昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第二回公演

10、おさけください。350ミリぽっちでいいんです。

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「ふはあ」

 10分の休憩が終わる頃には詩麻呂はすっかり出来上がっていた。
 顔が上気し、暑い。鬱陶しくて眼鏡は外してしまった。

「ふひゅう」
「うわ、弱いんだね。お酒飲むの初めて?」

 ジャージ男性が前もって外で買っておいたらしい安い発泡酒を煽りながら訊くと、

「んーん。ちがうよー」

 詩麻呂が舌ったらずな口調で答える。上半身は振り子のように揺れ、安定しない。

「あんま酔うと追い出されるぞ」
「んー」

 注意された詩麻呂は、ジャージ男性が缶を持ったたっぷりとした二の腕をたしたし叩き、

「あぐう」
「わあっ」

 それに甘噛みした。

「あぐあぐ」
「ちょっと!」
「んーっ」

 男性に額を押されて、腕から引き剥がされる。更に身体を揺らしながら詩麻呂はうつろな目で宙を見つめ、

「クリスマスの」
「えっ?」
「足の…、クリスマスの…、靴下の…」
「なに?サンタクロース?」
「違う…。鳥の…、七面鳥の…」
「俺の腕、七面鳥じゃないから!腹に詰め物とかもしてないから!」

 ジャージ男性が自分の腕を叩き、たぷたぷな腹をさすった。周りにいた客が笑い、詩麻呂もにゃはーと笑う。
 笑いながら男性の頼もしい身体に抱きつく。なぜか無性に甘えたかった。
 やはり男はたっぷり体型に限る、女だとこうはいかない、安易にもたれかかると倒れてしまうからな、と自分ではない声が詩麻呂の中にこだまする。

「あーあー、もう」

 ジャージ男性が懐かれてしまった少年の背を、犬でもあやすように分厚い手で撫でていると、

「なんだ坊主、ご機嫌だな」
「女みたいな酔い方するな」

 なんだか面白そうな光景に他の客も集まってきた。

「酒弱いなあ、最近のガキは。そんなのジュースみてえなもんだろ」
「今だとタバコも買えねんだろ?ったくガキの頃から大人の味知っとかねえからフニャチン野郎が増えるんだよ」

 集まってきた年配客により、例によって俺達の若い頃はなあ話が始まったが、開演を告げるアナウンスが流れる頃には少年は眠ってしまった。




「ぼうや寝ちゃったの?」
「酒飲ましたら寝ちゃった」

 頭の上で交わされる声に詩麻呂はぼんやりと目を覚ます。
 気がつけばサッカージャージ男性の膝枕で寝ていた。
 身体に置かれたぶ厚い手のひらの重みが心地いい。それは普段は感じない重みだった。
 どれぐらい寝ていたのか、今は誰のステージなのかわからない。
 場内には薄くBGMとしてアニメ アディショナルタイムのオープニング曲『TYANBA!TYANBA!』が流れていたことだけはわかった。
 そしてそれが男装アイドルユニット ギークスターボーイズがカバーしたバージョンだということに、おそらく詩麻呂だけが気づいていた。
 大学の友人である蘭ちゃんが好きでよくカラオケで歌っているからだ。
 ふわふわする頭でそんなことを考えていると、

「大丈夫?未成年なんじゃないの?」
「二十歳越えてるって」

 踊り子さんとジャージ男性の会話を聞いて詩麻呂がむくりと起き上がる。
 開き切らない目で舞台を見るが、またしてもタッチショーの最中だった。

「ぼくちゃんも触る?」

 少年の視線に気づき、胸を揉まれていた踊り子さんが言う。先程と同じく詩麻呂は断るつもりだったが、

「やらしてもらえよ。どうせしたことねんだろ?」

と、囃し立てるように舞台周りにいた男性客が言った。
 どうやら顔立ちと背格好から童貞と見受けられたらしい。
 そういった行為をしてるかしていないかはさほど重要ではない。だが男の子モードに入っているので妙に癪に障った。
 くだらないと思いつつも立ち上がるが、天地が逆になったような感覚に足がよろける。

「おっと」

 ジャージ男性が身体を抱きとめようとし、

「わ」
「ん。ごめん」

 詩麻呂はその頬に軽くキスを落とした。
 事故を装っての行為だが、なぜだかしたかった。
 無礼を謝り、ふらつく足で舞台周りの席へ進む。
 ジャージ男性はドキドキしながらそれを見ていた。
 順番が進むにつれ、詩麻呂の意識が徐々にはっきりしてくる。
 舞台周りはライトが当たり、酷く暑い。
 全裸の踊り子さんからは化粧品の匂いと汗と脂肪分の混じった香りがした。
 酔客から放たれるアルコールの匂いと湿った加齢男性特有の匂い。
 場違いな自分に動悸が激しくなる。
 そして膝においた手を見て、詩麻呂は爪が長いことに気付いた。
 フリーなのだから久しぶりにネイルでもしようとちょうど爪を伸ばし始めた頃だった。
 相方の内部を傷つけないようにと短く切りそろえている爪は、普段からすればやや伸び気味で、

「…爪、伸びてるんですけど」

 自分の順番になると詩麻呂は踊り子さんに小声で断りを入れた。

「んー、大丈夫よこれぐらい」

 一度とった手を見てそう言われると、両手をウェットティッシュで拭かれ、すぐに胸にあてがわれた。
 その上から踊り子さんの手を重ねられ、揉むよう促される。
 うにゅうにゅとした張りのない胸と厚みのある手に挟まれ、一切の逃げ場がなかった。

「ぼくちゃん綺麗な手ねえ」
「ピ、アノ…」

 熱い息を吐きながら詩麻呂がそれだけをようやく伝えると、

「あら、ピアノやってたの?いいとこの子なんじゃないの?そんな子に生まれたかったわー、あたしも。あたしなんて下町の」

 胸を揉ませながら踊り子さんが周りの客と会話する。
 そこにはエロスな雰囲気はない。淡々と、流れ作業として行為をこなしていた。
 詩麻呂も特にテクニックを見せる気など毛頭ない。
 風俗嬢だからといって好き勝手に身体をいじくっていいものでもない。
 下を向き、こちらもただ淡々と優しく胸を揉みしだいていると、サービスなのか踊り子さんがあんあん気持ちいいとあえぎ声を出し始めた。
 その声に詩麻呂はびくりと顔を上げ、過呼吸のように息が荒くなっていく。

「童貞にはきつくないか?」

 それを見て、客が下卑た声でがははと笑う。
 その声が頭にガンガンと響き、詩麻呂は自分の今の状況が、行為の意味がわからなくなった。金を払い、好きでもない熟女の胸を触っている。触りたくもないのにだ。

「もうおしまい」

 暫くすると踊り子さんに手を離され、

「上手だったわよ」
 
 再度ウェットティッシュで手を拭かれながら、お世辞だとしても嬉しくないことを言われた。
 次の客の番になると詩麻呂は場内を抜け出し、トイレの洗面所で手と指を洗った。
 身についた穢れは落ちる気配が無かった。


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