昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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昭和90年代のストリップ劇場は2010年代アニソンかかりまくり

7、言いにくいことは周りにわからない言語でコミュニケーション

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 最初に出てきた踊り子さんはなんというか、幸が薄そうな顔をしていた。
 女性なのにまとめた髪が薄く、顔立ちはぱっちりしているのに身体がギスギスした細さだ。
 いや幸が薄いではおそらくない、もっと他の言い方があるはずだと詩帆が考えていると、

「(訳)貧乏臭い顔ですね」
「(訳)コラコラ。あ、でもそうか」

 シャオちゃんがそのものズバリな言い方で例えてくれた。
 周囲にわからぬよう母国語で言い、詩帆もそっちで答えた。
 答えつつ、言いにくい事を言うには便利だなと思った。


 次の踊り子さんは、登場すると客から一際大きな拍手で迎え入れられた。
 まだ若いであろうに、たっぷりとした肉感的な身体は妙な人妻感が出ていた。
 貰った香盤表には簡単なプロフィールがあり、それによると遥心達より年下の、満二十歳らしいが。
 顔には少しぽやんとした幼さが残るが、全身からはそれを凌駕するほどの包容力が滲み出ていた。
 そんな身体であまり激しくない、ステップを踏む程度のステージを披露する。
 曲もありきたりで少し退屈な感じのものだった。
 だが決して下手というわけでもない。
 その身体のおかげでか、間が持っている。ずっと見ていられるステージだった。

「団地妻」

 明瞭な発音でシャオちゃんがそう評する。
 どこで覚えてきたのっ、とお母さん風に注意したくなるが、確かにそんな感じではあった。
 グラマラスなのにどこかチープ、かつエロティック。
 リアルなようでいて映像作品の中でしか逢えないような存在だ。
 二曲目になると一転して激しいダンスを踊りだす。
 曲も攻めた曲になった。
 へえ、というくらいの。
 見た目からは想像出来なかったくらいに、こんなに動けるんだというくらいの。
 よく考えれば二十歳ならこれくらいいけるかという程度だが、やはり見た目でのギャップが上手く作用している。

「いいですね」

 シャオちゃんの評価に、うん、まあね、と詩帆が頷く。同意見だと。
 一つ前の貧相踊り子さんとの対比もあってか、豊満な身体は自分だったら少し嫌だが、他人の身体であれば好きなのだ。
 それはおそらく男女関係ない。


 ベッドショーになるとその魅力が爆発した。
 汗が豊満で真っ白な全身を、母なる海を泳ぐ海洋生物のようにしっとりと濡らす。
 軽く口を開け、ぽんやりとした表情で客を見る。
 ポーズ後などは時折髪が乱れ、その間から覗く目からは淫靡な光を放っている。
誘われてる、と誰もが思った。
 むしゃぶりつきたい!とまでは思わないが、詩帆にとってはなんかイイという評価だった。
 新たな女体の魅力をその日彼女は知った。

 そんな部分にハマる人が多いのか、撮影客は多かった。
 ダンスや営業ではなく、身体だけで魅了しているらしい。正しい客の捉え方とも言えた。
 しばらくするとガーターベルト姿で踊り子さんが登場するが、

「多い…」

 並ぶ客を見てシャオちゃんが呟く。

「撮りたいの?」
「んー…」

 詩帆が訊くがシャオちゃんははっきりしない。
 ポーズを作って撮られる踊り子さんは、裸婦画のような芸術性に富んでいた。
 シャオちゃんじゃなくても一枚撮りたいなと思っていると、

「お肉」

 シャオちゃんのストレートな言い方に、う、うんそうね、と頷く。
 そんな会話をしているうちに列は短くなってきたが、

「行かないの?」
「んー…」

 また曖昧に答える。
 鍵閉め狙いが多いのか、列がなかなか終わりきらない。
 アピールしたい客が多い。シャオちゃんもそれは同じようだが、

「押す」
「うん…」

 言った言葉に詩帆がそうねと頷く。
 撮影が長引くとショーが押してしまう。そうすると大好きなフィナーレが見れなくなってしまう。
 だから、早く撮ってしまえと他の客に念を送るが、

「撮らないの?」
「次でいい」

 シャオちゃんは撮影を先送りした。
 次の回なら希望者は減るだろうと。


 そして、ようやく撮影ショーが終わってオープンショーとなるが、

「おお」
 
 詩帆が低い声で唸る。
 踊り子さんは下半身はガーターベルトを外し、腰を覆う程度の昭和風のヒラヒラレトロエプロンで登場する。
 明らかに狙ってきている。自身の団地妻感を理解していた。

「ありがとうございました」

 大音量の音楽の中で感謝を述べ、踊り子さんが踊り出すが、

「あっ」

 詩帆が声を上げる。
 一人のおじいさんが立ち上がり、ぷるぷる震えそうな細い腕を伸ばして千円札を渡していた。
 おひねりだっ、と詩帆は驚く。
 初めて見た文化に興奮するが、

「あれなに?」
 
 シャオちゃんが訊いてくる。

「おひねりだよ」
「オヒネリ?」
「演者に直接渡す、あの、投げ銭?ストリートミュージシャンとかに」

 詩帆自身その文化を理解してないのでうまく説明出来ないが、シャオちゃんには伝わったらしい。
 が、ステージの方を見たままだったシャオちゃんが、あっ、と声を上げる。
 見ると他の客からも踊り子さんに次々とおひねりが、千円札が渡される。
 踊り子さんがそれを一度おでこにつけるようにして感謝の意を伝えると、折りたたんでエプロンのポケットにしまう。
 更にエプロンとお腹の間に挟むようにして千円札を入れたりもする。
 まるで客を煽るように。
 どうにも慣れた動きだ。もしかしてエプロンはそれ用なのか見えるくらいに。
 するとシャオちゃんが財布を開いた。
 ブランドものの、カードとお札がみっしり詰まった財布。
 まさかと思っているとそこから、

「ヒッ」

 一万円札様を取り出した。
 詩帆が思わず悲鳴を上げる。
 そして当然のようにシャオちゃんが踊り子さんにそれを渡そうとする。

「シャオちゃん大きいよっ。千円くらいでいいんだよっ」

 そう詩帆が小声で言うが、

「いいの」

 シャオちゃんは真っ直ぐ舞台の方を見ながら言う。
 その目には一切の迷いがない。
 やはりクソ金持ちお嬢様は違う。
 シャオちゃんが立ち上がり、舞台に近づくと手にした一万円札を踊り子さんに差し出す。
 気づいた踊り子さんが笑顔を向けるが、それが若い女の子なのに少しびっくりし、更に差し出された金額に二度びっくりする。
 そして、

いいよっ
いいの。
そんなにもらえないよっ
いいんです。うけとって。
えっ、と。崩す?崩す?
いいの。

 二人の会話は詩帆には直接聞こえないが、踊り子さんの動きや表情、シャオちゃんの手や首の動きからなんとなくそんな会話をしてるように見えた。
 感情の分かりづらかった団地妻顔が年相応に焦っていて少し面白かった。
 だが見ていた詩帆が気付く。
 ショーが長引き過ぎている。
 流れている曲も綺麗に終われず、中途半端なところで終わってしまいそうだ。

「すいません、そろそろー」

 そんなことを思っているとマイクを通して従業員が急かす。
 貰う貰わないにしても早くしてくれと。
 踊り子さんが、くっ、と唇を噛むような顔をすると、一万円札を両手で挟み、シャオちゃんに拝むようなポーズをする。
 有難う御座います、と。
 それに、シャオちゃんが、うん、と満足そうに頷くように頭が動く。
 そして大きく両腕を広げてみせた。
 ハグして、のサインだとわかった。
 踊り子さんもそれを理解し、ぎゅうっと包み込むようにハグする。
 更に頭もポンポンしてもらい、何か言葉も貰っている。
 シャオちゃんが、ううん、いいの、というように首を振るが、最後にまたぎゅうっと抱きしめて立ち上がると、再度千円おひねり組にもペコペコ頭を下げてオープンショーは終わった。
 
 呆気にとられたように千円客がシャオちゃんを見て、場内のライトが落とされた。
 すぐに次の踊り子さんがマイクを通して紹介されるが、詩帆の隣に戻ってきたシャオちゃんはほっぺがツヤツヤのぷりぷりだった。

 次の踊り子さんは二人にとって何の引っ掛かりもないショーだったので、撮影ショーの間に先程のおひねりについて詩帆が訊いてみた。

「柔らかかった。あとしっとりしてた」
「うん…」
「あと、…渡せてよかった」

と、シャオちゃんは言った。
 当然、過剰なサービスしてもらえたからではない。
 他の客を見下していい気分になれたからでもない。
 頑張って、という意味をわかりやすい形で渡せたからだ。
 写真を撮るのは劇場に呼んでもらうための判断材料にはなるが、踊り子の懐には入らない。
 だから金銭という直接的支援がしたかったのだ。
 それは千円客もそうなのだろう。
 だがシャオちゃんのは群を抜いていた。
 これだから富裕層はと詩帆は思ったが、正しいお金の使い方だった。
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