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突然の出来事
しおりを挟む――勇者。誰かを助けるために自分を犠牲にしてまで人を救おうとする人たちだ。勇者。どんな時代もみんなの憧れだ。これは憧れをいつまでも現実にできない一人の青年と、憧れをつかみ取った一人の男。そして――すべてを叶える箱の三つを巡る戦いである。
「ふふ……出来たぞ、今期のアニメ評価スレ! ついに僕もスレ主の仲間だ! あっ、スレ主って言うのは≪1とかよく書かれるあれだ。ふふ、そんな奴に僕もなったから大物だな。フッ」
「何がフッよ、お兄ちゃん」
「なっ、部屋に入るならノックくらいしろよ!!」
「なあにがノックくらいしろ、よ。気づかなかっただけなくせに」
「うっ、面目ない……」
僕は伊勢谷慎二。とある理由で引きこもっている。まあ、その過去についてはおいおい話すとして、今必要なのは、この謎のかわいらしい生物の紹介である。こいつは『伊勢谷杏子』僕の実の妹である。まあ、そんな大した出来で紹介できるほどの属性を持っていないのが売りな残念な妹である。こんな妹をもって兄の僕も残念である。はは、我の前で土下座しろっ!!
「その顔、まーた人を蔑んでるんだね」
「うっ……」
「ま、だから引きこもりから卒業できないんだろうけど―」
「それはいうなって!!」
「ざんねーん! 先に言ったのはお兄ちゃんなんだしお相子だよー!」
「ぐぬぬ、我が妹ながら高度な作戦を……」
「別に高度でもないし」
とまあ、こんなバカを毎日やっている兄妹だ。もっとも、妹も引きこもりだが……痩せてはいるな。むしろもっと食えってほどに。それでも引きこもりをやっている以上は、こう、なんか属性持たないとな。僕の場合は妹持ち。杏子の場合は残念な兄持ちのツンデレっ子、とかな! ふふ、我ながら褒めどころたっぷりであろう。褒めろ、褒めるがいい!
「ねえ、お兄ちゃん」
「んー?」
「私さ」
「おーう」
「彼氏……出来たんだ」
「は……?」
「だから、彼氏できたの!」
「はっはっはー、冗談だな! 引きこもりに彼氏なんてできるわけ――」
「私、昨日外出たし」
「それもそうだな」
引きこもりの定義としてはまだ引きこもりのはずだよ? 我が妹よ。だが、それだけじゃなかった。妹は仕事も見つけたという。どうせ夜のバイトだ……って、それは捨ててはおけぬっ!! 兄として!! 健全な教育をっ!!
「仕事さ、危険な仕事なんだ」
「ふーん」
「勇者……って仕事なんだけど」
「はふう!?」
「RPGとかで見るようなもんじゃないよ? ブラック企業をやっつけていく仕事なんだ」
「ほお」
「でね? お兄さんもどうかって」
「だが断るっ!」
「だよね。じゃ、これで」
「まて、どこに行く! 妹よおおおおおおおお!」
ま、どうせ男のところだろ。けしからん。とは言いつつも、安心してるんだよな、本心は。長い間妹は人とかかわろうともしなかった。そんな妹が、彼氏も作って仕事をするって言い始めたんだ。止めはしないさ。とは言いつつも悔しがってるのも本当だけど。
さて、どうするかな。これから。妹いなくなってダメ人間卒業できない僕はどうするべきかを考え始めた時だった。
「勇者……育成協会……?」
『誰でも勇者になれるんです! あなたもどうですか?』
「これ、勧誘かよ……怪しい仕事の勧誘にしか見えねえけど……」
さらに読み続ける。
『ブラック企業から押し付け仕事まで大歓迎! あなたの力で世界を救いましょう! 貧困、いじめ、格差社会。そんなものからこんなものまで、私たちはなんでもお受けしますっ!』
突っ込みどころ満載だな、おい!!!! しかし、しかしだな。仮にこの仕事に就いたとしよう。それはもう引きこもりではない。だからどうしたというわけでもないが、僕は引きこもりに妙なこだわりがある。そのこだわりは人に話せないが。まあ、くだらないことだと思ってくれ。
それにしても……いじめや格差社会まで減らすって、とんでもない機関だな……これどこが運営してるんだ……?
『運営:勇者育成協会本部』
だああああああああああああああああ!!!! 怪しさまるだしだっつーの!! こんなのに釣れるやつがっ!! いたわ……可愛そうになってきたぞ、妹よ……しかし、待てよ? 勇者って名乗る癖に魔王とか、そういうRPGじみたことはやらないのな。
「ふう……変なサイト見て損した気分」
この世界の秩序には存在しない何かだろう、と理解を経たところで、僕は思い出した。そう言えば、昔父さんがやろうとしてたことあるな、なんて。それもこんなんじゃなかったか? なんて思い出しつつもう一度サイトを見直す。経営者の欄だ。
「木山……春斗……?」
なんだろう。何か引っかかる……
引っかかるが話を変える。この世界は引きこもりが3割を超えた日本である。残りの7割は王族派の貴族となっていた。それは誇れることなのか? わからない。王族派の人間だとしてもそれが正しいとわかっている人間とそうでない人間だっているはずだ。
王族ではない引きこもり達が主なブラック企業の当てつけの先だ。それを知って立ち上がったのがこの勇者育成協会だろう。でも、だとしても、王族派に逆らうのは憲法違反のはずだ……
そんなこんなを考えながら僕はその日を過ごした。
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