昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

22、いわゆる小さな宗教戦争

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「水買ってくるね」

 ざわつく場内で。結局捨て忘れた空のボトルを持って嵐士が言い、

「中で売ってるの高いよ?」
「マジで?近くにコンビニなかったっけ」
「ボクもお茶欲しいからちょっと出よっか」

 撮影ショーが長引きそうなので、その隙に買い物に出ようかと二人が話をしていると、

「ちょっと」

 険のある声に思わず振り向く。
 見ると常連風の客達が、先程嵐士と一緒にヲタ芸を打った若者客達に声をかけていた。
 常連風の一人は太目の身体でハイウエストのスラックスにポロシャツをタックインし、足元はハイテクスニーカー。
 もう一人は色の薄いジーパンに、黒のTシャツ、その上にチェックのシャツを重ね着していた。 二人とも揃って憮然とした顔をしている。
 チェックのシャツの方は見覚えがあった。確かタンバリンを叩いていた客だ。
 そしてよく見るとタックインは先程リボンを投げていた客だった。
 踊り子さんに引っ掛けてしまったリボンマンだ。
 そんな二人が、原色Tシャツを着た若者数人に何やら詰め寄っていたが、

「んん?」

 彼らが着ていたTシャツをよく見ようと、嵐士が目を細める。
 どうも先程見かけたイベントに出ていたアイドルの推しTシャツのようだ。
 マイナーながらアニソンやアニメ系情報番組のオープニング曲なども何曲か歌っているので知っていた。
 彼女の出演終わりでこちらに来たのだろうか。
 見るとみんな世代も見た目もバラバラだ。
 男性の比率が高いが、まだ十代とおぼしき子もいれば、パッと見そうとはわからないような一般人風の顔立ちの人もいるし、いかにもアイドルオタク風の人もいる。
 それらを目を細めて見ていると、

「貴方も」
「へ?」

 常連客の矛先が急にコチラに向いた。

「さっき、ペットボトル振り回してましたよね」

 嵐士の手の中にある捨て忘れたペットボトルを見て、タックインが言う。

「あー…、いやぁすいません」

 事態を早々に察知した嵐士が座ったまま謝罪する。
 足を閉じて頭をペコペコさせながら。

「危ないんですけど、あーゆーの。踊り子さんに当たったらどうするんですか」
「すいませーん。好きな曲だったんでー、盛り上がっちゃってー」

 ヘラヘラとした表情で嵐士が謝罪する。その姿に、隣に座るハルくんは恐怖する。
 それに常連客は、ったく、といった感じで溜息をつくと、今度はTシャツ軍団に向き直り、

「以前も言いましたよね?ストリップはアイドルなんかのライブじゃないんだから。そんな野蛮な応援の仕方されたら困るんですよね。だいたい、」
「でも、姐さんは嬉しいって」

 そう言うと、一番年上に見える男性が反論する。

「だから、それも言ったでしょう?姐さんは優しいからそう言ってるだけですよ。マナーが悪いファンがついてたら楽屋での立場が悪くなるのわかるでしょ?周りのお姐さん達からも嫌味言われたり、」

 だが反論されるとタックインはそんなことを、声量を抑え気味に言う。
 しかし言葉の先から終わりまで、怒りはみっちり詰まっていた。
 タックインに言われ、Tシャツ軍代表がグッと黙ってしまう。
 黙ってしまうのは言い負かされたからではない。
 おそらく話が通じないと思ったからだろう。
 常連風の客は伝統的な応援法を重んじている。
 が、嵐士にはそれだけではない気がした。
 伝統的VS新興勢力。
 なにかこう、伝統を傘に応援してるオキニの目が新興勢力たるドルオタ達に向かないようにしているような。
 だから、言ってしまった。

「じゃあ、最後のあれはいいの?」

 椅子に座ったまま、嵐士が低い声で訊く。
 腕組みし、男らしく思い切り足を開いた状態で。

「なに、が」

 いきなりのドスの効いた低音ボイスに常連陣がビビるが、

「虹色の…、リボン?あのカラフルなバッカルコーンみたいの」

 その一言でハルくんの喉の奥に一瞬にして笑いがこみ上げてきた。それを顔を背けて回避する。

「あれは、応援だから」
「あとあれは?タンバリン」
「あれも…、応援だから」

 嵐士の問いにタンバリンマンが答え、

「でも、曲に合ってなかった」

 更なる指摘にタンバリンマンがぐっ、と言葉に詰まる。
 顎を引くと顎下の肉が目立った。
 逆に嵐士は顎を上げ、見下すように自信家なタレ目で見てやる。
 オタ芸もリボンもタンバリンも、応援には変わりはない。
 どれかが特別優れているとは言えない。
 しかしただの自己満足で、パフォーマーと他の客の邪魔をするようならそれは応援ではない。

「気が散るんですけど。っていうかリボンは最後踊り子さんの腕に引っかかってたよね?」

 急に話を振られ、ハルくんは驚きつつも、う、うん、と頷く。心の何処かで、あああ、支配人さん、こういう時こそすっ飛んできてよと願いながら。
 加えてドルオタ若者客も、う、うんうん、そうだそうだ、そういえばそうだと小さく頷く。

「あれは……、たまにはそういうこともあるッ」

 指摘され、リボンマンが言い返すが、

「でもアクシデントでしょ?ボクは、ボクらはアクシデント起こしてないし」

 ボクらという言い方にドルオタ軍団が、はっ、という顔をする。
 目の前の男の子が自分たちの味方をしてくれていると。

「それは…、危険性の話をしていて」
「ちゃんと見てた?だから一曲目で終わりにしてたじゃん。その人達もリウム持ってたのは最初だけ」

 嵐士の口撃にリボンマンが言い返すが、更に言い返されると口を開け閉めするだけになってしまう。
 正確には嵐士はドルオタ軍団に味方しているわけではない。
 応援芸合戦に嫌気が差しただけだ。
 それには誰も、常連客達もドルオタ軍団も気づいてないようなので言わない。

「だから危険性の、」
「だから危険性を自分で察知してすぐやめたでしょ?それで何も危険なこと起きなかったじゃん。で、こっちは反省してんですけど、そっちは?実際、ショーに水ぶっかけましたよね?しかもラストに」

 言い返せば言い返される。所詮口喧嘩では女に勝てない。
 常連客がぐぬぬぅと拳を握りこむ。

「そうだよねえ?」

 そして同意を求めるように嵐士が常連客から連れの方を向くと、

「コメット…、ダッシャー…、キューピッド…、ドゥンダー…」

 ハルくんは客同士の争いに巻き込まれぬよう、サンタクロースが飼っている9頭のトナカイの名前を唱えて現実逃避していた。

「おいっ!」
「ヴィクセン…、ルドルフ…、ブリュンヒルデ…、はっ!」

 しかし嵐士に一喝され、戻ってきた。

「ちょっとぉー、どうちたのー?」

 そんなやり取りをしていると客同士が揉めているのを察知し、Ⅴ字開脚で生殖器の写真を撮られていた踊り子さんが作った舌っ足らず声をかけてきた。

「けんかはメッなのれすよっ!おともだちいじめちゃヤーなのよッ!」

 そして甲高いアニメ声で注意してきた。
 その声にニ人は多少げんなりした顔になり、逆にファンたちは心をとろけさせられた。
 ファンに対立させ、忠誠心を煽ってるのだ。
 リボンマン達に向けた視線には、先程の失敗からか多少冷たいものも混じっていたが。

 結局その一喝によって、この件については手打ちとなった。



 トリのオープンショーを挟んでフィナーレが始まる。
 本日はありがとうございました、という定型通りの場内アナウンスの後。
 本領発揮とばかりに場内のライトがぐるぐると回転し、安っぽい光を放つ。
 流れてきたのは、ゲーム 偶像崇拝Project 挿入歌『偶像崇拝しすたーず』だった。
 出演女性声優による束ねられた歌声が狭い場内を満たす。
 この荒波のようなショービズ界をなんとかクールに生き抜いてみせようぞという歌詞は、ストリップにそぐわないようでいて、体一つで仕事をする女すべての応援歌にもとれた。
 従業員の趣味か、もしや支配人の趣味か。
 それとも歌詞に感銘を受けて採用されたのか。

 聞きとりづらい場内アナウンスの紹介とともに、今日出演した踊り子さんが現れる。
 金色のスパンコールドレス。
 白の開襟シャツにネクタイ、ショートパンツ。
 テンガロンハットが可愛いカウガールスタイル。
 踊り子さんが様々な、思い思いの服装で登場する。
 ハルくんが嵐士をそっと盗み見る。華やかで安っぽいファッションショー風のフィナーレに、漢らしい友人は目をキラキラさせていた。

 フィナーレが終わり、香盤が一巡する。
 押し押し進行なので休憩無しで、すぐ次の公演に入ると場内アナウンスが告げた。


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