ファンタジア!!

日向 ずい

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第7章「紫翠との熾烈な戦い。」

「雅との過去。」

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「お兄ちゃん...下手くそ!!!...僕のが上手に弾けるよ???」

「はぁ!???......。」

 俺が、ギターから顔を上げると目の前には、ニンマリと嫌な笑みを向けてくる一人の男の子が立っていた。

 しかも、あろう事か...目の前のガキは、初対面のくせして、俺の練習中のギターを下手くそだと言い出した。

 俺は、このクソガキに思い切りガンを飛ばしこう言ってやった。

「んだよ...クソガキ!!!...そんなに言うなら、弾いてみろよ!!」

 今になっては、ほんと大人気ないと思ったが...まぁ、この時はまだ俺がガキだったからなぁ...。

 俺のこの言葉に目の前の男の子は、満面の笑みで俺からギターを受け取ると、俺の腰掛けていたベンチによいしょと腰を掛け...弾き方もわからないのに、一生懸命にじゃんじゃかじゃんじゃかと、デタラメだが......とても楽しそうにギターを弾きだしたんだ。

 俺は、普通ならこんな適当な音で弾かれたら、すぐにでもギターを取り上げるところだが...その時は、あまりにも楽しそうに弾く男の子の姿に目を奪われてしまい...結局、彼が返してくれるまで、じっと彼のデタラメなギターを聴いていた。

 そう、この男の子こそ...今、俺が生きる意味を作ってくれた雅こと...桜宮虎雅(さくらみや たいが)だったんだ。

 俺は、雅がギターに飽きてしまい、俺にギターを返してさっさと帰っていってしまった後も、ずっと雅のギターの音色を頭で再生し続けていた。

 あんなにデタラメなのに、どうしても思い出してしまう...この時の俺は、まだその意味が分かっていなかったのだ。

 そうして、その日は特に練習に身が入るはずもなく...ため息も早々にギターをケースに入れると、家に帰った訳だが...。

「...ただいま。」

「おっ、おかえりなさい。ふみ坊っちゃん!!...今日もまた、ボスに買ってもらったギターの練習をしに行ってたんですね。...今日は、上手く弾けましたか??」

 帰ってきた俺にこう聞いてきたのは、俺の父親の部下である山座頭(やまざと)...。

 この男は...俺の実の父親のように毎日、忙しい俺の父親(山座頭の上司というか、ボス。)に代わって、ただいまのお出迎えや、行ってらっしゃいのお見送りをしてくれていた。

 そんな山座頭に俺は、自分の部屋に足を進めながらこう言った。

「...うーん、なんか今日は変なやつと出会ったよ。」

「へぇ、変なやつですか??...というとやっぱり...変出者的な...??まぁでも、ボスの血が入っているふみ坊っちゃんなら、一発でK.Oを狙えますね!(笑)」

「はぁ...。山座頭さんは、俺が父親みたいに強い人間だと思って言ってるの???...俺は...父親みたいに人を殺めたり出来ないよ...。」

 俺のこの言葉に山座頭さんは、少し困ったように口を開いた。

「ふみ坊っちゃん...。山座頭は、ふみ坊っちゃんを強いと思いますよ??...ふみ坊っちゃんは、こんな山座頭にも、優しくしてくれます。...いつもボスに怒られてばかりの私を...外から帰ってきたふみ坊っちゃんは、慰めてくれます。...優しさだって...素敵な武器です。山座頭は、ふみ坊っちゃんがいるから...この仕事を続けていられるんです。ねぇ、ふみ坊っちゃん。」

「っ...ち...近い山座頭さん...。なっ...なにっ??」

 俺が自室に向かいながら、隣を歩く山座頭さんに愚痴を零すと...山座頭さんは優しい顔をして、俺の肩を掴み俺の歩みを止めさせた。

 そうして俺と同じ目の高さまで、膝を落とすと、俺の目をじっと見つめて、俺の頭をゆっくりと撫でだした。

 俺は、いきなりの事に恥ずかしさのあまり下を向いていたが、いつの間にか山座頭さんが目と鼻の先まで近づいていて...至近距離で視線が絡まった。

 その瞬間、俺は声を上ずらせて山座頭さんに質問した。

 すると山座頭さんは、優しい微笑みを崩さずに......。

「...ふみ坊っちゃんは、今でも立派なボスですよ??...だから、一人で大変な時は......山座頭を...いくらでもこき使っていいんです。...ねぇ??...ふみ坊っちゃん、山座頭を使ってください。」

 山座頭さんは、俺にこういうと俺の額に優しく口付けをして、また頭を撫でてくれた。

 俺は...そんな山座頭さんの優しい声に...自然と涙を目から溢れさせていた。

 ...だって....だってさ。

 オヤジが...俺に全く感心を持ってくれていなかったんだから...。

 ギターをどれだけ練習しても......勉強をどれだけ頑張っても...いつも褒めてくれるのは.........父親代わりの山座頭さんだった。

 俺は、それで十分幸せだと思っていた。

 親がいない子だっているんだ。

 だから、俺は幸せ者なんだって...贅沢いっちゃいけないって......そう思っていたのに.........実際はそうじゃなかった。
 
 ...死ぬほど寂しかった。

 出来ることなら、普通の家庭に生まれたかった。

 俺がマフィアの元に生まれたから......。

 ずっと後悔していた......ずっと嫌だった......マフィアの子になんて、産まれなかったらよかったって...そう思っていた...。

 だから...俺は泣いた。

 人生で生まれて初めて、体力を使って泣いた。

 そんな俺の事を静かに...それでいて優しく抱きしめて、大きな身体で包み込んでくれた山座頭さんは......もういない、死んじゃったんだ...。

 俺を慰めてくれた次の日に......俺のオヤジによって殺された......理由は簡単...。

 ............俺を慰め...俺を抱きしめ...俺に人の温かさを...教えちまったから...。
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