どん底冒険者のRe:start-どん底から世界最強パーティー目指す-

たこやきニキ

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一章 理不尽な別れと新たな出会い

非常事態

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 俺が現在戦っている場所は、レンザスから見て北にある『ノースエリア』の大草原だ。
 レンザス周辺にはモンスターが生息している地域がいくつかあるが、ノースエリアは比較的低級のモンスターが多い。
 そしてノースエリアの特徴は、湖や沼が沢山あることだ。
 そこで俺が思いついた作戦は、針龍ニードルドラゴンを沼にはめて溺れさすというもの。
 上手くいくかはわからんが、やるしかない。
 最初の仕事で見事大敗なんて、幸先が悪すぎる。
 それは何としてでも回避したい。
 こんなモンスターに負けてちゃ、最強のパーティーなんて作れっこないからな。

「ハハッ、探してる探してる」

  飛行を使って空中待機している俺は、地上で不思議そうに俺を探してキョロキョロしている針龍ニードルドラゴンを追跡して見下していた。
 ざまぁみやがれ!!
 ……なんて思っていられるのも、エネルギーが残っている間だけだ。
 さっさと作戦を決行しないと、エネルギー切れで墜落してしまう。
 地上では俺は無力。攻撃手段なんてないしサポートしてくれる仲間もいないので、エネルギーが切れたら終わりだ。

「ちょうどあいつの後方に沼があるな。あそこにしよう。一度あいつの前を飛んで注意を引き付けてから、沼の真上でもう一度高速飛翔サンダーバードだ! いけるいける、自分を信じろ」

 まず、針龍ニードルドラゴンを沼に沈める。
 そしたら命の危険を感じて、焦って毒針を飛ばすはず。そうなりゃもうこっちのもんだ。
 空中で、針龍ニードルドラゴンが息絶えるまで待っていればいい。

「よし、やるか……おりゃああああッ!!!」

 ゴオオオオッ――!!
 エネルギーを限界まで使って、全速力で針龍ニードルドラゴンの元へ突っ込んでいく。

「ギャオオオオオッ!!!」

 ドスドスドスドス!!

「よし、かかった!! いいぞ、こっちだッ!!」

 狙い通り、針龍ニードルドラゴンは飛行する俺を見るや否や全速力で追いかけてきた。
 ドスドスと足音を立ててこちらを追跡してくる。
 見事なまでに思惑通り沼に向かっていく針龍ニードルドラゴンを見て、俺は完全に勝ちを確信した。

「よし……落ちろ針野郎ッ!!」

 沼まであと数メートル!!
 俺はやれる。一人でもモンスターを倒せるんだ。
 あいつらがいなくたって、俺は一人でやれる!
 
「今だッ!! 高速飛サンダーバー……はッッ!?!?」

 一瞬、見間違えではないかと思った。
 いや、願わくばそうであってほしかった。
 しかしその望みは、少女の驚きと恐怖に満ちた叫び声により断たれたのであった。

「え? あ……あ……いやあああああっっ!!!」

 沼の右側に生い茂るくさむらから、ベストタイミング(悪い意味)で沼の前へと黒髪の少女が飛び出してきた。
 少女は俺と同じく、突然の事態に混乱しているようだった。
 非常事態だ。まさか人がこんな所にいるなんて。
 このまま追突したら少女はただでは済まないし、二人共針龍ニードルドラゴンに襲われて仲良くあの世行だ。
 こうなったら、少女を連れて空を飛ぶしかない。

「嘘だろ……危ないッ!! 俺の手に捕まってください!! 俺の手を取って!! 空を飛んでモンスターを回避します」
「は、はいいいっ!!」

 ガシッと小さな少女の手を掴む。
 女の子の手ってこんなに柔らかくて小さいのか。
 ――そんなこと思ってる場合じゃないな。

「いきますよ……高速飛翔サンダーバード!!」

 このままだと少女は針龍ニードルドラゴンと衝突すると思った俺は、少女の手を引いて、そのまま強引に高速飛翔サンダーバードを使った。
 もし高所恐怖症なら申し訳ないが、命を落とすよりはずっとマシだ。

「ひゃああああっっ!?!?」

 少女は、空に向かって上昇していく体に悲鳴を上げた。
 まぁ、これが普通の反応だ。生身のまま高速で空を飛ぶなんて経験、そうないだろうからな。

「大丈夫です!! 人を運ぶのは慣れてますから……落ちたりはしませんよ」
「そ、そうなんですか……」

 下からドシャアアアという、何かが水に突っ込んだ音がした。
 作戦通り沼に落ちてくれたみたいだけど、奇想天外な出来事もあって緩急の配分をミスってしまった。
 かなり上空まで飛んでしまい、肉眼では針龍ニードルドラゴンの様子がはっきり分からない。

「あの、本当にすいません……迷惑、かけてますよね」
「大丈夫です。一旦地上に降りて、敵の様子を確認してもいいですか?」
「あ……はい」

 決して大丈夫ではないのだが、面と向かって迷惑なんて言えないしな。
 何より、この子の命が助かって良かった。

「それじゃあゆっくりいきますね」

 コオオオと風を受けながら、ゆっくりと下へ飛んで行った。
 今俺の体勢は、空中で少女の両手をガシッと掴みながら空を飛んでいるという状態。
 言わば空中フォークダンスみたいな感じだ(?)。

「下に降りたら、危険ですからできるだけ俺のそばを離れないでください。今、モンスターの討伐依頼の仕事途中なんです」
「あ……分かりました。そうだったんですね……私も、です」
「え? それってどういう――」

 私も、という言葉が気になって彼女に質問しようと思ったけれど、地上に着きそうだったので後にすることにした。
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