3 / 7
一章 理不尽な別れと新たな出会い
どん底冒険者のRe:start(?)
しおりを挟む
大都市レンザスは、この世界の中でもかなり大規模な都市である。
連日冒険者、狩人、商人、遊び人などで賑わっている。
レンザスに冒険者や狩人が多い理由は、レンザスには沢山の仕事が転がり込んでくるからだ。
世界地図でいうとちょうどど真ん中に位置しており、東西南北どの方面からでも行き来しやすい。
モンスターの討伐依頼や開拓の依頼をレンザスでおこなう人、そしてそれを引き受ける冒険者や狩人、金儲けをしようとやってくる商人、娯楽快楽を求めてやってくる遊び人。
様々な目的で様々な人間がレンザスにやってくるので、仕事が見つけやすい。
特に、レンザスは冒険者、狩人の都市として世界的に有名だ。
モンスターの討伐依頼や開拓の依頼が特に多いので、ビッグな夢を持っている冒険者や一狩りしてやろうと意気込んだ狩人は大抵ここに流れ着く。
そんな賑やかな街に、コソコソと二十歳無職の男が一人。
※
「あいつら、もう帰ってるのか……? 宿に向かう途中でバッタリ会ったらどれだけ気まずいか……想像しただけで地獄だ」
綺麗に整備された石畳の上を歩きながら、俺は自分の失態を悔やむ。
あれだけ啖呵を切って別れたのに、荷物忘れるとか改めてダサすぎだろ俺。
でも、荷物がないと俺は文字通り『死』だ。
宿に置いてきた荷物には、少しの金と携帯食料がある。
職を見つけるまではなんとかそれで凌げる、はず。
「――それにしてもまぁ、いつものことだけど……」
日が落ちてなお、外は沢山の人の喋り声、笑い声、グラスをぶつけ合う音でガヤガヤと賑わっている。
すっかり夜だが、レンザスの本番はここからだ。
普通の街なら夜になれば辺りは静まり返るだろうが、レンザスは夜になると活発になる(変な意味ではない)。
理由は、ここが冒険者、狩人の都市だからだ。
昼にモンスターの討伐に行った狩人達や、冒険や開拓に行った冒険者達が夜になると帰還する。
そして雄々しい狩人や冒険者達が疲れを労う為に店や外で飲む。そして夜が更ける頃、疲れ切って眠りに落ちる。この流れがレンザスの日常である。
もちろんレンザスには狩人や冒険者以外の人達も沢山住んでいる。
けれど、住民達も夜中に狩人や冒険者が騒ぐという習慣が当たり前になっているので、特に騒音の苦情なんかはない。
中には狩人や冒険者に混じって飲んだり談笑したりする住民もいる。
俺も最初は夜なのに騒がしいと思っていたが、慣れてくると夜風を浴びながらキンキンの酒を流し込むのが癖になる。
仕事を終えて仲間とモンスターや冒険のことで盛り上がったり、くだらない世間話をしたり。
そんな日々が俺は好きだ。大好きだった。
「そっか、俺……この日常を終えないといけないんだよな」
夏の温い夜風にあてられ、暗闇を照らすオレンジ色の街の灯りに、少し黄昏てしまう。
パーティーを追放されて行く当てがなくなり、楽しい夜はもうどこにもない。
あいつらは今頃、新しい仲間と楽しく飲んでるのかな。
「パーティーは追放されちまったけど、少しは強くなれた、よな……」
俺の冒険者生活を振り返ってみる。
レンザスに来て三年ちょっと。
最初の一年はフリーで冒険者をして(ほとんど成果はなかったけど)、そこから二年間はキルフェン達と修行、冒険の日々。
俺達で世界最強のパーティーを作って英雄になろうって意気込んだ夜があったな。
あの夜のことは忘れない。キルフェン、エリク、マーガレット。パーティー全員の共通目標ができて、本当に嬉しかった。
俺達なら絶対、世界最強のパーティーになれる。そう思って無我夢中で過ごした二年間だった。
「あいつら、本気だったんだな。ずっとずっと、世界最強のパーティーを夢見てたんだ」
二年間一緒だった仲間を追放するなんて、並の精神でできることじゃない。
あいつらと二年過ごして分かるけど、キルフェン、エリク、マーガレットは悪い奴じゃない。
きっと、悩んで悩んで悩んだ末に決断したんだ。
夢の為に仲間を切り捨てるという決断を。
「ま、別に俺はあいつらと違って、世界最強のパーティーをそこまで本気で目指してたわけじゃないし。このまま並の職業を見つけて、スローライフなんてのも悪くないかも。そもそもあいつらのせいで俺は追い出されたんだし、夢が叶わないのもあいつらのせいだよな」
そうだ、もう夢を諦めよう。
そしたら楽になれる。
こんなハズレデュミナスだし、世界最強なんて夢のまた夢だ。
俺のデュミナスはスローライフに向いているんだし、このままひっそりと暮らしていこう。
そこそこの職業に就いて、家庭を持って、静かに暮らそう。
そして、静かに穏やかに人生を終えるんだ。
――そう自分に言い聞かせても、手の震えが、足の震えが、高鳴る鼓動が止まらなかった。
いや、止めてはいけないと思った。
本当は、自分の気持ちに嘘をついていることなんて分かっていた。
「悔しい……悔しい……悔じいッッ!!」
胸の内にしまっていた感情が爆発した。
ひたすら自分が惨めで、悔しい。
己の実力不足でパーティーを追放されて、一人ぼっちになって、挙句の果てにはずっと追いかけてきた夢を仲間のせいで無理だとあっさり諦めようとする。
そんな自分が情けなくて、ひどく悔しい。
「……強く、なりたい……」
震えた手で目を覆いながら、俺は人知れずそう呟いた。
そうだ、俺は強くなるために、故郷を飛び出してここに来た。
一人前の冒険者になるために、最高の仲間と最強のパーティーを作るために。
こんなことで終わりたくない。
仲間に見捨てられたまま、ずっと悔しさを抱えて生きていきたくない。
そんな人生の結末、あんまりだ。
「俺はザコだ。俺の力でどこまでやれるのかなんて分からない。世界最強のパーティーを作れるのかどうかなんて分からない。でも、俺は……俺は……このまま終わることなんてできない……絶対に」
仲間に見捨てられ、何もかも失ったどん底冒険者。
それが俺、エクリル・マドムウェル。
でも、俺に残っていたものがたった一つだけある。
このまま終わりたくないという強い思い。
それだけは、これからも絶対に絶えることはないし、絶やすことはできない。
俺は、最強のパーティーを作る。
最高の仲間を作って、俺の失った日々を取り戻すんだ。
「うおおおおおおおおおおあああああ――――ッッッ!!!!」
周りの目など気にせず、精一杯の誓いの雄叫びを夜空に向かって上げた。
ここからが、どん底冒険者のRe:startだ。
連日冒険者、狩人、商人、遊び人などで賑わっている。
レンザスに冒険者や狩人が多い理由は、レンザスには沢山の仕事が転がり込んでくるからだ。
世界地図でいうとちょうどど真ん中に位置しており、東西南北どの方面からでも行き来しやすい。
モンスターの討伐依頼や開拓の依頼をレンザスでおこなう人、そしてそれを引き受ける冒険者や狩人、金儲けをしようとやってくる商人、娯楽快楽を求めてやってくる遊び人。
様々な目的で様々な人間がレンザスにやってくるので、仕事が見つけやすい。
特に、レンザスは冒険者、狩人の都市として世界的に有名だ。
モンスターの討伐依頼や開拓の依頼が特に多いので、ビッグな夢を持っている冒険者や一狩りしてやろうと意気込んだ狩人は大抵ここに流れ着く。
そんな賑やかな街に、コソコソと二十歳無職の男が一人。
※
「あいつら、もう帰ってるのか……? 宿に向かう途中でバッタリ会ったらどれだけ気まずいか……想像しただけで地獄だ」
綺麗に整備された石畳の上を歩きながら、俺は自分の失態を悔やむ。
あれだけ啖呵を切って別れたのに、荷物忘れるとか改めてダサすぎだろ俺。
でも、荷物がないと俺は文字通り『死』だ。
宿に置いてきた荷物には、少しの金と携帯食料がある。
職を見つけるまではなんとかそれで凌げる、はず。
「――それにしてもまぁ、いつものことだけど……」
日が落ちてなお、外は沢山の人の喋り声、笑い声、グラスをぶつけ合う音でガヤガヤと賑わっている。
すっかり夜だが、レンザスの本番はここからだ。
普通の街なら夜になれば辺りは静まり返るだろうが、レンザスは夜になると活発になる(変な意味ではない)。
理由は、ここが冒険者、狩人の都市だからだ。
昼にモンスターの討伐に行った狩人達や、冒険や開拓に行った冒険者達が夜になると帰還する。
そして雄々しい狩人や冒険者達が疲れを労う為に店や外で飲む。そして夜が更ける頃、疲れ切って眠りに落ちる。この流れがレンザスの日常である。
もちろんレンザスには狩人や冒険者以外の人達も沢山住んでいる。
けれど、住民達も夜中に狩人や冒険者が騒ぐという習慣が当たり前になっているので、特に騒音の苦情なんかはない。
中には狩人や冒険者に混じって飲んだり談笑したりする住民もいる。
俺も最初は夜なのに騒がしいと思っていたが、慣れてくると夜風を浴びながらキンキンの酒を流し込むのが癖になる。
仕事を終えて仲間とモンスターや冒険のことで盛り上がったり、くだらない世間話をしたり。
そんな日々が俺は好きだ。大好きだった。
「そっか、俺……この日常を終えないといけないんだよな」
夏の温い夜風にあてられ、暗闇を照らすオレンジ色の街の灯りに、少し黄昏てしまう。
パーティーを追放されて行く当てがなくなり、楽しい夜はもうどこにもない。
あいつらは今頃、新しい仲間と楽しく飲んでるのかな。
「パーティーは追放されちまったけど、少しは強くなれた、よな……」
俺の冒険者生活を振り返ってみる。
レンザスに来て三年ちょっと。
最初の一年はフリーで冒険者をして(ほとんど成果はなかったけど)、そこから二年間はキルフェン達と修行、冒険の日々。
俺達で世界最強のパーティーを作って英雄になろうって意気込んだ夜があったな。
あの夜のことは忘れない。キルフェン、エリク、マーガレット。パーティー全員の共通目標ができて、本当に嬉しかった。
俺達なら絶対、世界最強のパーティーになれる。そう思って無我夢中で過ごした二年間だった。
「あいつら、本気だったんだな。ずっとずっと、世界最強のパーティーを夢見てたんだ」
二年間一緒だった仲間を追放するなんて、並の精神でできることじゃない。
あいつらと二年過ごして分かるけど、キルフェン、エリク、マーガレットは悪い奴じゃない。
きっと、悩んで悩んで悩んだ末に決断したんだ。
夢の為に仲間を切り捨てるという決断を。
「ま、別に俺はあいつらと違って、世界最強のパーティーをそこまで本気で目指してたわけじゃないし。このまま並の職業を見つけて、スローライフなんてのも悪くないかも。そもそもあいつらのせいで俺は追い出されたんだし、夢が叶わないのもあいつらのせいだよな」
そうだ、もう夢を諦めよう。
そしたら楽になれる。
こんなハズレデュミナスだし、世界最強なんて夢のまた夢だ。
俺のデュミナスはスローライフに向いているんだし、このままひっそりと暮らしていこう。
そこそこの職業に就いて、家庭を持って、静かに暮らそう。
そして、静かに穏やかに人生を終えるんだ。
――そう自分に言い聞かせても、手の震えが、足の震えが、高鳴る鼓動が止まらなかった。
いや、止めてはいけないと思った。
本当は、自分の気持ちに嘘をついていることなんて分かっていた。
「悔しい……悔しい……悔じいッッ!!」
胸の内にしまっていた感情が爆発した。
ひたすら自分が惨めで、悔しい。
己の実力不足でパーティーを追放されて、一人ぼっちになって、挙句の果てにはずっと追いかけてきた夢を仲間のせいで無理だとあっさり諦めようとする。
そんな自分が情けなくて、ひどく悔しい。
「……強く、なりたい……」
震えた手で目を覆いながら、俺は人知れずそう呟いた。
そうだ、俺は強くなるために、故郷を飛び出してここに来た。
一人前の冒険者になるために、最高の仲間と最強のパーティーを作るために。
こんなことで終わりたくない。
仲間に見捨てられたまま、ずっと悔しさを抱えて生きていきたくない。
そんな人生の結末、あんまりだ。
「俺はザコだ。俺の力でどこまでやれるのかなんて分からない。世界最強のパーティーを作れるのかどうかなんて分からない。でも、俺は……俺は……このまま終わることなんてできない……絶対に」
仲間に見捨てられ、何もかも失ったどん底冒険者。
それが俺、エクリル・マドムウェル。
でも、俺に残っていたものがたった一つだけある。
このまま終わりたくないという強い思い。
それだけは、これからも絶対に絶えることはないし、絶やすことはできない。
俺は、最強のパーティーを作る。
最高の仲間を作って、俺の失った日々を取り戻すんだ。
「うおおおおおおおおおおあああああ――――ッッッ!!!!」
周りの目など気にせず、精一杯の誓いの雄叫びを夜空に向かって上げた。
ここからが、どん底冒険者のRe:startだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる