引きこもりの僕がある日突然勇者になった理由

ジャンマル

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決別

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 ……戻ってきたが、無言が続く。話しかけようとしても、にらまれる。
「……何が言いたいか。分かってますよね?」
 ……どうして助けられなかったのかどうして箱の力を使わなかったのか。そう言いたいんだろう。今の美雨さんの気持ちは、痛いほどわかる。だけど……
「あなたが殺したようなもんじゃないですか……」
「美雨……お前!」
 美雨さんと、七瀬さんが衝突する。だけど、僕にはそれを止める気力がない。そうだ。美雨さんの言う通りだ。晴ちゃんを殺したのは僕と言われても反論する余地がない。箱の力で、存在を消すか? でも、僕だけ覚えている。それは……残酷だ。たった一人の人間が覚えていて、他の人から忘れられる。それは生きているより辛いだろう。いっそ、あなたも忘れて。と、言われるだろう。それでも……やっぱりタイムパラドックスは怖い……存在が消えるだけがタイムパラドックスじゃない。色んな影響を歴史に与えるかもしれない。未来が変わらなくても、過去が大きく変わる。未来では、何の変哲もなく、過去が改変されていることにすら気づかないだろう。だって、未来は変えることが出来ても、自分にはわからないのだから。
「……どうして、箱の力で晴の存在を消そうとしなかった?」
「だって……美雨さんから忘れられたら、晴ちゃんかわいそうじゃないか」
「……同情するならなんでその力を手に入れたんです? 銃の軌道を変えるのに対しては何も反応しなかったじゃないですか。なのに……」
 言いたいことはわかる。だけど、できない。ケビンはああいっていたし、いつ裏切るかもしれない。本人からも消してくれと言われたし。だから同情するよりも実行を選んだ。だけど……晴ちゃんは無理だった。晴ちゃんはかれこれ半年は一緒に過ごした。それに……
「なんですか? プラネタリムに一緒に言ったから無理だって言うんですか?」
 ……そうじゃない。でも、そうでもある。なんて言えばいいんだろう……
「そうですか……あなたにとって、私はその程度って事ですよね?」
「ち、ちがっ……」
「まあ、どちらにせよいいですよ。私、ここやめるんで」
 何……言ってんだよ。やめるって……それこそ晴ちゃんが……
「さっきから晴ちゃん晴ちゃんって……なんで私にはそこまで肩入れしてくれないんですか!」
 そ、それは……何も言えなかった。晴ちゃんが。という以前に、美雨さんだって付き合ってるし、大切だけど……晴ちゃんが死んだのは彼女にとってつらいって思ったから……
「やめるならやめろよ。お前の決意もその程度だったって事だろ。なーにがハルトさんに恩返しする。だ。肝心のハルトが死んだときは何も言わず、妹が死んだときはそこまで感情的になる。その程度だよ。おまえは」
 ……恩返し……って、なんだ? 父さん、いったい何をしたんだ?
「ええ、そうですよ。この程度の人間ですよ。私は……さようなら」
 そう言って、出ていった。戻ってくる気配もないし、辞表も置いて行っている。本当にやめるつもりらしい。どうしよう……箱を使っては駄目だ。それじゃ、上手い人間関係なんて作れやしない。使ったのばれたら、さっきよりも怒るだろう。
「お前にこいつを渡しとくよ」
 そう言って、差し出されたのは、日記だった。勇者録……? これは一体?
「七瀬さん、これって……」
「あいつもバカだよなぁ。こいつを置いて行くって」
 その言動から、持ち主は美雨さんということはわかった。だけど。……黙って、パラパラめくる。
 これって……勇者になった日から、昨日までの事が日記として、記されている。すごい量だ。
「そこにはな、あいつの9年分の勇者としての出来事が一日も、逃さず書いてある。今ちょうどいいし、そいつ見とけよ。あたしは、任務行ってくるからよ~」
 9年分の彼女の思い出……昨日まで。ということは、本当なら、今くらいの時間に書く予定だったのだろうか……? 取りあえず、この日記に書いてある9年分。これを、僕は読むことにした。もちろん、全部とは言わない。ざっとだ。何しろ、本で言えば約1000万ページ以上の量はある。……どうやって一冊にまとめられたのかも謎だけど。おそらく、そう言うノートなんだろう。突っ込まないぞ。
 父さんと美雨さんの出会いも気になる。だけれど、そこに書いてあったのは、今みたいな穏やかな日常ではなかった。小さい頃の彼女の、苦痛も書いてあった……
 正確には小さいとは言っても、中学2年生くらいだけどな。うん。
 取りあえず、これを見て、仕事に戻るか……

 日記を持って、僕は自分の部屋に向かった。いつものような活気のある部屋はなく、そこは、寂しいほど静かだったが。一人孤独で、日記を見る。本当は、こんな事したら犯罪かもしれないが。彼女の過去を知るためだし、これはもう仕方ない。それに、置いて行ったあっちも悪い。
 部屋で、ゆっくりとページを開く――
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