2 / 4
第2話 土曜日の約束
しおりを挟む人の最後は皆同じだ。
灰に帰す。世界からすれば塵と代わりにないものとなり、風に吹かれ、晒される。
無機質な、ただ冷たい薄暗い保管室から灼熱にあてられ、輪廻へと帰る。
それは決して憂うべきことじゃなくて、世界の理に則っているだけ。
運命であっても輪廻を覆すことは出来ない。
希望のない世界が続くというのであれば、輪廻すらも壊してやりたい。
そしてもし、望みが叶うのであれば、きっとあの日に戻って──
* * * *
「帰ろっか」
一日の学校生活の終わりの日常風景。僕を迎えにくる瑞稀。当時なら悪態の一つでもついたであろうが、今ではすんなりとそれを受け入れている。
時が経てば人は変わるらしい。
「ことし、受験だけどどこ受けるとか決めた?」
「受けるかどうかすら決めてない」
「えぇ、どうして? 航太くん賢いのに!」
「僕が賢いなら他の人は天才だな」
「え、航太くんより順位低い私の立場は?」
「無いだろう。僕でギリギリ二桁なんだから、三桁の人は勉強をしてないか、やり方に問題があるな」
「ひどっ! これでも塾行ってるんですけど!」
「やめた方がマシだな」
なんでもない会話のはずなのに。僕の胸は弾んで、楽しさと心地良さを感じている。
瑞稀が楽しんでくれているかは分からない。でもそうだと嬉しいな、とか僕らしくないことを思ってしまうのはきっと──
「ねぇ、今度の土曜日なんだけど」
「今度の土曜日?」
「うん。もし良ければデートしない?」
突然の誘いに僕は目の前が真っ白になったような気がした。
彼女と偽りの関係が始まってからもう二年近くになるが、休みの日に瑞稀と会うことはなかった。
だから余計に緊張がのしかかる。
「で、デートって。今までしたことないじゃん」
「そだね。でも、私たち高三だし、私たちの関係も今年で最後でしょ? だから行ってみたいなって」
関係がもうすぐ終わる。改めて彼女の口からそれが告げられると胸の奥がキュッと締め付けられたように感じた。
「三桁なんだから勉強した方がいいと思うけど?」
「もぅ、うるさいなぁ! そこはいいよって言うもんでしょ?」
「僕がそこでいいよって言ってもどうせいじるでしょ?」
「あれ? バレてる?」
「どれだけの付き合いだと思ってるんだよ」
一時期は謎に同棲疑惑まで出たほどだ。ちょっとやそっとのことだと瑞稀の考えてることはわかる自信はある。
「まぁそうだね」
瑞稀は遠い昔を思い返すように、茜に染まる空を見上げた。高一のあの日からのことを思い返したのだろうか。
はたまた全く違うことを考えていたのか。僕にはわからないけど。彼女は少し真剣な面持ちで告げる。
「ねぇ、やっぱり私、航太くんとデートしたいな」
すればいいだろう。この会話を聞いていた第三者がいるならばそう思うだろう。しかし、僕らは付き合っていないから。偽りの、ニセの彼氏と彼女だから。
それでも瑞稀はデートがしたいと言った。その事実があまりに嬉してく、僕はいつもの僕らしくなく、しおらしい態度を見せてしまった。
「いいよ」
「嬉しい。じゃあメイプル広場に11時とかどう?」
「わざわざ柊木まで行くのか?」
僕らの住まう街から一つ離れた街、柊木市。柊木市のベッドタウンとよばれるこの街にデートスポットがないのは事実だが、だからといって偽りのカップルで隣町まで行くのはどうかと思う。
行くとしたら電車だよな。てか、メイプル広場ってマジの待ち合わせスポットじゃん。
「いいじゃん! デートなんだし、楽しも?」
大きな丸い目。髪とおなじ少し栗色の瞳に覗かれれば、断ることなど出来ない。
「仕方ないな」
少し面倒くさそうな演出で。僕はこめかみを掻きながらこたえた。
「らしくないね。もっと嫌がるかと思った」
一緒に帰るために教室から移動し、下駄箱で靴を履き替えている時に、彼女はそう言った。
同感だ。でも瑞稀の口から僕とデートがしたいと言われて、舞い上がってしまったんだ。
「うるさいな。そういう日だってあるだろ」
「へぇー、毎日がそうだと、私的には嬉しいかな」
「毎日これだとキモイだろ。たまにだから胸キュンするんだろ?」
「航太くんの口からそんな単語が出てくるとは、明日は大雨かな」
靴に履き替え、僕たちは帰路に着く。二年もの間、偽りの関係を続けているが、瑞稀の家がどこにあるかも分からない。
でもバス通の僕に合わせて、バス停まで着いてきてくれるあたり、きっと徒歩で帰れる範囲なんだと、勝手に思っている。
今日はまだ火曜日だと言うのに、運命の土曜日に思いを馳せて──
「せっかくだ。土曜日、晴れるといいな」
何とも思っていない装いで。無感情を繕ってそう言った。
瑞稀はそんな僕を横目でチラッと見てから、小さく笑う。
「だね。てるてる坊主作っちゃおうかな」
「それは違うだろ」
「違うことないもーん!」
彼女のケタケタと笑う声が響く。耳触りがよく、安らぐ気持ちになってしまうのは僕が瑞稀のことを。
「じゃあそろそろ」
ちょうどひとつ向こうの信号に、僕が乗るべきバスの姿が見えた。
「うん。それじゃあ、また明日ね」
それを確認するや、瑞稀もそう言って踵を返す。
どこまで戻っているのかは分からないが、住宅街の方へ曲がっているのはギリギリ見えている。
「気をつけて」
「うん、ありがと」
夕焼けの空のように朱に染まった頬で、彼女は優しく手を振って歩き出したのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる