引きこもりの僕がある日突然勇者になった理由。ファイナル

ジャンマル

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引き勇

休息

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―――期限まであと1日―――

「……七瀬」
「なんだい?」
「俺を……鍛えてくれ!」
 いきなり言われたからか、七瀬さんは動揺を隠しきれなかったようだ。
「い、いきなりどうしたんだい……」
「明日までに、出来ることはやっておきたいんだ」
「……分かった」
 残された少ない時間。その時間をすべて自分磨きに費やす。何か役に立つのかはわからないが。でも、恐らく役に立つ。絶対。だから、鍛えてもらう。それが、今の自分にとっての精いっぱいだ。
「でも、あたしじゃあんたに銃の技術を教えるくらいしかできないよ?」
 銃。それを扱えるようになるだけでも、案外でかいものである。何しろ、銃はゲームで結構扱いなれている。もちろん、現実じゃ駄目だが、修業すれば、ゲームの感覚と一致して、恐らくすごいことになるだろう。おそらくだけど。
「それだけでも持ってるだけで十分さ……!」
「あたしが教えられるのは最低限だけだ。後は自分がアレンジでも何でもしな」
「分かった」

 そして、そのあとはただひたすらに。銃の技術を磨くだけだった―――
「呑み込みが早いね」
「まあ、それは自慢できるからね……」
「さて、時間がないだろ? 喋ってる暇があるなら手を動かしな」
「うん」
 ひたすら。ただひたすらに銃を撃つ。強さだけを求めて――
 空き缶を狙って精度を上げていく。もちろん、空き缶は要らないものだ。精度を上げる修業は、ゲームで養ったセンスもあってか、すぐに慣れてきた。しかし、銃って結構重いんだな……
「お前、体力なさすぎ」
「う、うるさいな、長年引きニーだったんだ。なくて当たり前だろ」
「あー。体力面は一日じゃどうもならんからな。あとはお前のセンス次第だな」
 見下すような顔で言ってきた。うっぜえ。絶対、見返してやる。

――期限の日―――

『もしもし―?』
「……今どこに居る」
『あ―今はね―――』
 居場所を聞き出す。居場所に向かう。そう男に言い放ち、そこへ向かった――
 場所は、ここから結構近くの倉庫。しかし、何故あそこの倉庫なんだ? 場所指定が正確過ぎる。まるで、僕たちの事を監視していたかのように。そう言えば、七瀬さんは昨日電話を……まさか。いや、深い考えはやめよう。
「来たぞ」
「お、やっと来たか」
「……来たぞ」
 立っていたのは、仮面の男。その口調は、少し無理矢理やっている感じがした。
「うーんでもね。戦おうよ。せっかくだし」
「は……?」
 意味が分からなかった。今、会ったばかりの人間と戦う? その感性はどこから来ているんだ? こいつ戦闘馬鹿か?
「戦おって。戦闘だよ。戦闘」
「……分かった」
「さあ、始めようか」
 いきなり始まる戦闘。なんだ? 妙な違和感に気付いた。まるで、僕の戦略を見破っているかのような。
「ほらほら。早く早く」
「急かすな……よっ!」
 僕の持つ銃から放たれる弾丸。だが、その標準はずれていた。いや、正確には、『ずらされた』だろうか。僕は正確に狙ったが、当たらなかった。
「危ないなぁ……そんな危ないもの」
 かすれた。わずか3mmずれていた。駄目だ……もうあきらめていた。
「あ……」
 が、そのずれた弾丸は、奇跡的に、美雨さんを縛っていた縄を切った。
「切れましたね……」
「お姉ちゃん!! 早く!!」
 僕の後ろから彼女へ向かう少女。彼女がこの場から離れたのを確認し、僕は男と1対1の勝負に集中できるようになった。
「じゃあ、僕も武器出すか」
「え……?」
 男が取り出したのは……銃だ。しかし、その顔は、まるでこうなるのを狙っていたか、知っていたか。そんな雰囲気だった。
「銃……」
「七瀬君に銃を教えたのは私だからね」
 え……? まさか、あなたは……やっぱり……
「おっと、いらないことを言ったね。さて、続けよう」
 ただ、ひたすらに放ちあう銃弾。だが、男はわざと僕から軌道をずらしてるように見えた。
「それが君の全力なのかい?」
 何故だかわからないが、妙に焦っているように見える。まさか、死ぬつもりか……?
「殺してほしいならやってやるさ!! その仮面を剥いだ後でな!!」
「出来るならやって見せろ!!」
 急に口調が変わる。聞き覚えのある声のトーン。やっぱり……
「やっぱりあなたは……」
「ばれてたか……」
 男は仮面に手を伸ばす。外される仮面、その素顔は――
「ボス……!」
「……いつからわかってた?」
「……最初の銃弾が外れたあたりから……」
「随分、察しがいいんだな」
「ま、まあ……」
 なんだろう、この親近感は――

―――10年前―――

 僕は、拾われた。拾った彼は、名もない僕に優しくしてくれた。彼は、かつて英雄と称えられ、その後、世界から批判され、国を追い出されたらしい。
「君、捨てられたのかい?」
「……」
 彼は、言葉を知らない僕に色々教えてくれた。
 やがて、長い月日がたった。彼は突然、僕の前から消えた。周りの人は、国に戻ってきたのがばれて、国から追われたのを、僕を守るために一人で消えたらしい。僕は彼を恨んだ。ただ一人、僕を助けた彼が自分の前からいなくなったのだから。
 その後、僕は伊勢谷家に引き取られた。それからというものは、ネットに没頭し、ダメ人間へと変わってしまった。――

――

「なあ、今は伊勢谷だっけか……?」
「やっぱり、あんた、父さんなのか……?」
「……さあな。だが、お前はなぜそう思う」
「懐かしい感じがするんだ……あんたからは」
「じゃあ、そうなのかもな」
 この空気。懐かしい。だが、余談に浸ってる暇はないとすぐに分かった。
 先に仕掛けたのは彼だった。銃を向け、僕に敵意をむき出しにする。
「俺が撃てないのを分かってて……」
「撃てよ。なんだ? 育ての親を撃てないってか?」
「うっ……」
 その直後だ。僕の後ろで発砲音がすることに気付いた。僕は瞬時によけてしまった。
「あんた、何グズグズしてんのさ」
「な、七瀬……」
「見て分かんないか? あの人はお前に殺されるのを望んでるんだよ」
「俺に……?」
 まさか、本当に死ぬつもりか? でも、やっぱり僕には撃てない……どうして、そんなに死にたがるんだ? 何かあるのか?
「あんたが撃たないならあたしが撃つ」
「ま、待ってくれ……」
「なんだい? 自分がやるなら早くしてくれよ。あたしも、あの人も。我慢の効く輩からじゃないのを分かってるだろ?」
 誰一人、犠牲を出さずにいい方法はないのか?
「なあ、伊勢谷。俺は最初からお前に殺されるだけに花沢に協力してもっらったんだ。その意味が分からないって事はないだろ?」
「……それが、あんたの意志なんだな?」
「そうだ。それと――」
 男は、言った。それを聞いた僕は、一瞬震えた。それが現実だったとすれば、それは本当に国から追い出されたことになるくらいだったからだ。でも、何故それだけで死にたがる?
「教えることは教えた。後は、お前の勇気だけだ」
 僕は躊躇った。だが、ここで撃たなければ彼を侮辱したことになる……
 決断は早かった。僕は引き金に手をかけた。そして、涙と共に引き金を引いた。

―――7年前―――

「ねえ、お父さん」
「ん? なんだ?」
「父さんはさ、なんで英雄なの?」
「なんでだろうなぁ? まあ、いずれお前にもわかるさ」
 それは、彼が僕に言った最後の言葉だった。いずれわかる。そう言い残して、父さんは消えた。――
 あの時、もっと彼と話したかった。あの時、彼と共に居たかった。
 僕は数年たってからそのことを後悔した。だが、やっと彼に再会できた。だが、その再開は残酷だった。彼は組織のボスとして、国を影から助け、僕は家でダメ人間生活を満喫していた。僕がダメ人間じゃなかったら、いったいどうなっていたのだろうか?
「なあ、お前、撃ったことを後悔してるか?」
「あたりまえじゃないか……仮にも、育ててもらった恩人を撃ったんだぞ……」
「いいんだ。これで。俺のループもここで終わる……」
 ループ……そうまでして、彼が救いたかったものは何だろうか? でも、何となくわかる気がした。それが、自分の、父さんの一番大切なものだって事は。
 これから、僕たちはどうなるのだろうか? 勇者とは一体なんだたのか? すべてを知る人間がこの世からいなくなったなら僕たちの居場所はどこにある?
 だが、僕は勇者として、その運命を受け入れることにした。
――
「おい、いいのかよ。お前」
「ん? 何がだ?」
「あいつ、お前の親友だろ?」
「あー。それか。だけどな、お前もわかってるだろ? 『例の箱』を使えばどちらにせよ死ぬって」
「それも……そうだな」
 サングラスの男。そして、羽のある男。羽根のある男は、天使なのか……? そして、親友と名乗るサングラスの男は、いったい誰なんだ……?
 いずれわかる。そんな気がした。

 目が覚めた。今までのは……夢か。全く。変な夢だった。でも、少し安心していた。これから始まる事を何も知らないのだから。
「あ、伊勢谷さん……」
「あ、あれ……? どうしたの?」
「今日で……勇者育成協会は解散みたいです」
「え……?」
 はっきりとわかった。そして声に出す。あれ、正夢になった……!?
「デジャヴ」
「ど、どうしたんですか……?」
 いきなりそんなことを叫ぶんだ。驚かないわけがない。というか、叫びたくもなるわ。だって、正夢だぜ?
「解散って……もう他のみんなは知っているのか?」
「一応……」
「居ないって事は……七瀬は真っ先に出てったんだな?」
「はい……」
 元気がない。のは、寂しいからだろう。夢じゃなかった。
 が、恐らく夢と同じなのは解散するくらいだろう。
「七瀬さん、解散したんだから、次にあったからには何をするかわからないよって……」
「あいつがそんなことを……」
 だが、解散した後の目的は何だ? ブラック企業は何だったんだ?
 大事な人間が居なくなってから、今まで疑問に感じて居たものが一気に溢れ出す。
「ブラック企業って一体なんだったんだ……」
「それについては今、こっちで必死に調べてます」
「こっちで……?」
 解散したんだろ? こっちで……一体どうなってるんだ。まあ、解散したくないというのはわかるが……
「お姉ちゃん……解散したくないって」
「それで、お前たちだけ残ったと……?」
「はい……」
 ブラック企業。わかりやすいようにそう例えてるだけで、本当はもっと別の何かだと思い始めていた。もっと、裏で何かが動いているんじゃないか?
「伊勢谷さんは……どうするんです……?」
「俺は……」
 決断の時。
 ここに残りますか? ここから出ますか?
 その二択だった。
「僕は、残ったほうがいいのか?」
「そ、それは……」
 どうする。ここに残っていても何もない……でも……解散もしたくない。
「……考えておくよ」
 あれ……? どうしてこうなったんだっけ……

―――その頃―――

「ふむ、戻ってきたか」
「戻ってきたんじゃねえよ、戻ってきてやったんだ」
「まあ、そうかっかするな。七瀬よ」
「……」
「いや、コードネームCよ」
 動き始めた謎の集団。その目的はわからない。だが、これが戦うべき相手かもしれない。それだけはわかる。
「C、いいのか? 仲間だった奴のはずだが」
「あ? 元々仲間じゃねえ」
「そうか……」
 何かが動き始める。何かだ。何かはわからない。ただ、中二的な何かだ。

―――

「さーて、久しぶりにわが家へ帰るかぁ~」
「あ、じゃあ、荷物まとめるの手伝います」
「うん、ありがとう」
 荷物をまとめる。まるで、旅に出るみたいだ。
 まとめる荷物。だが、まとめるほどの量でもない。手に持てるレベルで微量なものである。ふふ。荷物とは少なくまとめるものなのだよ……
「じゃあ、行くよ」
「さようなら……」
 僕は帰る。家に。家にだ―――

 ついた。わが家へ。
「たっだいまあああああああ」
 ドアを開ける。そこにあったのは……
「な、なんでだ……」
 母さんの倒れているところだ。何故だ? 一体なぜなんだ?
「一体誰が……」
「ああ、お前の母親だったか」
 聞き覚えのある声。少し荒い言葉使い。まさか……
「あたしはあたしの仕事をしたまでだよ。恨むなら、うちのボスを恨みな」
「……それが、お前の仕事だって?」
「そうだよ」
「……なら、僕はお前を倒す」
「出来るかな?」
 この瞬間から、彼女は完全に僕たちの敵になった。
 というか、母さん、死んだふりはよくないぞ。うん。よくない。

 じゃあね。あたしは行くよ。
 そう言って、彼女は僕のお母さんを殺し、消えた。お巡りさん、こいつです。
「……母さん、いつまでそうしてるつもりだい?」
 ……
「お、おい」
 ……
 返事がない。ただの屍のようだ。ゥ、嘘だろ? 本当に死んでる……ふふ……ハハハ! ざまあねえな、ババア!
 と、一人歓喜していると、寒気がした。『歓喜』だけに『寒気』ですか……いや、上手くねえよ! 怖いわ!
 と、その時、電話が鳴った。
『伊勢谷さん、そっちに七瀬さん居ませんでした?』
「え? 今、僕のかあさん殺してったけど……」
 ええ!? と、驚いているが、実際僕はあまり気にしてはいない。だって、気にするもんじゃないだろ。親の死なんて。いや、感性がおかしいだけかもしれないな。
『ああ……まあ、お母さんなんていてもいなくても関係ないですけどね』
 いやいや、君がそれを言うか。ちょっと驚いた。いや、ちょっとどころじゃないけど。
『って、そうじゃないです! 七瀬さんを止めないと』
 そうだ。止めないと。
「あ、そうだ。晴ちゃん。今からそっち行くよ」
『え……?』
 そりゃあ、さっき帰ってきたばっかで、今向こうに返るんだもんな。通行料無駄過ぎるし、無駄足過ぎる。でも、自分の親の死が見れました(錯乱
 いや、そこじゃなくて。
『って事は……残ってくれるんですか!?』
 うん。というと、電話越しでもわかるくらい馬鹿でかい声で叫んでいる。やばい、耳に来る。
 まあ、残るとはいっても、居場所がないだけだけどな。ボッチは寂しいんだ。
『ですよね……一人ぼっちは寂しいですもんね』
 あかん。今なんか変なフラグ立った。これ、死亡フラグじゃないよね? ね?
『と、って事は、部屋の準備しなきゃですね』
 あっ、そこなのか。いや、どこに驚いているんだ? 僕は。
『あの……不謹慎かもしれませんが、ボスの部屋でいいですか……?』
 いいよ。と、言う声は、少し暗かった。まだ、気にしてくれているんだろう。でも、もう大丈夫だ。何しろ……親が居ない! これで、財産とか使い放題だぜええええええええ!! って、違う。僕でもそこまで最低ではない。むしろ、逆に困るのはこれからだ。親がいない=自由じゃない。という事でもある。だって、僕まだ年齢的には大学生ですしお寿司。まあ、金は父さんがくれてたから何とかなったけど、これからは管理しないとな……まあ、次期社長は晴ちゃんだけどな。能力的に。それで満場一致になった。話し合って決めたのであって、可愛いから、という僕の独断と偏見ではない。いや、少しそれもあるけど。さすがにそれを突き通すと、引かれるからやめた。
 まあ、残る気はなかったから、晴ちゃんで異論はなかったんだけど、今更戻るっていちゃったんだけどな……まあ、あっちもそうしたほうが嬉しかっただろうし、それでいいんだけど。
『あ、それと。伊勢谷さん』
 はい。と、いきなり言われるもんだから少しビビって裏声が出た。
『ボスの伝言で、使ってた銃はあげるって』
 いや、くれるんかい。というか、持ってたんかい。……ちょっと複雑な気持ちだ。形見とか、かたっ苦しいものは持ち合くなかったんだけどなぁ……まあでも、買う手間省けたからいっか。いや、形見の扱いひでえな。つくづく、自分でもそう思う。
『あ、あの……』
 おっと、忘れてた。ごめん。
『と、とりあえず! 準備して待ってますから!』
 な、なんでそんなに突き放すような言い方なんだ……まあ、照れてるんだろうな。そうに違いない。いや、絶対そうだ。……これじゃまるでロリコンじゃないか。
 いや、そうだろ。と、どこかで突っ込まれた気がするけど、気にしない。いちいちそんなこと気にしない。気にしたら負けです。はい。
「……とは言ったものの、終電間に合わねえ……」
 帰 れ な い 。
 終電逃したあああああああああああ!! やべえよ。帰れない。これがどれだけやばい事かって表すと、地球が2滅ぶレベルのやばいことだ。大げさすぎるけど。
 とりま、どうするか。……いや、家の前でなんで悩んでるんだよ! 家で寝ればいい話だろうに。なんでこんなバカなんだ、僕は。これでも、いい大学に入れるくらいの偏差値はあるんだぜ……? むしろこれしか自慢できないぼっちは……
 っと、電話が鳴る。いきなりすぎるぞ、電話よ。少しは自重してくれたまえ。
 優雅に携帯をとり、出る言葉はこうだ。
「もしもし、こちら世界一頭のいい勇者です」
 これを言うんだ……絶対。
「もしもし――」
 割り込まれる。最後まで言わせてください。
『あー、伊勢谷か?』
 むむ、むむむ? その声、七瀬さんではないか。というか……
「なんで番号知ってるんですか!?」
『こないだ電話してる時に見た』
 犯罪臭する発言です。本当にありがとうございました。
 電話の内容は――次回にしておこう。次回って何の話か知らないけど。きっと大事なことだと思うぞ。僕は。次回とか知らないけど。
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