引きこもりの僕がある日突然勇者になった理由。ファイナル

ジャンマル

文字の大きさ
183 / 271
LEVELZERO

本気の喧嘩

しおりを挟む
『あまりいかるとまたレベルが――』
「んなもん関係ねえ!」
『そ、そうですか……』
「今必要なのは治癒能力だ!」
『わかりました。向かわせます』
「頼む」
『すぐには行けないので我慢してください!』
「すまんな」

 そう言って、治療部隊を向かわせた。それがどうなるかはわからない。だけど――助けることが最優先だった。
 それに、向かわせたところで能力者が助かる望みは薄い。

「どうする……どうする……?」
「な、なあ」
「あ?」
「能力者って……低いほど、有利なんだぜ……?」
「え?」
「演算が要らない分……使いやすい……」

 そう言う事か。でも、喋るな。そう言って、少年は助けることを最優先した。失うものを失い自分を救わずみんなを救う少年。大事なものを失い、それでも自分と誰かを助けることを優先させる少年。
 二人の違いは、明確になり始めていた――人間として、成長し始めていた。

「とりあえずしゃべるな、いいな?」
「うん……」

 そう言って、二人はただ、助けを待った。

 その後、終木神はなんとか助かった。幸いにも――能力者ではない。というのがよかったようだ。しかし――にしても――いや――だが――

「……」
「な、なあ、なんで無口なんだ?」
「わ、わかりませんよ」
「……」

 すらすら。
 紙に何かを書き始めた。そして――紙には、「声を失った」と、書かれていた。なぜなのか。答えは簡単だった。
 能力者を監視するために派遣されていた彼は、能力の力をあやふやにするリミッターアイを持っていたからだ。あれは能力のレベルを判定する能力ではない。能力をめちゃくちゃにする能力だ。故に――めちゃくちゃとなった能力が命と引き換えに声を持っていったようだ。

「……」
「えーっと……?」

 紙に書かれていたのは、『指揮官の大事なものを失ってしまった。もう指揮官としては無理だ』と。そんなことはないと全員で必死になって言うが、それは余計に空気を重くした。それは余計に相手の首を絞めていた。

「……そこまで指揮官にこだわる理由って何なんだ?」

 それは、もっともな質問だった。それは、今一番知りたい理由だった。指揮官としてやっていけないと悟った彼が何故指揮官にこだわるのか。彼は、それが気になって仕方なかった。

『父親が指揮官だった』
「え……?」
『父は海軍の指揮官で、憧れていた。でも』
「でも……?」
『指揮官故に前線に出て死んだ』
「……」
『だから、僕は父の代わりに指揮官として生きたい』
「……なるほどな」

 理由としてはよかった――そう。理由として、は。

「でもそれ、お前の望みじゃないだろ?」
『そうだよ。でも、それでいい』
「いいわけないだろ!」
『いいんだよ!! ……これで』
「でも!! それじゃあ……お前は……」
『呪縛に捕らわれてたっていい。だけど、指揮官としての能力はわかってるはずだろ?』
「そうだけどさ……」

 呪縛。その言葉に捕らわれ続けてきた少年は、たった今、その呪縛から逃れようとしていた。指揮官になるという呪縛から。指揮官をしなくてはいけないという義務感から。

「義務感からの正義なんてそれは正義じゃない。ただの偽善だ」
『義務感なんて感じてないよ。ただ、そうしなきゃいけないってだけ』
「んなわけあるかよ!!」
『あるよ!!』

 二人の喧嘩はまた始まった。……喧嘩。その言葉で抑えていいのだろうか。果たし、喧嘩で終わらせていいのだろうか。二人の指揮官は、確かに、お互いの義務感からお互いを解放しようとしていた。

「俺はお前に憑の復讐って呪縛から解いてもらったことに感謝してる。ありがとうって言いたい。でもな!! 今のお前にそれを言うべきだとは思わない!!」
『じゃあ、どうしろって!? 僕に何をしてほしいんだ!?』
「自分を大事にしろよ!! じゃないとお前がどんなにすごくったって部下はそれについてこないだろ!?」
『つ……!?』
「今の前は正義者じゃない!! 偽善者だ!!」
『そんなの……そんなの人じゃないお前に言われたくない!!』

 二人の本気の喧嘩は続いた。まだ、続くだろう。しばらくは――そう、しばらくは――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...