引きこもりの僕がある日突然勇者になった理由。ファイナル

ジャンマル

文字の大きさ
51 / 271
引きされnext

終りへ

しおりを挟む
「あ、あの」
「え?」

 伊勢谷さんが去った後、私の元を訪れた子がいた。その子の事を――私は確かに、知っていた。
 その顔を、その声を。忘れたくても忘れられない。その――名前を――

「花園……圭……」
「え、なんで知ってるんですか!?」
「あ、ご、ごめん……ビックリしちゃった?」
「びっくりなんてしてないです……それに、初めて会った気がしないです」

 その発言は、確かに、うっすらと記憶にある事を指していた。

「ね、ねえ、今の本当!?」
「え、な、何がですか!?」
「私の事初めて会った気がしないってこと!!」
「ほ、本当です……」

 これは――もしかすると――

「私の名前、わかる……?」
「えっと、その……ごめんなさい……」

 まあ、当然の結果だ。わかってはいたけど、それでも、悔しい。これまでの頑張りが無駄になりそうで、これまで無駄にしてきた思いが本当に無駄になりそうで、声が詰まった。息が出来ないくらい苦しかった。
 でも――圭の発言は予想より、上だった。

「へ、れ、ん……さん……?」
「え……?」

 覚えている発言だった。耳に残る発言だった。

 私が掛けたたった一つの勝負。何億分の一の確率。それは、人の心象風景。どこかで会ったような気がする。夢の中でも、妄想の中でもいい。
 そう言った偶像が、時たま現実になるときがある――

 それが、今だ。

「やっと、やっと――見つけた」
「え、えっと……な、泣かないで……?」
「うん。でも、泣きたいの」
「……いいよ、泣いても」

 泣き叫ぶ声が、施設内に響き渡ったのを覚えている。この再開は――何億分の一の確率に掛けた、最初の世界線の過去。私がいるべき世界線の過去なのだから。

「ねえ、私の名前――」

 幾度となく繰り返してきた、機械のように繰り返してきた。挫折しかけた。そのたびに――あの顔を。この顔を。その顔は、はかなくも、散っていこうとした。いつも、いつも――手の届く範囲で、でも、届かなくて――

「ヘレンさん」
「何?」
「この施設で、伊勢谷さんに救われた人は何人もいるんです」
「ふふ……知ってる」

 そうだ――
 進むべき道は一つ――

「彼に恩返しがしたいんです!」
「私も同じこと考えてたわ」
「じゃ、じゃあ!」
「伊勢谷さんの次の勇者。そうね――next。なんて名前でどうかしら?」
「いいですね!!」

 無邪気な顔で答える。この笑顔を見たいために――

「じゃあ、メンバー集めですね!」
「もう決まってるの」
「え?」
「あなたも、そうじゃない?」
「そう……ですね!」

 これが、終結点。何の因果の干渉もなく、誰にも壊されぬ世界。箱なんてみじんも縁がない世界――

 すべてがぐちゃぐちゃだった世界線は、一つに集約する。
 誰も死なない世界線――私と圭が望んだ最高の集約点。この世界で生きていく。この世界なら前を向いて生きていける。

 そんな気がする。

「カエデとか!!」
「そうね。私も丁度同じ考えだったわ」
「じゃあ、結成しよう!」

 世界線はnextへ――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...