわりふわりと適当に舞ってみせる。
 だが適当にやってみせてるだけなのに出来る子だというのがわかる。
 客の拍手はおざなりで、舞台周りの客は踊りより生殖器を見たがった。
 ちゃんとやったところでちゃんと見てもらえない。ならば適当でいいということか。
 釈然としない思いのままショーが終わると、場内が暗くなり、

「あっ、もう」

 オープンショーを見ていたせいでまたしても捨てに行きそびれた。
 しかたなく意を決して暗くなった場内を、身を低くしてゴミ箱へと向かう。
 しかし捨てるはずだったそのボトルが活躍してしまう。
 移動する嵐士と同じく、数人の人間が身を低くして闇の中を動いていた。
 なんだと思っていると曲が流れてきた。
 その曲に、嵐士と離れたところに座るハルくんの耳が反応する。
 ここはさいたまスーパーアリーナかと。

 暗くなった場内に流れてきたのは、アニメ レオナルドの種 主題歌『ゲットマイボイジャー』だった。
 それほどアニメに詳しくない嵐士でも知っている。
 新時代の幕開けを予感するイントロ、なのに曲自体はきっちり売れ線の系譜を辿っている。
 歌詞は往年のアニソンらしく、物語の行く末を必殺技すら交えて雄弁に語っていた。
 本来アニソンなんて一番で語りたいことが付きてしまうのに、この曲はそれが二番にまで至っている。
 一度聴けば誰かに自慢したい、聴かせたいほどのかっこよさ。まさにアニソンファンが聴きたいアニソンだった。
 当然、人気作ゆえパロディAVも出ていた。
 曲に合わせて場内の照明が激しく点滅しだす。

「くっはあぁ」

 嵐士のテンションゲージが一気に上がり、捨てるはずだったボトルをサイリウム風に振りだした。
 それとまったく同じタイミングで、数人の人間が手にした光る棒を振り出した。
 一糸乱れぬその動き。
 口パクで呪文のようなものも唱えていた。
 歌に入る直前。中央舞台に立つ踊り子さんに、青白いライトが舐めるように当たる。
 硬質的な曲調と、ふわふわとした中にも芯のある声優ならではの歌声。
 それに嵐士含む一部の観客がオイッ、オイッ、と聞こえない掛け声を口パクで叫ぶ。
 嵐士が光物を携えた客達を見る。

 光と闇が点滅する中にいたのは、揃いの原色Tシャツを着た若者数人だった。
 手に光る棒を持ち、それを舞台に向けて一生懸命振っていた。
 場内の一部が声優ライブばりに盛り上がり、踊り子さんもそれに嬉しそうに応える。
 席を離れた友人が何かやりだしたのに気づいたハルくんは、ボトルを舞台に飛ばしやしないかとハラハラした。
 しかし曲の一番が終わる頃になると若者達にログアウトの会釈をし、嵐士はハルくんの元へと戻ってきた。

「疲れちった」

 そして笑いながらそう言う。
 嵐士はもともとオタ芸の類いは好まない体質だった。
 おまけにこの場はおそらく本来そういった芸をしてはしてはいけないはずだ。
 曲にはつい反応してしまったが、よく見ると踊り子さんは可愛くない。
 面長な瓜実顔に外はねツインテールという最悪の組み合わせだった。


 ステージはそのまま進む。その後のステージでもアニソンが使われていたが、若者達の勢いはひそめ、地味な虫の羽ばたきのように曲に合わせて振れるところは光物を振っていた。
 場違いにならぬよう、周囲に気を使っているのだろう。
 けれど必死に踊り子さんへはエールを送っていた。

「……うるっさいなぁ」
「ね」

 それよりも二人はタンバリンマンが激しくタンバリンを叩いていた方が気になった。
 タンバリンが合う曲ではなかったので、明らかにショーに水を差していた。


 そうこうしているうちにステージはベッドショーになり、例によって踊り子さんがサイドが紐になっているショーツを脱いでいく。
 脱いだショーツをくるくると手首に巻き付け、シュシュのようになる。
 ハルくんがあれ可愛いよね、と言い、嵐士がステージを見たまま揃って頷いた。顔はアレでも演出は可愛いかった。
 すると舞台脇にいた男性客がこそこそと何やらスタンバイし始めた。
 それを見てハルくんは、すぐにこれから始まることを理解する。
 リボンだ。

 さすがにそれなりに回数をこなすと、笑いはこみ上げてこない。冷静な目で見れた。
 踊り子さんが扇情的なポーズを決めるとその身がライトに照らされ、場内から拍手が送られる。
 その全てのタイミングが合った瞬間、放たれたリボンが踊り子さんの身体の上を舞う。リボンマンから放たれたのは、色とりどりの虹色のリボンだった。
 だがそれが妙に安っぽくて、嵐士は特に綺麗だとは思えなかった。
 ステージはラストに近付き、本舞台で踊り子さんが最後のポーズと笑顔を客席に向ける。
 しかし、

「あっ」

 ハルくんが小さな声で叫ぶ。
 本舞台で踊り子さんが客席に向かってたおやかに差し伸べた手に、放たれたリボンが引っかかってしまった。
 リボンマンがぐいぐいと引っ張るが、リボンは外れない。まるで投網に失敗した漁師だ。
 そのまま曲が終わり、照明が落とされた。踊り子さんが凍りついた笑みを客席に向けたまま。
 あーあ、とハルくん達が音にはならないがっかり声を吐き出す。
 光物を振っていた若者達がどんな顔をしてるのかは見れなかった。

 何ともいえない終わり方で、トリの踊り子さんのステージは終わった。
 そして、すぐに撮影ショーとなった。
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